健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防のための地域連携システムの開発

文献情報

文献番号
199800743A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防のための地域連携システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 尚平(岡山大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋香代(岡山大学教育学部)
  • 槇野博史(岡山大学医学部)
  • 藤井昌史(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 田中茂人(岡山市医師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康づくりセンターを活用した生活習慣病の一次予防を地域で効果的に展開するための方法論及びシステムの開発を目的とする。
研究方法
1.生活習慣病予防のための効果的手法の開発
1)生活習慣改善介入の妥当性の検討:事業所の一般健康診断結果をBMIを肥満の指標として、生化学検査値ならびに糖尿病と診断された経歴の関係を解析する。
2)生活習慣病予防対策のための個別の運動処方の開発:日常生活活動量は万歩計で、全身持久力は換気性閾値を指標に、筋力は体重支持指数を指標にする。測定結果から個人の運動量と体力の絶対的評価に基づいた具体的運動処方の可能性を検討する。
3)日本人における内臓脂肪蓄積型肥満の病態評価に関する研究:従来からのBMI、W/H比、体脂肪率、皮脂厚に加えて、臍部CTで内臓脂肪面積を測定する方法を検討する。
2.地域支援システムの開発
1)健康づくりセンターの拠点機能のあり方について:岡山県下の健康関連施設にアンケート調査を行い、健康づくりセンターが有する機能と他施設の比較を行う。比較する項目は、①健康診断室と医療用測定器の保有、②医師を含む医療関係者の常在と定期健康診断の実施能力、③定期的な体力測定の実施能力、④健康運動指導士等の保有、とする。
2)かかりつけ医との連携について:岡山市医師会所属の医師を対象に、かかりつけ医が行っている一次予防活動の現状と今後の必要性を調査する。調査項目は現在参加している学校医、産業医、スポーツ医、地域の健康教育など地域活動等とする。また健康づくりセンターとの連携上で必要な事柄も調べる。
3)生活習慣病患者に対する運動指導についての専門的支援:かかりつけ医と連携して生活習慣病患者に対して個別の運動指導を行う上での手順を調べる。
3.生活習慣病予防対策マニュアルの作成
10年度は資料準備と収集にあて今後は男性肥満者に対する運動プログラム開発を目指す。
結果と考察
1.生活習慣病予防のための効果的手法の開発
1)生活習慣改善介入の妥当性の検討:生活習慣改善の介入を行うべき対象の選択手順を検討した。研究対象は健康診断結果が15年間遡ることが出来る作業者の記録とした。各人の40歳でのBMIで4群のコホートとし、以後5年ごとの検診結果を拾い上げて推移を調べた。その結果40歳におけるBMIが大きい群ほど55歳でのFBS値が高いことがわかった。また今回観察できた期間中に一度でも糖尿病の疑いがあると診断された人の率を先述の4群で比較した。その結果BMI>26.4の肥満者に加えて24<BMI<26.4の群も糖尿病となる危険性が高いことがわかった。従って24<BMI<26.4の人も高危険群とみなす必要があり、11年度以後はこの群への介入方法も検討課題となる。
2)生活習慣病予防対策のための個別の運動処方の開発:健康づくりセンターがもつ拠点機能として、健康体力の評価に基づいた個別の運動処方の開発を行った。日常生活活動量は万歩計で、全身持久力は換気性閾値を指標に、筋力は体重支持指数を指標に処方する、絶対的評価に基づいた運動処方が生活習慣改善に有用であることがわかった。
3)日本人における内臓脂肪蓄積型肥満の病態評価に関する研究:内臓脂肪蓄積型肥満は皮下脂肪蓄積型肥満に比べ耐糖能異常、高血圧、高脂血症を来し易いとされているので、内臓型肥満を客観的に評価する必要がある。すなわちBMI、W/H比、体脂肪率、皮脂厚の測定との比較検討から、臍部CTで測定した内臓脂肪面積とW/H 比は高い相関が得られ、臍上にてCTをスキャンし内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比を求める方法が現在のところ最も正確な方法と思われた。本研究ではこの方法を中心に内臓脂肪蓄積型肥満の病態評価法の開発を進める。
2.地域支援システムの開発
1)健康づくりセンターの拠点機能のあり方について:岡山県南部健康づくりセンターの備える機能を、岡山県下の複合スポーツ施設と比較検討した。センターが有する生活習慣病予防に資する資源は、①センターが保有する健康診断室は他の施設では20%以下、診断に必要な医療器具と測定器は他の施設では10%以下。②医師を含む医療関係者が常在する施設は10%以下であり、定期健康診断を行いうる施設はおよそ10%、体力測定を定期的に行っている施設はおよそ20%。③健康運動指導士等の有資格者が生活習慣病予防に必要な科学的指導を行っている施設はおよそ25%。以上のことからセンターの所有する設備と人的資源を活用し、地域との連携を進めることで、他施設では実施が困難な予防対策が可能となると思われた。
2)かかりつけ医との連携について:岡山市医師会所属のかかりつけ医を対象にアンケート調査を行い、以下の結果を得た。①かかりつけ医の現状では、日常診療の他に学校医、産業医、スポーツ医、地域の健康教育など地域保健活動に従事している。②地域住民にとって、身近で気軽になんでも相談できるかかりつけ医の存在が必要。③かかりつけ医は、診療科目の他に地域医療・保健を推進するためのプライマリ・ケアを実践することが求められる。④生活習慣病の一次予防には健康づくりセンターとの連携システムの構築が有効。⑤連携を強める上でセンターの機能公開と情報提供を一層進める必要がある。以上のことから、健康づくりセンターとの連携システムの構築と効率的な運用の必要性が示唆された。
3)生活習慣病患者に対する運動指導についての専門的支援:岡山県南部健康づくりセンターにおいて、かかりつけ医や産業医から紹介された生活習慣病患者に対し、メディカルチェックと体力テストを施行し、身体組成、全身持久力、筋力、柔軟性等の健康体力を測定した結果、個人間に大きなばらつきを認めた。すなわち体力に応じた個別の運動処方の必要性が示唆された。
3.生活習慣病予防対策マニュアルの作成
対象者の日常生活活動量は1000~14266歩/日と個人差が大きく、個別の目標設定が必要であった。健康体力は、換気性閾値や体重支持指数に30~50歳代の年代間の差はなかったが、W/H比は40歳代から急増し腹筋の筋力は50歳代から低下した。この結果を基に、運動指導教室行って適切な運動プログラムを作成する。
結論
①生活習慣病の一次予防としては、BMIが24~26.4の「こぶとり」の人も重要な対象であり、この群への介入も必要である。②腹部CT検査を含む合理的な病態評価方法の導入と個別の運動処方の開発が望まれる。③健康づくりセンターとかかりつけ医が連携して行う一次予防の地域活動は低調であるが今後は重要になってくる。④地域において生活習慣病の一次予防を展開するためには、既存の施設は健康診断と体力測定の実施は定期的に行われているものが少なく、指導にあたるマンパワーも不足している。⑤岡山県南部健康づくりセンターが中心となって、一次予防に関わる情報をかかりつけ医に提供することが望まれる。以上のことから11年度以後の研究事業では、センターで行う生活習慣病予防の介入研究結果を、地域のかかりつけ医、行政や保健所に還元すると共に予防対策マニュアルを作成して連携システムへの構築を進めたい。

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