農村における生活習慣病の臨床疫学的研究

文献情報

文献番号
199800728A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における生活習慣病の臨床疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
林 雅人(平鹿総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 藤原秀臣(土浦協同病院)
  • 西垣良夫(佐久総合病院)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 高科成良(廣島総合病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年日本人のライフスタイルは若者を中心に欧米化傾向を示しており、国内では農村部の都市化傾向が徐々に進んでいる。しかし変貌した農村にスポットをあてた研究報告は少ない。このような背景をふまえてこれからの農村における生活習慣病対策に役立つ生活習慣の実態とその予防方法について以下の臨床疫学的研究を行う。基本的には長年健診を続けている全国4か所で過去の健診データを解析し、健康者と循環器疾患、がん等生活習慣病発症者を比較し疾病発症要因を抽出する。運動療法についてはその方法や量だけでなくQOL(QUALITY OF LIFE)との関わりについても検討する。今年は心筋梗塞における運動療法とQOLに関する研究をはじめる。その成果をふまえて農村における生活習慣の問題点をクローズアップし、その対策の指針に役立てるようにしたい。
研究方法
秋田、長野、島根、広島の農村部において過去の集団健診の成績をまとめその地域特性を抽出する。更に可能な限り今までのデータからその地域の生活習慣と疾病の因果関係を明らかにする。今年度の運動療法についての研究は土浦で心筋梗塞の運動療法とQOL に関して検討するが、運動療法直前、運動療法開始3か月に日本循環器学会調査票18項目(1990年、萱場ら)を用い、自覚的健康度8項目をスコアにより比較検討する。
結果と考察
研究結果及び考察=1)農村部の都市化傾向は徐々に進行しているが現在でも都市近郊農村から山間農村まで差がなくなっているわけではない。本年はその差をみる目的で、都市近郊農村として広島市及びその周辺、農村性の強い秋田県平鹿郡、長野県南佐久郡、その中間の島根県出雲市を対象として、集団健診成績から地域差の抽出を試みた。対象者は平成9年度に健診を受診した男性5,043人、女性9,564人計14,607人である。各地域の健診データを比較すると①BMIについて男性では都市性の高い広島が高いが、女性では農村性の強い秋田、佐久が高く男性と異なった特徴を有していた。②収縮期血圧は男女とも秋田が最も高く、次いで島根で、佐久が最も低く広島が中間となっていた。佐久の低い理由については次年度、背景因子を検討する。③拡張期血圧は男女とも大きな差はみられなかった。④血清総コレステロールは都市性の高い広島が男女とも高いが、男性の70代は最も低かった。4地域中最も好ましくないパターンと考えられる。⑤空腹時血糖は男女とも農村性の強い秋田、佐久で高く、今後の農村部の生活習慣を指導する際重要である。⑥ヘモグロビンは男女とも広島、佐久が高かった。広島は都市特性、佐久は集団特性によるものと考えられる。2)生活習慣病の疫学的研究で10年度に得られた成績 ①秋田では基本健診受診率95%以上の2か町村で、高齢者(70±1歳)の生存率を10年間追跡した。初年度に血清総コレステロール低値群で死亡率が高く、高値群が低い傾向にあった。同様に血清アルブミン値別に生存率を検討したが、血清アルブミンの高い群で有意に生存率が高かった。血清アルブミンと血清総コレステロールは正相関がみられ、栄養低下をきたすような食生活との関連が示唆される。このことから、基本健診で得られた高齢者高コレステロール血症に対する食事指導は若年者と同様に行うべきでないと思われた。当地域では高齢者のQOLとの観点からの食事制限について考え直すべきと考えた。②長野では10年間連続して集団健康スクリーニングを受診している安定集団であっても、高血圧、糖尿病・高血糖の割合、総コレステロール値が増加傾向である。男の肥満者率が長野県は全国よりも高く、特に対策が必要である。HDLコレステロールは、従来指摘されていたよう
に適度な飲酒量(1日に2合まで)では上昇し、肥満、喫煙は低下させ、健康教育の指標として用いることができると確認された。今後さらに若年世代のリスクファクターを減少させる試みを行い、その効果を検討する必要がある。③島根では生活習慣病に関与する遺伝子多型を調査し、生活習慣病発症における遺伝と生活習慣の関連を検討した。その結果肥満に関してβ3アドレナリン受容体遺伝子変量は、日本人における中等度肥満の主要決定因子とは考えられず、肥満の成因には他の遺伝、環境及び行動的要因が関与しているものと考えられた。またアポリポ蛋白E遺伝子多型は血清総コレステロール値との関連も知られている。出雲市内労働者の血清コレステロール値は最近7年間に男性で16mg/dl、女性で29mg/dlの上昇がみられ、農村地域の血清コレステロール値動向に一致していた。アポリポ蛋白E遺伝子多型は、E3/3(野生型)が70.6%、E3/4が22.3%、E4/4が0.6%、E3/2が6.5%であった。E3/2がE3/3よりも統計学的に有意に低コレステロール値であった。7年間の血清コレステロール値の上昇には、アポリポ蛋白E多型は関与しておらず、1991年に血清コレステロール値が低かった群でより大きな上昇が認められた。④広島では同一時期に実施した集団健康診断で発見した高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病、心電図虚血性変化とこれらの疾病を発症していない対照群とを比較検討して、収縮期血圧は130mmHg、拡張期血圧は85mmHg、BMIは24.0、コレステロールは200mg/dl、中性脂肪は150mg/dl、(できれば100mg/dl)空腹時血糖は110mg/dl未満を維持するように指導することが生活習慣に起因する高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病、心電図虚血性変化等の発症予防に必要であるという結果を得た。3)茨城では心筋梗塞における運動療法とQOLに関する検討をした。近年、生活習慣病(高血圧、糖尿病、虚血性心疾患など)は農村においても高齢化社会や生活様式の都市化と相俟って増加傾向にある。これら生活習慣病の予防、治療、再発防止はもとより、QOLの向上において運動療法の有用性が注目されてきている。虚血性心疾患とくに心筋梗塞の運動療法は心臓リハビリテーションの一環として注目されている。そこで、退院後、歩行を中心とした回復期運動療法を実施した心筋梗塞患者において、日本循環器学会QOL調査票を用いて運動療法とQOLの関係について検討した。その結果、運動療法とQOLとの間には明らかな関連はみられなかったが、心機能が良好な症例においてはQOLスコアが上昇する傾向がみられた。
結論
1)わが国の農村部で都市性の強い地域、農村性が多く残っている地域2か所、その中間の地域の4か所で集団健診成績から地域差を抽出した。2)各地域毎の成績をまとめると①秋田では高齢者を10年間追跡し、生存率を検討した。血清総コレステロール値は高い群程生存率が高く、血清アルブミン値の高い群で有意に生存率が高かった。血清アルブミンと血清総コレステロールは正相関がみられ、栄養低下をきたすような食生活との関連が示唆された。このことから合併症のない高齢者高コレステロール血症に対する食事指導は若年者と同様に行うべきでないと思われた。②長野では10年間連続して集団健康スクリーニングを受診している集団であっても、高血圧、糖尿病・高血糖の割合、総コレステロール値が増加傾向である。HDLコレステロールは、従来指摘されていたように適度な飲酒量(1日に2合まで)では上昇し、肥満、喫煙は低下させ、健康教育の指標として用いることができると確認された。③島根では生活習慣病に関与する遺伝子多型を調査し、生活習慣病発症における遺伝と生活習慣の関連を検討した。④広島では同一時期に実施した集団健康診断で発見した高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病、心電図虚血性変化とこれらの疾病を発症していない対照群とを比較検討して、収縮期血圧は130mmHg、拡張期血圧は85mmHg、BMIは24.0、コレステロールは200mg/dl、中性脂肪は150mg/dl、(できれば100mg/dl)空腹時血糖は110mg/dl未満を維持するように指導することが生活習慣病の発症予防に必要である。⑤茨城では血行再建の行われた心筋梗塞
患者においては、回復期運動療法によってもQOLスコアは上昇しており、QOLと心機能の関連性も示唆された。

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