多中心性細網組織球症の疫学および治療法に関する調査研究

文献情報

文献番号
201911078A
報告書区分
総括
研究課題名
多中心性細網組織球症の疫学および治療法に関する調査研究
課題番号
19FC1004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
西田 佳弘(名古屋大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 真志(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 小田 義直(九州大学 大学院医学研究院)
  • 川井 章(国立がん研究センター 中央病院)
  • 奥野 友介(名古屋大学 医学部附属病院 )
  • 松井 茂之(名古屋大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
1,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦における多中心性細網組織球症(以下MRH)の疫学を調査し、症例数、診療担当科、実施されている治療法、および病態を明らかにすることは診断基準・重症度を決めるだけでなく、適切な治療法の確立と発信、分子病態に基づく新規治療法の開発に寄与する。本研究では、(1)診療する機会があると思われる複数の科に対して全国一次調査の実施と二次調査票の作成、(2)希少がんホットラインを通じてのMRH相談件数調査、(3) MRHの分子病態を明らかにすることを目的とした。
研究方法
(1)倫理委員会で調査研究の承認を受け、リウマチ科、皮膚科、整形外科、病理診断科について全国の基幹施設に一次調査票を送付した。リウマチ科については597施設、皮膚科・整形外科・病理診断科については大学病院80施設に送付した。二次調査票を作成した。
(2)国立がん研究センターの希少がんセンターは、「希少がんホットライン」を開設している。その問い合わせリスト中で、「多中心性細網組織球症」と病名で登録されている件数、内容を明らかにした。
(3)MRH症例2例に対して、倫理委員会で承認と患者より研究の同意を得た後に、病変組織および血液より抽出した遺伝子に対して、全エクソームシーケンス(WES)とRNAシーケンスを実施した。また2 症例についてGene Set Enrichment Analysis (GSEA)を実施した。
結果と考察
【結果】
(1)再送付を含めた合計2回の一次調査により、リウマチ科は413/597(69%)、皮膚科は74/80(93%)、整形外科は75/80(94%)、病理診断科は55/80(69%)から回答が得られた。MRHの症例ありと返答のあった施設は、リウマチ科が25例、皮膚科が14、整形外科が5、病理診断科が14であった。同一病院で複数科からの重複回答のあった可能性はあるが、一次調査で計58例のMRH症例数があるとの結果となった。二次調査票を作成した。
(2)「希少がんホットライン」の問い合わせリストは26,000件以上あり、その中で「多中心性細網組織球症」の相談者は0名であった。
(3) WESの結果、症例1では明らかなドライバー変異は検出されず、一方症例2ではMAP2K1のin-frame deletionとTET2のnon-sense mutationを検出した。RNAシーケンスにより、症例1で、KIF5BとFGFR1を含む新規のin-frame fusionを検出した。GSEA解析により、症例1ではKIF5B-FGFR1融合タンパク質のチロシンキナーゼ活性上昇を示唆するキナーゼの活性化が、症例2ではMAP2K1によるRAS-MAPKシグナル伝達経路の活性化を示唆するKRASシグナル伝達の上昇が示された。
【考察】
MRHは200~300例のみが報告されているだけである。本邦だけで50例を超える回答があり、世界最大の症例集積となる可能性がある。今後二次調査票を送付して、本邦における疫学調査データを構築し、診断基準、重症度の策定を目指す予定である。
MRHは、患者・家族、医療者が適切な診療方法に関する情報を入手することが困難である。その観点から、「希少がんホットライン」への問い合わせがあることを予想していたが、結果は0件であった。相談のなかった理由として、MRHが悪性疾患として捉えられず、他の疾患と考えられている可能性がある。また、MRHが超希少疾患であるため、適切な診断が下されていない可能性がある。
これまで、MRHの分子病態はよくわかっていなかった。各種の抗リウマチ薬が使用されてきたが治療抵抗性を示す症例が少なからず存在した。2症例と解析症例数は少ないが、本研究により、MRHが、ランゲルハンス細胞組織球症、エルドハイムチェスター病(ECD)、および若年性黄色肉芽腫の患者に存在するものと同様のRAS-MAPK経路またはチロシンキナーゼの異常な活性化によって引き起こされる腫瘍性疾患であることが示唆された。検出された変異は薬物治療が可能であり、MRHに対して有効な治療法が開発される可能性がある。
結論
全国一次調査でMRHが50例程度あることが判明した。「希少がんホットライン」の問い合わせの中に、MRHに関する問い合わせはなかった。MRHが腫瘍性疾患、その中でも悪性疾患としては認識されず、問い合わせがないと推測された。MRHは腫瘍性疾患と考えるべきであり、その治療には化学療法が有用である可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-29

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201911078Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,495,000円
(2)補助金確定額
1,495,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 764,103円
人件費・謝金 0円
旅費 128,340円
その他 257,557円
間接経費 345,000円
合計 1,495,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-05-07
更新日
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