障害児支援事業所における医療的ケア児等支援人材育成プログラムの開発

文献情報

文献番号
201918005A
報告書区分
総括
研究課題名
障害児支援事業所における医療的ケア児等支援人材育成プログラムの開発
課題番号
H30-身体・知的-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
亀井 智泉(国立大学法人 信州大学 医学部 新生児学・療育学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 福山 哲広(国立大学法人 信州大学 医学部 新生児学・療育学講座)
  • 小林 敏枝(松本大学 教育学部 )
  • 塚原 成幸(清泉女学院短期大学 幼児教育科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急増する障害児支援事業所、中でも放課後等デイサービス事業所において、有効で良質な支援を行うための、障害児の直接支援人材育成プログラムを開発する。放課後等デイサービスのガイドラインに基本的役割として挙げられる「子どもの最善の利益の保障」「共生社会の実現に向けた後方支援」「保護者支援」について、初めて放課後等デイサービスで働く、あるいは開設する人が、十分理解したうえで充実した支援を提供するための基本を身に着けるプログラムとする。
研究方法
全国960か所の障害児通所支援事業所に支援と人材育成の現状と課題を問うアンケート調査を行った。そこから抽出された課題について、事業所の視察見学、障害児と支援者が集まるイベントを開催してそこでの支援の様子の観察と日頃の支援についての聞き取りから、支援者が求める知識やスキル、支援に必要な要素を抽出した。
 これらの知識やスキルについて、先行研究や実現場で活動している複数の支援者の助言を得てテキストの試作と研修の試行を全国7か所で行い、その都度の評価に基づいて修正、改善をかさねた。さらに全国14か所の事業所の見学を行い、支援者との意見交換を行った。その中で医療的ケア児、医療的知見を持った支援を要する児(進行性の疾患や小児がんの経験者など)、発達障害、肢体不自由など、多様な障害特性を持つ児の支援事例の収集を行った。支援の好事例に共通の要素を抽出、多様な事例をもとに放課後等デイサービスでの支援を学ぶテキストと、充実したあそび支援のための動画テキストを製作した。
結果と考察
現状は、保護者のための預かりが主な目的となっており、多機関との連携も不十分で、情報収集も相談支援専門員と家族からに限定されている事業所が多いことが分かった。独自の支援プログラムを持つ事業所も多いが、「障害」がなんであるかの理解も不十分であり、障害特性にとらわれず、こどもを包括的にアセスメントし、支援目標を立てるスキルにはばらつきがある。
 さらに、障害を持つこどもにとっての「あそび」の概念理解も不十分であり、それゆえに充実した支援を行えていないことも分かった。こどもにとってあそびは無為の時間ではなく、主体的かつ積極的に夢中になれる時間である。「あそび」を子どもにとって、生活力を涵養するための重要な機会ととらえ、こどもが新たな挑戦に向かえるような環境整備と、環境と本人の接点となる姿勢の管理が有効であることが分かった。さらに、児を中心に支援するうえで共感する姿勢で支援に臨むことが肝要である。
 支援の好事例からは、児の障害特性よりも、発育発達過程と現在の児のストレングスに着目し、児の将来像を保護者や多機関の支援者と共有するところから個別支援計画の長期目標を立て、そのための支援はあそびを通してスモールステップで目標を達成していく形、すなわち充実かつ多様な、個々の児に合わせた個別活動のプログラムの積み重ねこそが、放課後等デイサービスにおける発達支援の柱であることが抽出された。
 あそびを制限することなく個別活動に挑戦するこども達と共に在り、共感する支援者を育成するためにはユーモアを体感するためのワークショップが有効であった。
学童期から青年期の長きにわたり支援を担う放課後等デイサービス等の支援事業所はタテ・ヨコの情報と支援をつなぎ、地域包括ケアシステムの基盤を作る役割をも果たしうる可能性を持つと思われた。
結論
放課後等デイサービスにおける支援は、6歳から18歳までの長きにわたり、個々の子どもの「自分らしさ」すなわち「尊厳」を育むために、学校や地域の多職種と連携協働、情報共有して行われる、児のための(保護者の就労機会の確保だけではない)発達支援である。充実した発達支援を行うためには、児の年齢と特性、これまでの育ちと今の姿を多方面からアセスメントし、将来像を描いたうえで、快適な環境を確保したうえで、児に応じたあそびすなわち個別活動を提供することが欠かせない。
 人材育成プログラムテキストを以下の内容とする。
〇「障害」の認識(個々の特性と周囲との折り合いの悪さから、生活活動・社会参加が阻害されること)
○多職種・他機関との連携、情報共有の重要性(地域包括ケアシステムの基盤となることも含めて)
○児の特性理解と、その子なりの自立像の共有から生まれる個別支援計画と支援目標
〇環境整備(時間・空間・人間それぞれの視点から) 
〇環境と子ども自身の接点である姿勢の管理 
〇主体的自発的で発達につながる「あそび」による個別支援
〇失敗や不安、挑戦する気持ちに「共感」する支援力の涵養 
○共感する力を涵養する「ユーモア・コミュニケーション・ワークショップ」(動画テキスト)
○水中運動、プールあそびの支援に必要な要素を盛り込んだ動画テキスト。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201918005B
報告書区分
総合
研究課題名
障害児支援事業所における医療的ケア児等支援人材育成プログラムの開発
課題番号
H30-身体・知的-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
亀井 智泉(国立大学法人 信州大学 医学部 新生児学・療育学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 福山 哲広(国立大学法人 信州大学 医学部 新生児学・療育学講座)
  • 小林 敏枝(松本大学 教育学部 )
  • 塚原 成幸(清泉女学院短期大学 幼児教育科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急増する障害児支援事業所、中でも放課後等デイサービス事業所において、有効で良質な支援を行うための、障害児の直接支援人材育成プログラムを開発する。放課後等デイサービスのガイドラインに基本的役割として挙げられる「子どもの最善の利益の保障」「共生社会の実現に向けた後方支援」「保護者支援」について、初めて放課後等デイサービスで働く、あるいは開設する人が、十分理解したうえで充実した支援を提供するための基本を身に着けるプログラムとする。
研究方法
全国960か所の障害児通所支援事業所に支援と人材育成の現状と課題を問うアンケート調査を行った。そこから、多くの事業所が抱える課題を抽出した。それらの課題について、事業所の視察見学とスタッフとの意見交換を行い、放課後等デイサービスをはじめとする障害児支援事業所の支援の質の向上に必要な要素を抽出した。
また、障害児とその家族、支援者が集い、実際に遊ぶ集いを開催し、支援の様子を観察するとともに、日ごろの児のあそびについて聞き取りを行った。ここから支援者や家族が障害児にとっての「あそび」のとらえ方や実際の発達支援の質の向上に必要な要素も抽出した。
 それらの「良質な支援に必要な要素」をどのように人材育成プログラムに取り込むかを探るために、先行研究や実現場で活動している複数の支援者の助言を得てテキストの試作と研修の試行を全国7か所で行い、その都度の評価に基づいて修正、改善をかさねた。さらに支援事例の収集を行い、支援の好事例に共通の要素を抽出、多様な事例をもとに放課後等デイサービスでの支援を学ぶテキストと、充実したあそび支援のための動画テキストを製作した。
結果と考察
アンケート調査では「発達障害や多様な障害の特性についての理解」を重要視する事業所が最も多く(281か所)、実際の人材育成においては231の事業所が、自治体等による研修を活用し、150か所が独自の人材育成プログラムを持つ。その一方で日常の支援の中での困りごととして、最多の「家族支援」に次いで194の事業所が「こどもの思いをわかってやれない」としている。「他機関多職種との連携」に困っている事業所も164か所あり、「学校・保育園等との連携」を365か所が、「他の事業所との連携」は263の事業所が「必要」と感じつつ、実際の連携は「学校・保育園等と」156か所、「他の事業所と」153か所にとどまり、「家族や相談支援専門員のみ」という事業所も165か所あった。
 優れた事業所では、個々の支援においても地域全体の支援体制整備においても、学校や他の施設、相談支援専門員等との連携・情報共有体制や、看護職やリハビリテーション療法士との協働体制を構築している。これらの事業所では、単に個々の児についての「支援の輪」のみならず、地域全体の多職種連携の中心としての役割をおのずと担っている。これら地域の多職種連携の「ハブ」となっている好事例からも、放課後等デイサービスは、個々の児のミクロの支援の輪の中心としての役割と、共生型社会・地域包括ケアシステムの基盤となりうる場であると考察する。
また、「あそび」の認識においても、「勉強」や「労働」の対義としての「暇つぶし」ではなく、個々の児が主体的自発的に集中し、達成感を味わうことができるものとしてとらえる必要がある。「障害」についても、矯めるべき児の特性ではなく、児の特性と周囲との軋轢ととらえるべきであろう。目標達成には環境整備、環境と本人の接点である姿勢管理が重要であり、スモールステップでの達成感への共感を持って「共に在る」支援が求められる。
 個々の児の全人的な理解のための他施設多職種と「つながる力」と、それにより収集した情報を理解し、それに基づく目標を設定する力。目標達成のための課題に児が主体的・意欲的に取り組む「あそび」に昇華させる力量が必要である。その基盤として、「障害」を児の特性と周囲との軋轢として認識することが必要である。また、これらを会得するためのプログラムそのものも、主体的に楽しめる「あそび」を体感できるものにすることで、支援者の意識と行動の変容につながることが明らかになった。

結論
開発した人材育成プログラムの内容を以下にまとめる。支援事例と共にテキストにまとめ、公表する。
〇「障害」の認識
〇環境整備(支援者としての信頼を得ることを含めて) 
〇環境と子ども自身の接点である姿勢の管理 
〇主体的自発的で発達につながる「あそび」による個別支援
〇達成感を「共感」する力「ユーモア・コミュニケーション」の涵養 
〇地域包括ケアシステムの基盤としての多職種連携による障害児支援の役割の重要性

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
2024-05-07

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201918005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 放課後等デイサービスが共生型社会構築に果たす役割が明確になった。
 障害児のための「あそびを通した支援」の具体例を通して解説したことで初任者でも理解できる。
臨床的観点からの成果
 放課後等デイサービスにおけるリハビリテーション指導(特に姿勢管理)について実例を通して学ぶことができるため、小児地域リハビリテーションの場としての放課後等デイサービスの機能を明確にした。
ガイドライン等の開発
「放課後等デイサービスでの発達支援テキスト」(「ユーモア・コミュニケーション・ワークショップ」動画テキスト、「障害を持つ子とも質のための水中運動動画テキスト」の開発。
その他行政的観点からの成果
 圏域ごとの放課後等デイサービス連絡会の立ち上げにより、新規事業所開設の際の他施設からの助言、地域全体での役割分担の協議等、多機能多職種連携が開始された。
その他のインパクト
大阪発達総合療育センターにおいて、研究により開発した人材育成テキストによる研修会を行った。タイトル「障害のある子どもを地域で支える  ~育ちを支えるために大人ができること~」令和2年2月27日開催(新型コロナウイルス感染症対策のため、法人スタッフのみの参加になった)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
日本看護学会~ヘルスプロモーション学術集会 シンポジウム 報告 「地域包括ケアシステムの基盤としての児童発達支援」
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
長野県松本圏域放課後等デイサービス連絡会の立ち上げとそこでの人材育成研修計画に活用される

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201918005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,000,000円
(2)補助金確定額
9,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,316,121円
人件費・謝金 1,475,028円
旅費 844,004円
その他 3,293,135円
間接経費 2,076,000円
合計 9,004,288円

備考

備考
研究成果物(テキスト)の作成に4288円の差額が生じたが、自己負担したため。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-