移動ミニジムによる健康運動指導システムの開発

文献情報

文献番号
199800737A
報告書区分
総括
研究課題名
移動ミニジムによる健康運動指導システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 裕行(石川県能登中部保健所羽咋センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田島隆俊(石川県保健環境センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣に明らかに問題がある者は成人の 50%にもみられ、住民の健康管理上の重要な課題となっている。60歳未満では食べ過ぎなどの食生活の偏りと運動不足の両方が、60歳以上では主として運動不足が問題となっている。しかし、健診などで生活習慣の改善を指導しても、食生活を変えたり、運動を定期的におこなう人は指導を受けた者の1割にも満たない。平成8、9年度は、住民の生活習慣の改善を効果的におこなうことを目的に、毎日の食事や身体活動を自己分析し、生活習慣の自己管理を図る日常生活習慣自己分析ハンドブックやその支援システムの開発をおこなった。労働人口の減少や年金財政の破綻などから高齢者でも働くことが社会的に要求されている。そこで、先に開発した方法を改良し、高齢になっても体力の維持や向上を図るために移動ミニジムによる健康運動指導システムの開発を試みた。
研究方法
公民館に移動ミニジムを4週間に渡って開設した(平成10年度は1ヶ所のみ)。ミニジムでの健康運動指導教室(1回に2-3時間)は、1週間に昼間2回、夜間2回開き、合計16回開催した。ミニジムでの健康運動指導の対象者は住民健診から生活習慣改善が必要と判断された者とした。参加者には、少なくとも4回のミニジムへの出席を義務づけた。参加者は問診結果から、最初に食事と身体活動を分析した後に(分析方法は後述)、それぞれの生活習慣の問題点と改善目標を指示した。栄養士、保健婦、健康運動指導士、医師、作業療法士がチームを組んで指導した。生活習慣の分析、改善、運動指導などは4回のミニジム参加で終了するようにプログラムした。ミニジムでの健康運動指導を終了した者は40名(女性32名、男性8名、年齢は30-65歳)であった。ミニジムには、ダンベルセット(1―5kg)50組、バーベルセット(5―40kg)2組、ベンチプレス台(レッグエクステンションも含む)2台、シットアップ台2台、姿見1台、ステッパー2台、エルゴメーター1台、万歩計50個、自動血圧計20台(オムロンデジタル自動血圧計HEM-722C)、ハートレイトモニター20個(ポーラーハートレイトモニター:ビート;キャノントレーディング株式会社)を設置した。ミニジムでの指導期間中は、食事の料理名とその量、食材名とその量、料理のエネルギー、1日の歩数、ストレッチ体操や徒手筋力トレーニングの有無を生活習慣自己分析記録用紙に記入してもらった。珠洲の健康談話が生活習慣の改善の参考になるとの参加者の意見が多く、追加調査をまとめた[珠洲健康談話健老が語る養生の秘訣]を作成し全員に配布した。日常の身体活動の分析から生活活動強度を求め、強度が中等度(0.5)以上になるように身体活動の増減を指示した。RMRに1.2を加えた値を活動係数と名づけ、各種の活動係数の一覧表をつくり、その表からそれぞれの活動時間を乗じた1日の活動スコアの合計が40以上(活動スコアの合計が40以上はその日の生活活動強度が0.5以上)になるように、家の中で座らず立つ、買い物には歩く、庭仕事をする、散歩をするなど具体的に指導した。全員にストレッチとダンベルトレーニングをすすめ、毎回指導した。ストレッチは肩、腹、背部、大腿前面、後面、側面を中心に10―12種類の体操を指導した。ダンベルトレーニングは1―2kgのダンベルを使用し、上腕、肩や腹筋の強化を中心に指導した。トレーニング方法を示したストレッチ・ダンベルトレーニングのポスターを渡し、ダンベルも貸し出し、家庭でのトレーニング継続を促した。腰痛や膝の痛みを持つ者には、大腿四頭筋、腹背筋、ひふく筋などの増強を図る筋力トレーニング、10―15kgの負荷を加えたレッグエクステンションやハーフスクワットを教えた。ストレ
ッチやダンベルトレーニングの際には、デジタルカメラでトレーニング姿を撮り、姿勢に問題がないかチェックした。間違った姿勢はパソコンのディスプレイで説明し、姿勢の矯正を図った。全身持久力を向上させるために、ハートレイトモニターをつけ心拍数を計りながら歩行指導をおこなった。可能な者には、1―2kgのダンベルを持って20-30分歩くことを指導した。ミニジム終了後も、参加者の要望で月に1回の温水プールでの運動教室を開催し、持久運動へのモチベーション強化を図った。プールでは、水中でのストレッチ体操、歩行を指導した。ミニジム開設中は、医学書や医学知識を掲載した[今日の診療CD-ROM](Vol.8:医学書院),[家庭の医学 CD-ROM版](保健同人社)を使い、ディスプレイに画像を映しながら医療・健康相談をおこなった。腰痛をおこす整形外科的な疾患や糖尿病などの内科的疾患の説明に利用した。また、テレビ電話を使いテレビ電話による健康相談も試みた。
結果と考察
本研究では、集まりやすい公民館などで移動ミニジムを開設し、健康運動を指導するシステムの開発を試みた。合計16回の指導教室を開催したが、4回の指導教室の参加でストレッチ、ダンベルトレーニングの基本を習得することができた。平成11年度には数カ所のミニジム開設を予定しているが、家庭での生活習慣の自己管理を支援するならば、健康運動指導教室は週に2回開けば基本的な運動指導には充分であると思われる。ダンベル、バーベル、シットアップ台、マット、ステッパー、ベンチ台などの運動器具を使えば基本的なストレッチ・ダンベルトレーニング習得には充分であった。生活習慣の改善対象者には特別な筋力トレーニングは必要がないので、ミニジム開設には2-3畳のスペースで充分である。また、器具の費用も20-30万円で間に合い、生活習慣改善指導事業に適用しやすい。健康管理のための運動指導をおこなうには、1日全体の身体活動を考慮すべきである。定期的に運動していても、実際には運動不足となっている場合があるので、運動指導の基本は1日の身体活動強度を0.5以上になるようした。活動強度が中等度以上であれば、生活の自立に必要な最大酸素摂取量(体重1kg当たりの最大酸素摂取量、男37ml、女31ml)を60歳以上でも保持できる。生活活動強度の計算を簡便にするために、RMRに1.2を加えた値を活動係数と名づけ、各種の活動係数一覧表を作成し、その表からそれぞれの活動時間を乗じて活動スコアを求め、自分の生活に合った身体活動を選び、活動スコアが40以上になるように指導できる日常身体活動分析シートを作った。また、ストレッチ・ダンベルトレーニングを確実におこなえるポスターを作成し、また、指導者用のチェックシート、家庭での自己チェックシートも作成し、ストレッチ・ダンベルトレーニングをミニジムと家庭の両方から習得できるように工夫し、ストレッチ・ダンベルトレーニングの達成度を自己分析できるようにした。全身持久力の向上や維持には、歩くことをすすめた。運動中の心拍数を正しく測定することは難しく、運動指導にはハートレイトモニターが必要不可欠であると考えている。食生活の改善項目は、エネルギー、塩分、脂肪などの摂り過ぎ、緑黄色野菜やカルシウム摂取の不足などパターン化することができる。そこで、食生活改善指導にエネルギー、塩分、コレステロール、食物繊維とカルシウム分析・指導シートの4種類を作成した。食事分析基本シートと合わせて5種類のシートを使っての食事分析を参加者に必須のプログラムとした。生活習慣の改善が必要な者は医療機関で何らかの治療を受けていることが多い。また、最近の健康への関心の高まりから、医療・健康相談を望む参加者は多い。そこで、ミニジムでの健康運動指導の際には、医師による医療・健康相談を常時おこなった。一般住民は医学知識をすでに身につけており、具体的な説明を望んでいる者が多かった。テレビ電話による健康相談を計画している。複数のミニジムでテレビ電話を介して医療・健康相談をおこなえば、ミニジム運営の効率化を図ることができると考えている。
結論
ダンベル、バーベル、ベン
チ台、シットアップ台など数種類の筋力トレーニング器具を備えたミニジムを公民館に4週間に渡って開設し、効果的な健康運動指導方法の開発を試みた。生活習慣の改善が必要な30歳以上の住民40名を対象に検討した結果、1)日常生活活動を分析し、1日の生活活動強度が0.5以上になるように促す、2)ストレッチトレーニングと1―2kgの重さのダンベルトレーニングを毎日させる、3)ハートレイトモニターを利用して年齢に合った適切な運動負荷量を習得させる、4)市販の料理栄養評価データベースと5種類の食事記録・分析シートを使い、食事の食品群分析、エネルギー、塩分、コレステロール、カルシウム摂取量などを分析させる、5)医療・健康相談をおこなう、6)健康管理実践の体験談集を作成する、6)食生活と身体活動の改善効果の自己記録、7)ミニジム以外の場所での運動指導、例えば、温水プールで水中歩行などを加えることが指導に有用だとわかった。一般住民の生活習慣改善を実際におこなうには、数百人の対象者を長期間(2―3年)に渡ってミニジムで効率的に指導し得るシステムの開発(健康運動指導方法の標準化し、パソコンネットワークを介しての指導効率化)が必要である。平成11年度は、移動ミニジムによる健康運動指導システムを市町村がおこなう老人保健事業における生活習慣改善事業へ試みる予定である。

公開日・更新日

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