小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立

文献情報

文献番号
201911032A
報告書区分
総括
研究課題名
小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立
課題番号
H29-難治等(難)-一般-039
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
石倉 健司(北里大学医学部 小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 治(一宮医療療育センター 医局)
  • 服部 元史(東京女子医科大学 医学部)
  • 中西 浩一(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 丸山 彰一(名古屋大学 腎臓内科学)
  • 濱崎 祐子(東邦大学 医学部腎臓学講座)
  • 伊藤 秀一(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 森貞 直哉(神戸大学 大学院小児科学)
  • 野津 寛大(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 張田 豊(東京大学 医学部附属病院)
  • 濱田 陸(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
  • 金子 徹治(東京都立小児総合医療センター 臨床試験科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
18,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児期に発症する腎領域の指定難病と小児慢性特定疾病を主たる対象として日本小児腎臓病学会,日本腎臓学会,日本小児科学会等と連携し,1.全国疫学調査に基づいた診療実態把握,2.エビデンスに基づいた診療ガイドライン等の確立と改定,3.診断基準・重症度分類・診療ガイドライン等のとりまとめと普及,を行い,対象疾患の診療水準の向上と対象疾病の疫学情報,治療情報や研究成果を非専門医,患者及び国民に広く普及・周知に資する活動を行うことを目的とする.
研究方法
対象疾患である先天性腎尿路異常,先天性ネフローゼ症候群,バーター/ギッテルマン症候群,エプスタイン症候群,アルポート症候群,鰓耳腎症候群,ギャロウェイ・モワト症候群,ネイルパテラ症候群,特発性ネフローゼ症候群,ネフロン癆,ロウ症候群に対して,治療実態,研究開発状況の情報収集,診療ガイドライン・手引書の作成と妥当性評価,患者・家族向け診療パンフレット等の作成と情報提供用ウェブサイトの構築,研究協力者,診療医への普及・啓発活動,全国診療体制の確立等を行った.
並行して平成22年度に厚生労働科学研究費補助金難治克服研究事業で確立し,その後継続してきた小児慢性腎臓病(小児CKD)コホートの追跡予後調査を実施した.
さらに疫学調査研究として,本年度は初年度に500床以上等の小児腎領域の難病症例を診療し得る377施設中回答頂けた296施設に対し,指定難病4疾病(ギャロウェイ・モワト症候群,エプスタイン症候群,鰓耳腎症候群,ネイルパテラ症候群)と小児特定慢性疾病3疾病(ロウ症候群,ネフロン癆,バーター症候群/ギッテルマン症候群)に関する症例調査を行った.
結果と考察
結果】
対象各疾患に関して,治療実態,研究開発状況の情報収集,診療ガイドライン・手引書の作成・妥当性評価,患者・家族向け診療パンフレット等の作成を行った.
並行して小児CKDコホートの追跡予後調査に関して,2010年時点でそれぞれCKDステージ3a,3b,4の患者の9年腎生存率は,CAKUT群で83.6%,43.2%,10.7%,非CAKUT群で63.7%,46.5%,4.3%であった(返送率94.1%).小児腎領域の難病の診療に関する調査では,症例調査を行った7疾患に関しては,特に各々の発見動機,発見年齢と発見時GFR,腎外症状,遺伝子異常の有無などの詳細が明らかになった.
さらに研究班全体のウェブサイトを整備し,英文化もさらにすすめた.小児腎領域難病診療に関する普及啓発のセミナーを,福岡(5月)と札幌(11月)で開催した.小児の正確な腎機能評価に関して広く啓発を行っていく目的で,小児慢性腎臓病(小児CKD):小児の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引きを改訂した.
【考察】
小児腎領域の難病の各疾患に関して,診療体制の整備を進めることができた.一方で特発性ネフローゼ症候群やアルポート症候群を除き非常に希少でエビデンスの確立していない疾患が多く,エビデンスに基づいたガイドラインの作成は困難なものが多い.より実地医療に基づいた診療ガイドや患者向けのパンフレットの作成,Webの作成をすすめていく.さらに今後特に患者への直接の還元を目指し,患者への情報公開,発信を続けていく.
2010年から行われている小児CKDコホート研究は,開始9年後の情報の解析を行い比較的進行が緩やかと考えられていたCAKUTも,一定期間後は非CAKUTと同様に急速に末期腎不全に進行する事が明らかになってきた.小児腎領域の難病調査に関しては,協力施設の約90%の病院から情報公開に関する承諾を得られたため,今後難病拠点病院との連携を視野に入れた診療体制や,小児腎臓病学会等との連携を構築していく事がのぞまれる.また各疾患の発見動機が明らかになったことで,予後との関連も検討の上さらに適切かつ早期発見をめざして,普及啓発をすすめる.
結論
小児腎領域の全ての指定難病と主要な小児慢特定疾病の診療実態が明らかになった.全疾患共通,かつ最大の合併症といえる腎機能障害すなわち小児CKDに関して,コホート研究により長期の予後が明らかになった.また今後特に患者への直接の還元を目指し,患者への情報公開を続けていく.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
その他
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-29

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201911032B
報告書区分
総合
研究課題名
小児腎領域の希少・難治性疾患群の診療・研究体制の確立
課題番号
H29-難治等(難)-一般-039
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
石倉 健司(北里大学医学部 小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 上村 治(一宮医療療育センター 医局)
  • 服部 元史(東京女子医科大学 医学部)
  • 中西 浩一(琉球大学 大学院医学研究科)
  • 丸山 彰一(名古屋大学 腎臓内科学)
  • 濱崎 祐子(東邦大学 医学部腎臓学講座)
  • 伊藤秀一(横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学)
  • 森貞 直哉(神戸大学 大学院小児科学)
  • 野津 寛大(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 張田 豊(東京大学 医学部附属病院)
  • 濱田 陸(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
  • 金子 徹治(東京都立小児総合医療センター 臨床試験科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児期に発症する腎領域の指定難病と小児慢性特定疾患を主たる対象として日本小児腎臓病学会,日本腎臓学会,日本小児科学会等と連携し,1.全国疫学調査に基づいた診療実態把握,2.エビデンスに基づいた診療ガイドライン等の確立と改定,3.診断基準・重症度分類・診療ガイドライン等のとりまとめと普及,を行い,対象疾患の診療水準の向上と対象疾病の疫学情報,治療情報や研究成果を非専門医,患者及び国民に広く普及・周知に資する活動を行うことを目的とする.
研究方法
対象とする疾患は,先天性腎尿路異常,先天性ネフローゼ症候群,バーター/ギッテルマン症候群,エプスタイン症候群,アルポート症候群,鰓耳腎症候群,ギャロウェイ・モワト症候群,ネイルパテラ症候群,特発性ネフローゼ症候群,ネフロン癆,ロウ症候群である(ネフロン癆とロウ症候群は追加)である.これらの小児腎領域の希少・難治性疾患群に対して,治療実態,研究開発状況の情報収集,診療ガイドライン・手引書の作成・妥当性評価,患者・家族向け診療パンフレット等の作成と情報提供用ウェブサイトの構築,研究協力者,診療医への普及・啓発活動,全国診療体制の確立等を行った.
並行して平成22年度に厚生労働科学研究費補助金難治克服研究事業で確立し,その後継続してきた小児慢性腎臓病(小児CKD)コホートの追跡予後調査を実施した.さらに疫学調査研究として,上記11疾患に対して,500床以上の小児腎領域の難病症例を診療し得る377施設を対象に調査を行った.初年度は診療実態に関する情報収集を行った.さらに2年目以降は初年度回答のあった296施設に対し,指定難病4疾病(ギャロウェイ・モワト症候群,エプスタイン症候群,鰓耳腎症候群,ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症)と小児特定慢性疾病3疾病(ロウ症候群,ネフロン癆,バーター症候群・ギッテルマン症候群)に関する症例調査を行い,特に発見時年齢,発見動機と腎機能予後に関しての調査を行った.
結果と考察
結果】
研究期間を通じ対象各疾患に関して,治療実態,研究開発状況の情報収集,診療ガイドライン・手引書の作成・妥当性評価,患者・家族向け診療パンフレット等の作成を行った.
並行して小児CKDコホートの追跡予後調査に関して,2010年時点でそれぞれCKDステージ3a,3b,4の患者の9年腎生存率は,CAKUT群で83.6%,43.2%,10.7%,非CAKUT群で63.7%,46.5%,4.3%であった(返送率 94.1 %).小児腎領域の難病の診療に関する調査では,全国の診療実態が明らかとなり,また約90%の施設がそれらの情報の公開に同意している.症例調査を行った7疾患に関しては,特に各々の発見動機,発見年齢と発見時GFR,腎外症状,遺伝子異常の有無などの詳細が明らかになった.
さらに研究班全体のウェブサイトを整備し,英文化もさらにすすめた.小児腎領域難病診療に関する普及啓発のセミナーを,那覇(2018年5月),福岡(2019年5月)と札幌(2019年11月)で開催した.小児の正確な腎機能評価に関して広く啓発を行っていく目的で,小児慢性腎臓病(小児CKD):小児の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引きを改訂した.
【考察】
小児腎領域の難病の各疾患に関して,診療体制の整備を進めることができた.特発性ネフローゼ症候群は,エビデンスに基づく診療ガイドラインを作成した.一方同疾患やアルポート症候群を除き等研究の対象疾患は非常に希少でエビデンスの確立していない疾患が多く,エビデンスに基づいたガイドラインの作成は困難なものが多い.より実地医療に基づいた診療ガイドや患者向けのパンフレットの作成,Webの作成をすすめていく.さらに今後特に患者への直接の還元を目指し,患者への情報公開,発信を続けていく.2010年から行われている小児CKDコホート研究は,開始9年後の情報の解析を行い比較的進行が緩やかと考えられていたCAKUTも,一定期間後は非CAKUTと同様に急速に末期腎不全に進行する事が明らかになってきた.小児腎領域の難病調査に関しては,協力施設の約90%の病院から情報公開に関する承諾を得られたため,今後難病拠点病院との連携を視野に入れた診療体制や,小児腎臓病学会等との連携を構築していく事がのぞまれる.また各疾患の発見動機が明らかになったことで,予後との関連も検討の上さらに適切かつ早期発見をめざして,普及啓発をすすめる.
結論
【結論】小児腎領域の全ての指定難病と主要な小児慢特定疾病の診療実態が明らかになった.全疾患共通,かつ最大の合併症といえる腎機能障害すなわち小児CKDに関して,コホート研究により長期の予後が明らかになった.また今後特に患者への直接の還元を目指し,患者への情報公開を続けていく.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-15

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201911032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児腎領域の難病全11疾患の全国施設調査を年1回継続して行い,診療実態に加え発見動機,発見年齢と発見時GFR,腎外症状,遺伝子異常の有無などの情報を収集した.2010年度から行っている小児慢性腎臓病のコホート(447例)の,10年後の腎予後,生命予後,合併症を明らかにした.これらの成果は,下記の原著論文の他,「小児CKDにおける貧血」,「先天性ネフローゼ症候群の横断的調査」を英文専門誌に投稿中であり,日本人小児におけるはじめての報告となる.
臨床的観点からの成果
班研究のWebを作成・公開した(http://pckd.jpn.org/).研究班が対象とする全11疾患毎にこれまでの活動,医師および患者向けガイドライン,ガイド等を公開している.さらに小児慢性腎臓病(小児CKD):小児の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引きを改訂した.ここには小児CKDを正確に診断する上で必須な,日本人小児の血清クレアチニンの基準値や小児用のGFR推算式などを簡潔にまとめ,各学会や大学等で配布した.早期の適切な診断に結びつくことが期待される.
ガイドライン等の開発
頻度が高く,また多岐にわたる合併症や罹病期間の長さから特発性ネフローゼ症候群は小児腎臓病領域の中でも最も重要な疾患の一つである.2013年にガイドラインが作成された後も様々なエビデンスの蓄積があり,今回研究班が主体となって全面改定を行った.今後関連学会(日本腎臓学会,日本小児腎臓病学会)の承認も得て,2020年8月に出版される予定である(小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020).その他,先天性ネフローゼ症候群や鰓耳腎症候群,エプスタイン症候群の診療ガイド等の策定を行った.
その他行政的観点からの成果
全国296施設の協力のもと小児腎領域の難病に関する調査,研究体制が確立した.いち早く研究班の研究成果を共有,普及することができる.さらにその施設の多くは各疾患の診療実態の公表にも賛同しており,今後各都道府県における対象疾患の診療体制整備も可能となる.また2010年から継続している小児CKDコホートでは,平均年齢が18歳を超え,今後成人への移行期を迎える.移行期を越えた疾患の自然史が明らかになるとともに,小児慢性疾患の移行期医療のモデルとなることが期待される.
その他のインパクト
全国で小児科医、内科医を対象としたセミナーを定期的に企画し,那覇(2018年7月),福岡(2019年5月),札幌(同11月)で開催した.普及啓発,研究班の活動や成果物の共有,各地域における小児腎疾患診療の問題点についての議論などを行った.「小児ネフローゼ症候群診療ガイドライン」や「低形成・異形成腎を中心とした先天性腎尿路異常(CAKUT)の腎機能障害進行抑制のためのガイドライン」の普及率(使用率)が低く(それぞれ42%,15%),診療ガイドライン作成後の普及の重要性が示された.

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
28件
うち筆頭論文 2件
その他論文(英文等)
8件
学会発表(国内学会)
97件
うち筆頭演者 8件
学会発表(国際学会等)
14件
うち筆頭演者 1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
2020年度に以下の成果があった・指定難病の疾病追加 ・小児慢性特定疾病の疾病追加 ・小児慢性特定疾病の概要及び診断の手引きの改訂
その他成果(普及・啓発活動)
5件
研究班Webの解説http://pckd.jpn.org/.那覇,福岡,札幌で一般小児科医,内科医,腎臓専門医を対象とした小児腎臓病普及啓発のセミナーを開催.対象疾患の診断の手引き作成

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nozu K, Y, Ishikura K.et al
Inherited salt-losing tubulopathy: an old condition but a new category of tubulopathy
Pediatr Int , 62 (4) , 428-437  (2020)
10.1111/ped.14089
原著論文2
Ishiwa S, Ishikura K. et al
Association between the clinical presentation of congenital anomalies of the kidney and urinary tract (CAKUT) and gene mutations: an analysis of 66 patients at a single institution
Pediatr Nephrol , 34 (8) , 1457-1464  (2019)
10.1007/s00467-019-04230-w
原著論文3
Hamasaki Y, Hamada R, Muramatsu M, et al.
A cross-sectional nationwide survey of congenital and infantile nephrotic syndrome in Japan.
BMC Nephrol. , 21 (1) , 363-363  (2020)
10.1186/s12882-020-02010-5

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2024-05-23

収支報告書

文献番号
201911032Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,050,000円
(2)補助金確定額
24,050,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,373,121円
人件費・謝金 3,200,949円
旅費 3,327,273円
その他 8,598,657円
間接経費 5,550,000円
合計 24,050,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-14
更新日
-