軟骨炎症性疾患の診断と治療体系の確立

文献情報

文献番号
201911037A
報告書区分
総括
研究課題名
軟骨炎症性疾患の診断と治療体系の確立
課題番号
H29-難治等(難)-一般-044
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内 勤(慶應義塾大学 医学部)
  • 天野 宏一(埼玉医科大学 医学部)
  • 末松 栄一(国立病院機構九州医療センター 臨床教育研修センター/膠原病内科)
  • 村上 孝作(京都大学医学部附属病院 免疫膠原病内科)
  • 東 直人(兵庫医科大学 医学部)
  • 田中 良哉(産業医科大学 医学部)
  • 船内 正憲(近畿大学 医学部)
  • 武井 正美(日本大学 医学部)
  • 佐藤 正人(東海大学 医学部)
  • 森田 貴義(大阪大学医学部附属病院 免疫内科)
  • 峯下 昌道(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 川畑 仁人(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 仁木 久照(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 大学院医学研究科)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 大学院医学研究科)
  • 清水 潤(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
軟骨炎症性疾患は希少性ゆえに本邦における疫学臨床情報は不十分であり、治療指針も作成されていない。多くの診療科が関わるため、臨床医の認知度も低く診断されない症例も多い。RPでは臓器病変を持つ患者は予後不良であり診断、治療法の標準化と広報は急務である。本研究は軟骨炎症性疾患における診断・治療のガイドラインを作成することを第一の目的とする。
我々はこれまでにRP重症度分類(案)の構築を試み、H27-31年度の日本リウマチ学会で公表した。加えて本邦の呼吸器合併症、中枢神経合併症、循環器合併症、血液疾患合併症の現状を解析して我々の重症度分類(案)の有用性を確認した。さらにRPにおいては「耳介軟骨炎群」と「気道軟骨炎群」が独立した群として存在していた。
この所見より本平成29~31年度研究では、まず、本邦RP患者を最終診察時の「耳軟骨炎群」と「気道軟骨炎群」に着目して3群に分け、群間検討をすることで予後規定因子を明らかにすることを目指した。本年度には上記研究の結果をうけ、発症時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」に着目して群別し、最終診察時の群間検討と比較した。
その他の軟骨炎症性疾患として希少性の高いティーツェ症候群と離断性骨軟骨炎を選択し、これらの本邦での臨床像を明らかにすることも目的として追加の疫学調査を行った。
研究方法
i) 最終診察時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」に着目した群間検討
平成20~22年度全国疫学調査のデータを再解析した。最終診察時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」の有無によって3群に群別し、群間検討を実施した。具体的には、「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」を含めたアンケート上の要素の有無を、0、1にて数値化し、ノンパラメトリックに群間にて比較した。
ii) 発症時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」に着目した群間検討
疾患の進行を評価するため、RP患者を発症時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」の有無によって群別し、最終診察時群と比較した。次にこれらの群において、予後規定因子についての群間検討を実施した。
予後規定因子として、一人当たりの総侵襲臓器数、予後、および死亡率を検討した。
iii) 第2回RP全国疫学調査の実施
令和元年には、上記データの再現性および経時的変化を観察するため、第2回RP全国疫学調査を実施した。方法は、アンケート用紙を含めて第1回調査と同様である。
iv) ティーツェ症候群と離断性骨軟骨炎の疫学調査
一次全国疫学調査をリウマチ科・整形外科5118施設にて実施した。
結果と考察
上記研究の結果をうけ、発症時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」に着目して群別し、最終診察時の群間検討と比較した。まず、発症時と最終診察時の侵襲臓器を比較した。一人当たりの総侵襲臓器数を検討すると、発症時は平均1.1臓器であるが平均4.7年の推移で最終診察時は平均3.3臓器まで増加した。最終診察時侵襲臓器数と、主治医判断の予後ステージ値(ステージ1:治癒~ステージ5:死亡)を比較すると正相関を示しており、侵襲臓器数の増加は予後を悪化させていた。
臓器別検討では、発症時症状は耳介軟骨炎が最多で6割を占めた。2割が気道軟骨炎で発症しいた。残りの2割の患者では眼や内耳といった、気道軟骨炎と耳介軟骨炎以外の臓器障害で発症する亜群が存在した。それぞれを「耳発症群」、「気発症群」、「他発症群」とすると、他発症群は最終診察時において例外なく耳介軟骨炎または気道軟骨炎を合併していた。したがって、最終診察時の侵襲臓器数は他発症群において、耳発症群・気発症群に比し有意に多く、また死亡率も耳発症群に比較すると有意に高かった。すなわち「気群・両群」に加え「他発症群」の予後が悪いことが明らかになった。気道病変での発症群の予後不良は過去の発表と同様の所見であるが、神経障害合併を含めて「気道病変、耳介炎症以外の症状で初発した他発症群」の予後も不良であることが明らかとなった。
今回の全国疫学調査によりティーツェ症候群は132施設、離断性骨軟骨炎は255施設にて治療歴または治療中であるとの回答があった。
結論
これまでに収集した239名の患者の臨床所見から初発時の「耳介軟骨炎群」と「気道軟骨炎群」に分類した。この両群に含まれない臓器障害で発症した症例を新たな亜群とした。この亜群を詳細に解析した結果、この亜群の死亡率が高い事が明らかになった。
現在第2回全国疫学調査とその解析を施している。そこでは最終診察時の気道軟骨炎保有群の症例が減少している。生物学的製剤を含めて集学的な治療法の進展が予後を改善させている可能性がある。これらの所見は患者予後に重要に係ることから今後広く情報を発信する予定である。

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201911037B
報告書区分
総合
研究課題名
軟骨炎症性疾患の診断と治療体系の確立
課題番号
H29-難治等(難)-一般-044
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内 勤 (慶應義塾大学 医学部)
  • 天野 宏一 (埼玉医科大学 医学部)
  • 末松 栄一 (国立病院機構九州医療センター 臨床教育研修センター/膠原病内科)
  • 村上 孝作(京都大学医学部附属病院)
  • 東 直人(兵庫医科大学 医学部)
  • 田中 良哉(産業医科大学 医学部)
  • 船内 正憲(近畿大学 医学部)
  • 武井 正美(日本大学 医学部)
  • 佐藤 正人(東海大学 医学部)
  • 森田 貴義(大阪大学医学部附属病院 免疫内科)
  • 峯下 昌道(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 川畑 仁人(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 仁木 久照(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 大学院医学研究科)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 大学院医学研究科)
  • 清水 潤(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 佐野 統(兵庫医科大学 医学部)
  • 川合 眞一(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
RPなど軟骨炎症性疾患は希少性ゆえに本邦における疫学臨床情報は不十分であり、診断治療のための指針も作成されていない。RPでは呼吸器、心血管系、中枢神経系の臓器病変を持つ患者は予後不良であり診断、治療法の標準化・広報が急務である。本研究は疫学調査や厚生労働省の個人票データなどによる患者臨床情報を用いて軟骨の炎症性3疾患における診断・治療のガイドライン作成を第一の目的とする。我々は、これまでの解析を通じてRPでは各合併症間に相関があることに気づき、相関検討を実施した。その結果RPは「耳介軟骨を中心とした患者群」と「気道軟骨を中心とする患者群」に二分されることを報告した。本研究では、本邦RP患者を耳軟骨炎群と気道軟骨炎群の二群に分け、群間検討をすることで患者重症度に寄与する因子を明らかにすることを目的とした。
研究方法
本平成29~31年度研究では、本邦RP患者を最終診察時の「耳軟骨炎群」と「気道軟骨炎群」に着目して3群に分け、群間検討をすることで予後規定因子を推察した。具体的には「耳軟骨炎群」、「気道軟骨炎群」、「両者の合併群」に群別して、「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」を含めたアンケート上の症状、臨床検査所見の有無を、それぞれの群ごとに「なし」を0、「あり」を1として数値化し、ノンパラメトリックに群間にて比較した。
結果と考察
最終年度には上記研究の結果をうけ、発症時の「耳介軟骨炎」と「気道軟骨炎」に着目して群別し、最終診察時の群間検討と比較した。さらにそれらの群と予後規定因子との関連につき検討した。まず、発症時と最終診察時の侵襲臓器を比較した。一人当たりの総侵襲臓器数を検討すると、発症時は平均1.1臓器であるが平均4.7年の推移で最終診察時は平均3.3臓器まで増加した。最終診察時侵襲臓器数と、主治医判断の予後ステージ値(ステージ1:治癒~ステージ5:死亡)を比較すると正相関を示しており、すなわち侵襲臓器数の増加は予後を悪化させていることが判明した。
臓器別検討では、発症時症状は耳介軟骨炎が最多でおおよそ6割を占めた。2割が気道軟骨炎で発症している事が明らかになった。最終年度は、残りの2割の眼や内耳といった、気道軟骨炎と耳介軟骨炎以外の臓器障害で発症する亜群に着目した。それぞれを「耳発症群」、「気発症群」、「他発症群」とすると、他発症群は最終診察時において例外なく耳介軟骨炎または気道軟骨炎を合併していることが判明した。したがって、最終診察時の侵襲臓器数は他発症群において、耳発症群・気発症群に比し有意に多く、また死亡率も耳発症群に比較すると有意に高かった。すなわち「気群・両群」に加え「他発症群」の予後が悪いことが明らかになった。いじょうより、本研究班ではRP発症時の初発症状や最終受診時の軟骨炎症状に着目し、相互の群間検討を実施した。気道病変での発症群の予後不良は過去の発表と同様の所見であるが、神経障害合併を含めて「気道病変、耳介炎症以外の症状で初発した他発症群」の予後も不良であることが明らかとなった。今後の診断・治療指針の確定や予後の推定に向けた研究において活用される所見である。
さらに最終年度において、前回の全国疫学調査から10年以上経過したことから、これらの所見の経時的変化を評価することで、適切な治療指針の確立に資することを目的に、第2回RP全国疫学調査を実施して、現在初回疫学調査との比較検討を実施している。
結論
これまでに収集した239名の患者の臨床所見から初発時のi) 耳介軟骨炎群」と「気道軟骨炎群」に分類した。この両群に含まれない臓器障害で発症した症例を新たな亜群とした。この亜群を詳細に解析した結果、この亜群の死亡率が高い事が明らかになった。
現在我々は比較対照を目的に、第2回RP全国疫学調査とその解析を施している。予備的な検討ではあるが、有意差をもって最終診察時気道軟骨炎保有群の症例が減少しており、患者予後を改善させている可能性を示している。生物学的製剤を含めて集学的な治療法の進展が予後を改善させている可能性がある。これらの所見は患者予後に重要に係ることから関連学会での発表や論文執筆、さらに患者会での講演などを通して広く情報を発信する予定である。

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201911037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再発性多発軟骨炎(RP)の患者において、末梢血の免疫機能と腸内細菌叢の異常を同時に観察し関連を考察した。この二者を直接に関連付けることは、ヒトの難病では大変めずらしく、今後の臨床研究への橋渡しが期待される。PLOS ONE等の雑誌に掲載され、また2018年アメリカリウマチ学会にて公表し大きな反響を得た。
臨床的観点からの成果
2回の全国疫学調査を通じて、発症時および最終診察時の臨床像パターンより予後がある程度まで推測できることを見出した。関連学会および論文にて発表するとともに、国際共同研究においても発信した。
ガイドライン等の開発
現在、米国国立衛生研究所を中心としてRP分類(診断)基準作成に向けた国際共同研究が実施されており、我々も参加している。同時にその知見をもととして、我々のデータを反映させた本邦における診断・治療指針の確立を図っている。
その他行政的観点からの成果
我々は、上記の臨床像―予後の関連研究のデータから、すでに重症度分類(案)を提案している。今後このデータを個人票データに連結させることで、本邦のRP患者全員の重症度とその推移を正確に把握することが期待される。
その他のインパクト
本班研究による、知的財産権の出願・登録状況は、1. 出願番号PCT/JP2006/318188 自己組織化軟骨様バイオマテリアル(2013年2月現在 特許査定手続き中)、および2. 特願2010-126487 平成22年6月2日「再発性多発軟骨炎の検査方法およびそれに用いられる検査キット」。RP患者会「HOPE」の患者実態調査と、その結果をまとめた「RP白書2017」発刊に協力した。また本研究班のホームページを開設し(平成26年3月~)、研究報告書アップロードを継続している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-07-20

収支報告書

文献番号
201911037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,183,749円
人件費・謝金 1,505,608円
旅費 269,823円
その他 40,820円
間接経費 900,000円
合計 3,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-06-14