成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班

文献情報

文献番号
201911061A
報告書区分
総括
研究課題名
成人発症白質脳症の実際と有効な医療施策に関する研究班
課題番号
H30-難治等(難)-一般-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(国立大学法人新潟大学 脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 池内 健(新潟大学・ 脳研究所)
  • 水野 敏樹(京都府立医科大学)
  • 冨本 秀和(三重大学大学院・医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
成人発症の白質脳症には、禿頭と変形性脊椎症を伴う常染色体劣性白質脳症(CARASIL)、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、神経軸索スフェロイド形成を伴う遺伝性びまん性白質脳症(HDLS)、那須・ハコラ病等が含まれる。本研究申請では、これらの成人発症の白質脳症の早期診断を可能とし、適切な医療提供が行われるようにする事を目的とする。
研究方法
診断基準の作成を行った。すでに遺伝子診断での確定例を多数保有しているため、それらの症例の医療記録を後方視的に検討することにより診断基準を作成した。CADASILについては、遺伝子検査で変異陽性となった発端者の背景因子、神経学的症状、発症年齢、MRI所見を収集した。各遺伝子型・変異部位による背景および臨床的特徴の違いを解析した。また白質病変の患者剖検脳をマイクロMRIで調べ、微小血管病変を病理学的に検証した。加えて、CADASIL家族会の結成の支援や全国疫学調査、REDCapによる患者レジストリーを構築した。 HDLSについては,成人発症白質脳症症例に対して原因遺伝子であるCSF1Rの解析を実施した。更にCSF1R陰性の成人発症白質脳症症例に対して全エクソーム解析を実施した。
結果と考察
CARASILについては、218例の白質脳症患者の臨床情報とDNAを収集し、HTRA1 遺伝子解析を行った。その結果、CARASILの確定例を2例、優性遺伝性CARASILの確定例を8例見いだした。合計12例について詳細な臨床情報を追加収集した。218例中、非CARASILかつ非CADASILである症例は161例であった。このうち55歳以下で神経症状を認める、または第2親等以内の類症が明らかな83症例については遺伝性疾患が強く疑われたためにエクソーム解析を追加した。結果、仮性弾性黄色腫症2例見出した。更に、1例にCOL4A1の3’非翻訳領域に新規変異を同定した。各疾患の神経症状の発症年齢について解析を行ったところ、CADASILと優性遺伝型CARASIL以外は55歳以下で発症していることが明らかとなった。
CADASILについては、原因遺伝子であるNOTCH3変異を68種類認めた。5個の新規変異を同定した。主要な変異はp.Arg75Pro(n=14、7.8%)、p.Arg141Cys(n=18、10.0%)、p.Arg182Cys(n=14、7.8%)であった。CADASILの微小血管病変はマイクロMRIで鮮明に描出され、白質病変は皮質微小血管に認める血管周囲腔の拡大、炎症細胞浸潤と密接に相関し、皮質微小血管の病理が白質病変の形成機転に深く関与していることが明らかになった。有病率が10万人当り1.20~3.58と考えられ、片頭痛や血管因子の関与が諸外国と比べて少ない傾向にあった。患者レジストリーでは90名を超える患者の登録に成功している。
HDLSについては、成人発症大脳白質変性症106例にCSF1R変異解析を行い,27例(25%)がCSF1R変異陽性を示した。2例(姉妹例)はCSF1R変異p.T833Mをホモ接合体で有しており,小児期(2歳と4歳)に発症し,HDLS(CSF1R変異ヘテロ接合体)と比較して,重症であった。頭部MRIでは,大脳白質病変に加え,著明な石灰化を呈していた。CSF1R p.T833M変異体の機能アッセイを行ったところ,CSF1Rの自己リン酸化が減弱してたものの,ALSP患者で認められる変異体(p.I794T)よりもリン酸化活性が残存していた。更に、GFAP,AARS2遺伝子に変異を認めた症例が,それぞれ1例づつ同定された。
結論
CARASILの確定例を2例、優性遺伝性CARASILの確定例を9例見いだした。また、非CARASILかつ非CADASILである症例のうち若年発症または第2親等以内の類症が明らかな、遺伝性疾患が強く疑われる83症例について、エクソーム解析を実施した。エクソーム解析の結果より同定された遺伝性成人発症白質脳症の7症例はいずれも55歳以下で神経症状を発症していることが確認された。この結果より若年で発症した成人発症白質脳症にはCADASIL/優性遺伝型CARASIL以外の可能性を考慮して診療を行う必要があることを提唱した。
日本人CADASIL患者における最も大規模な遺伝型-表現型研究で、3つの主要な変異であるp.Arg141Cys、p.Arg182Cys、p.Arg75Proの特徴を明らかにした。またCADASILの白質病変の成因に皮質微小血管の病態が関与する。HDLSの中核となる臨床病型とその多様性を明らかにした。また,HDLSの遺伝子診断の方法論を確立し,適切な臨床診断アプローチに基づいて大脳白質変性症の遺伝子解析を行う必要があると思われた。

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201911061Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,387,731円
人件費・謝金 1,624,776円
旅費 155,220円
その他 3,832,659円
間接経費 3,000,000円
合計 13,000,386円

備考

備考
自己資金:386円

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-06-18