文献情報
文献番号
201908049A
報告書区分
総括
研究課題名
小児がん患者に対する在宅医療の実態とあり方に関する研究
課題番号
19EA1014
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
大隅 朋生(国立成育医療研究センター小児がんセンター血液腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
- 松本 公一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター・小児がんセンター・小児がんセンター長)
- 余谷 暢之(国立研究開発法人国立成育医療研究センター・総合診療部緩和ケア科/小児がんセンターがん緩和ケア科・診療部長)
- 中村 知夫(国立研究開発法人国立成育医療研究センター・総合診療部 在宅診療科・部長)
- 前田 浩利(医療法人財団はるたか会・医局・理事長)
- 紅谷 浩之(オレンジホームケアクリニック・理事長)
- 長 祐子(松川 祐子)(北海道大学病院・小児科 血液腫瘍チーム、緩和ケアチーム・助教)
- 荒川 歩(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院・小児腫瘍科・医員)
- 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター・血液・腫瘍科・部長)
- 横須賀 とも子(地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター・血液・腫瘍科・医長)
- 倉田 敬(地方独立行政法人長野県立病院機構長野県立こども病院・血液腫瘍科・副部長)
- 岩本 彰太郎(国立大学法人三重大学医学部附属病院・小児トータルケアセンター・准教授)
- 高橋 義行(国立大学法人 名古屋大学・大学院医学系研究科小児科・教授)
- 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター・緩和医療課・部長)
- 古賀 友紀(国立大学法人九州大学・医学研究院・准教授)
- 岡本 康裕(鹿児島大学・小児科・准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
小児がんが治癒困難となったとき、こどもが最後の時間を住み慣れた自宅で過ごしたいという思いをもつことは想像に難くない。そして“生ききる”場所として在宅療養を希望する場合に、在宅医療のニーズが生じる。しかしながら現在、小児がん終末期に最後まで自宅で過ごすことができるケースは限られている。
その大きな要因として成長発達段階にある小児特有の問題に加え、終末期まで高度な医療ケアが継続されることが多く、成人対象の在宅医療の枠組みだけでは対応が難しい場面があること、治療方針決定の責任を持つ保護者と患者であるこどもとの間に生じる意思のギャップや、医療者がこどもと家族に対して余命や予後などの情報を提供する際に抱く葛藤など、様々な困難が存在する。こうした様々な要因が在宅移行の提案を難しくし、在宅医療を展開する障壁となっている。しかしこどもと家族の意志を尊重し、“生ききる”権利を担保するためには、限られた時間を過ごす場所の選択肢が適切なタイミングで公平に提示される必要があり、そのための医療体制の整備が求められている。
本研究では、小児がんの在宅医療を含む終末期医療に関する現状調査を通じて、小児がん在宅診療が発展していくために乗り越えるべき課題を明確にし、その解決につながる施策提案につなげることを目的とする。
その大きな要因として成長発達段階にある小児特有の問題に加え、終末期まで高度な医療ケアが継続されることが多く、成人対象の在宅医療の枠組みだけでは対応が難しい場面があること、治療方針決定の責任を持つ保護者と患者であるこどもとの間に生じる意思のギャップや、医療者がこどもと家族に対して余命や予後などの情報を提供する際に抱く葛藤など、様々な困難が存在する。こうした様々な要因が在宅移行の提案を難しくし、在宅医療を展開する障壁となっている。しかしこどもと家族の意志を尊重し、“生ききる”権利を担保するためには、限られた時間を過ごす場所の選択肢が適切なタイミングで公平に提示される必要があり、そのための医療体制の整備が求められている。
本研究では、小児がんの在宅医療を含む終末期医療に関する現状調査を通じて、小児がん在宅診療が発展していくために乗り越えるべき課題を明確にし、その解決につながる施策提案につなげることを目的とする。
研究方法
1. 現状の共有および好事例の検討
分担施設からさまざまな地域での小児がん在宅医療の取り組みを共有する。分担各施設は、小児がんの終末期在宅医療を工夫して実践しており、それぞれの施設における好事例を収集する。
2. 調査研究
第一に小児がん終末期の現状を把握するための調査研究を実施する。当初計画していた死亡場所や実際の医療行為を収集する調査では、終末期にどのようなプロセスで療養場所が決まっているかを明らかにすることはできないという議論のもと、症例ごとにより詳細な意思決定に関わる因子を抽出できる調査票を新たに作成し、小児がん終末期医療の真の実態を明らかにすることをめざす。また、小児がん在宅医療の実際の障壁について、広く情報を収集するための無記名アンケート調査も並行して実施する。
さらに各施設の現状共有から得られた小児がん在宅医療の課題とそれを克服するための方法について検討する。
A 遺族調査
成育医療研究開発費余谷班(代表余谷暢之)との共同研究として記名式アンケートを実施する。それにより遺族からみたケアの構造・プロセス・アウトカムの実態が明らかにし、よりよい医療・ケアを提供する基礎データを得ることをめざす。
B 遺族インタビュー
実際に在宅で亡くなったこどもの遺族からインタビューを行い、とくに家族向けのブックレットに掲載することでこれから在宅医療を検討するこどもと家族によって有用な情報を収集する。
C 社会資源の共有
各地域において小児がん在宅医療に利用可能なリソースはさまざまである。小児がん終末期は疾患の性質上状態の変化が非常に速いため、医学的に逼迫した状況下で病診連携を開始する必要がある。病院側では連携可能な在宅診療所などの情報をなるべく早く収集する必要が生じる。そこで、各病院が持っている各地域で利用可能な社会資源を他の地域からも閲覧可能なシステムをめざす。
D 在宅輸血
小児がん在宅医療に際して、とくに小児に多い造血器腫瘍の終末期の場面では輸血需要が高い状況であることが多く、在宅での輸血実施が困難であることが、在宅医療の提案を難しくしている現状が見られる。そのため在宅輸血の適応、安全な実施方法、問題点を明らかとするための検討を行う。
E 病院と家以外の選択肢
在宅療養の希望があっても、医学的もしくは地理的などの社会的要因により、その希望が叶えられないことはあり得る。成人の場合には、ホスピスおよび緩和ケア病棟が選択肢となるが、小児では終末期に対応できる緩和ケア病棟は非常に限られているのが現状である。そのような状況のなかで、病院や家以外に家族が小児がんのこどもと過ごすことができる施設や設備に関する情報を共有する。
以上の得られた調査結果や知見に基づいて、小児がん診療に関わる医療者へのガイド、小児がん終末期のこどもと家族への在宅医療に関わるブックレットなどの作成をめざす。
分担施設からさまざまな地域での小児がん在宅医療の取り組みを共有する。分担各施設は、小児がんの終末期在宅医療を工夫して実践しており、それぞれの施設における好事例を収集する。
2. 調査研究
第一に小児がん終末期の現状を把握するための調査研究を実施する。当初計画していた死亡場所や実際の医療行為を収集する調査では、終末期にどのようなプロセスで療養場所が決まっているかを明らかにすることはできないという議論のもと、症例ごとにより詳細な意思決定に関わる因子を抽出できる調査票を新たに作成し、小児がん終末期医療の真の実態を明らかにすることをめざす。また、小児がん在宅医療の実際の障壁について、広く情報を収集するための無記名アンケート調査も並行して実施する。
さらに各施設の現状共有から得られた小児がん在宅医療の課題とそれを克服するための方法について検討する。
A 遺族調査
成育医療研究開発費余谷班(代表余谷暢之)との共同研究として記名式アンケートを実施する。それにより遺族からみたケアの構造・プロセス・アウトカムの実態が明らかにし、よりよい医療・ケアを提供する基礎データを得ることをめざす。
B 遺族インタビュー
実際に在宅で亡くなったこどもの遺族からインタビューを行い、とくに家族向けのブックレットに掲載することでこれから在宅医療を検討するこどもと家族によって有用な情報を収集する。
C 社会資源の共有
各地域において小児がん在宅医療に利用可能なリソースはさまざまである。小児がん終末期は疾患の性質上状態の変化が非常に速いため、医学的に逼迫した状況下で病診連携を開始する必要がある。病院側では連携可能な在宅診療所などの情報をなるべく早く収集する必要が生じる。そこで、各病院が持っている各地域で利用可能な社会資源を他の地域からも閲覧可能なシステムをめざす。
D 在宅輸血
小児がん在宅医療に際して、とくに小児に多い造血器腫瘍の終末期の場面では輸血需要が高い状況であることが多く、在宅での輸血実施が困難であることが、在宅医療の提案を難しくしている現状が見られる。そのため在宅輸血の適応、安全な実施方法、問題点を明らかとするための検討を行う。
E 病院と家以外の選択肢
在宅療養の希望があっても、医学的もしくは地理的などの社会的要因により、その希望が叶えられないことはあり得る。成人の場合には、ホスピスおよび緩和ケア病棟が選択肢となるが、小児では終末期に対応できる緩和ケア病棟は非常に限られているのが現状である。そのような状況のなかで、病院や家以外に家族が小児がんのこどもと過ごすことができる施設や設備に関する情報を共有する。
以上の得られた調査結果や知見に基づいて、小児がん診療に関わる医療者へのガイド、小児がん終末期のこどもと家族への在宅医療に関わるブックレットなどの作成をめざす。
結果と考察
本研究においては小児がんという希少かつ難治性疾患に対する終末期医療の提供場所として、全国どこにいても「自宅」という選択肢を提示することが可能となることをめざして、小児がん終末期在宅医療の現状把握と今後の課題抽出を行ってきた。2020年度で詳細な実態把握と課題克服のための施策提案につなげていく。
結論
研究開始から実質5か月間で、本格的な調査実施の準備が進んだと考えている。2020年度で成果物をまとめることができるように各研究を進めていく。
公開日・更新日
公開日
2020-09-09
更新日
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