公衆衛生専門医の養成と確保の方策に関する研究

文献情報

文献番号
199800746A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生専門医の養成と確保の方策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
久道 茂(東北大学)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉裕(順天堂大学)
  • 岡崎勲(東海大学)
  • 梅内拓生(東京大学大学院)
  • 多田羅浩三(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健医療をめぐる諸問題が山積しているなかで、予防医学と健康増進に対する期待は強まっている。一方、わが国の現状を見るに、予防医学と健康増進に関わる職種(公衆衛生の行政と教育・研究)は、量的にも質的にも国民の期待に応えるレベルに達しているとは言い難い。たとえば、地域保健法の施行などに伴って公衆衛生従事者の専門的機能の質的水準の向上が望まれているが、それを支援するための養成・生涯教育のシステムは、未整備である。さらに、介護保険の導入などに伴って、医師が福祉領域に関与する機会が増えているが、医学教育(卒前・卒後)と福祉・介護教育との連携は十分ではない。近年、国際保健の重要性が叫ばれ、一部の大学で専任教官の配置が進められているが、衛生学・公衆衛生学教育における国際保健の位置づけは明確にはなっていない。これら諸問題を明らかにし、今後のあり方に関する提言を行うために、全国の医育機関における衛生学・公衆衛生学の教授を研究協力者として組織し、研究を実施した。
研究方法
第一に、衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方に関して、稲葉教授(順天堂大学)を中心に企画と調査の実施が行われ、その結果の解析にあたっては、多田羅教授(大阪大学)、梅内教授(東京大学大学院)の分担を得た。1998年11月下旬に全国の医育機関における衛生学・公衆衛生学の教授全員182人に対してアンケート調査票を郵送し、回答への協力を求めた。調査票は、教授個人がそれぞれ回答する部分と各大学に属する教授のうち1名が代表して大学としての回答を行う部分との2部により構成された。教授個人用としての主な調査項目は、講座の沿革や名称についての意見、授業対象学年についての意見、授業内容についての意見、大学院についての意見などであった。大学として一括回答する部分での主な調査項目は、卒前教育(現状のカリキュラム、福祉サービス関連のカリキュラム、国際保健の教育カリキュラム、地域保健実習)と大学院教育、衛生・公衆衛生学実習、その他の関連授業に関するものなどであった。これらの回答の集計・分析を通じて、衛生学・公衆衛生学教育の現状と問題点について検討を行った。第二に、医師国家試験のあり方に関する研究が岡崎教授(東海大学)を中心に行われた。平成10年8月現在の会員202名にアンケート用紙を配布し、回答を依頼した。調査項目としては、社会医学系教科として医師の資格試験に期待するもの、医師国家試験の受験資格における保健所実習などの必要性、今後の医師国家試験のあり方、現行のガイドラインに対する評価、D区域(いわゆる必修問題)における社会医学の出題の必要性、医師国家試験で改革すべき点、医師国家試験に関する事項と結果の公表に関する考え、医師国家試験で取り上げるべき最重要事項、過去3年間の社会医学関連の医師国家試験問題に関する妥当性・難易度・必要度・問題作成の技術面などであった。
結果と考察
衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方に関する研究では、当初の締め切り日(1998年12月末日)までに回答のあった102人(56.0%)につき、解析した。全国的に見て、衛生学・公衆衛生学に関して2講座2教授制とする大学が多いが、1講座1教授制の大学も増加している。対象学年の低学年化は全国的な傾向であり、2年生または3年生で授業を行っている大学が増加している。3年~4年での授業は特に問題ないとする意見が多いが、2年生では内容の理解が難しいとの意見が強かった。福祉サービスに関する教育カリキュラムについて、回答のあった57大学を対象に結果を集計した。福祉サービスに関する教育が「事実上、ほとんど行われていない」は13大学(23%)、
「衛生・公衆衛生学の講義の中で行っている」は39大学(68%)、「その他」が5大学(9%)であった。その講義時間は「90~180分」が最も多く、対象学年は「3・4年次」とする大学が最も多かった(63%)。福祉サービスの施設見学・実習については、「事実上、ほとんど行われていない」が 28%、「衛生、公衆衛生学の実習の中で行っている」が 51%、「その他」18%、「衛生公衆衛生学実習及びその他の実習」4%であった。今後の方向性として、80%の大学で福祉サービスのカリキュラムを充実していくべきと考えていた。そして衛生・公衆衛生学関連講座を中心に充実させることが必要との回答が大部分であった。今後の医学教育のカリキュラムについては、低学年のすべての医学生に対する福祉施設の見学や実習を「早期体験学習」を充実させることを基本とし、ついで「衛生・公衆衛生学の講義」の中で、すべての学生を対象とする福祉サービスに関する講義を行うことが必要であると考えられた。国際保健に関する教育カリキュラムについて、回答のあった66教授を対象に結果を集計した。その結果、国際保健学に関する講義は、衛生学・公衆衛生学講義の一環として実施しているところが最も多く、全体の65.2%を占めた。その他の科目の講義時間内で実施していた箇所も含めると、約77%の教育機関で国際保健学に関する講義が行われていた。一方、国際保健に関する施設見学・実習を行っている大学は22.7%と、少数に過ぎなかった。今後の国際保健教育のあり方についての意向を尋ねたところ、約8割の大学で、今後カリキュラムのさらなる充足を求めていることが明らかになった。一方、大学院教育に関しては、32ヶ所(48.5%)がその必要性を認めていたが、「必要なし」と回答した機関も22ヶ所(33.3%)あった。医師国家試験のあり方に関する研究では116名(56%)から回答が得られた。医師国家試験の基本的考え方として、単に社会医学の基礎的知識だけではなく、臨床医として活躍するのに最低限知っておくべき社会医学の知識、予防医学・健康医学・地域医療の実践に必要な基本的知識、医師としての適性・倫理面・人格なども考慮に入れるべきとの意見が多かった。医師国家試験の在り方について、「現行のままで良い」は34件(29%)であり、「口頭試問も入れる」という意見が25件(22%)と比較的多く見られた。現行のガイドラインについての意見は分かれているが、検討すべきという意見が多い。D区域について、社会医学系の問題でもD問題が必要という意見は74件(64%)と多い賛成が見られた。欧米との比較では意見が少なく、今後の課題と考えられる.医師国家試験の情報を公開すべきとする回答が84件(72%)みられた。難易度・必要度については明確な傾向は見られなかった。その他に以下の研究を実施した。卒後教育に関する研究として、青山教授(岡山大学)・上畑次長(国立公衆衛生院)らの協力により、連合大学院構想を進めており、そのための公衆衛生学のコア・カリキュラムを確定した。公衆衛生専門医(仮称)に関する研究として、田中教授(東京医科歯科大学難治疾患研究所)らの協力により、制度発足の可能性や状況整備などに関する基本的な研究を行った。衛生学・公衆衛生学に関する用語の統一にむけて、稲葉教授(順天堂大学)らの協力により概念整理に関する研究を実施した。衛生学・公衆衛生学の教育研究の将来構想に関する研究として、三角教授(大分医科大学公衆・衛生医学)らの協力により、社会医学のアイデンティティに関わる諸問題、教授選考を含めた人材確保のための長期戦略などに関する研究を実施した。菅原教授(弘前大学医学部)らの協力により医学生を対象にサマーセミナーを開催し、社会医学の現状と課題・保健所や公衆衛生行政のあり方に関する討議を行った。
結論
優秀な人材を公衆衛生分野(教育・研究職および行政職)に確保するとともに、地域における健康問題の解決に必要な保健所の医師および公衆衛生従事者の行政能力および調査・研究機能を強化するためには、衛生学・公衆衛生学教育体制(卒前および卒後)の強化が必要である。この趣旨のもとに、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学教授
により構成される衛生学・公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者として組織し、卒前教育および医師国家試験などに関する調査研究を行い、以下のことが明らかとなった。講議の対象学年の低学年化は全国的な傾向であり、2年生または3年生で授業を行っている大学が増加している。多くの大学で、福祉サービスに関する教育について衛生公衆衛生関連教室を中心に講義および施設見学・実習に取り組みつつあるが、しかし医学生全体に対して系統的に教育している大学は少数であった。国際保健教育の講義は大多数の大学で実施されていたが、実習はほとんど行われなかった。国際保健教育カリキュラムのさらなる充実を求める大学が大多数を占めていた。医師国家試験の基本的考え方として、単に社会学の基礎的知識だけではなく、臨床医として活躍するのに最低限知っておくべき社会医学の基礎的知識、予防医学・健康医学・地域医療の実践に必要な基本的知識、医師としての適性・倫理面・人格などについてはそれを入れるべきとする意見が多かった。今後、これらの実態把握に基づいて、よりよい衛生学・公衆衛生学(卒前・卒後)教育のあり方に関する提言を行うものである。

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