脳卒中の急性期診療体制における施設間連携体制構築のための研究

文献情報

文献番号
201909009A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中の急性期診療体制における施設間連携体制構築のための研究
課題番号
H30-循環器等-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
坂井 信幸(神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯原 弘二(九州大学 脳神経外科)
  • 小笠原 邦昭(岩手医科大学 脳神経外科)
  • 岡田 靖(九州医療センター 臨床研究センター)
  • 鈴木 倫保(山口大学 脳神経外科)
  • 冨永 悌二(東北大学 脳神経外科)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 橋本 洋一郎(熊本市民病院 脳神経内科)
  • 長谷川 泰弘(聖マリアンナ医科大学 脳神経内科)
  • 松丸 祐司(筑波大学 脳神経外科)
  • 宮本 享(京都大学 脳神経外科)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,670,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有効性が確認されたrt-PA静注療法(IV r-tPA)と機械的血栓回収療法(MT)はできるだけ早く適用することにより患者転帰を改善することが証明されている。医療資源を有効に活用するために行われている遠隔診療を用いた診断の補助や、Drip and Ship 法、Drip and Stay 法を含む、地域における脳卒中急性期の施設間連携医療の現状を確認し、その課題及び解決策を明らかにすると共に、施設間連携医療の有効性や安全性に関する科学的根拠の創出を目標とする。
研究方法
(1) 急性期の施設間連携医療の調査
本研究に必要な情報を収集するため、研究代表者施設の研究倫理審査を経て後方視的コホート臨床研究を実施した。MTを対象とし、特に施設間連携医療としてDrip&Ship(D&S)を含めた転送例の実態を明らかにする目的で項目を設定した。
(2) IV r-tPA全国医療機関別悉皆調査
IV rt-PAの実施医療機関に関する正確な情報はこれまでになく、日本脳卒中学会(JSS)教育訓練施設774、日本脳神経外科学会研修施設864、日本脳神経血管内治療学会会員在籍施設1063、全国救急告示病院(入院受入3157、救命救急(脳神経外科または脳神経内科を標榜)281、から1491施設を抽出し、2016,2017,2018年のIV rt-PA実績を調査した。

結果と考察
(1) 1年次に5,267例(解析可能4,811例)、2年次に3,701例(解析可能3,648例)の機械的血栓回収療法実施例を収集した。うち第1医療機関でIV rt-PAを行って、第2医療機関でMTを行ったいわゆるD&Sを含む転送例は1,310例(15.5%)で、内訳はD&S 577例、診断のみで転送が733例であった。治療の安全性の指標である症候性頭蓋内出血の割合は、全体で9.10% (322/3648)、転送例 9.2%(57/619)、直接搬送 9.1%(275/3029)、と有意差はなく、IV t-PA併用の有無でも有意差はなかった。
(2)実質的な回答率は99%以上を確保した。rt-PA(アルテプラーゼ)の承認後はじめての悉皆的全国調査を達成した。IV rt-PAの実施件数は2016,2017,2018年に14,221、15,350(+7.9%)、15,936(+3.8%)で、実施医療機関数は1,013、1,022(+0.1%)、1,038(+1.6%)であった。このデータにより、都道府県、市区町村、2次医療圏毎の治療実績が判明した。
(3) IV r-PAの超急性期加算に関する実態調査を研究班が所属する9府県で行った。実施医療機関は研究班調査に基づき、算定医療機関は地方厚生局資料から確認した。未算定率は25.8%(79/306)であった。算定できていない73病院(92.4%)から回答を得た。算定要件の「(2) 薬剤師が常時配置されていること」が最大要因で89.0%(65/73)の未算定病院の理由となっていた。次に多いのは「(3) 診療放射線技師及び臨床検査技師が常時配置されていること:で45.2%(33/73)、第3位は「(5) 脳卒中治療を行うにふさわしい専用の治療室を有していること。ただし、ICUやSCUと兼用であっても構わないものとする」で17.8%(13/73)であった。
結論
1. D&Sの活用率には地域差があったが全国平均でMTの約15%で、D&Sを含む転送の適用は、若年、発症前自立、重症ではない、などに多く選択される傾向があった。
2. 転送してMTを行うのは、発症からMT施設搬入までに時間は掛かっているが、MT施設でのMT開始までおよび再開通までの時間は有意に短かく、症候性頭蓋内出血、転帰良好はほぼ同等で、死亡および寝たきりは少ない傾向があった。
3. 転送後にMTを行っても症候性頭蓋内出血や重篤な合併症には差はなく、転帰不良例が少なく、良好例が多かった。D&S実施例の安全性は確保されており、治療成績は標準的結果を得ていた。
4. IV rt-PAは約1,000医療機関で16,000件行われており、MTは700医療機関で12,500件行われている。医療機関数はほぼ一定の傾向にあり、件数はIV rt-PAが微増、MTは増加している。日本脳卒中学会の脳卒中センター認定が開始されるため、脳卒中の医療提供体制がさらに整備されることが期待できるが、その推移を確認する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-12-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-12-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201909009B
報告書区分
総合
研究課題名
脳卒中の急性期診療体制における施設間連携体制構築のための研究
課題番号
H30-循環器等-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
坂井 信幸(神戸市立医療センター中央市民病院 脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯原 弘二(九州大学 脳神経外科)
  • 小笠原 邦昭(岩手医科大学 脳神経外科)
  • 岡田 靖(九州医療センター 臨床研究センター)
  • 鈴木 倫保(山口大学 脳神経外科)
  • 冨永 悌二(東北大学 脳神経外科)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター 脳血管内科)
  • 橋本 洋一郎(熊本市民病院 脳神経内科)
  • 長谷川 泰弘(聖マリアンナ医科大学 脳神経内科)
  • 松丸 祐司(筑波大学 脳神経外科)
  • 宮本 享(京都大学 脳神経外科)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
有効性が確認されたrt-PA静注療法(IV r-tPA)と機械的血栓回収療法(MT)はできるだけ早く適用することにより患者転帰を改善することが証明されている。医療資源を有効に活用するために行われている遠隔診療を用いた診断の補助や、Drip and Ship 法、Drip and Stay 法を含む、地域における脳卒中急性期の施設間連携医療の現状を確認し、その課題及び解決策を明らかにすると共に、施設間連携医療の有効性や安全性に関する科学的根拠の創出を目標とする。
研究方法
(1) 急性期の施設間連携医療の調査
本研究に必要な情報を収集するため、研究代表者施設の研究倫理審査を経て後方視的コホート臨床研究を実施した。MTを対象とし、特に施設間連携医療としてDrip&Ship(D&S)を含めた転送例の実態を明らかにする目的で項目を設定した。
(2) IV r-tPA全国医療機関別悉皆調査
IV rt-PAの実施医療機関に関する正確な情報はこれまでになく、日本脳卒中学会(JSS)教育訓練施設774、日本脳神経外科学会研修施設864、日本脳神経血管内治療学会会員在籍施設1063、全国救急告示病院(入院受入3157、救命救急(脳神経外科または脳神経内科を標榜)281、から1491施設を抽出し、2016,2017,2018年のIV rt-PA実績を調査した。
(3) 超急性期加算に関する実態調査を行った。
(4) 収集した情報を基に、重症脳卒中救急の在り方関する検討に分析結果を提供した。
結果と考察
(1) 1年次に5,267例(解析可能4,811例)、2年次に3,701例(解析可能3,648例)の機械的血栓回収療法実施例を収集した。うち第1医療機関でIV rt-PAを行って、第2医療機関でMTを行ったいわゆるD&Sを含む転送例は1,310例(15.5%)で、内訳はD&S 577例、診断のみで転送が733例であった。治療の安全性の指標である症候性頭蓋内出血の割合は、全体で9.10% (322/3648)、転送例 9.2%(57/619)、直接搬送 9.1%(275/3029)、と有意差はなく、IV t-PA併用の有無でも有意差はなかった。
(2)実質的な回答率は99%以上を確保した。rt-PA(アルテプラーゼ)の承認後はじめての悉皆的全国調査を達成した。IV rt-PAの実施件数は2016,2017,2018年に14,221、15,350(+7.9%)、15,936(+3.8%)で、実施医療機関数は1,013、1,022(+0.1%)、1,038(+1.6%)であった。このデータにより、都道府県、市区町村、2次医療圏毎の治療実績が判明した。
(3) IV r-PAの超急性期加算に関する実態調査を研究班が所属する9府県で行った。未算定率は25.8%(79/306)であった。算定要件の「(2) 薬剤師が常時配置されていること」が最大要因で89.0%(65/73)の未算定病院の理由となっていた。
(4) 重症脳卒中救急における治療介入のあり方に関する検討の基礎資料を提供した。高齢者で転帰不良は増加する。Baseline NIHSSと発症前mRSには高値と転帰不良に直線的関係があり、高齢者で転帰不良は増加する。
結論
1. D&Sの活用率には地域差があったが全国平均でMTの約15%で、D&Sを含む転送の適用は、若年、発症前自立、重症ではない、などに多く選択される傾向があった。
2. 転送してMTを行うのは、発症からMT施設搬入までに時間は掛かっているが、MT施設でのMT開始までおよび再開通までの時間は有意に短かく、症候性頭蓋内出血、転帰良好はほぼ同等で、死亡および寝たきりは少ない傾向があった。
3. 転送後にMTを行っても症候性頭蓋内出血や重篤な合併症には差はなく、転帰不良例が少なく、良好例が多かった。D&S実施例の安全性は確保されており、治療成績は標準的結果を得ていた。
4.IV rt-PAは約1,000医療機関で16,000件行われており、MTは700医療機関で12,500件行われている。医療機関数はほぼ一定の傾向にあり、件数はIV rt-PAが微増、MTは増加している。日本脳卒中学会の脳卒中センター認定が開始されるため、脳卒中の医療提供体制がさらに整備されることが期待できるが、その推移を確認する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-12-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201909009C

収支報告書

文献番号
201909009Z