文献情報
文献番号
201915001A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性の痛み患者への就労支援/仕事と治療の両立支援および労働生産性の向上に寄与するマニュアルの開発と普及・啓発
課題番号
19FG1001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松平 浩(東京大学医学部附属病院22世紀医療センター 運動器疼痛メディカルリサーチ&マネジメント講座)
研究分担者(所属機関)
- 岡 敬之(東京大学 医学部附属病院)
- 加藤 実(日本大学 医学部)
- 小杉 志都子(慶応義塾大学 医学部)
- 鉄永 倫子(川田 倫子)(岡山大学 岡山大学病院)
- 唐司 寿一(関東労災病院 整形外科脊椎外科)
- 永田 智久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
- 福井 聖(滋賀医科大学 医学部附属病院)
- 矢吹 省司(福島医科大学 医学部)
- 吉本 隆彦(昭和医科大学 医学部)
- 笠原 諭(東京大学 医学部附属病院)
- 藤野 善久(産業医科大学 産業生態科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,200,000円
研究者交替、所属機関変更
2019年度には研究者交替なし。
2020年度より矢吹省司(福島医科大学・医学部・教授)が分担者から外れ、髙橋直人(福島県立医科大学・医学部・教授)、井上真輔(愛知医科大学・医学部・准教授)、高橋紀代(医療法人篤友会千里山病院・在宅医療センター・センター長)の3名が研究分担者として参画する。
研究報告書(概要版)
研究目的
慢性痛に伴う就労不能、生産性低下により生じる多大な健康コストが社会的に大きな問題となっており、筋骨格系障害、なかでも腰痛/頚部痛は健康コストに多大な影響を与える要因として知られている。
しかしながら、慢性痛の臨床の現場が考慮された診療法のマニュアルが、成熟していないため、その対策が難しい状況である。
本研究では、慢性痛の治療と就労の両立支援/健康コスト軽減を目的として、慢性痛患者の就労状況、就労時の治療状況に関して企業や医療機関での現状分析を行う。分析結果に基づき慢性痛患者に向けた就労支援マニュアル・システムを作成する。
しかしながら、慢性痛の臨床の現場が考慮された診療法のマニュアルが、成熟していないため、その対策が難しい状況である。
本研究では、慢性痛の治療と就労の両立支援/健康コスト軽減を目的として、慢性痛患者の就労状況、就労時の治療状況に関して企業や医療機関での現状分析を行う。分析結果に基づき慢性痛患者に向けた就労支援マニュアル・システムを作成する。
研究方法
①慢性痛患者の就労状況、就労時の治療状況等の実態調査
慢性の痛み政策研究事業で先行して就労支援に取り組んでいる岡山大、慢性痛診療体制構築モデル事業近畿地区チーム、福島医大/星総合病院、日本大、病職歴データベースを保有する労働者健康安全機構各地労災病院で過去3年の実態調査を行った。
3万人勤労者のデータベース)からプレゼンティーズムおよび直接的医療費の調査を行った。
②慢性痛患者が活用可能な就労支援マニュアル作成準備
認知行動療法/運動療法、産業医との連携などの職場の環境調整により良好な介入成果を得た「慢性腰痛の復職支援マニュアル)」、すでに実績がある「がん復職支援をモデルにハローワークを積極活用したリワークモデル」、労働者健康安全機構が提案する「メンタルヘルス/脳卒中復職支援モデル」に加え、世界的に用いられているマギル大学Sullivan教授開発の復職プログラムPGAP、米国の復職に向けた身体機能評価システムFCEおよび文献検索による知見を参照に情報を整理するPCシステムを専門家の協議により作成した。
慢性の痛み政策研究事業で先行して就労支援に取り組んでいる岡山大、慢性痛診療体制構築モデル事業近畿地区チーム、福島医大/星総合病院、日本大、病職歴データベースを保有する労働者健康安全機構各地労災病院で過去3年の実態調査を行った。
3万人勤労者のデータベース)からプレゼンティーズムおよび直接的医療費の調査を行った。
②慢性痛患者が活用可能な就労支援マニュアル作成準備
認知行動療法/運動療法、産業医との連携などの職場の環境調整により良好な介入成果を得た「慢性腰痛の復職支援マニュアル)」、すでに実績がある「がん復職支援をモデルにハローワークを積極活用したリワークモデル」、労働者健康安全機構が提案する「メンタルヘルス/脳卒中復職支援モデル」に加え、世界的に用いられているマギル大学Sullivan教授開発の復職プログラムPGAP、米国の復職に向けた身体機能評価システムFCEおよび文献検索による知見を参照に情報を整理するPCシステムを専門家の協議により作成した。
結果と考察
①慢性痛患者の就労状況、就労時の治療状況等の実態調査
14企業の職員37,636人から回答を得た。このなかで, 腰痛ありは7,553名(20%), 腰痛なし29,815名(80%), 不明268名であった。腰痛の有無による高度労働機能障害となるオッズ比は男女では, 腰痛なしと比較し, 腰痛ありではオッズ比1.48(95%CI: 1.39-1.58)となった。男性, 女性それぞれでの解析でもほぼ同様のオッズ比であった。
2,365名のうち, 自分で対処法(ストレッチ, 体操, マッサージ等)を実施している者は1,282名(54%), していない者は1,083名(46%)であった。
自分で対処法を実施していない者と比較して, 対処法を実施している者の中等度以上の労働機能障害を呈するオッズ比は0.77(95%CI: 0.61-0.96, p-value 0.02)であった。
問題なし(7~13点)は1,348名(57%), 軽度労働機能障害(14~20点)は656名(28%), 中等度労働機能障害(21~27点)は271名(11%), 高度労働機能障害(28~35点)は90名(4%)であった。
医師による診察・治療は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.15, 1.02), 高度労働機能障害ではOR=2.73と有意な上昇を認めた。
産業医, 産業看護職への相談は, 問題なしと比較し,中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.36), 軽度労働機能障害群と高度労働機能障害ではOR=2.73, 13.08と有意な上昇を認めた。
一般市販薬の使用は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.20, 1.35), 高度労働機能障害ではOR=1.67と有意な上昇を認めた。
整体, 整骨院等への通院は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=0.98, 0.98), 高度労働機能障害ではOR=1.72と有意な上昇を認めた。
②慢性痛患者が活用可能な就労支援マニュアル作成準備
慢性痛患者の医学的知見、勤務状況(安全、衛生に関与する要因)、全般的生活状況(個体・状況要因)、事業所側の懸念などを踏まえたフラッグシステムにて情報を整理するPCシステムを専門家の協議により作成した。
14企業の職員37,636人から回答を得た。このなかで, 腰痛ありは7,553名(20%), 腰痛なし29,815名(80%), 不明268名であった。腰痛の有無による高度労働機能障害となるオッズ比は男女では, 腰痛なしと比較し, 腰痛ありではオッズ比1.48(95%CI: 1.39-1.58)となった。男性, 女性それぞれでの解析でもほぼ同様のオッズ比であった。
2,365名のうち, 自分で対処法(ストレッチ, 体操, マッサージ等)を実施している者は1,282名(54%), していない者は1,083名(46%)であった。
自分で対処法を実施していない者と比較して, 対処法を実施している者の中等度以上の労働機能障害を呈するオッズ比は0.77(95%CI: 0.61-0.96, p-value 0.02)であった。
問題なし(7~13点)は1,348名(57%), 軽度労働機能障害(14~20点)は656名(28%), 中等度労働機能障害(21~27点)は271名(11%), 高度労働機能障害(28~35点)は90名(4%)であった。
医師による診察・治療は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.15, 1.02), 高度労働機能障害ではOR=2.73と有意な上昇を認めた。
産業医, 産業看護職への相談は, 問題なしと比較し,中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.36), 軽度労働機能障害群と高度労働機能障害ではOR=2.73, 13.08と有意な上昇を認めた。
一般市販薬の使用は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=1.20, 1.35), 高度労働機能障害ではOR=1.67と有意な上昇を認めた。
整体, 整骨院等への通院は, 問題なしと比較し, 軽度労働機能障害群と中等度労働機能障害はオッズ比に有意な差を認めないが(OR=0.98, 0.98), 高度労働機能障害ではOR=1.72と有意な上昇を認めた。
②慢性痛患者が活用可能な就労支援マニュアル作成準備
慢性痛患者の医学的知見、勤務状況(安全、衛生に関与する要因)、全般的生活状況(個体・状況要因)、事業所側の懸念などを踏まえたフラッグシステムにて情報を整理するPCシステムを専門家の協議により作成した。
結論
全国の痛みセンター、労災病院の各治療就労両立支援センター、企業(健保)、さらには両立支援を各都道府県で推進する産業保健総合支援センターに対し、総合的評価(内容、使いやすさ、受け入れやすさ等)の実態調査を100施設で行う予定である。その意見を踏まえ、各マニュアルを修正し、最終案を確定する。
公開日・更新日
公開日
2021-07-20
更新日
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