アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究

文献情報

文献番号
201913007A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究
課題番号
H29-免疫-指定-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
足立 雄一(富山大学大学院医学薬学教育部(医学))
研究分担者(所属機関)
  • 小田嶋 博(国立病院機構 福岡病院 小児科)
  • 斎藤 博久(国立研究開発機構 国立成育医療研究センター)
  • 海老澤 元宏(国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 大矢 幸弘(国立研究開発機構 国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
  • 秀 道広(広島大学大学院医歯薬い保健学研究院 皮膚科)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科 呼吸器内科)
  • 谷口 正実(国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 福冨 友馬(国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 岡田 千春(国立病院機構 本部医療部)
  • 大久保 公裕(日本医科大学大学院耳鼻咽喉科)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院 小児病態学)
  • 板澤 寿子(富山大学医学部 小児科)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター 小児科)
  • 佐々木 真利(東京都立小児総合医療センター 小児科)
  • 森川 恵美(河口 恵美)(東京都立小児総合医療センター 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患は、第二次世界大戦以降に罹患者が急増し、今では大人から子どもまで多くの日本人を悩ませている。医学の進歩によって今では種々の治療法が開発されて一定の効果を挙げているが、大部分は対症療法であり、現段階ではアレルギー疾患を治癒に導いたり、その発症を予防する方法は確立していない。アレルギー疾患への医学的なアプローチの第一歩は、その発症頻度や重症度、また全国的な分布などを調査して関連する要因を明らかにする「疫学研究」である。厚生労働行政推進調査事業費補助金により、我々が行ってきた疫学調査研究(平成22 年から平成31 年)を今後の行政・診療・研究活動に活用してもらうために、小児の喘息・アレルギー性鼻炎、成人の喘息・アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーについてまとめることを目的とした。
研究方法
10年間にわたり厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究で得られた疫学データを、小児のアレルギー疾患、成人のアレルギー疾患、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーについてまとめ、それぞれに小冊子を作成した。
結果と考察
<小児のアレルギー疾患>
小学生では喘息をもつ子どもが減ってきている。中学生では小学生に比べて低下が明らかではなかった。アレルギー性鼻結膜炎は、小中学生ともに2005年から2015年のあいだに増加していた。アトピー性皮膚炎は、小中学校ともに概ね横ばいだった。食物アレルギーは、近年増加傾向にあるとされているが、2015 年に初めて調査したため今後の変化を把握する必要がある。同じアレルギー疾患でありながらそれぞれの疾患によって有症率の変化が異なることより、今後は、疾患特異性に関連する因子の解析をすることで、疾患毎の発症メカニズムや予防法の開発などにつながる可能性が期待される。

<成人のアレルギー疾患>
成人喘息は、20人から10人に1人の成人が有する頻度の高い疾患であると言える。さらに、成人喘息の有病率はわが国ではこの四半世紀で増加傾向にあることが明らかになった。アレルギー性鼻炎は若年成人の2人に1人、高齢者においても少なくとも5人に1人が持っている極めて頻度の高い疾患であることが示された。近年、欧米を中心として、小児期の気道感染や喘息発症などが成人期の喘息やCOPDの発症に関与している可能性が明らかになってきており、今後小児期から成人期までを俯瞰した疫学研究が必要であろう。

<アトピー性皮膚炎>
幅広い年齢にわたっておよそ20~40%の割合で中等症以上の患者が存在することがわかった。しかし、中等症または重症の患者でも病院に通って治療している人は半数しかいないことがわかった。患者が病院に通院していない理由として「ステロイド入りの外用薬による治療を希望しない」が約30%、「治療に希望が持てない」が約10%いた。病院におけるアトピー性皮膚炎の診療に改善すべき点があることが浮き彫りになった。最近ではステロイドなどの外用薬の使い方によって、重症の患者でも軽症あるいは症状が無い状態にまで改善することがわかってきた。また、中等症以上の患者には外用薬以外の新しい治療薬(注射薬)も出てきている。症状があるにもかかわらず通院していない患者の通院をしていない理由をさらに詳しく明らかにして、通院を促すような対策につなげることができれば、症状の強い患者を減らすことができると考える。
<食物アレルギー>
日本の小学3年生の食物アレルギーの有症率は、5.1%~7.6%と推察され、これは諸外国の調査結果とし比較しても相応だった。日本の成人の食物アレルギーの有症率は、1.9%~10.1%と推察され、諸外国のインターネットを用いた調査結果と相応だった。今後は、このような調査を数年おきに行うことで、食物アレルギーの罹患率の経時的な変化が明らかになり、また実際に患者は日常生活でどのくらいの負担になっているのかも明らかになれば、社会としての対策も立てやすくなることが期待される。
結論
上記のような記述疫学データはアレルギー疾患の動向を知ることができる重要な基本的データであり、アレルギー疾患対策を策定していく上で重要であり、無駄のない政策を行っていく上で今後も必要になる調査である。今回作成した資料は印刷物として関連部署に配布するとともに、アレルギーポータルに「日本のアレルギー疾患はどう変わりつつあるのか」というタイトルで掲載した。今後、各方面での活用が期待される。
https://allergyportal.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/21074358/epidemiological_investigation_2020.pdf

公開日・更新日

公開日
2020-10-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201913007B
報告書区分
総合
研究課題名
アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学調査に関する研究
課題番号
H29-免疫-指定-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
足立 雄一(富山大学大学院医学薬学教育部(医学))
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤 晃(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 小田嶋 博(国立病院機構 福岡病院 小児科)
  • 斎藤 博久(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
  • 海老澤 元宏(国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 大矢 幸弘(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター アレルギー科)
  • 秀 道広(広島大学大学院医歯薬保健学研究院 皮膚科)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科 呼吸器内科)
  • 谷口 正実(国立病院機構 相模原病院 臨床研究センター)
  • 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院 小児病態学)
  • 岡田 千春(国立病院機構 本部医療部)
  • 大久保 公裕(日本医科大学大学院 耳鼻咽喉科)
  • 福冨 友馬(国立病院機構 相模原病院 アレルギー科)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 佐々木 真利(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでのアレルギー疾患の疫学調査は、局所的に実施されているものが多く、国内全域の傾向を捉えにくい状況であった。この研究班では、2004年よりアレルギー疾患の有症率を全国規模で経年的な動向を継続的に調査し、その結果をアレルギー疾患対策基本法での医療政策策定、治療ガイドラインの評価として活用していくことを目的とした。
研究方法
成人喘息、小児喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの有症率等の基本的な記述疫学調査(国際的に使用されているISAAC調査用紙、ECRHS調査用紙等を翻訳して使用)と関連する因子について全国の学校、インターネットを使用したweb調査会社のシステムを使用して経年的に実施した。
結果と考察
2017年度は、アトピー性皮膚炎のweb調査を実施した。これまでの調査と比較して、アトピー性皮膚炎の有症率は大きな変化はなかった。小児喘息・アレルギー性鼻炎に関しては、2015年に実施した調査結果を、さらに分析し、都道府県別の喘息、アレルギー性鼻結膜炎、アトピー性皮膚炎の有症率の差を算出した。都道府県で差の出る年齢、疾患があった。喘鳴は小学生は、西日本で高い傾向、アレルギー性鼻炎は、太平洋側の内陸部で高く、湿疹は、中学生で西日本が低い傾向にあった。

2018年度は、過去(2005年、2008年、2015年)のデータを比較して有症率の経年変化を解析した。また、2015年度に作成した疫学調査の文献データベースの更新を行うために、2015年から2017年までの文献の調査を行い、小児喘息6件、小児アレルギー性鼻炎1件、アトピー性皮膚炎5件、食物アレルギー4件のデータを更新した。この調査のデータベースは、これまで研究班独自のwebサイトで公開していたが、今後の継続的な運用、公開が必要なため、一般社団法人日本小児アレルギー学会にその運営を移管した。新しいwebサイトは、https://jspaci5.jp/allergysurvey.jp/index/ に変更した。

2019年度は、厚生労働行政推進調査事業費補助金によって我々が行ってきた種々の疫学調査研究(平成22 年から平成31 年)を、小児のアレルギー疾患、成人のアレルギー疾患、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーについて、それぞれまとめた。

<小児のアレルギー疾患>
小学生では喘息をもつ子どもが減ってきている。中学生では小学生に比べて低下が明らかではなかった。アレルギー性鼻結膜炎は、小中学生ともに2005年から2015年のあいだに増加していた。アトピー性皮膚炎は、小学校、中学校ともに概ね横ばいだった。食物アレルギーは近年増加傾向にあるとされているが、2015 年に初めて調査したため今後の変化を把握する必要がある。
<成人のアレルギー疾患>
成人喘息は、20人から10人に1人の成人が有する頻度の高い疾患であると言える。さらに、成人喘息の有病率はわが国ではこの四半世紀で増加傾向にあることが明らかになった。アレルギー性鼻炎は若年成人の2人に1人、高齢者においても少なくとも5人に1人が持っている極めて頻度の高い疾患であることが示された。
<アトピー性皮膚炎>
幅広い年齢にわたっておよそ20~40%の割合で中等症以上の患者が存在することがわかった。しかし、中等症または重症の患者でも病院に通って治療している人は半数しかいなかった。患者が病院に通院していない理由として「ステロイド入りの外用薬による治療を希望しない」が約30%、「治療に希望が持てない」が約10%いた。病院におけるアトピー性皮膚炎の診療に改善すべき点があることが浮き彫りになった。
<食物アレルギー>
日本の小学3年生の食物アレルギーの有症率は5.1%~7.6%と推察され、これは諸外国の調査結果とし比較しても相応だった。日本の成人の食物アレルギーの有症率は、1.9%~10.1%と推察され、諸外国のインターネットを用いた調査結果と相応だった。
結論
上記のような記述疫学データは、アレルギー疾患の動向を知ることができる重要な基本的データであり、アレルギー疾患対策を策定していく上で重要であり、無駄のない政策を行っていく上で今後も必要になる調査である。今回作成した資料は印刷物として関連部署に配布するとともに、アレルギーポータルに「日本のアレルギー疾患はどう変わりつつあるのか」というタイトルで、小児の喘息・アレルギー性鼻炎、成人の喘息・アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの報告書を1冊にまとめて掲載した。今後、各方面での活用が期待される。
https://allergyportal.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/21074358/epidemiological_investigation_2020.pdf

公開日・更新日

公開日
2021-11-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201913007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アレルギー疾患への医学的なアプローチの第一歩は、その発症頻度や重症度、また全国的な分布などを調査して関連する要因を明らかにする「疫学研究」である。本補助金をもとに我々が行ってきた疫学調査研究(平成22 年から平成31 年)によって小児から成人までの各アレルギー疾患の全国規模のデータが得られており、アレルギー疾患に取り組む際の貴重な基礎データとなる。
臨床的観点からの成果
小児から成人までの各種アレルギー疾患の疫学データを評価することによって、それぞれの疾患のガイドラインの普及効果をある程度判断でき、さらに将来の発症あるいは増悪予防につながる可能性がある。
ガイドライン等の開発
小児気管支喘息治療・管理ガイドラインや喘息予防・管理ガイドラインの疫学の章において、本研究におけるデータが示されている。
その他行政的観点からの成果
本補助金をもとに我々が行ってきた疫学調査研究(平成22 年から平成31 年)の成果をまとめてアレルギーポータルに掲載した。今後、各自治体がアレルギー疾患対策基本法に則ってアレルギー疾患に取り組む際の大きな指針になることが期待される。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshida K, Adachi Y, Sasaki M, et al.
Ultraviolet index is associated with childhood eczema prevalence
Pediatr Allergy Immunol , 28 (4) , 391-393  (2017)
原著論文2
Okada Ym Yamashita T, Kumagai H, et al.
Accurate determination of childhood food allergy prevalence and correlation of unnecessary avoidance
Allergy Asthma Immunol Res , 9 (4) , 322-328  (2017)
原著論文3
Minami T, Fukutomi Y, Sekiya K, et al.
Hand eczema as a risk factor for food allergy among occupational kitchen workers
Allegol Int , 67 (2) , 217-224  (2018)
原著論文4
Tanaka H, Nakatane E, Fukutomi Y, et al.
Identification of patterns of factors preceding severe or life-threatening asthma exacerbations in a nationwide study.
Allergy , 73 (5) , 1110-1118  (2018)
原著論文5
Yoshida K, Sasaki M, Adachi Y, et al.
Childhood asthma control in Japan
Asian Pac J Allergy Immunol , 36 (1) , 16-21  (2018)
原著論文6
Tomita Y, Fukutomi Y, Irie M, et al.
Obesity, but not metabolic syndrome, as a risk factor for late-onset asthma in Japanese women
Allergol Int , 68 (2) , 240-246  (2018)
原著論文7
Sasaki M, Morikawa E, Yoshida K, et al.
The change in the prevalence of wheeze, eczema and rhinoconjunctivitis among Japanese children.
Allergy , 74 (8) , 1572-1575  (2019)
原著論文8
Honjo S, Murakami Y, Odajima H, et al.
An independent relation of atopic dermatitis to exercise-induced wheezing in asthmatic children
Allegol Int , 68 (1) , 26-32  (2019)
原著論文9
Morikawa E, Sasaki M, Yoshida K, et al.
Nationwide survey of the prevalence of wheeze, rhino-conjunctivitis, and eczema among Japanese children in 2015
Allegol Int , 69 (1) , 98-103  (2020)
原著論文10
Sasaki M, Morikawa E, Yoshida K, et al.
The prevalence of oral symptoms caused by Rosacea plants and soybean consumption in children.
Allegol Int , in print  (2020)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201913007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,250,000円
(2)補助金確定額
4,250,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,222,148円
人件費・謝金 0円
旅費 391,620円
その他 686,232円
間接経費 950,000円
合計 4,250,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-05-26
更新日
-