文献情報
文献番号
201917002A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の予防と認知症者のリハビリテーションのガイドライン作成
課題番号
H29-認知症-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
島田 裕之(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 土井 剛彦(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター予防老年学研究部)
- 牧迫 飛雄馬(国立大学法人鹿児島大学 学術研究院医歯学域・医学系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,274,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、認知機能に対する介入プログラムとして、大規模集団に適用でき、一人での運動実施が可能であるポールウォーキングに着目し、ポールウォーキングと同時に認知課題を課すことのできるプログラムを開発し、ランダム化比較試験を用いて、認知機能維持・向上効果を検証することを第1の目的とした。また、平成29年度および30年度に実施したレビューによって得られたエビデンスをもとに、実現可能性の高い、認知機能低下抑制に効果的な介入方法の手引きを作成することを第2の目的とした。さらに、認知症患者もしくは軽度認知障害(MCI)を有する高齢者を対象とした運動介入を用いたランダム化比較試験によって、費用に対する効果を検証した先行研究の成果を探索的にレビューすることを第3の目的とした。
研究方法
第1の目的を達成するために、対象者は、機能健診に参加した者の中から、下記の基準に該当し、研究への説明を行い、同意を得られた者80名を対象とし、運動群 (n = 40) と対照群 (n = 40) にランダムに割り付けを行い、介入前評価(事前検査)と介入開始から24週間が経過した時点での評価(事後検査)として、認知機能検査を行った。運動群の介入内容は、ポールウォーキングと認知課題を同時に課すもので、介入期間の全期間は24週間とし、介入期間を第1ターム、第2ターム、第3タームの3つのタームに区切った。第1タームは週3日・1回15分間、第2タームは週3日・1回20分間、第3タームは週3日・1回30分間の運動の実施を指導した。
第2の目的を達成するために、平成29年度から実施してきたレビューで得られた知見をもとに、本研究にて作成した手引きの骨子案を作成した。研究代表者および研究分担者を中心としたワーキンググループを作成し、外部専門家を交えて内容の精査・修正を行った。
第3の目的を達成するために、認知症患者もしくはMCI高齢者を対象とした運動介入による効果を検証したランダム化比較試験で、医療費や介護費などのコストに関する結果を含む報告を探索的にレビューした。
第2の目的を達成するために、平成29年度から実施してきたレビューで得られた知見をもとに、本研究にて作成した手引きの骨子案を作成した。研究代表者および研究分担者を中心としたワーキンググループを作成し、外部専門家を交えて内容の精査・修正を行った。
第3の目的を達成するために、認知症患者もしくはMCI高齢者を対象とした運動介入による効果を検証したランダム化比較試験で、医療費や介護費などのコストに関する結果を含む報告を探索的にレビューした。
結果と考察
最終的に解析が可能であった64名 (運動群32名、対照群32名) について、二元配置分散分析を用いて解析を行った結果、全ての認知機能検査において、有意な介入効果は認められなかった。一方で、運動群について、運動を行った累計時間が四分位上位一分位以上の8名と、類似する対照群7名を傾向スコアマッチングにて対照群から抽出し、解析をした結果、ワーキングメモリーの領域において、有意な交互作用があり、認知機能維持・向上効果が認められた (p = 0.006)。また、「認知機能向上を目的とした運動介入の手引き」を完成させた。費用対効果に関するレビューでは、5件の研究が採択された。MCI高齢者86名をランダムに割り付けて6か月間の変化を比較した結果、レジスタンストレーニング群と有酸素運動群では、総医療費が有意に低かったことが報告されている。アルツハイマー病患者210名を割り付けて効果を調べた報告では、運動群では健康・社会サービスの総費用について増加を認めなかった。一方、認知症患者52名を対象とした介入研究の結果では、1年当たりの費用の増加という点で、運動介入は費用対効果が高いとは言えない結果であった。同様に、200名の軽度のアルツハイマー病患者を対象として、16週の介入効果を調べたところ、運動介入による費用対効果は低かった。また、最も大規模な介入研究である認知症患者494名を対象とした12か月の介入結果においても、費用対効果については低かった。
結論
本研究において検証した運動プログラムは、高齢者の認知機能の維持・向上に対して限局的な効果を認めた。また、認知症予防と費用対効果に関する文献レビューを行った結果、運動介入による費用対効果をみてみると、必ずしも費用面では十分な効果が示されているとは言えない結果であった。一方で、運動による認知機能維持・向上効果については、平成29年度および30年度に実施したレビューから得た知見をもとに、運用しやすい構成を考慮した「認知機能向上を目的とした運動介入の手引き」を作成した。今後は、開発した運動プログラムについて、大規模な検証を進めることで、より詳細な効果検証を行う必要性があると考える。
公開日・更新日
公開日
2020-08-04
更新日
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