がんの医療提供体制および医療品質の国際比較:高齢者がん医療の質向上に向けた医療体制の整備

文献情報

文献番号
201908009A
報告書区分
総括
研究課題名
がんの医療提供体制および医療品質の国際比較:高齢者がん医療の質向上に向けた医療体制の整備
課題番号
H29-がん対策-一般-009
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 掛地 吉弘(神戸大学大学院医学研究院 食道胃腸外学)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 医学部附属病院)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
  • 隈丸 拓(東京大学大学院医学系研究科)
  • 高橋 新(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
  • 藤田 卓仙(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
84,671,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国レベルでの大規模データベース(DB)であるNCDを用い、新たに安全文化などの因子を含め国際比較解析を行うことにより、高齢者のがん治療における身体機能、認知機能、QOL維持等に関する高齢者特有の課題抽出と生活・医療上のニーズ把握と、これらに基づく診療プログラム(意思決定支援プログラム等)開発と標準化、そして、高齢者がん医療に関する政策に繋がる新たなエビデンスを創出する事を目的とした。
研究方法
本研究では、研究1Retrospective study:過去の登録データの国際比較と研究2Prospective Study:前向きGeriatric Surgery Pilot Studyを行った。研究1Retrospective studyでは、過去のNCDおよびNSQIPの臨床登録データから、消化器外科主要術式(肝切除術、膵頭十二指腸切除術、直腸低位前方切除術、結腸右半切除術)における年齢、性別、ADL、術前合併症などと、術後合併症及び死亡率の頻度を比較し、日米両国での特徴を考察した。また、研究2Prospective Studyでは消化器外科主要8術式を対象に、高齢者指標および安全文化指標を従来のNCD登録項目に新規に加えたデータ追加型研究(以下、パイロット研究)を行い、外科治療成績の評価および国際比較を行った。高齢者アウトカムとして、⑴術後せん妄、⑵術後30日の身体機能(術前との比較)、⑶退院時転倒リスク、⑷自宅以外への退院のリスク、⑸退院後ケアの必要性、⑹退院時の身体機能「functional decline」、⑺新たな歩行補助具の使用、についてどのような因子と関連するかを統計学的に検討した。令和元年度は、主に研究2を中心に進めた。令和2年には上記研究に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に対し、ソーシャルネットワークシステム(SNS)を利用したシステム開発とデータ収集、解析を行なった。
結果と考察
研究2Prospective Study:老人医療(消化器外科手術)に関する研究
各施設から、4923例の症例がNCDを通じて登録された。専門医7術式ごとの症例数を、悪性腫瘍に対する手術に限ると、総数3799例となり、術式別では、食道切除術471例、胃全摘術376例、幽門側胃切除術1061例、肝切除術324例、膵頭十二指腸切除術450例、結腸右半切除術445例、直腸低位前方切除術672例であった。
 術後せん妄は、術式間の差は比較的小さく、それよりも年齢が高くなるに従ってその頻度が明らかに増加傾向にあった。特に胃全摘術や肝切除術では85歳以上で術後せん妄の頻度が30%を超え高率であった。多変量リスクモデル解析では、変数として、年齢カテゴリー、腹腔鏡/開腹、糖尿病、高血圧、認知症、移動補助具、過去6 ヶ月以内の転倒、意思自己決定能力、ASA、ADL(自立/部分介助/全介助)、緊急手術、脳血管疾患の既往、術式等を変数として解析を行い、予測式を算出した。Validation 群でAUC = 0.747 となった。
  これ以外の高齢者アウトカムである、術後30日の身体機能(術前との比較)、転倒リスク(高)、術後30日のADLの指標等についても、いずれも年齢が有意かつ重要な因子としてリスクモデルに残り、正確な高齢者アウトカムの予測モデルを作成する事が出来た。論文化を行い、NCD内にリスクモデル計算を行いユーザー(外科医)にフィードバックする高齢者リスクフィードバックシステムを構築、実装した。また、高齢者指標として「うつ」を含めた12項目を新たに追加してシステム構築し、全国NCD参加全施設を対象とした高齢者手術データベースを確立した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)研究では、「国民のCOVID-19に関する適切な情報理解の促進に関する検討」及び「個別の患者の情報一元化による感染リスク把握サポートに関する検討」を行い、自治体へのフィードバックや論文化が達成された。
結論
本研究の結果、新たに高齢者アウトカムを正確に予測する高齢者リスクモデルが確立された。解析では、これまで得ることができなかった術後せん妄の有無、褥瘡、術前後の身体機能情報、退院先の情報が得られることになり、これらの因子と医療安全に関する情報とを組み合わせた、高齢者のがん治療における身体機能、認知機能、QOL維持等に関する高齢者特有の特徴が明らかとなり、日米国際比較の結果を得ることが出来た。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908009B
報告書区分
総合
研究課題名
がんの医療提供体制および医療品質の国際比較:高齢者がん医療の質向上に向けた医療体制の整備
課題番号
H29-がん対策-一般-009
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 掛地 吉弘(神戸大学大学院医学研究院 食道胃腸外学)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 医学部附属病院)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
  • 高橋 新(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
  • 隈丸 拓(東京大学大学院医学系研究科)
  • 藤田 卓仙(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国レベルでの大規模データベース(DB)であるNCDを用い、新たに安全文化などの因子を含め国際比較解析を行うことにより、高齢者のがん治療における身体機能、認知機能、QOL維持等に関する高齢者特有の課題抽出と生活・医療上のニーズ把握と、これらに基づく診療プログラム(意思決定支援プログラム等)開発と標準化、そして、高齢者がん医療に関する政策に繋がる新たなエビデンスを創出する事を目的とした。
研究方法
本研究では、研究1Retrospective study:過去の登録データの国際比較と研究2Prospective Study:前向きGeriatric Surgery Pilot Studyを行った。研究1Retrospective studyでは、過去のNCDおよびNSQIPの臨床登録データから、消化器外科主要術式における年齢、性別、ADL、術前合併症などと、術後合併症及び死亡率の頻度を比較し、日米両国での特徴を考察した。また、研究2Prospective Studyでは消化器外科主要8術式を対象に、高齢者指標および安全文化指標を従来のNCD登録項目に新規に加えたデータ追加型研究(以下、パイロット研究)を行い、外科治療成績の評価および国際比較を行った。高齢者アウトカムとして、術後せん妄、術後30日の身体機能(術前との比較)、退院時転倒リスク、自宅以外への退院のリスク、退院後ケアの必要性、退院時の身体機能、新たな歩行補助具のリスクを統計学的に検討し、リスクモデルを構築し、これをNCD内にフィードバックシステムとして実装した。令和2年度は上記研究に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に対し、ソーシャルネットワークシステム(SNS)を利用したシステム開発とデータ収集、解析を行なった。
結果と考察
研究1Retrospective study:消化器主要手術術後死亡と合併症に関する研究
両国のDBから、消化器外科主要術式における、年齢、性別、BMI、ADL、高血圧や糖尿病、腎障害といった術前合併症の有無の頻度を比較し、術後合併症と30日死亡率との相関を比較した。年齢に関しては、75歳以上の比率が、日本の方がより高齢であった。一方BMIは米国の方が高く,術前状態では、米国で慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を併存する頻度が高く、術後肺炎の頻度も高かった。
術式ごとの検討では、ほぼ全ての合併症と術後死亡との相関には両国間の相違はなく、むしろ合併症の発生自体に差があることが術後死亡率の差異をもたらしたと考えられた。
研究2Prospective Study:老人医療(消化器外科手術)に関する研究
各施設から、4923例の症例がNCDを通じて登録された。専門医7術式ごとの症例数を、悪性腫瘍に対する手術に限ると、総数3799例となり、術式別では、食道切除術471例、胃全摘術376例、幽門側胃切除術1061例、肝切除術324例、膵頭十二指腸切除術450例、結腸右半切除術445例、直腸低位前方切除術672例であった。
術後せん妄は、術式間の差は比較的小さく、それよりも年齢が高くなるに従って、その頻度が明らかに増加傾向にあった。特に胃全摘術や肝切除術では、85歳以上で術後せん妄の頻度が30%を超え高率であった。多変量リスクモデル解析で予測式を算出した。(AUC = 0.747)
これ以外の高齢者アウトカムである、術後30日の身体機能(術前との比較)、転倒リスク(高)、術後30日のADLの指標等についても、いずれも年齢が有意かつ重要な因子としてリスクモデルに残り、正確な高齢者アウトカムの予測モデルを作成する事が出来た。さらに、NCD内に高齢者リスクフィードバックシステムを構築、実装した。また、高齢者指標として「うつ」を含めた12項目を新たに追加してシステム構築し、全国NCD参加全施設を対象とした高齢者手術データベースを確立した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)研究では、「国民のCOVID-19に関する適切な情報理解の促進に関する検討」及び「個別の患者の情報一元化による感染リスク把握サポートに関する検討」を行い、自治体へのフィードバックや論文化が達成された。
結論
本研究の結果、新たに高齢者アウトカムを正確に予測する高齢者リスクモデルが確立された。また、データの日米比較により、我が国の高齢者に対する消化器外科医療の特徴が明らかとなった。
本研究を基盤として、医療現場で高齢者アウトカムを容易に共有できるシステムの開発、および必要な老人外科手術評価因子をNCD登録システムに含め、全国レベルでのデータ解析を元に、高齢者がん医療に関する政策に繋がる新たなエビデンスの創出が可能となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果、新たに高齢者アウトカムを正確に予測する高齢者リスクモデルが確立された。また、データの日米比較により、我が国の高齢者に対する消化器外科医療の特徴が明らかとなった。幅広く高齢者がん医療に関する政策に繋がる新たなエビデンスを創出することが可能となることが期待される。
臨床的観点からの成果
本研究を基盤として、必要な老人外科手術評価因子をNCD登録システムに含め、全国レベルでのデータ解析を元に、今回明らかに出来なかった高齢者指標と死亡予測モデルの解析などが可能となる。また、高齢がん患者に対する意思決定支援プログラムへ向けた応用も考えられる。
ガイドライン等の開発
NCDと連携し、高齢者指標を入力することにより術後せん妄やADLの低下といった高齢者アウトカムを予測するリスクモデルを作成し、フィードバックするシステムを開発した。また2021年から、全国施設からのデータ登録を開始し、幅広い高齢者がん医療に関する政策に繋がる新たなエビデンス創出を目指した研究の礎となった。
その他行政的観点からの成果
ワクチン接種については、約 6 割の方が接種を希望している一方で、接種について約3 割の方は決めかねていることがわかった。
その他のインパクト
世界的な英医学誌The Lancet Regional Healthの、新型コロナの症状モニタリングシステムに関するコメンタリー において、LINE を活用した「新型コロナ対策パーソナルサポート」および各自治体にフィードバックシステムが、パンデミック時の大規模モニタリングの良事例として紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
76件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kofunato Y, Takahashi A, Gotoh M, et al.
Geriatric risk prediction models for major gastroenterological surgery using the national clinical database in Japan: A multicenter prospective cohort study.
Annals of Surgery , 275 (6) , 1112-1120  (2022)
10.1097/SLA.0000000000004308
原著論文2
T. Kawashima, S. Nomura, Y. Tanoue, et al
The relationship between fever rate and telework implementation as a social distancing measure against the COVID-19 pandemic in Japan
Public Health , 192 , 12-14  (2021)
10.1016/j.puhe.2020.05.018
原著論文3
S Nomura, D Yoneoka, Y Tanoue, et al
Time to Reconsider Diverse Ways of Working in Japan to Promote Social Distancing Measures against the COVID-19
J Urban Health , 97 (4) , 457-460  (2020)
10.1007/s11524-020-00464-4
原著論文4
Y Tanoue, S Nomura, D Yoneoka, et al
Mental health of family, friends, and co-workers of COVID-19 patients in Japan
Psychiatry Res , 291 (113067)  (2020)
10.1016/j.psychres.2020.113067
原著論文5
A Eguchi, D Yoneoka, S Shi, et al
Trend change of the transmission route of COVID-19-related symptoms in Japan
Public Health , 187 , 157-160  (2020)
10.1016/j.puhe.2020.08.020
原著論文6
D Yoneoka, T Kawashima, Y Tanoue, et al
Early SNS-Based Monitoring System for the COVID-19 Outbreak in Japan: A Population-Level Observational Study
J Epidemiol , 5 (30) , 362-370  (2020)
10.2188/jea.JE20200150
原著論文7
S Nomura, D Yoneoka, S Shi, et al
An assessment of self-reported COVID-19 related symptoms of 227,898 users of a social networking service in Japan: Has the regional risk changed after the declaration of the state of emergency?
The Lancet Regional Health - Western Pacific , 1 (100011)  (2020)
10.1016/j.lanwpc.2020.100011
原著論文8
D Yoneoka, Y Tanoue,T Kawashima, et al
Large-scale epidemiological monitoring of the COVID-19 epidemic in Tokyo
The Lancet Regional Health - Western Pacific , 3 (100016)  (2020)
10.1016/j.lanwpc.2020.100016
原著論文9
D Yoneoka, S Shi, S Nomura, et al
Assessing the regional impact of Japan's COVID-19 state of emergency declaration: a population-level observational study using social networking services
BMJ Open , 11 (e042002) , 1-11  (2020)
10.1136/bmjopen-2020-042002

公開日・更新日

公開日
2021-07-07
更新日
2023-07-05

収支報告書

文献番号
201908009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
110,071,000円
(2)補助金確定額
109,905,000円
差引額 [(1)-(2)]
166,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 19,668,758円
人件費・謝金 30,098,742円
旅費 1,901,940円
その他 32,835,741円
間接経費 25,400,000円
合計 109,905,181円

備考

備考
研究は予定通り遂行したが補助金に残額が生じた。補助金確定額と支出合計額の差額(181円)については自己資金で支出している。

公開日・更新日

公開日
2022-05-11
更新日
-