文献情報
文献番号
201909017A
報告書区分
総括
研究課題名
歯科口腔保健の新たな評価方法・評価指標の開発のための調査研究~我が国の歯科健康格差縮小へのヘルスサービスリサーチ~
課題番号
19FA1001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 / ヘルスサービス開発研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 秀人(国立保健医療科学院)
- 森 隆浩(国立大学法人筑波大学)
- 財津 崇(国立大学法人東京医科歯科大学)
- 岩上 将夫(国立大学法人筑波大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
歯科の健康格差については歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の中間報告において地域間・社会経済学的要因による存在が指摘され健康日本21(第二次)の理念実現に向けその縮小が求められている。この実現には現在不足している国民の歯科健康実態把握のための広範なデータ収集分析が必要であり,データに社会実態を正しく反映する適切な評価方法確立と評価指標策定が不可欠である。本研究では,現状で実現可能性が高い基礎資料の収集として広く国民を対象とするレセプト情報等データベース(NDB),及び既存又は新規の公的調査・統計等の基礎資料としての活用可能性とこれらにおける評価指標の探索・策定につき検討し,国民の歯科健康実態を正しく把握分析するために必要となる一般化可能性を有する有効な評価方法・評価指標の開発を行い,わが国の歯科健康格差縮小に貢献することを目的とする。
研究方法
本研究は, <1>文献レビューによる評価方法・評価指標の現状把握,<2>既存公的統計の歯科口腔保健に関連する評価指標の再評価・改善策の検討,<3>全国規模の歯科保健の実態把握および各地域・社会経済的要因間における格差の検討に資する評価指標の開発,<4>要支援・要介護者の歯科口腔保健の実態把握,<5>新たな歯科口腔保健の評価方法・指標の考察と開発及び検証,<6>現在の歯科健康の課題及びこの解消に向けた施策についての考察,により構成する。以上<1>~<5>の研究を原著論文として纏め成果としての政策提言を行う。倫理面への配慮として本研究は,筑波大学医の倫理委員会(通知番号:第1339号,第1446号,第1490号)、東京医科歯科大学歯学部附属病院倫理審査委員会(受付番号:D2019-065)の審査による承認を得て実施した。
結果と考察
平成31年度の本研究から以下の知見を得た。「口腔保健指標に関する文献的検討」から,口腔指標として「歯周病」が本質的であり, 今後は口腔脆弱性, 口腔機能の維持という観点からの指標が重要になると考えられた。「NDBオープンデータ」の分析から,歯科診療行為レセプト算定数の標準化算定数比・変動係数による評価分析は歯科保健の生態学的な指標の顕出に対して有効性が示唆された。歯科診療行為の都道府県差は,歯周管理,歯石除去等で大きく,抜歯,抜髄で小さい可能性が窺われた。歯科診療所数との関係では,歯石除去・口腔ケアが強い正の相関を示し,抜歯・ブリッジ・義歯/多数歯が負の相関を示した。また,口腔保健支援センターの設置が歯周病安定期治療の算定数に影響することが示唆された。さらに,歯科衛生士が行う歯科保健指導の実施状況は都道府県で3倍の差がみられた。歯科保健指導を受けている割合が高い都道府県は、歯科衛生士数が多く、歯科に関する自覚症状がある者が多い地域であることが推察された。また訪問診療においても自覚症状が多い地域で、歯科医療の提供が多いことが示唆された。「国民生活基礎調査」の分析から,口腔の自覚症状があっても、約70%の者は歯科医院を受診していない現状が明らかとなった。特に、高齢者ではかめないと自覚していても、その通院率は低いことが窺われた。また,既婚者と比べて死別・離別者では歯科通院率が低いことが明らかとなり,口腔の健康格差の縮小に社会要因としての婚姻に注目する必要が考えられた。「歯科疾患実態調査」の分析から,70代以上では平均現在歯数が20歯未満と少なく補綴処置で咬合回復しているが,60代では臼歯部への補綴処置が不十分である可能性が窺われ,臼歯部の咬合状況を評価するFunctional Tooth Units(機能歯ユニット)指標の有用性が示唆された。「医療・介護レセプトデータ(市町村)」の分析から,訪問歯科診療の受診者割合,受診月数・回数はいずれも施設入居要介護者で優位に多く認められた。義歯治療は居宅療養要介護者で有意に多く行われており,歯周治療および口腔ケアは施設入所要介護者で有意に多く行われていた。歯科口腔保健法施行後も居宅に対する訪問歯科診療の供給が不足しており,中でも歯科衛生士による口腔ケア実施が居宅では施設に比べ著しく少ない実態が窺えた。「診療録等」の分析から,レセプト情報「歯式」は今後のレセプト研究における現在歯数の把握において妥当性の高い指標として用いることができる可能性が示唆された。
結論
今年度の検討から、我が国の歯科口腔保健の健康実態を正しく把握分析するために有効な評価方法・評価指標を抽出する基礎資料として,NDB,及び国民生活基礎調査,歯科疾患実態調査等の既存公的調査,更に各自治体の独自収集データ等が活用可能性を有することが示唆された。
次年度は,平成3年度の検討を基に既に申請受理を得ている個票データの交付があり次第,具体的指標の策定の検討を行う予定である。
次年度は,平成3年度の検討を基に既に申請受理を得ている個票データの交付があり次第,具体的指標の策定の検討を行う予定である。
公開日・更新日
公開日
2020-08-28
更新日
-