文献情報
文献番号
201917004A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の人やその家族の視点を重視した認知症高齢者にやさしい薬物療法のための研究
課題番号
H30-認知症-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
- 楽木 宏実(大阪大学大学院医学系研究科)
- 神崎 恒一(杏林大学医学部)
- 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院)
- 溝神 文博(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター)
- 水上 勝義(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
- 浜田 将太(一般財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構)
- 小島 太郎(東京大学医学部附属病院 老年病科)
- 大野 能之(東京大学医学部附属病院 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,214,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症者は併存疾患や症状緩和のためにポリファーマシーとなりがちであり、またBPSDなどのためにpotentially inappropriate medicationと呼ばれる薬剤の使用頻度も高く、薬物有害事象のリスクが高い。本研究では認知症者に対する薬物療法の実態と取り組みの成果を調査解析し、認知症者と家族の視点も踏まえた適正な薬物療法へのステップを検討すべく、入院診療を行った認知症者と地域在住の認知症者、さらには施設入所の認知症者における服用薬とその変化に関する実態調査を行っている。
研究方法
本研究の一つとして自治体(保険者)から認知症者(被保険者)に薬物療法の適正化に向けた処方提案の効果を検討する予定であったが、要介護度や薬剤について実態調査を行う必要があり、広島県呉市の医療レセプトデータを取り扱う株式会社データホライゾン(本社 広島県広島市)の協力のもと、広島県呉市(担当:福祉保健課健康政策グループ)と共同研究を行う研究契約の締結を行ったあと、同市在住の認知症者の処方実態を調査することとした。2017年4月30日時点で65歳以上の高齢市民全体のうち、国民健康保険あるいは後期高齢者医療の保険証を有する者のうち認知症者を抽出し、その属性や薬剤数について検討した。集計レセプトは2017年4月の医科入院外・調剤とし、通院した医療機関の数と利用した保険薬局の数も調査対象とした。薬剤数のカウントは頓服薬や短期のみ使用する薬剤を除くために14日以上の処方がされている内服薬を対象とした。複数の医療機関において同一の処方がなされている場合には1種類として集計を行った。認知症者の特定には、ICD10において「認知症」の病名を含むものおよびピック病やアルツハイマー病など認知機能障害をきたす神経変性疾患を対象とした。
次に認知症診療を行う医療現場の検討として、本年度は老健施設の薬物療法を評価した。全国老人保健施設協会の調査研究事業(2015年)で得られたデータを用い、65歳以上の1,324人分(350施設)のデータについて、入所時及び入所2ヵ月後の認知機能ごとの抗認知症薬の処方、抗コリン作用を有する薬物の処方、認知機能ごとの薬剤費などの解析を行った。
次に認知症診療を行う医療現場の検討として、本年度は老健施設の薬物療法を評価した。全国老人保健施設協会の調査研究事業(2015年)で得られたデータを用い、65歳以上の1,324人分(350施設)のデータについて、入所時及び入所2ヵ月後の認知機能ごとの抗認知症薬の処方、抗コリン作用を有する薬物の処方、認知機能ごとの薬剤費などの解析を行った。
結果と考察
本年度は、認知症疾患医療センターの外来通院患者および老年内科病床に入院の認知症者のデータを収集する作業を進めている一方で、地域在住および施設入所の認知症者のデータについて解析を行った。地域としては、広島県呉市の国民健康保険(国保)あるいは後期高齢者医療(後期)に加入している67,236名を対象とし(国保39.4%、後期60.6%)、このうち3710名(5.5%)が認知症であった。認知症者と非認知症者と比較したところでは、平均年齢が高く(84.1±6.8歳vs76.8±7.7歳)、平均薬剤種数が多かった(6.1±4.0剤vs3.4±3.7剤)。ポリファーマシーの頻度について年齢群ごとの分布を検討したところ、6剤以上の頻度は認知症者で多く(54.9%vs 26.1%)、特に年齢の低い群(65歳~69歳)では顕著であった。
また、施設入所者として全国老人保健施設協会傘下の老健入所者1324名で検討したところ、認知症者は1201名で認知機能別では軽度(ランクI)12%、中等度(ランクII)41%、高度(ランクIII、IV、M)47%であった。抗コリン作用を有する薬物の処方は、入所時は24.6%、入所2ヵ月後は25.7%にみられた。薬剤費は入所時から入所2ヵ月後で減少がみられた。入所時の薬剤費の平均値は約11,000円であり、認知機能にかかわらず同程度であったが、入所2ヵ月後には認知機能の低下が高度の入所者でやや低い傾向がみられた(軽度・中等度:約7,700円、高度:6,900円)。
これらの検討をもとにして、アウトカムとして認知症者を含む高齢者に対する推奨薬剤評価ツールを構築すべく、FORTAと呼ばれる薬剤評価ツールの日本版の作成に着手している。
また、施設入所者として全国老人保健施設協会傘下の老健入所者1324名で検討したところ、認知症者は1201名で認知機能別では軽度(ランクI)12%、中等度(ランクII)41%、高度(ランクIII、IV、M)47%であった。抗コリン作用を有する薬物の処方は、入所時は24.6%、入所2ヵ月後は25.7%にみられた。薬剤費は入所時から入所2ヵ月後で減少がみられた。入所時の薬剤費の平均値は約11,000円であり、認知機能にかかわらず同程度であったが、入所2ヵ月後には認知機能の低下が高度の入所者でやや低い傾向がみられた(軽度・中等度:約7,700円、高度:6,900円)。
これらの検討をもとにして、アウトカムとして認知症者を含む高齢者に対する推奨薬剤評価ツールを構築すべく、FORTAと呼ばれる薬剤評価ツールの日本版の作成に着手している。
結論
認知症者はポリファーマシーになりやすく、入院・入所中に薬剤の見直しが行われ、減薬を検討されることが示唆された。適正性については今後対象者を増やしながらその評価を行っていきたい。認知症者は薬物有害事象に暴露されやすく、引き続き薬物療法の適正化の方策を検討したい。
公開日・更新日
公開日
2020-07-13
更新日
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