医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査

文献情報

文献番号
199800741A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
浜島 信之(愛知県がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
  • 福光隆幸(碧南市民病院)
  • 明石都美(名古屋市中村保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙者を減らすことが、多くの疾患予防に有効であることは言うまで
もない。しかし、多数の喫煙者を簡易な方法で禁煙へと導く効果的な方法はほ
とんどなく、わが国の喫煙率は未だに高率のままである。本研究費による一連
の研究は医療施設での禁煙支援方法の確立を目的としたもので、本年度は1) 医
療施設への禁煙支援プログラム導入の前段階として、受診を契機に実際どの程
度の喫煙者が禁煙するかを多施設大規模追跡調査により確認し、医療施設で提
供する禁煙支援技術を評価する際の基礎資料とする研究と、2) 病院で濃厚な禁
煙支援を望む患者に対し提供できる有効な方法をパイロット研究により模索す
る研究を行った。
研究方法
多施設大規模追跡調査では、愛知県がんセンター病院と碧南市民病院
内科の初診患者、碧南市保健センター、安城市保健センター、名古屋市中村保
健所、岐阜市保健所が実施する検診の受診者を対象とした。愛知県がんセンタ
ーでは初診患者に対して実施している生活歴調査票より、4つの検診実施施設
の検診受診者では受診票にある問診項目より喫煙者を特定し参加の依頼を行っ
た。碧南市民病院では内科の調査担当医師が診察時に喫煙者かどうか尋ねて喫
煙者に参加を依頼した。参加者には参加申込書に名前と調査用紙郵送先住所を
記入していもらい、お礼のボールペンを渡した。2ケ月後と1年後に、愛知県
がんセンターよりすべての参加者に疾病の有無、喫煙状況、禁煙への関心を尋
ねる調査用紙と切手を貼った返信用封筒を郵送した。参加者募集は愛知県がん
センター病院では1997年9月15日から1998年9月11日までの1年間、岐
阜市保健所では1998年7月から1999年3月まで、他の4施設では1998年4
月から1999年3月までの1年間である。1999年2月末の時点で、愛知県がん
センター病院1,131人、碧南市民病院208人、碧南市保健センター392人、安
城市保健センター595人、名古屋市中村保健所440人、岐阜市保健所733人、
計3,499人が参加した。
大阪府立成人病センターでのパイロット研究では、循環器病棟と耳鼻咽喉科
病棟で喫煙中または禁煙後1カ月以内の入院者を対象とした。入院中の保健婦
によるカウンセリング(1回約20分、1人2~3回)と退院後90日目の自習
用教材郵送を対照群とし、これに退院後3回(退院後7日目、21日目、42日目)
の電話支援(約5分間)を追加した介入群として、両群のいずれかに最小化法
(補正要因は禁煙ステージ、ニコチン依存度、禁煙の自己効力感の3要因)に
て無作為に割り付けた。禁煙持続状況については、3ケ月後、6ケ月後、1年
後を調査し、両群で比較した。
結果と考察
この報告書作成時点では、多施設大規模追跡調査、入院患者を対象
としたパイロット研究共に参加者募集の途中であり、以下は中間解析結果であ
る。
1. 多施設大規模追跡調査
1998年9月末までに参加した2,589人での2ヶ月後の喫煙状況を解析対象と
した。2ケ月後調査までに2人が死亡し、13人が異なる住所を書き調査用紙が
返送された。1人は参加時に既に喫煙者でなく、その結果、2,573人が2カ月後
の時点での適格参加者となった。各施設それぞれ、1,124人、148人、293人、
386人、310人、312人である。適格参加者の施設別性年齢分布を見ると、愛
知県がんセンターは40歳未満が男性で16.2%、女性で40.7%、碧南市民病院は
40歳未満が男性で44.3%、女性で65.4%で、愛知県がんセンター病院での参加
者のほうが年齢は高いほうに偏っていた。碧南市保健センターと安城保健セン
ターの検診受診者は30歳代、40歳代が中心で、名古屋市中村保健所と岐阜市
保健所の検診対象者は60歳以上が中心であった。2ケ月後調査での回収率は、
男女あわせると愛知県がんセンターでは57.3%(644/1124)、碧南市民病院で
は58.8%(87/148)、碧南市保健センターでは74.4%(218/293)、安城市保
健センターでは79.9%(270/386)、名古屋市中村保健所では78.7%(244/310)、
岐阜市保健所では76.0%(237/312)であった。病院2施設をあわせると回収率
は57.5%となり、4つの検診施設での74.5%より有意に(p<0.001)低かった。
愛知県がんセンター病院ではがん患者と調査票に回答した参加者が232人(男
性201人、女性31人)あり、このうち喫煙を止めたと回答した者が、男性で
155人(77.1%、95%信頼区間71.3-82.9%)、女性で18人(58.1%、40.7-75.5%)
あり、禁煙率は有意に男性のほうが高かった(p<0.05)。調査に回答しなかっ
た480人の参加者をすべて非がん患者の喫煙継続者とすると、男性554人中51
人(9.2%、6.8-11.6%)、女性338人中14人(4.1%、2.0-6.2%)が喫煙を止
めたと回答した。禁煙者は男性のほうが有意に多かった(p<0.01)。碧南市民
病院では148人の内18人(12.2%、6.9-17.5%)が喫煙をやめたと回答した。
有意ではないものの男性のほうが女性より禁煙率は高かった。検診をしている
4施設をあわせると、禁煙率は1,301人中2.2%(1.4-3.0%)であり、愛知県が
んセンター病院での非がん患者・無回答者と碧南市民病院の患者をあわせた禁
煙率(8.0%, 83/1040)より有意に(p<0.001)低かった。検診受診者での禁煙
率は、40歳未満で1.8%(4/225)、40-59歳で1.8%(8/453)、60歳以上で
3.1%(12/392)、女性でそれぞれ、4.4%(2/45)、1.7%(2/120)、1.5%(1/66)
であった。禁煙への関心を以下の4段階に分けて質問した。1)「関心がない」、
2)「関心はあるが、今後6カ月以内に禁煙しようとは考えていない」、3)「今後
6カ月以内に禁煙しようと考えているが、この1カ月以内には禁煙する予定は
ない」、4)「この1カ月以内に禁煙する予定である」。愛知県がんセンター病院
では、がん患者と回答した232人を除いた892人のうち、11.4%(9.3-13.5%)
が3) または4)(6ケ月以内に禁煙したい) と回答した。碧南市民病院では6ケ
月以内に禁煙したいと回答したのは、男性では10.6%(5.1-16.1%)、女性では
0%、全体では8.8%(4.2-13.4%)であった。検診受診者では、6ケ月後と回答
した者は、若い受診者が多い碧南市保健センターの9.6%(6.2-13.0%)から高
齢者の多い名古屋市中村保健所の20.6%(16.1-25.1%)まで差があった。年齢
別に見ると、男性では40歳未満が8.0%(18/225)、40-59歳で12.8%(58/453)、
60歳以上で22.4%(88/392)で、女性ではそれぞれ、13.3%(6/45)、15.8%
(19/120)、27.3%(18/66)であった。
2. 入院患者を対象とした禁煙支援の無作為試験パイロット研究
1999年1月までに対照群27人(男性25人、女性2人)、介入群31人(男
性28人、女性3人)が参加した。平均年齢は対照群が58.6歳、介入群が56.7
歳で、参加者が持っていた疾患は対照群で心筋梗塞が9人、狭心症が6人、が
んが7人、その他が5人で、介入群ではそれぞれ8人、12人、9人、2人であ
った。退院3ケ月後の時点で対照群13人中8人(61.5%)、介入群21人中17
人(81.0%)の禁煙を持続していた。パイロット研究のため対象者が少なく、正
確な差を検討するには更に多くの参加者が必要となるが、このような研究が有
用であることは十分認識された。
結論
多施設共同調査により、1999年2月末までに3,499人の医療施設受診喫
煙者が追跡調査に参加した。2ケ月後の喫煙状況調査から、がん患者で禁煙す
る者が最も多く、次いで病院受診患者であった。検診受診者では禁煙するもの
はほとんどなく、病院受診者のほうが禁煙に対する動機を持つものが多いこと
がわかった。入院患者を対象としたパイロット調査から、禁煙支援を望む受療
者が存在し、禁煙支援方法により禁煙成功率には差があることが示唆された。

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