農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究

文献情報

文献番号
199800729A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松島 松翠(長野県厚生連佐久総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村巌(旭川厚生病院)
  • 松島松翠(佐久総合病院)
  • 宮原伸二(川崎医療福祉大学)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 小山和作(日赤熊本健康管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今後当然予想される高齢・少子社会を健康で活力あるものとし、質の高い生活
を確保していくためには、単に疾病の早期発見・早期治療のみならず、疾病の発生予防を
主眼とすべきであり、そのために健康増進を含む総合的な対策が必要になってきている。
一方、高齢社会の進展の中で医療費の増大が毎年続いており、これは結果的には個人の医
療費負担の増加となって現れることから、今後、質の高い生活を維持するためには、医療
費の増加を阻止し、医療費等の社会保障負担をある程度に抑える必要が出てきている。本
研究は、検診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教育活動を実施することによって、
それが疾病予防及び医療費の軽減にどの程度役立つかを、上記活動が充実している町村群
と、あまり充実していない町村群との比較によって明らかにすることを目的とする。
研究方法
今回の研究方法は、次の二点である。一つは、代表的な町村についての分析で
、検診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教育活動を、ほぼ全町村的に10年以上続
けている町村(以下検診群とする)を数カ町村選び、一人当たり年間国保医療費の推移を
過去10年間にわたり調査する。また、上記の活動が必ずしも十分とは言えない周辺の町
村群と県全体(以下対照群とする)について同様な調査を行い、両群の医療費の推移につ
いて比較分析する。一方、両群について、検診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教
育活動に要している費用を年間一人当たりについて算出し、両群の費用の推移について比
較分析する。両者のデータの比較から、検診活動を含む諸活動の費用・効果分析を行う。
二つは、県の全市町村についての分析で、健康増進事業に関連する代表的な指標と一人当
たり年間国保医療費及び老人医療費について調査し、それらの相関の分析の中から、どの
指標が国保医療費及び老人医療費に影響を与えているかを分析する。
結果と考察
わが国では、老人保健法の実施により、40歳以上の住民の大部分が検診や健
康教育を受けているので、あらたに非検診群という対照群をつくるのは甚だ困難である。
従って今回研究では、検診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教育活動を、ほぼ全町
村的に継続している町村群(検診群)と上記の活動が必ずしも十分とは言えない周辺の町
村群(対照群)を選び、両群の医療費の推移や費用効果について分析を行った。
対象町村について、検診活動及び健康増進活動と一般医療費、老人医療費との関係につ
いて調査分析した結果、検診群は対照群に比較して、とくに年間一人当たり老人医療費が
少なく、その差額は鷹栖町では34,649円、八千穂村、臼田町、川上村の3カ町村では 4.2
~10.2万円、梼原町では、344,915 円であった。
一方、検診ならびに健康教育に要した費用を年間一人当たりに換算して算出し比較した
が、いずれも検診費用総額よりも老人医療費の低下額のほうが大きいという結果が得られ
た。すなわち、検診活動および健康教育活動が、老人医療費を低下させており、費用効果
の点から見ても効果が大きいことが明らかとなった。
この中で、とくに35年間健康管理を続けている八千穂村では、平成7年度において全国
と比較した一人当たり年間医療費の差額は、一般国保医療費(歯科を除く)において37,3
73円、老人医療費において 208,246円の低下となって現れている。
また別に、島根県、熊本県の全市町村について、各種検診活動、健康教育活動と一般医
療費、老人医療費との相関関係について分析した。島根県の分析では相関がはっきりしな
かったが、熊本県の分析では、保健婦数については、療養諸費と歯科を除く全ての診療費
(入院・入院外・計)に負の相関を認めた。また健康診査では、老人保健事業による基本
健康診査受診率と大腸がん検診受診率について、同じく療養諸費と歯科を除く全ての診療
費(入院・入院外・計)に負の相関を認めた。また胃がん・大腸がん・子宮がん検診受診
率については、一部の診療費と負の相関が認められた。
以上、住民の健康保持・増進を目指した保健婦活動や各種検診活動は、医療費抑制に効
果があると考えられた。
健康教育プログラムの実施と医療費軽減との関連については、諸外国でいくつかの報告
がみられる。まず米国で約20年間続けられている「全米高血圧教育プログラム」の cost-
benefit 分析がある。それによると、1988年には脳卒中に関する医療費が全米で年間 233
億ドルであったが、このプログラムの実施により、脳卒中に要する医療費が1年間のみで
、約15億ドル節約できている。
また同じく米国で、「巡回職場健康増進プログラム」の実施による医療費への影響をみ
た研究がある。5年間の retrospective studyで、実施群と性・年齢をマッチした対照群
について分析した結果、実施前2年間と実施後2年間の比較で、対照群が7%の医療費減
少に対して、実施群は16%の減少をみている。
また今回は検診受診率や健康教育と医療費との関連の分析が中心で、日常生活習慣と医
療費との関係については解析できなかったが、辻らが行っている大崎国保コホート研究に
における生活習慣と医療費との関係についての分析では、喫煙者は非喫煙者に比べて一人
当たり平均医療費が3万円( 6.1%)高く、また肥満、運動不足の者ほど医療費が多いと
いう結果が出ている。医療費の軽減要因として、日常生活の変化も今後分析する必要があ
ると考えられた。
結論
北海道、長野県、高知県において、検診活動、健康教育、保健衛生活動が充実して
いる代表的な町村(検診群)と、それらが低くとどまっている町村(対照群)とについて
、それらの活動と一般医療費、老人医療費との関係について調査分析した。その結果、検
診群は対照群に比較して、とくに一人当たり老人医療費が少なく、費用効果の点から見て
も効果が大きいことが分かった。
また別に、島根県、熊本県の全市町村について、各種検診活動、健康教育活動と一般医
療費、老人医療費との相関関係について分析した。島根県の分析では相関がはっきりしな
かったが、熊本県の分析では、保健婦数、基本健康診査受診率、胃がん・大腸がん・子宮
がん検診受診率については、すべてあるいは一部の診療費と負の相関が認められた。住民
の健康保持・増進を目指した保健婦活動や各種検診活動は、医療費抑制に効果があると考
えられた。

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