行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための方法論の確立と指導者教育養成に関する研究

文献情報

文献番号
199800739A
報告書区分
総括
研究課題名
行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための方法論の確立と指導者教育養成に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(財団法人大阪がん予防検診センター)
研究分担者(所属機関)
  • 生山匡(山野美容芸術短期大学)
  • 須山靖男(明治生命厚生事業団・体力医学研究所)
  • 足達淑子(福岡市西保健所)
  • 近本洋介(スタンフォード大学医学部疾病予防センター)
  • 増居志津子(財団法人大阪がん予防検診センター)
  • 島井哲志(神戸女学院大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病対策として生活習慣に着目した一次予防対策の充実が求められている。生活習慣は、基本的には個人が自らの責任で選択する問題であるが、実際には、個人の力のみで、その改善を図ることはむずかしい。そこで、個人が健康的な生活習慣を確立できるよう、社会環境の整備とともに、教育面から支援を行い、行動変容への動機づけや行動変容に必要となる知識・スキルの習得を促すことが必要である。
わが国の健康教育は、これまで知識重視型ならびにコンプライアンス重視型のアプローチが中心であった。しかし、これらの方法では健康行動変容の促進につながらないことから、個人の自発的な行動変容を支援する健康教育が求められている。しかし、健康教育の担い手である健康増進・保健医療従事者は、その養成課程において、健康教育についてのトレーニングをほとんど受けていない。そのため、わが国の健康増進・保健医療従事者の間に、行動科学に基づいた効果的な健康教育の手法や技術が普及していない状況にある。
そこで、本研究は、健康診断や外来等の既存の保健医療の場で国民の自発的な生活習慣改善を支援するための効果的な健康教育の方法論を行動科学の視点から確立するとともに、その普及を図る手段としての指導者トレーニングプログラムを開発し、その有効性を評価することを目的とする。
研究方法
本研究は平成10~12年度の3年計画とし、初年度~2年次は、行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための総合的な健康教育システムの開発と、指導者トレーニングプログラムの開発、3年次は、開発した総合的な健康教育システムとトレーニングプログラムの有効性の評価を行うこととした。研究の初年度である平成10年度は、行動科学に基づいた総合的な健康教育システムの開発と指導者トレーニングプログラムの開発に着手した。
結果と考察
総合的な健康教育システムとして、1)コンピューターを用いた生活習慣改善支援システムのプロトタイプの試作、2)生活習慣改善を支援する教材の開発を行った。コンピューターを用いた生活習慣改善支援システムについては、生活習慣改善の動機付けの教育ツールである健康危険度評価システムと、行動科学、疫学、臨床検査学の視点から生活習慣の評価とアドバイスを行うカウンセリングシステムの各プロトタイプを試作した。次に、生活習慣改善を支援する教材については、禁煙、体重コントロール、運動、ストレスの4領域のうち、今年度は禁煙と体重コントロールについて、指導者用マニュアルと対象者用セルフヘルプガイドの開発を行った。
指導者トレーニングプログラムの開発については、禁煙、体重コントロール、運動、ストレスの4領域のうち、禁煙、体重コントロールについて、トレーニングプログラムと、トレーニングで用いる指導事例のビデオ教材を作成した。さらに、禁煙については、開発したトレーニングプログラムの有効性を評価するため、保健医療従事者33名に対してトレーニングを実施したところ、喫煙および禁煙サポートに必要な知識(20項目)、禁煙指導に対する態度(5項目)、禁煙指導に対する結果期待(1項目)、禁煙指導の自信(8種類の喫煙者タイプ別)のほぼ全項目において事前に比べて事後では望ましい有意な変化がみられた。
人口の高齢化に伴い生活習慣病が増加する中で、一次予防対策の充実が求められている。本研究は、行動科学の視点から、健康診断や外来等の既存の保健医療の場で国民の自発的な生活習慣改善を支援するための効果的な健康教育の方法論を確立するとともに、その普及を図る手段としての指導者トレーニングプログラムを開発し、その有効性を評価することを目的としている。研究は平成10~12年度の3年計画とし、初年度~2年次は、行動科学に基づいた生活習慣改善支援のための総合的な健康教育システムの開発と指導者トレーニングプログラムの開発、3年次は、開発した健康教育システムの使い勝手の検討と有効性の評価、指導者トレーニングプログラムを用いた指導者養成とその効果の評価を行うこととした。
本研究の特色は、生活習慣改善の支援方法ならびに指導者へのトレーニング方法を社会的学習理論などの行動科学の理論に基づいて設計する点にある。このことにより、トレーニングを受講する指導者にとっても、また、トレーニングを受けた指導者が支援する一般の対象者にとっても、行動変容のための効果的な学習が可能となる。わが国において、行動科学に基づいた効果的な健康教育の方法論の確立とその普及を図るための研究は、これまで例がなく、本研究がわが国で最初の研究と考える。
結論
英米においては、総合的な健康増進・疾病対策として、アメリカでは1990年に" Healthy People 2000 "、イギリスでは1992年に" The Health of the Nation " が取りまとめられ、到達目標を掲げて包括的な取り組みがなされている。その取り組みの一環として、健康教育が効果的に社会に提供されるシステムを整備するため、政府機関(アメリカのNational Cancer InstituteやイギリスのHealth Education Authority)が中心となって、保健医療従事者に対する健康教育のトレーニングを実施している。そのトレーニングの戦略として、両国で共通して用いられているのは、“ Train the Trainer Program "で、これは、まず、教育研修を担当する指導者を国または地域ブロックレベルで養成し、次に、養成された指導者が各々の担当地域で一般の保健医療関係者を対象にトレーニングセミナーを開催するというものである。この段階的なトレーニング戦略“ Training cascade "は行動変容についての専門的な支援体制を社会に構築するための効率的かつ効果的な方法と考えられる。
本研究で確立された健康教育の効果的な方法論を英米で用いられている段階的な指導者トレーニングシステムを通して広く普及することにより、国民の生活習慣の改善が図られ、その結果、生活習慣病の一次予防に少なからず貢献することが期待できる。また、本研究の成果は、厚生省で現在策定を進めている「健康日本21」において、健康づくり関連の目標を達成するための重要施策として活用しうるものと考える。

公開日・更新日

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