文献情報
文献番号
201917005A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症リスクに対する聴覚認知検査の妥当性の検証
課題番号
H30-認知症-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
土井 剛彦(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 健康増進研究室)
研究分担者(所属機関)
- 島田 裕之(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター・老年学・社会科学研究センター)
- 李 相侖(イ サンユン)(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部 長寿コホート研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,818,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症の危険因子は、短い教育歴、高血圧、糖尿病、うつ、低活動など幅広く、なかでも修正可能な要因に着目することが重要であるとされ、難聴もその一つであると認識された。難聴高齢者は、騒音下における単語聴取が難聴のない高齢者と比較して低下しており、聴覚処理を要する認知課題を含めた検査を行う事で効果的なスクリーニングを実施できる可能性がある。また、認知症のリスクに対するスクリーニングを実施することを考慮すると、聴取可能な音の閾値を用いるよりは認知的負荷のある課題設定が望ましいと考えられる。これらのことを考慮し、本研究は、簡便に実施できる認知症のリスク評価の開発のために聴覚認知検査の開発を行い、妥当性の検討ならびにデータベースの構築を目的とした。今年度においては、2018年度に実施した調査と合わせて4,000名のデータベース構築に向けて調査をし、認知機能との関連性を検討した。さらに、昨年度作成した検査の内容を再検討するとともに、昨年度の対象者において、検査のスコアと1年後の認知機能の関連性を縦断的に検討した。
研究方法
対象は65歳以上の高齢者とした。聴覚に関する測定項目は、純音聴力検査および3種類の聴覚認知検査とした。聴覚認知検査は、検査1として、同一カテゴリー(主カテゴリー)の単語の中に異なるカテゴリー(干渉カテゴリー)の単語が出てきた場合に、画面のボタンを押して反応する課題を用いた。さらに、検査2として、検査1と同様の課題を行いつつ、干渉カテゴリーとして出てきた単語の個数を回答させる課題を実施した。今年度においては、さらに検査を追加した。検査2の単語選択は、検査2において干渉カテゴリーとして出てきた単語を記憶し、表の中から選択する課題とした。検査3は、文章中に含まれる特定の「かな」の個数を回答する「かなひろい」検査であり、2種類の個数の検査を実施した。検査1、検査2、検査2の単語数、検査2の単語選択、検査3の5種類の検査に対して、各検査から得られる指標のzスコアを算出し、z < -1.5の場合を低下と判定した。認知機能はタブレット型PCを用いた評価ツールであるNational Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Toolを用いて評価した。各検査の低下の有無および低下個数と認知機能低下の関連性を検討するために、ロジスティック回帰分析を実施した。また、縦断分析のための1年後の再検査を実施し、昨年度対象者を聴覚認知検査の低下の有無によって群分けし、ベースライン時および再検査(追跡)における認知機能について、対応のないt-検定を用いて群間比較した。
結果と考察
2019年度は2,007名が参加し1,929名が聴覚認知検査および認知機能検査を完遂した。除外基準に該当した者を除外し、1,853名の結果をデータベースに追加し、昨年度と合計して3,842名(平均年齢71.4歳、男性42.4%)のデータベースを構築することができた。各検査から得られる指標において認知機能低下に対するロジスティック回帰分析の結果、年齢・性別・教育歴で調整したモデルにおいても、すべての検査スコアが認知機能低下と有意な関連を示した(p<0.001)。さらに、聴覚認知検査の低下個数を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果、聴覚認知検査スコアの低下個数の増加に伴いオッズ比が高く、調整モデルにおいても同様であった(p<0.001)。昨年度の対象者の中からランダムに抽出した者を対象に、1年後の再調査を実施し、ベースラインの検査時点の年齢、性別、教育歴、認知機能を予測変数とするプロペンシティスコアマッチングによって対象者を抽出した結果、各群109名が抽出された。ベースラインにおいてはすべての認知機能で有意な差は認めなかったが、追跡時点においては、ベースラインで聴覚認知検査に低下を認めた群が、単語即時再認課題(p=0.044)および単語記憶の合計点(p=0.036)において有意に低値を示し、聴覚認知検査が将来の認知機能においても関連することが示唆された。以上より、本研究で作成した聴覚認知検査は、認知症の早期発見のために重要な認知機能低下をスクリーニングするための有用な検査となりうると考えられる。
結論
本研究により、開発した聴覚認知検査と認知機能検査の約4,000名にわたるデータベースを構築した。各検査スコアの低下が認知機能の低下と有意な関連性を示し、さらに低下個数の増加に伴い認知機能低下のオッズ比の上昇がみられた。また、聴覚認知検査のスコア低下と1年後の認知機能において関連が示唆された。本評価ツールは、タブレット端末を利用した対象者本人が検査を実施できる評価ツールであり、地域において簡便に実施可能なものとなり得ると考える。
公開日・更新日
公開日
2020-11-18
更新日
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