種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明とそれによる患者ケアの向上

文献情報

文献番号
201911054A
報告書区分
総括
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明とそれによる患者ケアの向上
課題番号
H29-難治等(難)-一般-061
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
平田 幸一(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 小橋 元(獨協医科大学 医学部)
  • 古和 久典(松江医療センター 統括診療部)
  • 佐伯 吉規(公益財団法人がん研究会 緩和治療科)
  • 竹島 多賀夫(富永病院 脳神経内科 )
  • 西上 智彦(県立広島大学 保健福祉学部)
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部)
  • 端詰 勝敬(東邦大学  医学部)
  • 福土 審(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 細井 昌子(九州大学病院 心療内科)
  • 森岡 周(畿央大学 健康科学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの国民が種々の症状を呈する慢性の難治疾患を抱えており,それが生活の質の低下を来す一因となっている一方,その症状には客観的指標が確立されていないため,この対策が社会的課題となっている.
特に難治性の疼痛,例えば病態生理学的にある程度解明されている慢性の難治性片頭痛を例にあげれば,中枢神経系の感作状態とりわけ持続中枢感作と言われる状況に基因していると考えられる.それは疲労感,倦怠感など身体症状,めまいやしびれなどの神経症状,うつなどの精神症状を誘発している可能性がある.これらは結果として生活の質を大きく妨げ,本人の生活のみでなく社会の生産性を大きく損なう.
慢性の難治性片頭痛に限らず,線維筋痛症,慢性疲労症候群,化学物質過敏症,過敏性大腸症候群や重症レストレスレッグス症候群の病態の一部には,中枢神経感作がその一つとして関与していると考えられている.一方で,このような病態における中枢感作の役割やその関わりについての研究は進んでいるとはいい難い.つまりこのような症状を呈する患者の病態は単一の領域別基盤研究分野の研究班ではカバーできないような,種々の分野にまたがる疾病群に属すると考えられる.これらのことに鑑み本研究では,多くの関連学会や多職種が横断的に連携し中枢神経感作が関与しうる疾患患者を広く対象として共通する症状等について,オールジャパン体制かつ国際的展開も視野に入れた幅広い視点からのデータの収集・分析をし,中枢感作がこれら多くの疾患の病態に一定の役割を担っている可能性を追求する.すなわち中枢感作とは何か,その本態にせまり慢性の難治疾患の基盤にこれが関与していることを追求する.この仮説が事実であればこれらの疾患に苛まれている患者のケアの向上が叶うはずであり,これこそがこの研究の目的であるといえる.
研究方法
関連学会や多職種が連携した上でいわばオールジャパンの体制下に下記の計画・方法により実行された.そのためすべての施設での倫理委員会を通過した上での研究開始とした.
1)各班員の関連研究の進展
2)各班員の関連研究の発表と社会への周知
結果と考察
論文レビューでも多くの疼痛性疾患での報告に中枢神経感作が関与するという記載がある.機能性疾患の難治化に中枢神経感作が重要な役割を果たしていることは明らかである.
①コントロールとして一般住民の中枢神経感作状態の有病率及び関連する体質に関する研究計画が進みつつある.
②生理学的研究として音圧変化に応答する聴覚刺激による大脳皮質反応がその候補になりうることを示したこと,特にLDAEP (Loudness Dependence of Auditory Evoked Potentials)は単純なパラダイムではあるが,脳内セロトニン機能と関連していることが知られている.この方法を応用すれば中枢神経感作を検出するのみならず,治療反応性も評価することができる可能性があることを示唆した.
③多くの対象にCSIを用いた研究が実際行われ,線維筋痛症や慢性疲労症候群のみならず多くの疾患で高得点のCSI,すなわち中枢感作がみられ,それは特に慢性片頭痛,頸部の疾患などでみられたことは,中枢感作が多くの疾患で生じ,患者のQOLを低下させていることを示唆するものと考えられた.
④③の結果はRLSの重症度の指標であるIRLS得点とCSI-A得点は正の相関を示したということから,中枢感作の程度と疾患重症度が比例することを示した可能性があることが示された.
⑤患者のケアにつき運動機能が低い人ほど中枢感作は高く,運動習慣をもっていない人ほど中枢神経感作は高い傾向が示された.中枢神経感作と認知機能には有意な相関を認めない一方,周りに頼れる人がいるほど中枢神経感作は低いことが示されたということは中枢感作の発生,進展を少なくともくい止めることができることが判明した.
今後,多くの関連学会や多職種が横断的に連携し,中枢神経感作を広く認知していただき,その後中枢神経感作が関与しうる疾患患者を広く対象として共通する症状等について,幅広い視点からのデータの収集・分析をし,中枢感作がこれら多くの疾患の病態に一定の役割を担っている可能性を啓発することは十分有用であり,意義あることと考えられた.
結論
中枢神経感作が種々の難治性疾患に関与していることは本年度の調査からも明らかであり,最終的には中枢神経感作が難治性疾患患者にどのような役割を担っているかを明らかにし,その病態が基盤となっている患者とそうでないものとの線引きし,医療資源の適正配分に繋げ,最終的に患者QOL 向上,ケアの向上に繋がることをめざすことは有意義であり,実際,本研究で中枢感作の発生,進展を少なくともくい止めることができることが判明したと結論した.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-29

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201911054B
報告書区分
総合
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明とそれによる患者ケアの向上
課題番号
H29-難治等(難)-一般-061
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
平田 幸一(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 小橋 元(獨協医科大学 医学部)
  • 古和 久典(松江医療センター 統括診療部)
  • 佐伯 吉規(がん研有明病院 緩和治療科)
  • 竹島 多賀夫(富永病院 脳神経内科)
  • 西上 智彦(県立広島大学 保健福祉学部)
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部)
  • 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
  • 福土 審(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 細井 昌子(九州大学病院 心療内科)
  • 森岡 周(畿央大学 健康科学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの国民が種々の症状を呈する慢性の難治疾患を抱えており,それが生活の質の低下を来す一因となっている一方,その症状には客観的指標が確立されていないため,それを抱える国民の多くは,周囲から理解を得られにくく,この対策が社会的課題となっている.
慢性の難治性片頭痛に限らず,線維筋痛症,慢性疲労症候群,化学物質過敏症,過敏性大腸症候群や重症レストレスレッグス症候群の病態の一部には,中枢神経感作がその一つとして関与していると考えられている.一方で,このような病態における中枢感作の役割やその関わりについての研究は進んでいるとはいい難い.広くこの問題を解明するにはその領域内の疾病あるいは疾病群に関する,単なる疫学研究やレジストリ作成等によらない研究が必要である.これらのことに鑑み本研究では,多くの関連学会や多職種が横断的に連携し中枢神経感作が関与しうる疾患患者を広く対象として共通する症状等について,オールジャパン体制かつ国際的展開も視野に入れた幅広い視点からのデータの収集・分析をし,中枢感作がこれら多くの疾患の病態に一定の役割を担っている可能性を追求する.すなわち中枢感作とは何か,その本態にせまり慢性の難治疾患の基盤にこれが関与していることを追求する.この仮説が事実であればこれらの疾患に苛まれている患者のケアの向上が叶うはずであり,これこそがこの研究の目的であるといえる.
研究方法
本研究は,関連学会や多職種が連携した上でいわばオールジャパンの体制下に下記の計画・方法により実行された.そのため中枢性感作指標(CSI)日本語版を,獨協医科大学倫理委員会に提出,その承認が2018年3月中に得られ,班員全員が中枢神経感作が発症に関与する可能性のある疾患に対する評価研究を行うための準備行った。
1)各班員の関連研究の進展
2)各班員の関連研究の発表と社会への周知を目的とし計7回の班会議で発表,討議,研究の修正・集約を行った.そのうえで得られた成果を各学会,論文発表,啓発ポスターの作成と送付を行った.
結果と考察
われわれの研究からも多くの疼痛性疾患での報告に中枢神経感作が関与するという記載があることからいわゆる機能性疾患の難治化に中枢神経感作が重要な役割を果たしていることは明らかである.
3年間にわたる研究につき考察すると
①コントロールとして一般住民の中枢神経感作状態の有病率及び関連する体質に関する研究計画が進みつつある.
②生理学的研究として音圧変化に応答する聴覚刺激による大脳皮質反応がその候補になりうることを示したこと,特にLDAEP (Loudness Dependence of Auditory Evoked Potentials)は単純なパラダイムではあるが,脳内セロトニン機能と関連していることが知られている.この方法を応用すれば中枢神経感作を検出するのみならず,治療反応性も評価することができる可能性があることを示唆した.
③多くの対象にCSIを用いた研究が実際行われ,線維筋痛症や慢性疲労症候群のみならず多くの疾患で高得点のCSI,すなわち中枢感作がみられ,それは特に慢性片頭痛,頸部の疾患などでみられたことは,中枢感作が多くの疾患で生じ,患者のQOLを低下させていることを示唆するものと考えられた.
④③の結果はRLSの重症度の指標であるIRLS得点とCSI-A得点は正の相関を示したということから,中枢感作の程度と疾患重症度が比例することを示した可能性があることが示された.
⑤患者のケアにつき運動機能が低い人ほど中枢感作は高く,運動習慣をもっていない人ほど中枢神経感作は高い傾向が示された.中枢神経感作と認知機能には有意な相関を認めない一方,周りに頼れる人がいるほど中枢神経感作は低いことが示されたということは中枢感作の発生,進展を少なくともくい止めることができることが判明した.
今後,多くの関連学会や多職種が横断的に連携し,まず,中枢神経感作を広く医師をはじめ関連学会で認知していただき,幅広い視点からのデータの収集・分析をし,中枢感作がこれら多くの疾患の病態に一定の役割を担っている可能性を啓発することは十分有用であり,意義あることと考えられた.
結論
中枢神経感作が種々の難治性疾患に関与していることは3年間の研究からも明らかであり,最終的には中枢神経感作が難治性疾患患者にどのような役割を担っているかを明らかにし,その病態が基盤となっている患者とそうでないものとの線引きし,医療資源の適正配分に繋げ,最終的に患者QOL 向上,ケアの向上に繋がることをめざすことは有意義であり,実際,本研究で中枢感作の発生,進展を少なくともくい止めることができることが判明したと結論した.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-29

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201911054C

収支報告書

文献番号
201911054Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,370,000円
(2)補助金確定額
6,104,000円
差引額 [(1)-(2)]
266,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,897,225円
人件費・謝金 175,175円
旅費 935,434円
その他 1,626,659円
間接経費 1,470,000円
合計 6,104,493円

備考

備考
自己資金491円,利息2円

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
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