環境要因・遺伝要因との統合解析による肺がん罹患リスクの検証と能動・受動喫煙に関する行動変容に資するエビデンスの構築

文献情報

文献番号
201908024A
報告書区分
総括
研究課題名
環境要因・遺伝要因との統合解析による肺がん罹患リスクの検証と能動・受動喫煙に関する行動変容に資するエビデンスの構築
課題番号
H29-がん対策-一般-025
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
河野 隆志(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 白石航也(国立研究開発法人国立がん研究センター研究所・ゲノム生物学研究分野)
  • 松尾恵太郎(愛知県がんセンター・研究所・がん予防研究分野)
  • 伊藤秀美(愛知県がんセンター・研究所・がん情報・対策研究分野)
  • 松田文彦(京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター、分子生物学)
  • 桃沢幸秀(国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センター)
  • 醍醐弥太郎(東京大学医科学研究所附属病院・抗体ワクチンセンター)
  • 島津太一(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター 予防研究部)
  • 片野田耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,028,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺発がんリスクにおいて能動・受動喫煙と相互作用する遺伝子座を検証・同定する。さらに国民に能動・受動喫煙に関する行動変容を促すためのエビデンスを得る。具体的には、①国内のコホート試料等を用いてリスクモデルを構築し、高危険度群における禁煙・受動喫煙回避によるリスク低減の効果を示す。②高危険度群発症者のがんゲノムに蓄積する喫煙関連変異負荷を示すことで、能動・受動喫煙による発がんのエビデンスを生物学的に明確化する。
研究方法
がん組織中で認められる体細胞変異シグネチャーと遺伝素因との関連の検討を行うため、国立がん研究センター中央病院で肺腺がんと診断された約1,500例の受動喫煙の情報を統合した。その内、外科的手術を受けかつ国立がん研究センターバイオバンクにて凍結組織が保存されていた女性非喫煙者肺腺がん症例を133例(10歳代・30歳代に受動喫煙を全く暴露されていない80例と10歳代・30歳代に受動喫煙を毎日暴露した53例)を抽出した。これらの症例に対して全エクソンシークエンスを実施し、特徴的な受動喫煙による体細胞変異シグネチャーが認められるか検証した。 リスクモデリングの構築・評価を行うために、新規・既存の肺腺がん感受性遺伝子座19個を対象に、多目的コホート研究を用いたCase-cohort解析を実施した。
結果と考察
女性非喫煙者肺腺がん症例に対する全エクソンシークエンス解析の結果、統計学的に有意な差は得られていないが、喫煙に関連する体細胞変異シグネチャーの割合や体細胞変異数が受動喫煙暴露群で高い傾向を認めた。 非喫煙者群では元々の体細胞変異数の検出が少ないことから、今後は全ゲノムシークエンス解析を実施し、受動喫煙によるDNA損傷の有無を明確に明らかにする必要がある。
多目的コホート検体を用いたCase-cohort解析により、多くの感受性遺伝子座の再現性が得られた。またコホート検体を4つのグループに分け、19個の遺伝子多型を用いた組み合わせによるリスクを算出したところ、低リスク群と高リスク群を比べたところ、約3倍リスクが高くなることが分かった。
結論
肺腺がんを対象とした全ゲノム関連解析により、新規感受性遺伝子座を同定した。また女性非喫煙者を対象とした全エクソンシークエンス解析により、一部の体細胞変異シグネチャーの割合が受動喫煙非暴露群で高い傾向を認めた。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908024B
報告書区分
総合
研究課題名
環境要因・遺伝要因との統合解析による肺がん罹患リスクの検証と能動・受動喫煙に関する行動変容に資するエビデンスの構築
課題番号
H29-がん対策-一般-025
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
河野 隆志(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 白石航也(国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 ゲノム生物学研究分野)
  • 松尾恵太郎(愛知県がんセンター 研究所 がん予防研究分野)
  • 伊藤秀美(愛知県がんセンター 研究所 がん情報・対策研究分野)
  • 松田文彦(京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センター)
  • 桃沢幸秀(国立研究開発法人理化学研究所 生命医科学研究センター 基盤技術開発研究チーム)
  • 醍醐弥太郎(東京大学医科学研究所附属病院・抗体ワクチンセンター)
  • 島津太一(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究部)
  • 片野田耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺発がんリスクにおいて能動・受動喫煙と相互作用する遺伝子座を検証・同定する。さらに国民に能動・受動喫煙に関する行動変容を促すためのエビデンスを得る。具体的には、①国内のコホート試料等を用いてリスクモデルを構築し、高危険度群における禁煙・受動喫煙回避によるリスク低減の効果を示す。②高危険度群発症者のがんゲノムに蓄積する喫煙関連変異負荷を示すことで、能動・受動喫煙による発がんのエビデンスを生物学的に明確化する。
研究方法
肺腺がんリスクに関わる感受性遺伝子座を同定するため、16,103例の肺腺がん症例と151,656例の非がんコントロールからなる検証研究並びに検出研究を実施した。また肺腺がん・喫煙者・非喫煙者別での関連解析や喫煙量との交互作用について検討した。さらにリスクモデリングの構築・評価を行うために、多目的コホート研究を用いたCase-cohort解析を実施した。
 がん組織中で認められる体細胞変異シグネチャーと遺伝素因との関連の検討を行うため、女性非喫煙者肺腺がん症例を133例(10歳代・30歳代に受動喫煙を全く暴露されていない80例と10歳代・30歳代に受動喫煙を毎日暴露した53例)に対して全エクソンシークエンスを実施し、特徴的な受動喫煙による体細胞変異シグネチャーが認められるか検証した。
結果と考察
各施設(理研/東大、国がんセ、京大/愛知県がんセ)で保有している既存のSNPデータを用いて、16,103例の肺腺がん症例と151,656例の非がんコントロールからなる検証研究並びに検出研究を行ったところ、新規感受性遺伝子座を複数同定した。日本人を対象とした喫煙習慣との相関解析が報告されている7つの感受性遺伝子座について、本研究で用いた症例を対象に喫煙者・非喫煙者別での関連解析結果を確認したが、強い肺腺がんリスクとの関連は認められなかった。
JPHCコホート検体を用いて、同定された肺がん感受性遺伝子座を用いた累積リスク評価を実施した。遺伝子多型を用いたリスク評価を行うため、肺腺がん感受性遺伝子多型として同定した19SNPsを用いて検討を行った。個別SNPsについてハザード比を算出したところ、2 SNPs以外は全ゲノム関連解析で同定された遺伝子多型が発がんリスクと関連を示した。さらに肺腺がんリスクにかかわる19SNPsを用いたリスク評価を行ったところ、19SNPsの内一つのアリルを持つとハザード比として、1.1倍のリスクの上昇に寄与することを明らかとなった。さらに4郡に分けてゲノムデータのみを用いた累積リスク評価を行ったところ、低リスク群に比べて高リスク群で約3倍オッズ比が上昇していた。この結果より、遺伝要因により3倍程度の高リスク群の捕捉が可能であることが明らかとなった。
がん組織中で認められる体細胞変異シグネチャーと遺伝素因との関連の検討を行うため、女性非喫煙者肺腺がん症例を133例(10歳代・30歳代に受動喫煙を全く暴露されていない80例と10歳代・30歳代に受動喫煙を毎日暴露した53例)を抽出した。これらの症例に対して全エクソンシークエンスを実施し、特徴的な受動喫煙による体細胞変異シグネチャーが認められるか検証したところ、体細胞変異数については統計学的に有意な差は認められなかった。但し、60歳以下の女性非喫煙者肺腺がん症例で比較したところ、有意な差は認められなかったが、体細胞変異数が10歳代に受動喫煙を毎日暴露した群で増加していた。
結論
肺腺がんを対象とした全ゲノム関連解析により、新規感受性遺伝子座を同定した。また女性非喫煙者を対象とした全エクソンシークエンス解析により、喫煙に関連する体細胞変異シグネチャーの割合が受動喫煙暴露群で高い傾向を認めた。これらの成果は、肺がん死減少の施策に結びつく基盤となるとともに他の喫煙関連がん種にも応用可能と考えられる。またがん罹患リスクについてのこれまで知見の検証、及びそれらを踏まえた個人の行動や社会環境の改善を目指したがん予防法の開発やがん再発予防に関するエビデンスの構築の基盤的な情報の提供に繋がることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肺がんリスクにかかわる感受性遺伝子を同定した。これらのゲノムデータを元にコホート検体を用いた累積リスク評価系の構築を行い、低リスク群に比べて約3倍の高リスク群を同定した。女性非喫煙者肺腺がん症例の内、受動喫煙を暴露した群としていない群を比べたところ、統計学的な有意差は得られなかったが喫煙による体細胞シグネチャーを曝露群でより認めた。
臨床的観点からの成果
本研究を通して、受動喫煙によるリスク評価につながる基盤的な情報の提供につながった。今後は全ゲノムシークエンス解析を行うことで、より明確に受動喫煙のリスク評価につなげられる可能性が本研究を通して示された。
ガイドライン等の開発
特にありません。
その他行政的観点からの成果
特にありません。
その他のインパクト
特にありません。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishigaki K, Akiyama M, Kanai M et al.
Large-scale genome-wide association study in a Japanese population identifies novel susceptibility loci across different diseases.
Nat Genet. , 52 (7) , 669-679  (2020)
原著論文2
Wong JYY, Zhang H, Shiraishi K et al.
Tuberculosis infection and lung adenocarcinoma: Mendelian randomization and pathway analysis of genome-wide association study data from never-smoking Asian women.
Genomics , 112 (2) , 1223-1232  (2020)
原著論文3
Yang JJ, Yu D, Shu XO et al.
Quantifying the association of low-intensity and late initiation of tobacco smoking with total and cause-specific mortality in Asia.
Tob Control.  (2020)
原著論文4
Brhane Y, Yang P, Christiani DC et al.
Genetic determinants of lung cancer prognosis in never smokers: A pooled analysis in the International Lung Cancer Consortium.
Epidemiol Biomarkers Prev.  (2020)
原著論文5
Shimatani K, Ito H, Matsuo K et al.
Estimation of lifetime cumulative mortality risk of lung cancer by smoking status in Japan.
Jpn J Clin Oncol.  (2020)
原著論文6
Hori M, Saito E, Katanoda K et al.
Estimation of lifetime cumulative mortality risk of lung cancer by smoking status in Japan.
Jpn J Clin Oncol.  (2020)
原著論文7
Shepshelovich D, Xu W, Lu L et al.
Body Mass Index (BMI), BMI Change, and Overall Survival in Patients With SCLC and NSCLC: A Pooled Analysis of the International Lung Cancer Consortium.
J Thorac Oncol. , 14 (9) , 1594-1607  (2019)
原著論文8
Yang JJ, Yu D, Wen W et al.
Tobacco Smoking and Mortality in Asia: A Pooled Meta-analysis.
JAMA Netw Open. , 2 (3) , e191474. -  (2019)
原著論文9
Oze I, Ito H, Nishino Y et al.
Trends in Small-Cell Lung Cancer Survival in 1993-2006 Based on Population-Based Cancer Registry Data in Japan.
J Epidemiol. , 5 (29) , 347-353  (2019)
原著論文10
Brenner DR, Fehringer G, Zhang ZF et al.
Alcohol consumption and lung cancer risk: A pooled analysis from the International Lung Cancer Consortium and the SYNERGY study.
Cancer Epidemiol. , 58 , 25-32  (2019)
原著論文11
Zha L, Sobue T, Kitamura T et al.
Changes in Smoking Status and Mortality From All Causes and Lung Cancer: A Longitudinal Analysis of a Population-based Study in Japan.
J Epidemiol. , 29 (1) , 11-17  (2019)
原著論文12
Honda T, Sakashira H, Masai K et al.
Deleterious Pulmonary Surfactant System Gene Mutations in Lung Adenocarcinomas Associated With Usual Interstitial Pneumonia.
JCO Precision Oncology  (2018)
原著論文13
Charvat H, Sasazuki S, Shimazu T et al.
JPHC Study Group. Development of a risk prediction model for lung cancer: The Japan Public Health Center-based Prospective Study.
Cancer Sci. , 109 (3) , 854-862  (2018)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201908024Z