地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に資する医療連携と機能分化に関する研究

文献情報

文献番号
201908022A
報告書区分
総括
研究課題名
地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に資する医療連携と機能分化に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-023
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松本 禎久(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 荒尾 晴惠(大阪大学大学院医学系研究科保健学)
  • 川越 正平(あおぞら診療所在宅診療所)
  • 浜野 淳(筑波大学医学医療系臨床医学域/筑波大学附属病院 医療連携患者相談センター総合診療学・緩和医療学)
  • 後藤 功一(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,265,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の高齢化は、諸外国に類を見ないスピードで進行し、医療や介護の需要がさらに増加する。特に都市部において超高齢社会への対応が急務となっている。がん診療拠点病院(以下、拠点病院)において抗がん治療を受けている患者は約6割、がんによる死亡のうち拠点病院以外での死亡は6割であり、拠点病院を中心としたがんに限定した連携体制では不十分であり、拠点病院以外の病院やかかりつけ医、高齢者向け施設との連携に基づいて行う地域完結型の包括的ながん診療連携体制が必要となる。一方で、包括的ながん診療連携モデルは乏しく、地域包括ケアシステムを基盤としたがん診療連携モデルの構築が必要である。
本研究では、地域包括ケアシステムを基盤とした診断・治療・併存症の治療・終末期ケアまでを含む包括的ながん診療連携モデルの開発を行うことを目的とする。
研究方法
下記の3つの研究を実施した。
1.医療・介護・行政の専門職を対象とした質問紙調査による量的研究地域包括ケアシステムが推進されている地域の医療・介護・行政の専門職を対象とし、自記式質問紙票を郵送し回答を得て、分析を行った。
2.医療・介護・行政の専門職を対象とした質的研究
2017年度に実施したインタビュー調査のデータを分析した。
3.がん患者遺族を対象とした家族内葛藤に関する質問紙調査による量的研究
がん患者遺族を対象とした自記式質問紙による郵送調査を行った。
結果と考察
1.687施設904名の医療・介護・行政の専門職に対して質問紙が送付され、410名(45.4%)から有効回答を得た。地域包括ケアシステムの知識に自信があると回答したものは38.7%と低値であり、地域包括ケアシステムおよびがん治療のサポート体制が住民に周知されていると回答したものはそれぞれ7.4%、6.0%と極めて低値であった。一方で、住民への啓発や教育が地域包括ケアにおけるがん診療連携の推進に有用と回答したものは83.1%と高値であった。また、専門職が考える、各施設・組織・専門職それぞれに期待される役割、地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に望ましい方法や内容、システムが明らかになった。具体的なカテゴリとしては、「切れ目のない連携」「情報や考え方の共有」「がん治療医、かかりつけ医のお互いの診療範囲を共有した協働・連携」「地域におけるがん患者・家族に対する心理的なサポート」「がん患者の急速な身体機能低下に備えた迅速な連携」「高齢者向け施設での急な状態変化が生じた時の対応」などが挙げられる。これらの結果から、専門職および住民への普及・啓発・教育は現状では不十分であり、様々なセッティングや方法で、専門職および住民への普及・啓発・教育を行っていくことが地域包括ケアにおけるがん診療連携の推進に重要であると考えられ、また本研究の結果を意識した実践的な取り組みが地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に重要となると考えられる。
2.質的分析から早期からのACP実施、治療時からの地域との医療連携を基盤にした連携体制づくり、情報共有のシステム構築などが必要となることが示唆された。 
3.専門的緩和ケアサービスを利用して亡くなったがん患者の遺族の38.0%が何らかの家族内葛藤を経験していること、家族の中に本来果たすべき役割を十分にしていない家族がいると感じることが多いこと療養場所について家族内で葛藤を経験した家族もいることが明らかになった。
地域によって医療・介護の環境は異なり、地域包括ケアの形も様々であるが、本質としては重要な項目は変わらないと考えられ、本研究結果をもとした提言を作成し、それぞれの地域に合わせた望ましい地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に役立つことを期待したい。
結論
本研究では、地域包括ケアにおけるがん診療連携において、医療・介護・行政の専門職が認識する現状や重要と考える事項や期待する事項を明らかにした。また、専門的緩和ケアサービスを利用した遺族の38.0%が少なくとも1つの家族内葛藤を経験し、療養場所について、家族内で葛藤を経験した家族もいることが明らかになった。わが国のそれぞれの地域において、地域包括ケアシステムを基盤とした診断・治療・併存症の治療・終末期ケアまでを含む包括的ながん診療連携モデルの構築は喫緊の課題であり、本研究の結果に基づいた提言を行うことが重要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908022B
報告書区分
総合
研究課題名
地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に資する医療連携と機能分化に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-023
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松本 禎久(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 荒尾 晴惠(大阪大学大学院医学系研究科保健学)
  • 川越 正平(あおぞら診療所在宅診療所)
  • 浜野 淳(筑波大学医学医療系臨床医学域/筑波大学附属病院 医療連携患者相談センター総合診療学・緩和医療学)
  • 後藤 功一(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の高齢化は、諸外国に類を見ないスピードで進行し、医療や介護の需要がさらに増加する。特に都市部において超高齢社会への対応が急務となっている。がん診療拠点病院(以下、拠点病院)において抗がん治療を受けている患者は約6割、がんによる死亡のうち拠点病院以外での死亡は6割であり、拠点病院を中心としたがんに限定した連携体制では不十分であり、拠点病院以外の病院やかかりつけ医、高齢者向け施設との連携に基づいて行う地域完結型の包括的ながん診療連携体制が必要となる。一方で、包括的ながん診療連携モデルは乏しく、地域包括ケアシステムを基盤としたがん診療連携モデルの構築が必要である。
本研究では、地域包括ケアシステムを基盤とした診断・治療・併存症の治療・終末期ケアまでを含む包括的ながん診療連携モデルの開発を行うことを目的とする。
研究方法
医療・介護・行政の専門職を対象とした質的研究および質問紙調査による量的研究、がん患者遺族を対象とした意思決定支援・家族内葛藤に関する質問紙調査による量的研究、および診療所に定期的に通院する65歳以上の患者を対象とした意思決定支援に関する調査を実施した。
結果と考察
医療・介護・行政の専門職を対象とした質問紙調査では410名(45.4%)から回答を得て、集計・分析した。わが国において地域包括ケアが推進されていると考えられる地域においても、地域包括ケアに関する知識について自信があると回答した専門職は38.7%と低い割合であり、また「地域包括ケアシステムは住民に周知されていない」と回答した専門職は、79.0%と高い割合であった。一方で、「住民への普及・啓発・教育は、地域包括ケアにおけるがん診療連携の推進に有用である」と考える専門職は、83.1%と高い割合であった。また、本研究の結果から、各施設や組織、専門職それぞれに期待される役割が明らかになり、地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に望ましい方法や内容、システムにおいて、専門職が有用と考える項目が明らかになった。具体的なカテゴリとしては、「切れ目のない連携」「情報や考え方の共有」「がん治療医、かかりつけ医のお互いの診療範囲を共有した協働・連携」「地域におけるがん患者・家族に対する心理的なサポート」「がん患者の急速な身体機能低下に備えた迅速な連携」「高齢者向け施設での急な状態変化が生じた時の対応」などが挙げられる。
質的研究の分析では、医療連携の障壁・困難は、【施設・職種間の情報共有の困難】【現行のシステムの限界】【専門職の知識技術不足】【患者・住民側の地域包括ケアシステムの理解困難】【病院間の連携困難】【予後を見据えた支援の困難】【早期からのACPの困難】があった。望ましい連携には【施設・医療者の役割の明確化】、【患者の診療情報の共有】【患者・家族の希望に沿った療養環境の整備】【地域における看取りの体制の構築】が必要であることが明らかになった。以上から地域包括ケアにおけるがん診療連携には、早期、治療期からのACP導入・医療連携が必要とされ、さらに、情報共有システム、多職種協働、医療者と患者への教育が必要であると示唆された。
これらの結果から、専門職および住民への普及・啓発・教育は現状では不十分であり、様々なセッティングや方法で、専門職および住民への普及・啓発・教育を行っていくことが地域包括ケアにおけるがん診療連携の推進に重要であると考えられ、また本研究の結果を意識した実践的な取り組みが地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に重要となると考えられる。
また、地域包括ケアにおける医療連携と機能分化を推進するにあたって、医療従事者が、家族内の関係性やコミュニケーションの状況を理解して関わることが、家族内の葛藤の有無に気付くことに役立ち、患者、家族のQOLの向上につながることが示唆された。また、がん患者が定期通院しているかかりつけの診療所・病院において、患者と主治医の間で行われているAdvance care planning discussionの実態を明らかにすることが必要と考えられる。
結論
本研究では、地域包括ケアにおけるがん診療連携において、医療・介護・行政の専門職が認識する現状や重要と考える事項や期待する事項を質的および量的に調査し、地域包括ケアにおけるがん診療連携体制の構築に有用な知見が得られた。また、がん患者の遺族が感じていた家族内葛藤の頻度や内容、診療所外来における65歳以上の患者のACPの実施状況が明らかになった。
わが国のそれぞれの地域において、地域包括ケアシステムを基盤とした診断・治療・併存症の治療・終末期ケアまでを含む包括的ながん診療連携モデルの構築は喫緊の課題であり、本研究の結果に基づいた提言を行うことが重要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域包括ケアにおける望ましいがん診療連携に関して、質的研究から量的研究を行い、抗がん治療中の患者や非がん疾患を有する患者に関する連携も含めて重要と考えられる要素を明らかにした研究はなく、新規性がある。
わが国におけるがん患者の家族における家族内葛藤の実態や関連する要因を明らかにした研究はなく、新規性がある。
わが国において診療所に定期的に通院する65歳以上の患者におけるACPの実態について調査した研究はなく、新規性がある。
臨床的観点からの成果
地域包括ケアシステムが推進されている地域においても、住民及び専門職への教育・普及・啓発は未だ十分ではないことが示され、地域包括ケアにおける望ましいがん診療連携を達成するために重要な要素が抽出されたことから、わが国における地域包括ケアにおけるがん診療連携の推進に寄与し、患者・家族の療養の質が向上することが期待される。
ガイドライン等の開発
地域包括ケアにおける望ましいがん診療連携に関する提言書の作成に取り組みを開始した。
その他行政的観点からの成果
行政的観点からも、地域包括ケアは今後推進されるべきものであり、本研究から得られた結果をもとに医療・介護・行政で望ましい連携を行うことで、実効力のある地域包括ケアシステムの構築に寄与するものと考える。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
34件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201908022Z