健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800732A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立健康栄養研究所健康増進部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田邦夫(大阪ガス株式会社健康管理センタ-)
  • 前田清(あいち健康の森健康科学総合センタ-健康開発館指導第1課)
  • 衞藤隆(東京大学大学院教育学研究科身体教育学講座)
  • 石川和子(国立健康・栄養研究所健康増進部)
  • 内藤義彦(大阪府立成人病センタ-集団検診第1部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的はコホ-トデ-タを用いて、身体活動の効果を、疾病の発症と進行の予防、高齢者の自立から医療経済までの一連のプロセスとして捕える事である。初年度は身体活動の高血圧発症に対する抑制効果、高血圧の運動療法の効果、身体活動と肥満、血圧、脂質との関係、身体活動と骨密度との関係、高齢者における身体活動とQOLの改善を検討した。
研究方法
各研究者の継続しているコホ-トデ-タをretrospectiveに整備し、身体活動と臨床検査値、疾病の発症、高齢者のQOLとの関係を検討した。対象者は介入研究109名、職域の観察研究11,000名、高齢者約1,000名、骨粗鬆症検診受診者1,500名である。
結果と考察
太田は109名の運動指導のデ-タをもとに、高血圧の運動指導に伴う改善に対する、性・年齢の影響について検討した。その結果、1)、フィットネスクラブで行われた多様な運動の組み合わせにより対象者の血圧は-10~16/-5~14mmHgと、臨床的に有意に低下した。2)運動プログラムの開始後4週め、8週めでは50-69歳群の血圧の低下(-10/-5~-6mmHg)は30-49歳群(-15~-16/-11~-14mmHg)より小さかった。3)性差が運動による高血圧者の血圧低下に及ぼ影響は見られなかった。また、健康成人832名を対象にして日本人の30~60代の体力の基準値について標準値を策定した。測定した最高酸素摂取量、VT、脚伸展パワーの標準値はある程度日本人の平均的な集団の値を示す可能性が高く、一般日本人の体力の評価基準として地域や職域で使用する上で、妥当かつ有用と考えられた。
石川は身体活動が高血圧の発症に与える影響を検討するために、従業員10,000人の現業系企業を対象に約3年間のコホート研究により検討した。観察期間中、継続して運動を実施していた者では高血圧の発症が低かった。また、肥満の継続や新規の肥満は高血圧の発症を高くした。
岡田はO社の健康管理に関するデ-タベ-スを維持し、約1万人の16年間の観察デ-タをもとに、生活習慣と高血圧の発症について発表した。その結果、少なくとも週1回以上の運動習慣と休日の運動習慣が高血圧発症の予防に有効である事に加え、穏やかな身体活動、特に通勤時の歩行が高血圧発症に独立した予防的な効果を有する事が明かとなった。
前田は高齢者の運動習慣と健康状態、主観的健康感等との関連を経時的に検討した。対象は63-83歳の男女958人で、生活習慣等に関するアンケート調査を3年間隔で2度実施した。5つの日常身体活動習慣は前期高齢者では大きな変化はなく、後期高齢者で減少する傾向を示した。健康状態や主観的健康感が改善した群はより多くの運動習慣を実践しており、悪化した群では実践数は少なかった。
衛藤は学校における健康管理や健康づくりについて、文献的研究を行った。また、その結果、子供の体力・運動能力に身体活動が及ぼす効果は、あまり大きいものではないように思われた。しかし、小児期から成人後まで継続的に調べた研究は限られており、小児期の身体活動が成人後の体力・運動能力に及ぼす効果については明かにされなかった。
石川は10代~60代の女性約1500名における骨密度と身体活動との関連について骨代謝を考慮して検討した。その結果、出産経験及び閉経の有無あるいはその後の経過時期により、身体活動の骨量に対する影響が異なる可能性が示された。女子高校生では現在の日常の歩行、運動習慣と過去の運動習慣が骨密度に関係していた。
内藤は都市の勤労者男性約1,000名の約10年間に及ぶ縦断研究を行い、身体活動状況の変化と健康診断の検査所見の変化との間に、他の要因とは独立した有意な関連があることを明らかにした。
結論
健康づくりにおける身体活動の重要性は広く認められているが、その基礎となる
科学的な知見は未だ十分に得られていない。本研究はコホ-トデ-タを用いて、身
体活動の効果を、疾病の発症と進行の予防、高齢者の自立から医療経済までの一連
のプロセスについて検討することを目的とした。
初年度の結果は1)身体活動の高血圧発症に対する抑制効果、2)高血圧の運動
療法の効果、3)身体活動と肥満、血圧、脂質との関係、4)身体活動と骨密度と
の関係、5)女子高校生における身体活動の重要性、6)高齢者における身体活動の
実践とQOLの改善を示した。これらの結果は各種生活習慣病の予防・改善と高齢
者のQOL改善における身体活動の重要性を示した。
一方、これらの効果は日常生活活動を余暇としての運動の両者で認められた。こ
の所見は身体活動が日常生活活動として行われても、余暇の運動として行われても
有効である事を示した。

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