文献情報
文献番号
201908036A
報告書区分
総括
研究課題名
次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンスの改訂のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
19EA1001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
土原 一哉(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター トランスレーショナルインフォマティクス分野)
研究分担者(所属機関)
- 油谷 浩幸(東京大学 先端科学技術研究センター)
- 天野 虎次(北海道大学 大学病院臨床研究開発センター)
- 池田 貞勝(東京医科歯科大学 腫瘍センター)
- 大瀬戸 久美子(東京大学 医学部附属病院ゲノム診療部)
- 織田 克利(東京大学 大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻産婦人科学講座)
- 加藤 元博(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 移植・細胞治療科)
- 金井 雅史(京都大学 医学研究科 臨床腫瘍薬理学・緩和医療学講座)
- 清田 尚臣(神戸大学 医学部附属病院 腫瘍センター)
- 高阪 真路(国立がん研究センター研究所 細胞情報学分野)
- 小峰 啓吾(東北大学病院 腫瘍内科)
- 角南 久仁子(関原 久仁子)(国立がん研究センター中央病院 臨床検査科)
- 武田 真幸(近畿大学 医学部内科学腫瘍内科部門)
- 豊岡 伸一(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学)
- 内藤 陽一(国立がん研究センター東病院 先端医療科/乳腺・腫瘍内科)
- 夏目 敦至(名古屋大学大学院 医学系研究科 脳神経外科学)
- 西尾 和人(近畿大学 医学部ゲノム生物学教室)
- 馬場 英司(九州大学大学院 医学研究院 九州連携臨床腫瘍学)
- 林田 哲(慶應義塾大学 医学部外科学(一般・消化器))
- 古川 徹(東北大学大学院 医学系研究科 病態病理学分野)
- 松村 到(近畿大学 医学部)
- 三浦 裕司(虎の門病院 臨床腫瘍科)
- 谷内田 真一(大阪大学 医学系研究科・がんゲノム情報学)
- 吉野 孝之(国立がん研究センター東病院 消化管内科)
- 檜山 英三(広島大学 自然科学研究支援開発センター)
- 木下 一郎(北海道大学 大学院医学研究院腫瘍内科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,846,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がんゲノム医療を臨床の現場に普及させるためには、多方面の専門家によって編集された医療従事者むけのガイダンスが有用である。「日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会 次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス第1版」(2017年)以降に実施された遺伝子パネル検査の保険収載、関連する学会等からのガイドライン等を加味し、臨床現場での適応可能性を考慮した改訂版を2019年度末までに発出する。
研究方法
研究分担者(25名)に加え7名の研究協力者を招請し、策定ワーキンググループ(WG)を構成した。中立の立場から改訂案を評価するため、学会が推薦する8名の委員による外部評価を実施した。WGメンバーおよび外部評価委員の利益相反を日本臨床腫瘍学会利益相反管理委員会が審査した。2回の全体班会議で改訂項目を定め、WGメンバーによる調査、執筆、クリニカルクエスチョンの推奨度の決定を行った。外部評価、パブリックコメントの結果を参考に最終版を確定させ、各学会の理事会で承認後2020年3月に改訂版を公表した。
結果と考察
改訂版の構成を保険収載されたがん遺伝子パネル検査に関する解説(総論)と、実地診療で特に問題となる点(CQ)への推奨からなる二部構成とした。主なCQと推奨(推奨度はいずれもExpert consensus opinion)は以下の通り。
CQ2 固形がん患者に対してがんゲノムプロファイリング検査を行うことは予後を改善するために勧められるか
推奨:がんゲノムプロファイリング検査を行うことが予後を改善するかどうかについては明らかではないが、症例や検査時期を選択して行うことで予後を改善できる可能性がある。
CQ4 エキスパートパネルの必要要件は何か
推奨:厚生労働省「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備に関する指針」に定められた要件を順守することが勧められる。必要な職種のうち臨床遺伝、遺伝カウンセリング、バイオインフォマティクスの専門家は、常勤でない場合綿密な連携がとれる体制を構築することを推奨する。
CQ5 がんゲノムプロファイリング検査はどのような患者に行うべきか
推奨:がんゲノムプロファイリングをどのような患者について行うべきかについては明らかではない。今後の検討課題である。がんゲノムプロファイリングの後に考慮される治療は治験等の試験的な薬物療法が主に想定される。それ以外の適応外使用が考慮される場合も含め、検査後の全身状態及び臓器機能が薬物療法に耐えられることを予想した患者選択を行うべきである。
CQ6 がんゲノムプロファイリング検査はいつ行うべきか
推奨:治療ラインのみでがんゲノムプロファイリング検査を行う時期を限定せず、その後の治療計画を考慮して最適なタイミングを検討することを推奨する。
CQ11 がんゲノムプロファイリング検査の結果説明に際して必要な事項は何か
推奨:結果に基づく適した治療法の有無とその実施可能性、さらには二次的所見の有無とその対処法について、患者および家族の心情やプライバシーに十分に配慮して説明することを推奨する。
CQ12 エキスパートパネルによる検討はいつ行うべきか
推奨:
1. がんゲノムプロファイリング検査として、「がんゲノムプロファイリング検査は、標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)で関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者」に対して行われた場合、可及的速やかにエキスパートパネルで結果を議論し、患者へ結果を説明すべきである。
2. 上記以外の場合において、がんゲノムプロファイリング検査結果が得られている場合についても、可及的速やかにエキスパートパネルで結果を議論すべきである。結果の説明のタイミングについてもエキスパートパネルで検討の上、個別の対応が推奨される。
外部評価では、全体評価は概ね高評価であり、ガイドラインの使用に対する推奨については、「推奨する」が6名、「推奨する(条件付き)」が2名であった。条件付きの理由としては、引き続き情報を収集しつつエビデンスの構築を行うことの必要性があげられた。
パブリックコメントでは、記載整備や情報の更新が必要な部分の指摘に加え、現行制度での運用上の課題を指摘するものがあった。
CQ2 固形がん患者に対してがんゲノムプロファイリング検査を行うことは予後を改善するために勧められるか
推奨:がんゲノムプロファイリング検査を行うことが予後を改善するかどうかについては明らかではないが、症例や検査時期を選択して行うことで予後を改善できる可能性がある。
CQ4 エキスパートパネルの必要要件は何か
推奨:厚生労働省「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備に関する指針」に定められた要件を順守することが勧められる。必要な職種のうち臨床遺伝、遺伝カウンセリング、バイオインフォマティクスの専門家は、常勤でない場合綿密な連携がとれる体制を構築することを推奨する。
CQ5 がんゲノムプロファイリング検査はどのような患者に行うべきか
推奨:がんゲノムプロファイリングをどのような患者について行うべきかについては明らかではない。今後の検討課題である。がんゲノムプロファイリングの後に考慮される治療は治験等の試験的な薬物療法が主に想定される。それ以外の適応外使用が考慮される場合も含め、検査後の全身状態及び臓器機能が薬物療法に耐えられることを予想した患者選択を行うべきである。
CQ6 がんゲノムプロファイリング検査はいつ行うべきか
推奨:治療ラインのみでがんゲノムプロファイリング検査を行う時期を限定せず、その後の治療計画を考慮して最適なタイミングを検討することを推奨する。
CQ11 がんゲノムプロファイリング検査の結果説明に際して必要な事項は何か
推奨:結果に基づく適した治療法の有無とその実施可能性、さらには二次的所見の有無とその対処法について、患者および家族の心情やプライバシーに十分に配慮して説明することを推奨する。
CQ12 エキスパートパネルによる検討はいつ行うべきか
推奨:
1. がんゲノムプロファイリング検査として、「がんゲノムプロファイリング検査は、標準治療がない固形がん患者又は局所進行若しくは転移が認められ標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)で関連学会の化学療法に関するガイドライン等に基づき、全身状態及び臓器機能等から、本検査施行後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した者」に対して行われた場合、可及的速やかにエキスパートパネルで結果を議論し、患者へ結果を説明すべきである。
2. 上記以外の場合において、がんゲノムプロファイリング検査結果が得られている場合についても、可及的速やかにエキスパートパネルで結果を議論すべきである。結果の説明のタイミングについてもエキスパートパネルで検討の上、個別の対応が推奨される。
外部評価では、全体評価は概ね高評価であり、ガイドラインの使用に対する推奨については、「推奨する」が6名、「推奨する(条件付き)」が2名であった。条件付きの理由としては、引き続き情報を収集しつつエビデンスの構築を行うことの必要性があげられた。
パブリックコメントでは、記載整備や情報の更新が必要な部分の指摘に加え、現行制度での運用上の課題を指摘するものがあった。
結論
研究により得られた成果の今後の活用・提供:完成したガイダンスを3学会ウェブサイトより一般に公開した。改訂版ががん医療中核拠点病院をはじめとするがんゲノム医療の実施施設において広く正体上の指針として活用されることを期待している。今後のがんゲノム医療の進展に合わせ継続的な見直しも必要である。
公開日・更新日
公開日
2021-05-27
更新日
2021-06-02