生まれ年度による罹患リスクに基づいた実効性のある子宮頸癌予防法の確立に向けた研究

文献情報

文献番号
201908023A
報告書区分
総括
研究課題名
生まれ年度による罹患リスクに基づいた実効性のある子宮頸癌予防法の確立に向けた研究
課題番号
H29-がん対策-一般-024
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
上田 豊(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 平井 啓(大阪大学・大学院人間科学研究科)
  • 中山 富雄(国立がん研究センター社会と健康研究センター)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学大学院医学系研究科産婦人科学)
  • 榎本 隆之(新潟大学大学院医歯学系研究科産婦人科学)
  • 池田 さやか(国際医療福祉大学三田病院婦人科)
  • 中村 隆文(川崎医科大学医学部産婦人科)
  • 中川 慧(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学 )
  • 八木 麻未(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
8,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究は、HPVワクチンに関連して厚生労働行政で重要となる、有効性の速やかな評価、積極的な勧奨の差し控えによる影響の把握、ワクチン導入後世代の検診受診行動の把握とその対策、ワクチンの利益・不利益に関する認識の調査と積極的勧奨の再開時の普及手法の開発を実施する社会的重要性の高いものである。
研究方法
(1) 生まれ年度の頸癌罹患リスク評価とワクチンの有効性検証
2009~2017年度の20歳の検診データを収集し、細胞診異常・前癌病変の頻度を年度毎に比較する(生まれ年度:1989~1997年度)。
(2) 接種世代における接種者・非接種者の検診受診行動の把握
大阪府豊中市・福島県いわき市における1995・1996年度生まれの各個人のHPVワクチン接種歴と20歳時の子宮頸がん検診(2015~2017年度)受診率を用いて、接種世代の接種者・非接種者の検診受診率を算出した。
(3) 接種世代の接種者・非接種者のリスク認識の調査と、それに基づく接種の有無別の検診受診勧奨手法の開発
接種者・非接種者用の20歳子宮頸がん検診受診勧奨リーフレットの効果検証を2018年度に大阪府枚方市(4) ワクチンの利益・不利益の認識の調査と、積極的勧奨の再開後のワクチンの普及のための手法の開発
2017年度に開発したリーフレットの有効性をインターネット調査で評価した。さらに追加研究として、厚生労働省が改変したリーフレットについて、産婦人科施設を受診した接種対象年齢の娘を持つ母親に対してアンケート調査を実施した。
結果と考察
(1) 細胞診異常については、論文として発表した(Sci Rep. 2018;8:5612)。組織診異常(前癌病変)の頻度についても解析を行った。松山市において、1991年度~1993年度生まれはワクチン接種の機会のなかった世代(接種率0%)であり、20歳の子宮頸がん検診の組織診異常(CIN 1以上)の率は0.24%であったが、1994~1996年度生まれ(接種率79%)では0.15%に減少し、特にCIN 3の頻度は0.09%(7/7872)から0%(0/7389)に有意に低下していた(p=0.016)(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。
(2) 1995・1996年度のいわき市・豊中市の20歳の子宮頸がん検診のデータにおいて、接種者の20歳の子宮頸がん検診受診率は6.2%(230/3697)、非接種者の受診率は3.1%(59/1890)であり、接種者の受診率が非接種者に比して有意に高い(p<0.01)ことが明らかとなった(Vaccine. 2019;37:4424-4426)。
(3) 接種者において、従来の市の受診案内による再勧奨群では受診率が6.4%(44/687)であったが、当研究で開発した接種者用リーフレットを送付した群では7.4%(51/688)と高い傾向であった(p=0.52)。非接種者においても、従来の市の受診案内による再勧奨群では受診率が3.9%(13/334)であったが、当研究で開発した接種者用リーフレットを送付した群では5.1%(17/332)と高い傾向であった(p=0.46)。
(4) 現状での娘への接種意向は11.5%、厚労省が積極的勧奨を再開したと想定した場合の接種意向は17.7%であった。これらは以前行った同様の調査における接種意向(それぞれ6.7%、12.2%)より有意に高い値であった(いずれもp<0.01)。開発した接種勧奨リーフレットの有効性も示された。追加研究として、厚労省が2018年に改変したリーフレットについて、産婦人科施設を受診した接種対象年齢の娘を持つ母親に対してアンケート調査を実施した。厚労省リーフレットでの説明後の接種意向は、すでに接種していた母親等を除外した上で、6.7%(23/344)であり、医師が説明を行うことの重要性が示唆された(Hum Vaccin Immunother. 2020, in press)。
結論
複数の自治体から得られた20歳の子宮頸がん検診の結果の経年的な観察により、ワクチン導入によって細胞診異常・組織診異常(CIN)の頻度が有意に減少していることが示された。特にCIN 3 以上の予防効果については本邦で初めての証明となった。また、接種世代の接種者・非接種者においては20歳の子宮頸がん検診受診率は接種者の方が有意に高いことが初めて示された。HPVワクチンの再普及のためのリーフレットも作成し、インターネット調査でその有効性が確認できたが、研究期間中に積極的勧奨が再開されなかったため自治体の場での効果検証はできなかった。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908023B
報告書区分
総合
研究課題名
生まれ年度による罹患リスクに基づいた実効性のある子宮頸癌予防法の確立に向けた研究
課題番号
H29-がん対策-一般-024
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
上田 豊(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 平井 啓(大阪大学大学院人間科学研究科)
  • 中山 富雄(国立がん研究センター社会と健康研究センター)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学大学院医学系研究科産婦人科学)
  • 榎本 隆之(新潟大学大学院医歯学系研究科産婦人科学)
  • 池田 さやか(国際医療福祉大学三田病院婦人科)
  • 中村 隆文(川崎医科大学医学部産婦人科)
  • 中川 慧(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学 )
  • 八木 麻未(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究は、HPVワクチンに関連して厚生労働行政で重要となる、有効性の速やかな評価、積極的な勧奨の差し控えによる影響の把握、ワクチン導入後世代の検診受診行動の把握とその対策、ワクチンの利益・不利益に関する認識の調査と積極的勧奨の再開時の普及手法の開発を実施する社会的重要性の高いものである。
研究方法
(1) 生まれ年度の頸癌罹患リスク評価とワクチンの有効性検証
2009~2017年度の20歳の検診データを収集し、細胞診異常・前癌病変の頻度を年度毎に比較した。これらの生まれ年度毎のワクチン累積接種率も調査した。
(2) ワクチン接種世代における接種者・非接種者の検診受診行動の把握
豊中市・いわき市における1995・1996年度生まれ(接種世代)の接種者・非接種者の検診受診率を算出した。
(3) ワクチン接種世代の接種者・非接種者のリスク認識の調査と、それに基づく接種の有無別の検診受診勧奨手法の開発
インタビュー調査・インターネット調査の結果をもとに、接種者・非接種者それぞれに効果的な20歳の子宮頸がん検診受診勧奨リーフレットを作成した。同リーフレットの実際の効果検証を枚方市で実施した。
(4) ワクチンの利益・不利益の認識の調査と、積極的勧奨の再開後のワクチンの普及(接種率向上)のための手法の開発
インタビュー調査・インターネット調査を行い、その結果をもとに接種勧奨リーフレットを開発した。このリーフレットの有効性をインターネット調査で評価を行った。
追加研究として、厚生労働省が改変したリーフレットについて、HPVワクチン接種対象年齢の娘を持つ母親に対してアンケート調査を実施した。
結果と考察
(1) いわき市・高槻市・松山市・福岡市の2010~2015年度データで解析を行った。1990~1993年度生まれはワクチン接種の機会のなかった世代(接種率0%)であり、子宮頸がん検診の細胞診異常率は3.96%であったが、1994~1995年度生まれ(接種率69.3%)では、細胞診異常率が3.01%と有意に低下していた(p=0.014)(Sci Rep. 2018;8:5612)。
組織診異常(前癌病変)の頻度については、松山市において、20歳の子宮頸がん検診でのCIN 3の頻度は1991~1993年度生まれ(接種率0%)では0.09%(7/7872)であったが、1994~1996年度生まれ(接種率79%)では0%(0/7389)と有意に低下していた(p=0.016)(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。
(2) いわき市・豊中市における1995・1996年度生まれの女性のワクチン接種率は66.2%(3697/5587)で、接種者の20歳の子宮頸がん検診受診率は6.2%(230/3697)、非接種者の受診率は3.1%(59/1890)であり、接種者の受診率が非接種者に比して有意に高い(p<0.01)ことが明らかとなった(論文投稿中)。
(3) 枚方市の2018年12月の検診受診再勧奨(リコール)において検証を行った。接種者において、従来の市の受診案内による再勧奨群では受診率が6.4%(44/687)であったが、当研究で開発した接種者用リーフレットを送付した群では7.4%(51/688)と高い傾向であった(p=0.52)。同様に、非接種者においても、従来の市の受診案内による再勧奨群では受診率が3.9%(13/334)であったが、当研究で開発した接種者用リーフレットを送付した群では5.1%(17/332)と高い傾向であった(p=0.46)。
(4) 接種対象年齢の娘をもつ母親を対象にインターネット調査を実施した。現状での娘への接種意向は11.5%であった。HPVワクチンの再普及のためのリーフレットの有効性も示された。
追加研究として、厚労省リーフレットについて、産婦人科施設を受診したHPVワクチン接種対象年齢の娘を持つ母親に対してアンケート調査を実施した。厚労省リーフレットでの説明後の接種意向は、6.7%(23/344)であり、医師が説明を行うことの重要性が示唆された(Hum Vaccin Immunother. 2020, in press)。
結論
20歳の子宮頸がん検診の結果の経年的な観察により、ワクチン導入によって細胞診異常に加えて組織診異常(CIN)の頻度が有意に減少していることが示された。また、接種世代の接種者・非接種者においては20歳の子宮頸がん検診受診率は接種者の方が有意に高いことが初めて示された。HPVワクチンの再普及のためのリーフレットも作成し、インターネット調査でその有効性が確認できたが、研究期間中に積極的勧奨が再開されなかったため、自治体の場での効果検証はできなかった。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
20歳の子宮頸がん検診の結果の経年的な観察により、ワクチン導入によって細胞診異常に加えて組織診異常(CIN)の頻度が有意に減少していることが示された(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。また、ワクチン接種世代の接種者・非接種者においては20歳の子宮頸がん検診受診率は接種者の方が有意に高いことが初めて示された(Vaccine. 2019;37:4424-4426)。HPVワクチンの再普及のためのリーフレットも作成し、インターネット調査でその有効性が確認できた。
臨床的観点からの成果
HPVワクチンによるCIN 3 の予防効果の証明は本邦での最初の報告であり、論文として情報発信を行った(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。AMED榎本班にて行われている全国自治体症例対象研究(祖父江班から移行)やOCEAN STUDY・NIIGATA STUDYにおいても CIN 3の予防効果の証明は困難であり、当研究の成果の意義は極めて大きいと言える。また、ワクチンを普及させるにあたり、医師が説明を行うことの重要性も示された。
ガイドライン等の開発
前述の如く、HPVワクチンによるCIN 3 の予防効果の証明は本邦での最初の報告であり(Vaccine. 2019;37:2889-2891)、今後、本邦におけるHPVワクチンの効果の基礎的データとなった。今後、ガイドライン等に記載されていくものと考える。また、ワクチン接種者と非接種者で子宮頸がん検診受診率が異なることも、子宮頸がん検診の在り方を考える上で欠かせないデータとなった。
その他行政的観点からの成果
生まれ年度によってHPVワクチン接種率に大きな差があることに起因する、生まれ年度間の子宮頸がん・前がん病変のリスクの違いが示された。これは今後の本邦における子宮頸がん対策の展開に寄与するものである。また、ワクチン接種世代の接種者と非接種者で子宮頸がん検診受診率が有意に異なることも、今後の子宮頸がん検診受診勧奨の行い方を考える重要な知見である。
その他のインパクト
これら知見は、別紙に示す多くのセミナー・市民公開講座等で提示した(子宮頸がんワクチンを考える―公開フォーラム福岡、日本臨床細胞学会市民公開講座、神戸市感染症・ワクチンフォーラム2019、等)。メディアにもたびたび取り上げられた(2019年6月12日:朝日新聞朝刊、同8月31日:産経新聞朝刊・Yahoo JAPAN、等)。また、メディアを対象としたセミナーでもプレゼンテイションを行った(NPO 法人 VPD を知って子どもを守ろうの会 プレスセミナー)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
27件
講演、市民公開講座

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ueda Y, Yagi A, Nakayama T, Hirai K, Ikeda S, Sekine M, Miyagi E, Enomoto T.
Dynamic changes in Japan’s prevalence of abnormal findings in cervical cytology depending on birth year.
Scientific Reports , 8 , 5612-  (2018)
原著論文2
Ueda Y, Yagi A, Ikeda S, Enomoto T, Kimura T. 
Beyond resumption of the Japanese Government's recommendation of the HPV vaccine.
The Lancet Oncology , 19 , 1563-1564  (2018)
原著論文3
Ikeda S, Ueda Y, Yagi A, Matsuzaki S, Kobayashi E, Kimura T, Miyagi E, Sekine M, Enomoto T, Kudoh K.
HPV vaccination in Japan: what is happening in Japan?
Expert Review of Vaccines , 18 , 323-325  (2019)
原著論文4
Taniguchi M, Ueda Y, et al.
Cervical cancer screening rate differs by HPV vaccination status: An interim analysis.
Vaccine , 37 , 4424-4426  (2019)
原著論文5
Yagi A, Ueda Y, Ikeda S, Sekine M, Nakayama T, Miyagi E, Enomoto T.
Evaluation of future cervical cancer risk in Japan, based on birth year.
Vaccine , 37 , 2889-2891  (2019)
原著論文6
Nagase Y, Ueda Y, Abe H, et al.
Changing attitudes in Japan toward HPV vaccination: a 5-year follow-up survey of obstetricians and gynecologists regarding their current opinions about the HPV vaccine.
Hum Vaccin Immunother , Epub , 1-6  (2020)
原著論文7
Shiomi M, Ueda Y, Abe H, Yagi A, Sakiyama K, Kimura T, et al.
A survey of Japanese mothers on the effectiveness of the Ministry of Health, Labor and Welfare’s revised HPV vaccine leaflet.
Hum Vaccin Immunother , Epub , 1-4  (2020)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2022-05-11

収支報告書

文献番号
201908023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,283,000円
(2)補助金確定額
11,283,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 175,536円
人件費・謝金 1,031,978円
旅費 1,668,000円
その他 5,804,486円
間接経費 2,603,000円
合計 11,283,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-03-01
更新日
-