文献情報
文献番号
201911038A
報告書区分
総括
研究課題名
強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドラインに関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H29-難治等(難)-一般-045
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
牧野 貴充(熊本大学病院皮膚科・形成再建科)
研究分担者(所属機関)
- 浅野 善英(東京大学医学部附属病院皮膚科)
- 石川 治(群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学)
- 岡 晃(東海大学総合医学研究所)
- 川口 鎮司(東京女子医科大学リウマチ科)
- 熊ノ郷 淳(大阪大学大学院医学研究科呼吸器・免疫内科学)
- 桑名 正隆(日本医科大学大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野)
- 後藤 大輔(筑波大学医学医療系内科)
- 神人 正寿(和歌山県立医科大学医学部皮膚科学)
- 高橋 裕樹(札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学講座)
- 竹原 和彦(金沢大学医薬保健研究域医学系皮膚分子病態学)
- 長谷川 稔(福井大学医学部感覚運動医学講座皮膚科学)
- 波多野 将(東京大学大学院医学系研究科重症心不全治療開発講座)
- 藤本 学(大阪大学医学系研究科皮膚科学)
- 山本 俊幸(福島県立医科大学医学部皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者交替
尹 浩信(平成31年4月1日~令和2年3月13日)→牧野 貴充(令和2年3月13日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
2004年に厚生労働省強皮症調査研究班により「強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針」が作成され、2007年に改訂された。2010年にはEBMに基づいた「全身性強皮症診療ガイドライン」が公表された。欧米の全身性強皮症の診断基準の改定および治療の変化に対応するため、我々は「全身性強皮症・限局性強皮症・好酸球性筋膜炎・硬化性萎縮性苔癬の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン」を完成させ、2016年に発表した。我々の策定した全身性強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの妥当性を評価し、これらの診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの次回改訂にむけて検討を行う。
研究方法
各疾患、各臓器毎に分担研究者・研究協力者の中からエキスパートを選出し、担当を決定した。今年度は昨年度に引き続き全身性強皮症診断基準の妥当性に関する検討、全身性強皮症の各臓器毎に重症度分類の妥当性・有用性に関する検討を行った。全身性強皮症のアンケート調査を行い、症例数、診断基準、重症度分類に関する検証を行った。皮膚線維化疾患のアンケート調査の結果をもとに診断基準、重症度分類に関する検証を行った。
結果と考察
全身性強皮症の診断基準に関しては臓器毎、各疾患毎に感度・特異度について検証を行った。我々が2016年に策定した全身性強皮症診断基準を満たさなかった症例についてどの項目を満たさなかったか評価した。診断基準によって全身性強皮症と診断された患者および全身性強皮症以外の膠原病患者のうち抗ARS抗体陽性の患者について検出しその病態の検討を行った。また、症例を集積し皮膚硬化や肺機能を含む臨床症状の発症頻度や経時的変化を解析し早期重症例患者については1年毎の追跡調査を行った。全身性強皮症に対する手指のリハビリテーションの短期・長期的効果を検討した。全国の拠点施設に対しアンケート調査を実施し、症例数を調査するとともに診断基準、重症度分類、診療ガイドラインの認知度を検証した。皮膚線維化疾患では昨年度実施した各疾患毎の診断基準・重症度分類・診療ガイドラインに関するアンケート調査に対する回答に基づき各疾患の実態を把握するとともに予後やQOLの改善を目的として分析を行った。さらに各疾患の診断基準、重症度分類、診療ガイドラインが役に立ったという評価をしなかった施設に対し追加アンケートを実施した。我々が2016年に策定した全身性強皮症診断基準では爪郭部の毛細血管異常が小基準として加わった。これにより診断制度の向上が期待されたが、小基準のいずれかあるいは複数の項目を満たしているにも関わらず手指の皮膚硬化がない早期例が除外され、病変が進行する症例があることが明らかとなった。抗ARS抗体陽性の患者について全身性強皮症の発症頻度や臨床的特徴を評価することができた。日本人の全身性強皮症重症例の前向き検討においては、皮膚硬化や間質性肺疾患に対する治療としてステロイド、免疫抑制剤が使用され、病勢コントロールのために免疫抑制療法が長期間必要であることが示唆された。日本人強皮症患者の皮膚硬化、間質性肺炎、血管病変に関して臨床経過や治療反応性を評価することができた。全身性強皮症患者の手指機能の短期経過・長期経過の検討により線維化病変と血管病変の両者の病変が手指ROM低下に関連することが示唆され、長期の手指ROM維持、改善のリハビリテーションはQOL維持、改善につながる重要な役割があることが示された。全身性強皮症のアンケート調査では重症度分類2(moderate)以上と診断された症例の割合で皮膚硬化が最も多かった。皮膚線維化疾患のアンケート追加調査では、各疾患に共通して重症度を客観的に評価する指標の開発、治療薬の量や典型的な画像所見の提示を求める意見があった。
結論
我々が2016年に策定した全身性強皮症の診断基準について早期例・軽症例については症例数が少なく未だ検証が不十分であるが、早期治療が全身性強皮症の治療経過を大幅に改善することから早期例・軽症例の感度・特異度を高める必要がある。全身性強皮症と診断された患者のうち少数ではあるものの抗ARS抗体陽性例が存在することがわかった。症例数が少ないため症例数の集積を待って検証を行う必要がある。全身性強皮症の重症度分類で2 (moderate)以上の頻度が高かった皮膚硬化、上部消化管病変、肺病変は認定基準に含まれているが、血管病変は認定基準に含まれておらず、今後の助成の認定基準の課題と考えられた。また、同様に認定基準に含まれていない全身一般や関節についても、より正確な評価が必要と思われた。皮膚線維化疾患のアンケート調査を通じて診断基準、重症度分類、診療ガイドラインの次の改訂点が示唆されたことから同様のアンケート調査を今後も実施していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2021-05-27
更新日
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