今後の糖尿病対策と医療提供体制の整備のための研究

文献情報

文献番号
201909002A
報告書区分
総括
研究課題名
今後の糖尿病対策と医療提供体制の整備のための研究
課題番号
H29-循環器等-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 柏原 直樹(川崎医科大学)
  • 小室 一成(東京大学 医学部附属病院)
  • 小椋 祐一郎(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 大杉 満(国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター)
  • 岡村 智教(慶応義塾大学 医学部)
  • 東 尚弘(国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
  • 岡田 浩一(埼玉医科大学 医学部)
  • 野出 孝一(佐賀大学 医学部)
  • 村田 敏規(信州大学 医学部)
  • 中島 直樹(九州大学病院)
  • 菊池 透(埼玉医科大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,790,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は健康日本21(第二次)に定められた主要な生活習慣病の1つであり、生活習慣病の重症化予防のために大規模データを利用する取り組みや、糖尿病の重症化予防事業などの好事例を横展開することは健康・医療戦略(平成29年)でも重視されている。5疾病・5事業及び在宅医療の医療供給体制のなかでも糖尿病は重点疾患として扱われており、今後は特に発症予防・重症化予防に重点をおいて事業が継続させる見込みである。今までも糖尿病対策事業や疫学研究などは行われてきたが、俯瞰できる形で糖尿病対策について整理されていないのが現状である。そこで、本研究では既存の糖尿病対策事業・研究のとりまとめ、糖尿病及び合併症の実態把握。糖尿病診療・医療体制の現状把握、各種療養指導士制度の連携体制の検討等を行った上で、抽出された課題の解決法の提示、関係学会間の連携促進、療養指導士制度の連携に対する提言などを行うことを目的とする。本年度は3年目であり、以下の通り研究を進めた。
研究方法
【糖尿病関連のガイドラインの比較検討と学会横断的な診療手引き作成】、【既存の糖尿病対策事業・研究事業の成果のとりまとめ】、【糖尿病及び糖尿病合併症の実態把握】、【糖尿病に対する適切な医療提供体制・医療の質指標】、【各種団体が制定している療養士等制度の調整】の5つのテーマにわけ、研究を推進した。今年度は、全体班会議2回、各療養指導士等制度の関係者が参加した療養指導士等制度連携会議2回、同実務担当者が参加した療養指導士等制度ワーキンググループ1回、日本循環器学会/日本糖尿病学会合同ステートメント会議へのオブザーバー参加、医政局直轄の厚労科研・今村班と協議1回などを行い、その結果に基づき議論を行った。
結果と考察
【1.糖尿病関連のガイドラインの比較検討と学会横断的な診療手引き作成】
令和2年度診療報酬改定において、生活習慣病管理料の算定要件に、糖尿病患者に対する年1回程度の眼科受診を勧める内容が新たに盛り込まれることに貢献した。“循環器学会と糖尿病学会の専門医間の紹介基準”、“糖尿病患者におけるかかりつけ医から眼科医への紹介基準”の作成に貢献した。
【2.既存の糖尿病対策事業・研究事業の成果のとりまとめ】
既存の行政主導の糖尿病対策事業として、厚生労働省健康局による糖尿病対策事業を検討した。糖尿病研究事業では、厚労科研とAMED研究を検討し、“費用対効果”を研究とするテーマは少なく、今後の糖尿病対策として政策に資する研究課題となると考えられた。
【3.糖尿病及び糖尿病合併症の実態把握】
NDB特別抽出データにて、糖尿病診療におけるプロセス指標の頑健性は低いため指標の算出方法について議論が必要なこと、糖尿病関連の管理料の算定率が低いことがわかった。
国民健康・栄養調査にて、平成9年から平成28年までの、20年間、計5回に亘る調査を解析し、糖尿病有病率に影響を与える因子を検討したところ、肥満(BMI≧25kg/㎡)のみが各年で共通して有病率と関連する因子として認められた。
1型糖尿病に関する検討にて、日本国内ではインスリン枯渇症例が人口1万人あたりでは10人未満であり、地域差はなく、60歳ごろまでは男女ともに有病率が増加していた。
【4.糖尿病に対する適切な医療提供体制・医療の質指標】
「第7次医療計画中間見直し」の糖尿病対策評価指標として、①糖尿病患者の新規下肢切断術の件数、②1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数の2案が承認された。
また、小児期発症1型糖尿病では、最近の診療技術の進歩が血糖コントロールの改善に結びついていない結果となり、更なる方策を追求しなければならないと考えられた。
【5.各種団体が制定している療養士等制度の調整】
“日本糖尿病療養指導士制度”“高血圧・循環器病予防療養指導士制度”“腎臓病療養指導士制度”“肥満症生活習慣改善指導士制度”の4つの制度が、連携協議会の形式で連携を継続していく方針について、全体の合意が得られた。
結論
【糖尿病関連のガイドラインの比較検討と学会横断的な診療手引き作成】、【既存の糖尿病対策事業・研究事業の成果のとりまとめ】、【糖尿病及び糖尿病合併症の実態把握】、【糖尿病に対する適切な医療提供体制・医療の質指標】、【各種団体が制定している療養士等制度の調整】の5つのテーマをわけ、研究を推進した。本年度は、令和2年度診療報酬改定における生活習慣病管理料改訂の議論、第7次医療計画中間見直しにおける糖尿病対策評価指標の議論に貢献した。我が国の糖尿病対策の医療政策に資する成果であると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-02-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-02-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201909002B
報告書区分
総合
研究課題名
今後の糖尿病対策と医療提供体制の整備のための研究
課題番号
H29-循環器等-一般-004
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
門脇 孝(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 柏原 直樹(川崎医科大学)
  • 小室 一成(東京大学 医学部附属病院)
  • 小椋 祐一郎(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 大杉 満(国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター)
  • 岡村 智教(慶応義塾大学 医学部)
  • 東 尚弘(国立がん研究センター がん対策情報センターがん登録センター)
  • 岡田 浩一(埼玉医科大学 医学部)
  • 野出 孝一(佐賀大学 医学部)
  • 村田 敏規(信州大学 医学部)
  • 中島 直樹(九州大学病院)
  • 菊池 透(埼玉医科大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は健康日本21(第二次)に定められた主要な生活習慣病の1つであり、生活習慣病の重症化予防のために大規模データを利用する取り組みや、糖尿病の重症化予防事業などの好事例を横展開することは健康・医療戦略(平成29年)でも重視されている。5疾病・5事業及び在宅医療の医療供給体制のなかでも糖尿病は重点疾患として扱われており、今後は特に発症予防・重症化予防に重点をおいて事業が継続させる見込みである。今までも糖尿病対策事業や疫学研究などは行われてきたが、俯瞰できる形で糖尿病対策について整理されていないのが現状である。そこで、本研究では既存の糖尿病対策事業・研究のとりまとめ、糖尿病及び合併症の実態把握。糖尿病診療・医療体制の現状把握、各種療養指導士制度の連携体制の検討等を行った上で、抽出された課題の解決法の提示、関係学会間の連携促進、療養指導士制度の連携に対する提言などを行うことを目的とする。各テーマは密接に関係しており、一体感を持って研究を進めることで、最終的には主に以下の成果が得られた。
研究方法
【糖尿病関連のガイドラインの比較検討と学会横断的な診療手引き作成】、【既存の糖尿病対策事業・研究事業の成果のとりまとめ】、【糖尿病及び糖尿病合併症の実態把握】、【糖尿病に対する適切な医療提供体制・医療の質指標】、【各種団体が制定している療養士等制度の調整】の5つのテーマにわけ、研究を推進した。3年間で全体班会議6回、各学会から推薦された実務担当者との会議10回、ICD-11に関する打ち合わせ、日本循環器学会/日本糖尿病学会合同ステートメント会議へのオブザーバー参加5回、都道府県・市役所の糖尿病対策行政官へのヒアリング5回、47都道府県への糖尿病対策についてのアンケート調査、医政局直轄の厚労科研・今村班と協議5回、各療養指導士等制度の関係者が参加した療養指導士等制度連携会議3回、同実務担当者が参加した療養指導士等制度ワーキンググループ1回、を行い、議論を深めた。
結果と考察
【腎疾患対策検討会における、紹介基準作成に貢献】
糖尿病患者が適切な質の医療を受けられるように、かかりつけ医を基盤として、コーディネーター役としての糖尿病科、専門領域としての腎臓内科・循環器内科、全糖尿患者が受診を推奨される眼科といった関係領域間の紹介基準を整備した。“かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準”と“かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準”の作成に貢献し、厚生労働省主催の腎疾患対策検討会にて報告された。
【ICD-11への改訂時における、 DKD(糖尿病性腎臓病)の用語を組み入れることに貢献】
ICD-10から11への改定に際し、“Diabetic Kidney Disease”の用語が正式に組み入れられることに貢献した。 ICD-11は2018年5月に公表され、2019年5月のWHO総会にて承認された。
【第7次医療計画中間見直しにおける、糖尿病対策評価指標としての追加指標に貢献】
第7次医療計画中間見直しにおける糖尿病対策評価の追加指標として、①糖尿病患者の新規下肢切断術の件数、②1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数の2案を厚生労働省健康局へ提言し、医療計画の検討会を通して、正式に承認された。この2案について、NDBデータを用いた算出定義を検討し、実際に算出も行うことで妥当性の検証を行った。
【令和2年度診療報酬改定において生活習慣病管理料の算定要件追加に貢献】
NDBデータを用いた検討にて、わが国の糖尿病患者における眼底検査実施割合が低いことを明らかにし、令和2年度診療報酬改定にて、生活習慣病管理料の算定要件に、糖尿病患者に対する年1回程度の眼科受診を勧める内容が新たに盛り込まれることに貢献した。
【生活習慣病の診療に関わる療養指導士等制度間で連携していくための基盤構築に貢献】
“日本糖尿病療養指導士制度”“高血圧・循環器病予防療養指導士制度”“腎臓病療養指導士制度”“肥満症生活習慣改善指導士制度”の4つの制度で連携協議会を開催し、本研究終了後も連携協議会の形式で連携を継続していくための基盤構築に貢献した。
結論
本研究は、【糖尿病関連のガイドラインの比較検討と学会横断的な診療手引き作成】、【既存の糖尿病対策事業・研究事業の成果のとりまとめ】、【糖尿病及び糖尿病合併症の実態把握】、【糖尿病に対する適切な医療提供体制・医療の質指標】、【各種団体が制定している療養士等制度の調整】の5つのテーマにわけ研究を推進し、“腎疾患対策検討会”“ICD-11への改訂”“第7次医療計画中間見直し”“令和2年度診療報酬改定”などの議論に対して貢献した。我が国の糖尿病対策の医療政策に資する成果であると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-02-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-02-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201909002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
NDB特別抽出データにて、2015年度にHbA1c・グリコアルブミン検査の実施率は全国で約97%、糖尿病網膜症の検査の実施率は全国で約47%であり、尿検査の実施率(200床未満の施設のみ対象)について尿定性検査は全国で約67%、尿蛋白・アルブミン定量検査は約19%であった。また、都道府県及び糖尿病学会の施設認定の有無によって差異があり、指標によっては同一都道府県内や認定教育施設の中においてもばらつきが大きく、更なる診療の質の均てん化が必要であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
糖尿病患者が適切な質の医療を受けられるように、かかりつけ医を基盤として、コーディネーター役としての糖尿病科、専門領域としての腎臓内科・循環器内科、全糖尿患者が受診を推奨される眼科といった関係領域間の紹介基準を整備した。特に“かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準”と“かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準”の作成に貢献し、厚生労働省主催の腎疾患対策検討会にて報告された。これらの紹介基準を通して、糖尿病診療の更なる向上・均てん化が期待される。
ガイドライン等の開発
日本循環器学会と日本糖尿病学会による合同委員会より作成された「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」(2020年3月発行)において、“糖尿病専門医から循環器専門医への紹介基準”“循環器専門医から糖尿病専門医への紹介基準”の作成に貢献した。
その他行政的観点からの成果
2019年4月24日と12月4日の中央社会保険医療協議会総会において、本研究で報告した我が国の糖尿病患者における眼底検査実施割合が低値である資料が活用された。それによって令和2年度診療報酬改定において生活習慣病管理料の算定要件として、糖尿病患者に対する年1回程度の眼科受診を勧める内容が新たに盛り込まれたことに貢献した。
第7次医療計画中間見直しにおける糖尿病対策評価指標として、糖尿病患者の新規下肢切断術の件数、1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数、の2案が追加されることに貢献した。
その他のインパクト
NDB研究による糖尿病診療の質指標に関する研究結果について、2019年7月25日に記者説明会を開催し、プレスリリースを行い、糖尿病網膜症に対する検査実施割合が5割以下であることが7月31日の読売新聞の第二社会面にも掲載され、その他メディアにも取り上げられた。
ICD-10から11への改定に際し、“Diabetic Kidney Disease”の用語が正式に組み入れられることに貢献した。 ICD-11は2018年5月に公表され、2019年5月のWHO総会にて承認された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
(1)Tanaka H, et al. (2) Sugiyama T, et al.
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
14件
(1-9)第61回・62回糖尿病学会、(10)第24回日本糖尿病眼学会、(11-12)第77回公衆衛生学会、(13)第19回日本医療情報学会、(14)第53回日本小児内分泌学会
学会発表(国際学会等)
2件
(1-2) 45th Annual Conference of the International Society for Pediatric and Adolescent Diabetes.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
(1)令和2年度診療報酬改定での生活習慣病管理料への算定要件の追加、(2)第7次医療計画中間見直しでの糖尿病対策指標の追加、(3)ICD-11へのDKD(糖尿病性腎臓病)の用語の組み入れ
その他成果(普及・啓発活動)
1件
厚生労働省主催の腎疾患対策検討会での、 “かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準”と“かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準”の報告。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka H, et al.
Changes in the quality of diabetes care in Japan between 2007 and 2015: A repeated cross-sectional study using claims data.
Diabetes Res Clin Pract  (2019)
10.1016/j.diabres.2019.02.001.
原著論文2
Sugiyama T, et al.
Variation in process quality measures of diabetes care by region and institution in Japan during 2015-2016: an observational study of nationwide claims data
Diabetes Res Clin Pract  (2019)
10.1016/j.diabres.2019.05.029.

公開日・更新日

公開日
2021-02-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
201909002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,100,000円
(2)補助金確定額
14,100,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,391,874円
人件費・謝金 2,264,462円
旅費 2,216,622円
その他 2,918,843円
間接経費 2,310,000円
合計 14,101,801円

備考

備考
自己資本1801円

公開日・更新日

公開日
2021-05-18
更新日
-