健康日本21における食生活習慣の目標設定に関する研究

文献情報

文献番号
199800730A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21における食生活習慣の目標設定に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
近藤 和雄(国立健康・栄養研究)
研究分担者(所属機関)
  • 吉池信男(国立健康・栄養研究所)
  • 水嶋春朔(横浜市立大学医学部)
  • 足立香代子(東京船員保険病)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康日本21の食生活、栄養に関する目標設定のため、まず、国民自らが“食生活"“栄養"
をどのようにとらえ、それに関して何を求めているかを個人別の栄養摂取量データが得られて
いる1996年の国民栄養調査のデータを用いて、一般成人における食事の自己評価と改善に関
する意識と、食生活、喫煙、飲
酒、運動などの生活習慣、栄養素摂取量、身体状況などの関連について検討を加えた。
次いで、21世紀に国民が健康な日常生活を送るために必要とされる食生活習慣・目標の設定
に対する論理的、科学的の検討を目的として、脂肪摂取量、食塩摂取量、抗酸化物摂取量に関
して食生活の目標値を客観的な根拠をもとにして文献学的検討を行う。
さらには、こうした食生活習慣を守らせる栄養指導により、疾病を予防することによって、
現在日本で大きな問題となっている医療費の削減をどの程度行えるかの検討を行った。
研究方法
1) 国民栄養調査のデータの解析
1996年に実施された国民栄養調査の磁気テープ上のデータセットから、個人別データファ
イルを用いた。なお、磁気テープの使用にあたっては、事前に厚生省保健医療局健康栄養課生
活習慣病対策室の承認を得た。
当該年に国民栄養調査を受けた20歳以上の者は10,865名(男性5,051名、女性5,814名)
であった。そのうち、「食生活状況調査」を受けた者10,772名(男性4,994名、女性5,778名)
を解析対象とした。なお、身体測定(身長、体重)については、そのうち9,287名(86.2%)、
血圧については7,134名(66.2%)、歩数については9,653名(89.6%)、血液検査については、
30歳以上の者5,652名(62.5%)のデータを用いて解析を行った。
2) 栄養摂取量の検討
脂肪摂取量及び脂肪酸比率の生活習慣病、特にヒトの動脈硬化性疾患に及ぼす影響に関する
主要な文献、及びナトリウムと生活習慣病に関する主要な文献をMedline及び主要雑誌のなか
から収集した。また、動脈硬化疾患や脂肪摂取量に関する専門家に照合し、最近の知見を含め
て検討した。
3) 栄養指導における費用効果率の検討
対象は平成8年の1年間外来にて、高脂血症の治療を3ヶ月以上行った例とした。食事療法
を第一選択肢とした栄養療法群(N群)83人と心疾患と癌・入院歴のない患者をランダムに選
択した薬物療法群(D群)20人、さらに指導時に薬物療法が併用された栄養薬物療法併用群(N
-D群)17人とした(表1)。対象をTC>220mg/dlの高TC例102人とTG>150mg/dlの高TG
例71人に分類し、さらに高TC例は、治療前のTCが<260mg/dlと≧260mg/dlの別にも検討
した。また、年齢・性別でも併せてみた。
結果と考察
研究結果及び考察=1) 国民栄養調査のデータの解析
成人男性の18%、女性の23%が、“自己の食生活に問題があると考え、かつそれを改善した
いと思っている"と推定された。これは、国民の約2千万人に相当し、これらの“食生活改善"
に関して強いニーズをもつ者に対して、行政的、制度的な支援が必要と考えられた。
“自己の食生活に問題があると考え、かつそれを改善したいと思っている"者は、田の者と
比較して、「友人、同僚の理解・協力」(男性のみ)、「宅配やボランティア等による食事サービ
ス」(女性のみ)、「家族の協力」、「経済的なゆとり」、「栄養士など専門家のアドバイス」、「栄養
情報サービスの整備」、「ビタミン剤や健康食品の普及」、「勤務形態などの労働条件の整備」、
「市販食品や外食の栄養価の表示」、飲食店でのバランスのとれたメニューの提供」が“食事改
善"に必要であると強く考えている傾向にあった。そのうち、「栄養士など専門家のアドバイス」、
「栄養情報サービスの整備」、「市販食品や外食の栄養価の表示」といった“情報、教育"に関
するニーズが約20~25%、「飲食店でのバランスのとれたメニューの提供」を挙げた者は、特
に男性では20%を超えていた。また、60歳未満の男性では、30%以上の者が「勤労形態など労
働条件の整備を挙げていた。
“食事に問題がある"と考える背景としては、男性では、「外食」、「欠食」との関連が強く、
女性では「調理済み食品やインスタント食品の利用」が重要な因子と考えられた。また男女共
に、食事や睡眠などの生活時間の乱れや、“量"、“質"ともに適当でない食事摂取が、背景とし
て大きな位置を占めるものと考えられた。
自己評価により食事が“問題あり"とした者では、“問題なし"とした者と比較して、ほと
んどの栄養素の摂取量が低かった。すなわち、栄養素の過剰摂取というよりも、欠食、外食、
加工食品やインスタント食品の利用頻度が多く、食事を含めた生活時間が不規則なために、「多
様な食品」を「適当な量」摂取できていないことが予想される。
自己評価により食事が“問題あり"とした者では、“問題なし"とした者と比較して、女性
では、BMI、血清総コレステロールが高かったが、その他身体状況には統計学的に有意の差は
認められなかった。
以上より、「健康日本21」における栄養・食生活領域での獣医雨天項目として、“環境レベル"
で、①地域、職域における栄養士の適切な配置と、質、量ともに十分な栄養教育の提供、②市
販食品や外食の栄養価表示の充実、③飲食店での減塩、低脂肪など“ヘルシーメニュー"の提
供、④職域における食も含めた生活習慣改善サポート体制の確立、があげられる。一方、“個人
の行動レベル"では、①バラエティーに富んだ食品を、適量摂取する習慣の獲得、②外食、加
工食品やインスタント食品の利用方法に関する正しい知識、技術の普及、③食事を中心とした
生活時間の乱れの是正、が考えられた。
2) 栄養摂取量の検討
脂肪摂取量に関して,第5次改定栄養所要量で示した脂肪エネルギー比率20~25%,P:M:
S=1:1.5:1,n-6/n-3=4を多くの報告は支持していたが,脂肪エネルギー比の上限値25~27%,
下限値15~20%は報告が少なく,今後の検討課題であることが判明した。
また、抗酸化物に関しては抗酸化ビタミン以外のポリフェノールなど,抗酸化物の摂取の重
要性が動脈硬化予防のためには重要であることが明らかになったが,量に関しては今後の課題
であることも明らかになった。
約200万年の人類史からみると、8~15g/日と食塩を大量に摂取するようになったのは製塩法が進歩
するようになった近代(約400年間)であり、それ以前は未開民族のように木の芽、果物、穀類、魚貝類、
肉類などを摂取していたのであり、これら自然食は細胞成分のためカリウムは豊富であるが、食塩はもと
もと0.5~3g/日しか摂取できなかったのである。200万年を24時間に換算すると400年は17秒に相
当し、この僅かな期間に食塩を6~9倍、カリウムを約1/3ほどしか摂取しなくなってしまったことになる。
このような意味では人類の生理的食塩摂取量は1~3g/日としてもよいと思われるが、現在文明国では
ほとんどの加工食品に食塩が添加されており、8~15g/日が日常生活では習慣的に摂取されているた
め3g/日以下に制限するのは困難である。
また成人において急激にこのようなレベルまで制限することは循環血液量の減少、交感神経系やレニ
ン・アルドステロン系の亢進、血中脂質(LDLコレステロールや中性脂肪)の上昇、インスリン抵抗性の
悪化、さらには心血管系疾患発症の誘引になることなどが懸念されている。
日本全体の食塩摂取量の平均値を国内で最も食塩摂取量の少ない地域の摂取量平均(11g)に達す
ることを第一段階の目標とし、第二段階の目標値としてさらに3g少ない8gを設定することの根拠と実
現可能性を検討した。
3) 栄養指導における費用効果率の検討
費用-効果は高TC例では低下者割合がN群・D群・N-D群の順に少なく、1人当りの年間
費用がN群で顕著に少ないことから、費用-効果費はN群ではN-D群・D群より14~16万円
少ない費用でTC≧10%低下者を1%得ることができた。したがって、N群では年間10,000円
当りで得られる効果者の割合がもっとも多く、効果者を1%作るための費用は少なかった。低
下者割合が同程度であったことから、費用の少ない栄養指導の効果を確認した後に薬物療法を
行うのが望ましいと考えられた。
結論
国民栄養調査のデータの解析から成人男性の18%、女性の23%が食生活に問題ありと考え、
栄養士など専門家のアドバイス、栄養情報サービスの整備、市販食品や外食の栄養評価の表示
といった情報教育に関するニーズが高率に求められていることが明らかになった。
食生活から生活習慣病を防ぐための目標設定の一環として脂肪摂取量、抗酸化物摂取量、食
塩摂取量についての文献学的検討を行い、脂肪摂取量は第5次改定栄養所要量で示した脂肪エネ
ルギー比率20~25%、P:M:S=1:1.5:1、n-6/n-3=4の数値が妥当であることが明らかになっ
た。
食塩摂取量については、第一目標としての11g、第二目標としての8gの妥当性の検討を行っ
た。
栄養指導の費用効果率の検討では、薬物療法に比べて栄養指導で年間において14~16万円
少ない費用で、10%以上TCを低下させることが明らかになった。

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