高齢者の健康寿命を延長するための手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800735A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健康寿命を延長するための手法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉武 裕(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 徳山薫平(筑波大学)
  • 浅井英典(愛媛大学)
  • 新開省二(東京都老人総合研究所)
  • 川久保清(東京大学)
  • 田中宏暁(福岡大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会に突入したわが国においては、75歳以上の後期高齢者の増大による虚弱高齢者や要介護高齢者の増大が危惧されている。このことから、これから高齢者の健康づくりにおいては、健康寿命を出来るだけ長くするための活動余命の保持が重要な課題とされるようになってきた。
活動余命の保持には、身体的自立が必須条件となり、その中でも歩行能力は基礎的で重要である。特に、後期高齢者における歩行能力の衰えは“身体活動量の低下→体力の低下→不活動→身体機能の衰え→疾病の増大"の悪循環を形成し、身体の脆弱化をもたらすことになる。このような悪循環は高齢者の日常生活範囲の狭小化をもたらし、社会活動を低下させ、自宅に閉じこもる高齢者(閉じこもり症候群)を増大させることになる。このように、高齢者においては、歩行能力の衰えは身体的な面だけでなく、精神的な面へも影響を及ぼし、その結果、活動余命だけでなく、健康寿命にも影響を及ぼすことになる。
高齢者の身体的自立に必要な歩行能力の保持には、筋力、全身持久力、平衡性などがの体力が重要となる。しかし、後期高齢者の活動余命を維持し、健康寿命の延長を図るためには、どの程度の体力水準が必要であるかについてはほとんど明らかにされたいない。
そこで、本研究班では虚弱高齢者と地域在住の一般高齢者の日常日常生活活動状況、日常生活動作遂行能力及び体力の相互関連から、健康寿命の予測因子を明らかにすると同時に、虚弱高齢者と一般高齢者に対するレクレーション活動や軽運動の身体的自立度および体組成への影響についても検討する。
研究方法
1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子についての検討
1)地域在住の80歳高齢者607名(男236名、女371名)を対象に、日常生活動作遂行能力と体力との関係について検討した。
2)地域の在宅高齢者で、基本的ADLが自立していた736名(65歳から89歳)を6年間追跡し、自立、非自立の予測因子としての体力の有用性を検討した。
2.体力からみた高齢者の健康寿命の保持・延長について
1)地域在住の高齢者36名(男性16名;75.8±5.0歳, 女性20名; 79.5±4.9歳)を対象に身体活動量と体力との関係について検討した。
2)ケアハウス入所高齢者30名(平均80.4歳)を対象にレクレーション教室を3ヶ月実施し、身体活動のQOLおよび精神面への影響について検討した。
3.高齢者の身体活動の筋量と骨構造への影響についての検討
1)運動が骨の3次元構造に及ぼす効果を調べるために、pQCT(Peripheral Quantitative Computed Tomography)法を用いてテニス愛好家および一般健常人延べ238名の上腕骨(橈骨)の左右差を検討した。
2)55歳から87歳中高年者31名(男15名, 女16名)を対象に筋量(体組成)測定法としての空気置換法について検討した。
結果と考察

研究結果=1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子についての検討1)地域在住の80歳高齢者の身体的自立の指標として脚伸展パワー、脚筋力、握力は有用であることが示唆された。また、これら体力の身体的自立に必要な水準が明らかにされた。また、転倒の指標としてステッピングは有用であることが示唆された。2)自立、非自立を予測因子として、握力と歩行速度が抽出されたが、歩行速度の方が優れていた。2.体力からみた高齢者の健康寿命の保持・延長について1)地域在住の一般高齢者において、体力と運動習慣、仕事、休まず歩ける距離との間に有意な関係が認められた。2)ケアハウス入所虚弱高齢者に対するレクレーション活動や軽運動は抑うつ度、敏捷性、脚力、反応時間、歩行能力、起居動作能力、手腕作業能力などの改善をもたらした。3.高齢者の身体活動の筋量と骨構造への影響についての検討1)40歳代女性テニス愛好家(78名)の利き腕の橈骨中間部の骨外膜周囲長の増大が認められ、中高年者においても、長期間の運動習慣が骨の外側への成長を促すことで骨強度を増大させた。2)空気置換法は皮脂厚法と高い相関関係(r=0.93)と高い相関関係が認められた。しかし、高齢者では青年と比較して筋量は高く評価される傾向にあった。

考察=1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子についての検討地域在住の高齢者の基本的ADL(歩行、食事、トイレ、入浴、着替え)の自立または非自立の予測因子として、握力と歩行速度が有意に抽出され、特に歩行速度は優れていた。また、AADLの基本で、高齢者の身体的自立において必要な階段昇降、椅子からの起立などの動作遂行能力と脚伸展パワー、脚伸展力、握力の間には有意な関係が認められ、特に下肢筋力は優れていた。これらの結果から、地域在住の一般後期高齢者の身体的自立また虚弱高齢者の自立において、下肢筋力は活動余命の重要な予測因子となりうることが明らかにされた。また、集団を対象にした簡易な活動余命の予測因子とて握力の有用性が確認された。2.体力からみた高齢者の健康寿命の保持・延長について日常の身体活動量や運動習慣のある高齢者は握力、下肢筋力、歩行能力に優れていた。また、ケアハウス入所虚弱高齢者の体力や精神面の改善にはレクレーション活動や椅子に座っての下肢や上肢の反復運動が有用であった。これらの結果は、地域在住の高齢者においては、歩行のような日常の身体活動は身体的自立の保持に有用であり、一方、虚弱高齢者におけるレクレーション活動や上肢や下肢の反復運動は基本的ADLの保持または改善に有効であることが示唆された。また、身体活動は抑うつの軽減させることから、精神面にも好影響を及ぼすものと考えられた。3.高齢者の身体活動の筋量と骨構造への影響についての検討健康に関連する体力の中において、体組成も身体的自立には重要となる。その中でも筋量や骨密度は特に後期高齢者において重要となる。最近、体脂肪(または筋量)の簡便な測定法として空気置換法が利用されるようになってきた。本研究において従来の方法と比較したところ高い相関関係が得られた。このことから、高齢者の体脂肪量(または筋量)の測定法として空気置換法は 骨密度については、骨構造の3次元構造を解析できるpQCT法を用いて中年者の運動習慣者と非習慣者の骨密度を比較した。その結果、運動習慣者において骨密度は有意に高いことが明らかにされた。このことから、高齢者の身体活動量の骨構造への影響を評価する方法としてpQCT法は有用であると考えられた。
結論
地域在住の65歳から89歳の高齢者1409名およびケアハウス入所虚弱高齢者30名を対象に高齢者の健康寿命を延長するための手法の開発に関する研究を行った。その結果、1)後期高齢者(80歳)の身体的自立の指標として脚伸展パワー、脚伸展力が有用で、それに必要な体力水準が明らかにされた。また、2)基本的ADLの自立と非自立の予測因子として歩行速度と握力が有用で、特に、歩行速度は優れており、両者の基本的ADLの自立に必要な水準が明らかにされた。3)在宅高齢者の体力は運動習慣、仕事の有無、歩行能力との間に有意な関係が認められた。4)ケアハウス入所の虚弱高齢者へのレクレーション活動や軽度の運動は抑うつ度の改善や下肢筋力、敏捷性の改善をもたらすことが明らかにされ。一方、高齢者の体組成の測定法に関しては、5)高齢者の筋量(体組成)測定には空気置換法は簡便で有用であることが明らかにされた。また、6)骨の三次元構造の解析にはpQCT(Peripheral Quantitative Computed Tomography)法が有用であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-