文献情報
文献番号
201917007A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人認知症ゲノム解析を出発点としたオミックス-臨床情報統合解析による疾患関連パスウェーイの解析から診断、治療への応用
課題番号
H30-認知症-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 浩一(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部)
研究分担者(所属機関)
- 新飯田 俊平(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
- 重水 大智(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,370,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
双子疫学研究による認知症、特に孤発性アルツハイマー病(AD)の発症に与える遺伝因子の割合は58%~79%であることが証明されており、その大部分を遺伝因子が占めていることが明らかとなっている。遺伝因子群を同定し、分子マーカーとして使用することや、その役割を精査することから疾患の分子メカニズムが解明でき、エビデンスに基づく予防法や治療法の開発に大きく貢献できる。本研究では日本人、アジア人特有のゲノムに特化したジェノタイピングアレイによるGWASと次世代シークエンサーを駆使した全RNA解析を統合することによる、疾患の予知法や創薬のターゲットとなる分子パスウェーイを探索することを目的とする。
研究方法
NCGGバイオバンクによりリクルートされた認知症及びコントロールサンプルを用いて解析を行った。illumina社のアジアスクリーニングアレイとiScanによるジェノタイピングを施行した。アルツハイマー病のゲノムワイド関連解析(GWAS)はplinkソフトウェアにより行った(NCGG GWAS)。このNCGG GWASデータと既報の日本人GWASデータとのメタ解析を施行した。全RNA解析についてはNCGGバイオバンクのバフィーコートより全RNA配列解析用ライブラリ作製キットを用いて、高精度のRNAライブラリを構築した。全RNA配列解析については外注(ジーンウィズ株式会社、タカラバイオ株式会社)にてデータを得た。全エクソーム解析は202例のAD患者由来DNAについてHiseq2500(イルミナ社)を用いて配列決定をおこなった。
結果と考察
認知症を含むDNA検体約15,700例についてASAによりジェノタイピングを行った。インピュテーション解析後、クオリティーコントロール解析を施行した。試験的な解析として、日本人計8,036人(3,962 AD vs 4,074 control)を用いたメタ解析について約485万SNPを用いたAD GWASを進めた。この解析でゲノムワイド有意性を示したローカスは染色体19番長腕のAPOE座位および第11番染色体長腕SORL1座位であり、既報のAPOEおよびSOLR1ジェノタイプがこの集団においても強いADとの関連を示すことが再確認できた。また、ゲノムワイド有意性は獲得できなかったが、示唆的な統計値(p < 10-6)を示し、東アジア人にしかアレル頻度を持たない新規疾患候補座位を染色体4番に同定することができている。この4番染色体のバリアントはオッズ比 1.5と比較的強い疾患に対する影響を示し、遺伝子発現量に影響を与えることが明らかになっている(eQTL)。また、末梢血バフィーコート(主に白血球細胞)からの全RNA配列解析について次世代シークエンサーを用いて進めてきている。これまでに610例についてはパイロット的に約22,000種類の遺伝子発現解析および遺伝子発現による12個の免疫系細胞のアルツハイマー病、軽度認知障害、コントロールにおける分類を行った。調べた12種類の免疫系細胞中の好中球においてADで細胞数が統計学的有意に多いことが判明した。また、この結果は検診における大規模データにおいても再現され、好中球の細胞数はコントロールに比べ軽度認知障害(MCI)、ADといった順で多くなることが判明した。一方、本研究ではレアバリアントの同定も試みた。その結果、SHARPIN遺伝子中にアジア人に特異的なバリアントを発見し、疾患との強い関連を見出した(オッズ比 6.1、P = ~10-5)。
結論
日本人認知症を含む約15,700例のジェノタイピングを施行し、日本人リファレンスパネルを参照したインピュテーション法を施行してきた。これらの一部のデータではあるが試験的にADのGWASを試みた結果、APOE座位とSOLR1座位がゲノムワイド有意性を示したことに加え、示唆的な統計値(p < 10-6)を示す東アジア人にしかアレル頻度を持たない、比較的疾患に与える影響の大きい新規バリアントを第4染色体上に同定した。このように民族に特化した解析から新たな疾患の原因を解明できる可能性が示唆されている。今後のサンプル数増加による解析や欧米人とのトランスエスニックメタ解析によるさらに大規模解析を施行することにより疾患の全容解明に繋げることができると考えられる。全RNA配列解析及びその統合解析においても同様に大規模化することによる真の疾患感受性パスウェーイの同定、分子機能の解明へと発展させることができると共に、全ゲノムやエクソームシークエンス解析による疾患に強く寄与するレアバリアントの同定とこれらの統合解析から認知症の予知診断に有用なポリジェニックリスクスコアの探索、さらにはドラッグリポジショニングを含む創薬へと発展させることが可能になる。
公開日・更新日
公開日
2020-11-17
更新日
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