抗がん剤治療中止時の医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムの開発

文献情報

文献番号
201908016A
報告書区分
総括
研究課題名
抗がん剤治療中止時の医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムの開発
課題番号
H29-がん対策-一般-017
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター)
  • 森 雅紀(聖隷三方原病院)
  • 宮路 天平(東京大医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
10,645,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
H26-28年度厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業における患者意向調査結果(Umezawa, Uchitomi, Cancer, 2015)を踏まえ、抗がん剤治療中止、予後を伝える医師と患者双方の負担軽減を目指し、医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムを開発することを目的とする。
研究方法
 1年目に、研究1では文献レビューとインタビュー調査を行い、抗がん剤治療中止後の療養に関する患者と医師の話し合いの際に使用する教育資材である質問促進リスト(QPL: Question Prompt List)を作成し、研究2ではQPLを用いた介入マニュアル(教育方法)を作成した。研究1、研究2では2-3年目である平成30年度-令和元年度に、QPLを用いた質問支援の実施可能性と有用性を検討するために、国立がん研究センター中央病院において大腸がんと診断され3次治療以降を行なっている患者を対象にパイロット試験を行った。
 研究3では、2年目に行ったがん患者の意向調査結果を取り入れた言語的なコミュニケーションの効果と、話す速度を変えた非言語的なコミュニケーションの効果を検証するためWeb上の無作為化比較試験を行った。
結果と考察
 研究1、研究2の結果、完遂率は介入群・対照群とも90%以上であったが、介入群における問題点として、経口抗がん剤の患者が増加し、病院滞在時間の短い患者が多く、介入を行うための時間調整が難しいということがあげられた。また、診察場面の会話分析を行った結果、患者からの質問数に関して介入群・対照群間で有意差は認められなかったものの、望ましい医師-患者間のコミュニケーションの要素である「患者の望む情報の提供」と「共感的対応」が、介入群においてより多くみられる傾向があった。今後の実施可能性と予備的有用性について検討した結果、場所・時間を問わないICTの活用が有用と考え、新たにアプリケーション開発に着手した。
 研究3の結果、余命の伝え方に関して平均的な幅だけではなく大きな幅を伝えること、最善を望みながらも最悪に備えることを伝えること加えた話し方や、よりゆっくりした話し方によっても医師への共感が高まらないことが示唆された。Web上の実験心理学的研究を完遂し、実施可能性が確認できた。
結論
 研究1、研究2では、質問支援のパイロット試験を終了し、今後の実施可能性と予備的有用性について検討した結果、場所・時間を問わないICTの活用が有用と考え、新たにアプリケーション開発に着手した。
 研究3では、余命告知を望む再発・転移がん患者の仮想シナリオにおいて、言語的・非言語的コミュニケーションが医師の共感等のアウトカムに及ぼす影響を調べることを目的とした実験心理学的研究を完遂し、Web上の実験心理学的研究の実施可能性が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908016B
報告書区分
総合
研究課題名
抗がん剤治療中止時の医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムの開発
課題番号
H29-がん対策-一般-017
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター)
  • 森 雅紀(聖隷三方原病院 臨床検査科)
  • 宮路 天平(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
H26-28年度厚生労働科学研究費補助金がん政策研究事業における患者意向調査結果(Umezawa, Uchitomi, Cancer, 2015)を踏まえ、抗がん剤治療中止、予後を伝える医師と患者双方の負担軽減を目指し、医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムを開発することを目的とした。
研究方法
 研究1:平成29年度に文献レビュー、フォーカスグループインタビュー調査を行い、教育資材である質問促進リスト(QPL: Question Prompt List)とがん患者に対する意思決定支援プログラムを作成し、またQPLを用いた介入マニュアル(教育方法)を作成した。平成30年度-令和元年度は、QPLを用いた質問支援の実施可能性と有用性を検討するためにパイロット試験を行った。
 研究2:抗がん剤治療中止時に行われる終末期についての話し合いとして、予後告知、ホスピスへの紹介、心肺停止時の心肺蘇生/についての話し合いがあるが、平成29年度に抗がん剤治療中止時に行われる終末期の話し合いについてがん患者412名対象の意向調査を行った。平成30年度-令和元年度は、再発・転移をきたしたがん患者に、余命を伝える際にどのような言語的・非言語的コミュニケーションをとれば、共感を伝えられるかの実験心理学的研究(無作為化比較試験(RCT))を行った。
結果と考察
 研究1:平成29年度にQPLを用いたがん患者に対する意思決定支援プログラムと介入マニュアル(教育方法)を作成した。平成30年度-令和元年度に行ったパイロット試験の結果、完遂率は介入群・対照群とも90%以上であったが、介入群における問題点として、経口抗がん剤の患者が増加し、病院滞在時間の短い患者が多く、介入を行うための時間調整が難しいということがあげられた。診察場面の会話分析を行った結果、患者からの質問数に関して介入群・対照群間で有意差は認められなかったものの、望ましい医師-患者間のコミュニケーションの要素である「患者の望む情報の提供」と「共感的対応」が、介入群においてより多くみられる傾向があった。今後の実施可能性と予備的有用性について検討した結果、場所・時間を問わないICTの活用が有用と考え、新たにアプリケーション開発に着手した。
 研究2:平成29年度に行った意向調査の結果、余命の伝え方に関して平均的な幅だけではなく大きな幅を伝えること、最善を望みながらも最悪に備えることを伝えることが好まれることが明らかになった。また、ホスピスへの紹介やDo-Not-Resuscitate (DNR)についての話し合いには、共感的な台詞を加えることが好まれることが示唆された。平成30年度-令和元年度に実験心理学的研究を行い、言語的な側面としては通常の余命に最善を望みながらも最悪に備えることを加えた台詞の効果を、非言語的な側面としては速度を変えた話し方の効果をそれぞれ検証するため、Web上のRCTのデザインを採用し、312名の登録を完遂した。予想と反して、これら二者を加えた話し方や、よりゆっくりした話し方をすることによっても、医師への共感が高まらないことが示唆された。
結論
 研究1:1年目(平成29年度)に文献レビューとフォーカスグループインタビューの結果より、抗がん剤治療中止後の療養に関する患者と医師の話し合いの際に使用するQPLを作成し、医療従事者によるがん患者の意思決定支援プログラムを開発した。2-3年目(平成30年度-令和元年度)では、プログラムの実施可能性と予備的に有用性を評価するため、パイロット試験を行った。今後QPLのアプリケーションを開発し、有用性を検討する予定である。
 研究2:がん患者は、予後告知の際には予測される期間に広い幅を付けた台詞や「最善を望みながらも、備えはしておくこと」ことを添えた台詞を好むことが明らかになった。また、DNRの説明の際には苦痛緩和に努めると添えた台詞、ホスピスへ紹介する際には紹介の目標を明確にしつつ切れ目のないケアや「見捨てないこと」を保証する台詞を好むなど、Positive statementを追加する効果が示唆された。余命告知を望む再発・転移がん患者の仮想シナリオにおいて、言語的・非言語的コミュニケーションが医師の共感等のアウトカムに及ぼす影響を調べることを目的としたweb上の実験心理学的研究を完遂し、実施可能性が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
特記事項なし
臨床的観点からの成果
特記事項なし
ガイドライン等の開発
1. 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会.膵癌診療ガイドライン2019年版.金原出版.2019.
2. 一般社団法人 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会、患者・市民・医療者をつなぐ膵がん診療ガイドライン2019の解説、金原出版、2020.
その他行政的観点からの成果
令和1年7月31日(水)藤森麻衣子 厚生労働省健康局 がん・疾病対策課 第2回がんとの共生のあり方に関する検討会に参考人出席、・緩和ケアの提供体制・がん患者・家族に対する意思決定支援・患者や家族等が安心して相談できる体制の整備について意見を述べた。
令和2年1月29日(水)内富庸介 厚生労働省健康局 がん・疾病対策課 第4回 がんとの共生のあり方に関する検討会に参考人出席、・緩和ケアに関する実地調査・がん患者の自殺の実態調査と専門的ケアにつなぐ体制について意見を述べた。
その他のインパクト
・令和元年10月18日(金)J-SUPPORT研究成果報告会(一般公開)において セッション(心理)で「予後の伝え方を含むコミュニケーションについて考えよう」をテーマに、患者代表もまじえ発表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
第24回日本緩和医療学会学術大会、第57回日本癌治療学会学術集会、第17回日本臨床腫瘍学会学術集会、第32回日本サイコオンコロジー学会総会、第3回日本がんサポーティブケア学会学術集会
学会発表(国際学会等)
2件
ANNALS OF ONCOLOGY 2019, 19th World Congress in Psycho-Oncology,
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
日本サイコオンコロジー学会が主催するがん患者のQOL向上を目指したコミュニケーション技術研修会(CST)で3回にわたり藤森麻衣子が講師を務めた

特許

特許の名称
0
詳細情報
分類:
特許の名称
0
詳細情報
分類:

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mori M, Fujimori M, Uchitomi Y, et al.
Explicit Prognostic Disclosure to Asian Women With Breast Cancer: A Randomized, Scripted Video-Vignette Study (J-SUPPORT1601)
Cancer , 125 (19) , 3320-3329  (2019)
10.1002/cncr.32327
原著論文2
Mori M, Fujimori M, Uchitomi Y, et al
Adding a Wider Range and “Hope for the Best, and Prepare for the Worst” Statement: Preferences of Patients with Cancer for Prognostic Communication
The Oncologist , 24 (9) , e943-e952  (2019)
10.1634/theoncologist.2018-0643
原著論文3
Hamano J, Morita T, Uchitomi Y, et al.
Talking About Palliative Sedation With the Family: Informed Consent vs. Assent and a Better Framework for Explaining Potential Risks
J Pain Symptom Manage. , 56 (3) , e5-e8  (2018)
10.1016/j.jpainsymman.2018.05.004.
原著論文4
Mori M, Fujimori M, Uchitomi Y, et al.
The Effects of Adding Reassurance Statements: Cancer Patients' Preferences for Phrases in End-of-Life Discussions
J Pain Symptom Manage . , 57 (6) , 1121-1129  (2019)
10.1016/j.jpainsymman.2019.02.019
原著論文5
Fujisawa D, Umezawa S, Fujimori M, et al.
Prevalence and associated factors of perceived cancer-related stigma in Japanese cancer survivors.
Jpn J Clin Oncol. , 50 (11) , 1325-1329  (2020)
10.1093/jjco/hyaa135.

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2022-06-17

収支報告書

文献番号
201908016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,838,000円
(2)補助金確定額
13,797,000円
差引額 [(1)-(2)]
41,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 263,889円
人件費・謝金 7,513,581円
旅費 237,213円
その他 2,591,322円
間接経費 3,193,000円
合計 13,799,005円

備考

備考
研究分担者に配分額を超える支出があり1409円を自己負担した。
厚生労働省から直接交付を受ける研究分担者の1000円に満たない端数596円は自己負担した

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-