健康増進を目的とした実践的生活改善プログラムの開発および疫学的評価

文献情報

文献番号
199800750A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進を目的とした実践的生活改善プログラムの開発および疫学的評価
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 和紀((財)放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 能勢隆之(鳥取大学医学部)
  • 佐々木英夫(広島原爆障害対策協議会健康管理増進センター)
  • 種田行男(明治生命事業団体力医学研究所)
  • 竹島伸生(名古屋市立大学自然科学研究教育センター)
  • 萱場一則(大和町農村検診センター)
  • 谷原真一(自治医科大学)
  • 笠置文善((財)放射線影響研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
壮年期から老年期にかけての運動の実践と生活習慣の改善は老年期の活動能力の向上と生活習慣病の予防に役立つと考えられている。そこで、壮年期までの運動の実践および活動的な生活習慣が老年期における社会活動能力などに及ぼす影響を疫学的に評価し、高齢期の自立した生活能力を維持する上で必要な運動の強さと頻度を明らかにするとともに、生活習慣改善プログラムを開発することを目的として本研究を企画した。
研究方法
1) 長期縦断追跡集団における生活習慣病ならびに老化予防に関する疫学研究
原爆被爆者集団についてPhysical Activity Index(PAI)の情報を用いて26年間の死亡率を解析することにより、身体活動の生活習慣病予防効果について検討を加えた。
2) 身体活動度と循環器疾患危険因子との関連に関する研究
新潟県Y町の老健法基本健康診査受診者を対象にPAI の情報を収集し、性別、年齢別、職業別、血圧やHbA1cのレベル別に検討した。
3) 農村住民の追跡による生活習慣病抑制因子の解明に関する研究
栃木県M町住民を対象に生活習慣病発生を捉える機会としての老健法基本健康診査の特質を検討した。
4) 健康増進センターコホートにおける運動の意義に関する疫学的研究
広島原対協健康増進センター受診者のコホートを形成し、ベースライン情報として検査成績, 栄養摂取状況, 運動実施状況, 心肺持久力などのデータを整備し、身体活動度と体力水準について検討した。
5) 運動指導による地域の中高年住民の健康および体力向上に関する研究
米子市の健康教室に参加した地域住民を対象に運動処方し、運動の継続による健康および体力への効果を調べた。各個人に2週間毎に実技指導や健康教育を行い、5か月後における運動量の変化を1日の歩数により調べた。
6) 高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発
神奈川県K市の地域在宅高齢者を対象に運動実践に対する動機の強化、負担の軽減および運動継続への自信の向上を意図した5ヶ月間の運動習慣改善プログラムを実施し、対象者の運動アドヒレンスに及ぼす影響について検討した。
7) 活動能力向上を目的とした身体運動の具体的方法に関する研究
運動習慣を有さない高齢者を対象に運動群・非運動群に分けてレジスタンスを中心とした運動プログラムを取り入れ、週3回12週間の監視型運動による介入研究をおこなった。
運動効果の指標としては活力年齢と生活体力を用いた。
8) 老化指標および活動能力指標の作成
全国8カ所の地域住民および健康増進センター受診者を対象に現病歴、身体活動度、老化関連症状、ADL 等からなる健康状態に関する質問票を送付し回答を得た。介入により改善しうる項目を説明変数として重回帰分析を適用し、生理年齢の予測式を求め、老化指標を作成した。
結果と考察
1)長期縦断追跡集団における生活習慣病ならびに老化予防に関する疫学研究 PAI の高い群では低い群と比較して全死因死亡相対危険度が低くなる傾向がみられた。この傾向は循環器疾患死亡で顕著であったが、がんではみられなかった。Cox回帰分析の結果をみるとPAI は単独でも全死因死亡や循環器疾患死亡の予防因子となることが判明した。身体活動不足が心・血管疾患の重要な危険因子であることは欧米の疫学研究では既に明らかにされている。今回日本人の集団でも同様な傾向が観察され、日本人においても低身体活動は循環器疾患の重要な危険因子であると考えられた。
2) 身体活動度と循環器疾患危険因子との関連に関する研究
PAI の分布をみると、男性は女性に比べ仕事での活動度が高く、逆に余暇時の活動度は低かった。職種では、事務系が農林漁業や現業系と比べ仕事時の活動度が低かった。また総コレステロールやHbA1c と身体活動度の間に負の関連がみられた。身体活動への介入は循環器疾患発症を減少させる可能性を秘めている。
3) 農村住民の追跡による生活習慣病抑制因子の解明に関する研究
1995~97年の基本健診を2回受診した者について判定結果の変動を分析した結果、総コレステロールでは43.2%に、血圧と心電図には20%以上に、肥満度、検尿、中性脂肪、血糖では10~20%にそれぞれ変化がみられた。基本健康診査結果を長期追跡研究へ応用する場合には、眼底などの一度悪化すると改善しにくい項目を取り上げるべきと考えられる。
4) 健康増進センターコホートにおける運動の意義に関する疫学的研究
広島原対協健康増進センターコホートにおいては余暇時間運動量は男性では50kcal/日未満のものが1/4も占めていた。女性では運動習慣のあるものの割合は更に少なく、余暇運動量が0kcal/日のものが 40%もいた。心肺持久力はトレッドミル負荷試験によって最大酸素摂取量を推定したが、男性に高く、また年齢とともに低下する傾向を認めた。本コホートでは将来身体活動度と健康状況との詳しい解析・評価を実施し、日本人のデータを出すことが可能である。
5) 運動指導による地域の中高年住民の健康および体力向上に関する研究
運動処方群では処方前の一日の歩数が約6800歩から処方後は約7600歩と増加した。歩数増加群では最大酸素摂取量、起居能力ならびに満足度が有意に上昇していた。
6) 高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発
参加者の本プログラムの継続率は73.9%であった。介入群では運動エネルギー消費量が介入後に有意に増加した。継続率が高値を示した理由は、指導した運動は歩行と体操といった簡単な内容であり、運動強度も無理なく行える設定であったことや、指導した運動が自宅で行うことのできる内容であったことなどがあげられる。
7) 活動能力向上を目的とした身体運動の具体的方法に関する研究
起居能力、歩行能力、身辺作業能力および総合評価は運動群で有意に短縮した。運動群で運動能力に有意な改善を認めたが、これらは積極的なレジスタンス運動の実施により筋力を始めとした総合的な体力や機能の向上によるとみられる。12週間の運動により運動群の活力年齢は5.1 歳若返った。これはエアロビクス主体の運動とほぼ同じ程度の効果であった。また、運動参加者の中に階段の昇降が楽になったことや荷物の保持が楽になった者などがみられた。
8) 老化指標および活動能力指標の作成
中高齢者が誰でも回答しうる簡便な質問票に基づき、介入プログラムによって改善されうる指標の作成を試みた。年齢予測式に採用された質問項目は、男性では9項目、女性では10項目であった。得られた予測年齢を従属変数、検査時年齢を説明変数とする重回帰分析を適用して残差をもって老化指標とした。作成された老化指標の妥当性を横断的に及び縦断的に検討したところ、身体活動頻度や握力と本指標は有意に関連していた。これは、この指標は運動・生活改善プログラムに適用されうることを示している。また、この指標は年齢を調整した後でも予後死亡と正の方向に関連している事が示された。本老化指標はその後の健康結果を予測する能力をもち、何らかの老化プロセスを示す指標となっていることを意味している。
結論
1) 原爆被爆者の長期追跡集団では全死因死亡の相対危険度は身体活動の高い群で低くなる傾向が観察された。この傾向は循環器疾患では顕著に見られたものの、がんではみられなかった。身体活動は生活習慣ならびに老化と密接に関係している主として動脈硬化による疾患の死亡を防ぐ可能性が示唆され、身体活動の循環器疾患予防における重要性が再確認された。
2) 新潟県Y町の老健法による健診受診者では、事務系が農林漁業や現業系と比べ、仕事時の活動度が低かった。総コレステロールやHbA1c と身体活動度の間に負の関連がみられたが、血圧や肥満との間には関連はみられなかった。
3) 農村住民の調査では、基本健診判定結果の短期的変動が総コレステロール、血圧と心電図、肥満度、検尿、中性脂肪、血糖などで認められた。基本健康診査結果を長期追跡研究へ応用する場合には、眼底などの一度悪化すると改善しにくい項目を取り上げるべきと考えられる。
4) 健康増進センターコホートの調査では男女とも余暇時の運動習慣のないものが多くみられた。心肺持久力は男性の方が女性より高く、また年齢とともに低下していた。
5)地域の高齢者を対象にした介入研究では、運動処方群では処方前の一日の歩数が約6800歩から処方後は約7600歩と増加した。歩数増加群では最大酸素摂取量、起居能力ならびに満足度が有意に上昇していた。
6) 高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発研究では、参加者のプログラムの継続率は73.9%と高率であった。介入群では運動エネルギー消費量が介入後に有意に増加した。今後は健康教育や行動科学の手法を導入すべきと考えられた。
7) 特別な運動習慣を有しない高齢者に対する運動介入研究では、起居能力、歩行能力、身辺作業能力および総合評価は運動群で短縮した。12週間の運動により運動群の活力年齢は5.1 歳若返った。
8) 老化指標および活動能力指標の作成
簡便な質問票に基づき、老化指標の作成を試みた。2度の重回帰分析により老化指標を作成したが、この指標は身体活動頻度や握力と有意に関連していた。また、この老化指標は死亡予後と関連している事が示された。本老化指標はその後の健康結果を予測する能力をもち、何らかの老化プロセスを示す指標となっていると考えられた。

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