特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究

文献情報

文献番号
201911030A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究
課題番号
H29-難治等(難)-一般-037
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
新井 一(順天堂大学 大学院医学研究科脳神経外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 石川 正恒(洛和ヴィライリオス)
  • 数井 裕光(高知大学医学部神経精神科学講座)
  • 加藤 丈夫(山形大学)
  • 栗山 長門(京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学教室)
  • 佐々木 真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
  • 伊達 勲(岡山大学大学院脳神経外科学)
  • 松前 光紀(東海大学医学部外科学系脳神経外科領域)
  • 森 悦朗(大阪大学大学院連合小児発達学研究科行動神経学神経精神医学寄附講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,237,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性正常圧水頭症 (idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus: iNPH) の診断・治療に関しては、従来地域、施設、医師の間でばらつきが大きかった.iNPHの診断と治療の標準化をめざして、2004年に本邦において世界初となる診療ガイドラインが発刊された.初版のガイドラインでは、腰椎穿刺によるタップテストを診断の中心に据えた.しかし一方で、ガイドライン策定の過程で、エビデンスレベルの高い研究成果を世界に発信することの必要性が認識され、本邦において医師主導型多施設共同前向きコホート研究SINPHONIが行われた.
本研究結果から、臨床上iNPHを疑う症例に、画像所見で脳室拡大とともに高位円蓋部くも膜下腔の狭小化等の所見(disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus: DESH)を有した場合は、8割以上改善が得られたため、タップテストの結果に関わらず髄液シャント術の治療介入は可能となった.この結果を受け、2011年のガイドライン第2版は、本所見をより重視した診断アルゴリズムが定められた.発刊後、本邦からはランダム化比較試験SINPHONI-2 や全国疫学調査など、iNPHに関するエビデンスの高い研究結果が続々と報告されるようになった.とくに疫学調査の結果からは、本疾患が病院にて診断される割合は、発症が予想される患者数の1割も満たないことが明らかとなり、本疾患の啓蒙のために最新の知見を取り込んだ診療ガイドラインの改訂が急がれた.新たなエビデンスを取り入れた診療ガイドラインの再改訂が必要と判断し、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「特発性正常圧水頭症の病因、診断と治療に関する研究」と日本正常圧水頭症学会の共同事業のもと、診療ガイドラインの全面改訂を行った.
研究方法
ガイドライン統括委員会を立ち上げ、班長所属施設にiNPHガイドライン作成事務局を設置した.日本正常圧水頭症学会と合同による改訂作業を行い、学会内からも研究協力者を選出しiNPHガイドライン作成グループを編成した.スコープについて議論し、重要臨床課題を決定し、原則としてMinds2014の方針に従って作成し、適宣現状を踏まえた対応を班会議での討議により決定して、作業を進めた.各重要臨床課題に対するクリニカルクエスチョン(CQ)を選定し、CQについてKey wordsを作成し、文献検索を行った。文献検索は原則第2版以降の2010年以降から2018年6月までを抽出した.評価シートが作成され、各アウトカムについてのエビデンスレベルを評価した.
推奨グレードは「1」=強い推奨、「2」=弱い推奨)とエビデンス総体(「A」強、「B」=中、「C」=弱、「D」=とても弱い根拠の組み合わせにより表現した.また、推奨グレードを記載しないCQでもエビデンスレベルが記載できる場合には、エビデンスレベルを示した.エビデンスレベル評価については、個々の文献についてではなく、アウトカムごとにランダム化比較試験・観察研究などの研究デザインごとに、バイアスリスク、非直接性、非一貫性、不精確、出版バイアス等を考慮して、エビデンス総体に対する評価を実施した.
作成された原案について、評価・調整委員による査読を受け、2019年11月-12月に外部委員会、また学会ホームページでパブリックコメントを求め、寄せられた意見について検討し、原案を修正した. 
結果と考察
iNPHの重要臨床課題から、推奨が診療の質を向上させると期待できる18項目をCQsとして、PICO形式で定式化した.疾患の解説的な事項をスコープで総論的事項とし、ガイドラインに記載し、CQsとの2部構成にした.定量的システマティクレビューを行う体制は未だ十分でないことから努力目標とし、各委員の判断にて可能な範囲で実施し、系統的な文献検索を実施した上で、定性的システマティクレビューを主体に作業を進めた.
改訂3版では、欧米を中心とした国際ガイドラインと日本のガイドラインとの診断基準の差異も考慮し、2019年5月に海外から招待者を呼び、東京で国際ガイドライン会議を開催し、専門用語などを統一し、診断の中心となるタップテストによるiNPH症状の改善と形態学的変化であるDESH所見を並列に重要視した診断アルゴリズムは、コンセンサスを得て国際基準のガイドラインが作成された.
結論
2020年3月1日 最新の研究成果を盛り込んだ特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第3版 (全136貢、ISBN 978-4-7792-2376-1) を出版し、国際版発行に向けてグローバルスタンダードを提供した.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-29

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201911030B
報告書区分
総合
研究課題名
特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究
課題番号
H29-難治等(難)-一般-037
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
新井 一(順天堂大学 大学院医学研究科脳神経外科学)
研究分担者(所属機関)
  • 青木 茂樹(順天堂大学大学院医学研究科放射線診断学講座)
  • 石川 正恒(洛和ヴィライリオス)
  • 数井 裕光(高知大学医学部神経精神科学講座)
  • 加藤 丈夫(山形大学)
  • 栗山 長門(京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学教室)
  • 佐々木 真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
  • 伊達 勲(岡山大学大学院脳神経外科学)
  • 松前 光紀(東海大学医学部外科学系脳神経外科領域)
  • 森 悦朗(大阪大学大学院連合小児発達学研究科行動神経学神経精神医学寄附講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性正常圧水頭症 (idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus: iNPH) は、高齢者に発症し、認知障害、歩行障害、排尿障害などの症状を呈し、患者及び介護者の生活の質を大きく低下させる.適切な診断のもと、脳脊髄液(CSF)シャント術を行うことで症状改善が得られるが、iNPHの臨床症状は加齢性変化や他の認知症を伴うアルツハイマー病やレビー小体型認知症などの神経変性疾患とも類似し、鑑別診断が困難である.また、これらの神経変性疾患はiNPHとしばしば併存し、治療の長期予後に影響を与える.本邦では、適切な診断と治療の標準化のため、診療ガイドラインを世界に先駆け、初版(2004年)を刊行し、本疾患の認知度が高まるも、2012年の全国疫学調査の結果、治療の恩恵を受ける患者は予想された対象患者の1割にも満たないことが明らかとなった.第2版(2011年)刊行後、本邦の医師主導型多施設共同臨床試験(SINPHONI-2)や全国疫学調査の報告など重要な研究結果が報告され、iNPHをより啓蒙するため最新の知見を取り込んだ診療ガイドラインの改訂が急がれ、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン作成に関する研究」と日本正常圧水頭症学会の共同事業のもと、全面改訂が行われた.
研究方法
iNPH診断は国際標準を考慮し、臨床上重要なクリニカルクエスチョン(clinical question: CQ)に対し、回答する形式をとった。高齢者の神経疾患を扱うことの多い脳神経外科、神経内科、精神科を中心に、老年科、内科、放射線科、リハビリテーション科、プライマリ ケア医などの実地医家を対象に作成し、構成をスコープの本文と各CQの回答・解説文の2部構成とした.新たなエビデンスを取り入れ、iNPH診療ガイドラインをGRADEシステムに基づき改訂するため、iNPHガイドライン統括委員会を開催し診療ガイドライングループを編成した.2018年2月と6月にシステマティックレビューを開始するあたり、講習会を開催した.文献検索は第2版のガイドライン以降で原則2010年以降から2018年6月までを検索し抽出した.各アウトカムについてのエビデンスレベルを評価した.定量的システマティクレビューを行う体制は、未だエビデンスの高い文献が十分でないことから努力目標とし、系統的な文献検索を実施した上で、定性的システマティックレビューを主体に作業を進めた.重要臨床課題から推奨が診療の質の向上が期待できる18項目をCQsとした.疾患の解説的な事項をスコープで総論的事項としての記載し、iNPHガイドライン作成を行った.
推奨グレード(「1」=強い推奨、「2」=弱い推奨)とエビデンス総体(「A」強、「B」=中、「C」=弱、「D」=とても弱い根拠)の組み合わせにより表現した.また、推奨グレードを記載しないCQでもエビデンスレベルが記載できる場合には、エビデンスレベルを示した.
作成された原案について、評価・調整委員による査読を受けた.2019年12月に外部委員会、また学会ホームページでパブリックコメントを求め、寄せられた意見について検討し、原案を修正した.
結果と考察
本邦では早くからこの病気の研究・治療が進み、世界に先駆けて「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン」を刊行してきた.初版(2004)では、CSFシャントの予後を予測し得る検査として腰椎穿刺による髄液排除試験を診断アルゴリズムの中心に据えた.その後本邦で医師主導型前向きコホート研究(SINPHONI)が行われ、臨床症状でiNPHが疑れる症例に、脳室拡大とともに高位円蓋部くも膜下腔の狭小化等の所見を認める場合は、髄液排除試験の結果に関わらず、CSFシャント術は高い奏効率が得られた.本画像所見はDisproportionately Enlarged Subarachnoid space Hydrocephalus: DESH所見と名付けられ、本所見もまたiNPH診断の中核となり、ガイドライン第2版(2011)からDESH所見を重視した診断アルゴリズムが定められた.
改訂3版では、欧米を中心とした国際ガイドラインと日本のガイドラインとの診断基準の差異も考慮し、国際ガイドライン会議を開催し、専門用語などの統一もはかり、コンセンサスを得て、タップテストとDESH所見の双方をiNPH診断の中心にしたアルゴリズムのもと、国際基準のガイドラインを作成した.
結論
2020年3月最新の研究成果を盛り込んだ特発性正常圧水頭症診療ガイドライン 第3版 (全136貢、ISBN 978-4-7792-2376-1) を刊行し、国際版発行に向けてグローバルスタンダードを提供した.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-11-15

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201911030C

収支報告書

文献番号
201911030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,108,000円
(2)補助金確定額
8,108,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 684,495円
人件費・謝金 1,617,514円
旅費 2,324,555円
その他 1,611,390円
間接経費 1,871,000円
合計 8,108,954円

備考

備考
自己資金954円

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2021-06-14