DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800734A
報告書区分
総括
研究課題名
DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部)
  • 濱島ちさと(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疾病構造の変化に伴い、生活習慣病を中心とした保健施策の確立が望まれる。保健施策を評価するためには、国民の健康水準(結果)を定量的に把握する指標を用いることが必要である。DALYは、Marryにより開発されたglobal burden of diseaseを評価するための指標であり、医療資源の配分を考える上で有用な指標である。しかしながら、established market countryである我が国国内での医療資源の配分を考える際には、健康負担の評価系に限界が指摘されている。本研究は、DALYの評価系に関して、悪性新生物と精神疾患を対象として、疾病負担の定量的評価について再検討を行うことを目的として検討した。
研究方法
主任研究者を中心に、複合健康指標の現状をレビューするとともに、現在の問題点を整理した。DALYでは、専門家のデルファイ法による障害分類をしているが、本年度の計画として、神奈川県立がんセンターの外来患者を対象として、EuroQOLによるquality of lifeの評価を行い、定量的かつ患者からの情報をもとに障害程度を再検討する資料を作ることとした。EuroQOLでは、5設問(5D)と視覚評価(VAS)から構成されている。また、現状のDALYにおける障害評価における問題点に精神科疾患領域の問題点があることから、山内慶太班友(慶應義塾大学医学部)と共同で精神科疾患領域の評価系の問題点を整理した。
結果と考察
複合健康指標は、健康価値観の多様化、医療資源の適正配分、地域特異性を背景にして、定量的に国民の健康(疾病)負担を定量化する試みで開発されてきている。複合健康指標を分類すると、①健康寿命(余命)、②健康調整余命、③疾病負担に分けられる。これらの指標に共通する問題として、健康状態をどのように標準化して評価するかが課題となっている。健康状態を分類したものとして、国際傷病分類や国際障害分類が挙げられるが、定量的な健康負担を示す評価系については統一がなされていないとともに、専門家意見に集約されているところが大きい。DALYでは、致死的健康結果について7段階の重み付けがなされているが、専門家意見を集約しており、global burden of disease の観点からの重み付けであり、我が国国内での健康(疾病)負担を定量的に評価するには、限界があることが示された。研究班では、健康障害による負担を定量的かつ我が国の実状に適した資料とすべく、二つの点から検討をした。一つは、悪性新生物に対する健康負担評価系の問題に対して客観的指標を作成すること、もう一つは、精神科疾患領域の健康負担がDALYでは過大評価されるという点について、定量的に評価系を確立するための問題点を明らかにする点を検討した。
岡本班員は、地域癌登録と院内癌登録を比較することで、健康障害の客観的な評価系の検討を試みた。成果としては、両癌登録からの5年生存率ががん対策の指標になりうること、院内癌登録の生存率が地域癌登録に比べ良好であること、病床数の差により生存率の差が認められ、癌医療の相違が示された。
池田班員は、quality of lifeを簡易的に測定する質問票であるEuroQOLを用いて、癌通院患者1937名について、5Dと視覚評価の2種類の比較を行った。5Dにより完全に検討と回答した者は45.8%、痛み/不快感にある程度問題があると回答した者は10.7%、不安/ふさぎ込みにある程度問題があると回答した者は6.3%であった。5Dに関して完全に健康であると、回答した者の視覚評価で健康度が80.3/100であり、5DによるHRQOLのスコアと視覚評価の指標との相関係数は、0.534 と中程度の数値であった。EuroQOLでは、癌の多様な状態を把握することが難しい点も考えられ、患者特性と合わせて詳細な分析が必要と思われた。次の段階として、専門家による障害推定値との整合性を検討する必要性が示唆された。
濱島班員は、癌通院患者と院内癌登録資料とリンクすることにより、EuroQOL調査結果に影響する要因を疫学的に検討することを目的にリンケージできた150例について検討を行った。部位別癌とEuroQOLの5DおよびVASについては有意な関係を認めなかった。院内癌登録における患者属性として性、現年齢、手術時年齢、術後年数、現在の健康状態、保健活動の有無、喫煙歴、飲酒歴とEuroQOLの指標について検討したところ、現状の健康状態と5DおよびVASに有意な関係を認めた。また、5Dでは手術時年齢、学歴と有意な関係を認めたとともに、VASでは術後年数と有意な相関を認めた。これらの成績から癌患者の治療後のquality of lifeを測定する指標としての有用性が示唆された。
山内班友は、精神科領域におけるDALYの基礎資料を算出するための疫学的な問題点を検討した。精神科領域のDALYが全DALYに占める割合を分析したところ、先進諸国では16.5%にも及ぶものの、非先進国では10% 前後であり、比重が大きいことが示された。一方、我が国の医療費について分析すると、精神科領域の医療費の割合が1977年には7.9%であったものが、1995年には6.3% まで漸減しており、我が国の精神科領域の健康負担を的確に表現するための基礎資料づくりの意義が理解された。疫学的観点から精神科領域のDALYの問題点を整理すると、我が国の日常診療で使われている疾患概念と乖離している点、併存疾患による健康負担の相乗効果、population based の調査が十分でない点が指摘された。
結論
我が国の健康負担を定量的に把握するためには、複合健康指標を用いることが必要であり、その基礎資料となる障害による健康負担の定量的評価尺度が必要である。本研究では、現在もっとも国際比較のために使用される頻度の高いDALYについて、特に悪性新生物と精神科疾患を対象として障害の評価系について検討した。癌患者に対しては、EuroQOLによる評価系を確立するための基礎的検討を行い、患者属性による補正が今後必要であることが示された。また、精神科疾患の健康負担を客観的に評価するためには、population based の調査の実現可能性から、患者調査による受療者推計など今後の検討の必要性を認めた。

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