文献情報
文献番号
201914004A
報告書区分
総括
研究課題名
効率的な臍帯血確保とエビデンスに基づいた臍帯血ユニット選択基準の再評価による臍帯血資源の有効利用法の確立
課題番号
H30-難治等(免)-一般-102
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 聡(東京大学 医科学研究所 血液腫瘍内科)
研究分担者(所属機関)
- 高梨 美乃子(日本赤十字社 血液事業本部 )
- 森 毅彦(慶應義塾大学 医学部)
- 熱田 由子(一般社団法人日本造血細胞移植データセンター)
- 鍬塚 八千代(名古屋大学 医学部)
- 山口 類(愛知県がんセンター システム解析学分野)
- 矢部 普正(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 移植医療基盤整備研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
臍帯血バンクに保存されている臍帯血ユニット数を増すために、供給体制の強化につながる具体策を考案し実行する。また、限られた臍帯血ユニットを効率的に利用するために、移植成績に基づいた選択基準について検討を行う。これらによって効率的な臍帯血確保とエビデンスに基づいた臍帯血ユニット選択基準の再評価による臍帯血資源の有効利用法の確立を目指す。
研究方法
臍帯血バンクにおける供給体制の強化に関しては、まず確保すべき臍帯血ユニットの目標保存数算定の参考とすべく、日本骨髄バンクに登録した患者情報を用いて、臍帯血バンクに保存されている臍帯血での患者カバー率について患者体重当たりの細胞数を変数に加えて計算を行った。また、各臍帯血採取施設の臍帯血採取手技についてのアンケート調査を行い、効率的な手技を見出すため、臍帯血バンクにおける受入れ臍帯血の容量、細胞数、調製保存の有無などの情報と採取施設ごとのアンケート結果と連結させた。また、臍帯血提供への啓発ビデオを配布し採取医療機関における活用状態及び効果を調査した。臍帯血ユニットの効率的な利用法については、登録されたデータを元に、体重当たりの有核細胞数とCD34陽性細胞数で段階的に12の群に分け、累積生着率と合併頻度について解析した。生着に関する予測に有用な因子群を抽出するために機械学習モデルによる解析を進めた。
結果と考察
臍帯血バンクにおける供給体制の強化に関しては、まず、わが国における必要臍帯血ユニット数の算定を行った結果、2011年から2015年に骨髄バンクに登録された患者14942例の内、最低1つ以上の有核細胞2x107/kgを有する臍帯血が得られる確率は98%であった。しかし、CD34陽性細胞数0.5、1x105/kg以上を条件に加えると93%, 62%となった。CD34陽性細胞数のみを条件とすると0.5、0.75、1x105/kg以上では100%、99%、90%であった。また、至適採取法を確立・徹底するためのアンケート調査を集計し、凝集塊形成の回避を指標として統計解析を行った結果、多変量解析で有意な因子は「複数回穿刺の回避」であった。採取医療施設のアンケート調査により、啓発ビデオ使用後の臍帯血提供同意率を調査したが、映像を活用できる環境のない施設が多いことが判明した。ビデオ使用後の妊婦さんの出産時期は2020年春以降と考えられ再調査が必要と考えられた。また、限られた臍帯血ユニットの効率的な利用法を求める目的で施行した体重当たりの有核細胞数と体重当たりのCD34陽性細胞数により分類した解析結果からは、0.75 x 105 CD34陽性細胞数/kg以上では生着率はプラトーに達し、これより多くのCD34陽性細胞数の輸注による追加効果は明らかでないことが判明した。一方で、患者体重にかかわりなくCD34陽性細胞数として40 x 105未満の臍帯血ユニットを受けた移植群の生着率は対照群に較べて有意に低下していた。生着に関する予測に有用な因子群を抽出するための機械学習モデルを用いた解析法の検討では、性質の異なる複数の機械学習モデルにおいて共通して既知の変数が選択されるようになっており、現在、学習されたモデルの精度の検証と共に選択された変数群の解釈を進め、介入可能な変数を基に、臍帯血選択基準の検討を進めている。厚生科学審議会疾病対策部会造血幹細胞移植委員会等での政策議論用の資料等として活用されることを目指して、わが国における適正な臍帯血の保存数について、現在、解析結果をまとめている。また、臍帯血の採取法の至適化に関してまとめた情報を各採取施設へのフィードバックすることによって、現時点では7割以上にのぼる採取した臍帯血の廃棄率の減少を目指す一方で、産科外来・母親学級における臍帯血リクルート体制の強化により、保存臍帯血ユニット数の増加を目指したい。また、CD34陽性細胞数として40 x 105以上の臍帯血ユニットは患者体重に関わらず、生着を期待できる可能性があることが示されたことから、これまで患者体重当たりの移植細胞数を中心に考えらえれてきた適正な移植細胞数について、新たな視点で考える契機となる可能性がある。さらには、機会学習モデルを用いた解析法によって新しい観点から臍帯血ユニットの選択基準の策定を目指し、限られた数の臍帯血を有効に多数の患者に供給できるような体制の構築寄与を目指したい
結論
本研究課題の遂行によって、臍帯血バンクに保存されている臍帯血ユニット数の増加を目指して供給体制の強化につながる具体策を考案し、さらには限られた臍帯血ユニットを効率的に利用するために移植成績に基づいた選択基準の検討を行うことによって、効率的な臍帯血確保とエビデンスに基づいた臍帯血ユニット選択基準の再評価による臍帯血資源の有効利用法の確立を目指している。
公開日・更新日
公開日
2021-01-06
更新日
-