ゲノム情報を活用した遺伝性乳癌卵巣癌診療の標準化と先制医療実装にむけたエビデンス構築に関する研究

文献情報

文献番号
201908003A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を活用した遺伝性乳癌卵巣癌診療の標準化と先制医療実装にむけたエビデンス構築に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部 遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
  • 青木 大輔(慶應義塾大学 医学部 産婦人科)
  • 新井 正美(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 高田 史男(北里大学 大学院医療系研究科)
  • 戸崎 光宏(相良病院 附属ブレストセンター)
  • 中村 清吾(昭和大学 医学部 外科学)
  • 平沢 晃(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 福嶋 義光(信州大学 医学部)
  • 真野 俊樹(中央大学 大学院戦略経営研究科)
  • 三木 義男(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 山内 英子(聖路加国際病院 ブレストセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
9,340,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,単一遺伝子疾患としてはきわめて罹患者数の多い遺伝性乳癌卵巣癌(以下HBOC)のわが国における認知度を高め,診療の標準化,先制医療を実現することにより,当事者により良い医療を提供し,当事者が健康で幸福な日常生活を営むことができる医療と社会環境を実現することである.本疾患のこうした取り組みは他のより頻度の低い遺伝性疾患の診療体制整備のモデルとなりうるものである.
研究方法
本研究班では,それぞれ分担研究者が担当する研究課題について,以下のような方法で研究を進めた.
①症例登録事業の全国展開:すでに構築,稼働している症例登録システムを運用し,登録症例数を増やした.
②診療連携体制の構築:JOHBOCと共同で施設認定事業を展開し,申請の審査と認定を行った.
③観察・治療効果および安全性の評価:患者フォローを継続するとともに,実態調査を行った.
④医療経済学的検討:マルコフモデルを用いてサーベイランスの費用対効果を検討した.
⑤遺伝子機能解析研究:VUSの相同組み換え機能を評価する実験系を構築した.
⑥診療ガイドライン改訂:重要事項の改訂を行うとともに全面改訂に向けた作業を開始した.
⑦HBOCに対する遺伝医療提供体制の評価:アンケート調査を実施した.
⑧市民啓発活動:当事者会との共同で市民公開講座を開催した.
結果と考察
①2019年8月の登録では,62の医療機関が本登録事業に参加した.対象者3,929人,登録者15,612人,3,629家系の登録を行った.この中でBRCA1変異陽性者は398人,BRCA2変異陽性者は299人,BRCA1及びBRCA2の両方に変異を有する人は6人であった.
全体のBRCA遺伝学的検査変異陽性率は19.9%,VUSは6.9%であった.
②2020年4月より,基幹施設45,連携施設18,協力施設69を認定し,ホームページ上に公表した.
③2年間の経過観察期間を終えたBRCA1/2変異保持者22症例(BRCA1:18名,BRCA2:4名)において,2例 (9%)がMRIを契機に乳癌と診断されて手術を施行した.ハイリスクグループ対象の乳房MRI検診ガイドラインについての認知度は例年と横ばいで,普及度には明らかな進展はなかった.
④BRCA1についてはPhiのデータを使用して,超音波とMRIを行った場合,超音波を用いたものの方がコストも低く,効果も高い結果となった.Warnerを使用した場合では,MRIがWarnerの方が早いステージで見つかってくるというデータになっているため,MRIの方が効果はあるが,コストはかかるということになり,(ICERの計算で)費用効果的とは言えないという結果となった.BRCA2の場合も同様にMRIの方が効果はあるが,コストはかかるということになり,Phi を使ってもWarnerを使っても費用効果的とは言えない結果となった.MRIを既存として超音波を使用するとcost- effectiveというカテゴリーとなる.反対に超音波を既存としてMRIを使用するとnot cost-effectiveとなった.
⑤BRCA2のVUSは約80種,その大部分のVUS導入BRCA2発現ベクター構築は終了し,38種のVUSのHR活性測定スクリーニングを完了した.病的の可能性が高い3種バリアントを同定した.
⑥遺伝学的検査に関するCQを部分改訂した.全面改訂に向けて制作委員会を組織し,会合を持った.
⑦HBOCの遺伝医療体制の現状を明らかにし,今後の課題と展望を含めた提言を行った.
⑧2020年2月に高松市で市民公開講座を開催した.
結論
HBOCに関するエビデンスを構築するための症例の集積は順調に進んでおり,全国の診療連携体制も稼働を始めたことから,今後さらに症例集積は進むものと予測している.今後はさらに質の高いエビデンス創出,先制医療実装に向けての医療体制の課題抽出や医療経済学的検討を進めていく.またこれまでとは異なる形でのHBOC診断例が増えていくことをふまえ,医療現場や一般市民に向けた啓発活動を展開していく必要を認識している.

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908003B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム情報を活用した遺伝性乳癌卵巣癌診療の標準化と先制医療実装にむけたエビデンス構築に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部 遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
  • 青木 大輔(慶應義塾大学 医学部 産婦人科)
  • 新井 正美(順天堂大学 大学院医学研究科)
  • 高田 史男(北里大学 大学院医療系研究科)
  • 戸崎 光宏(相良病院 附属ブレストセンター)
  • 中村 清吾(昭和大学 医学部 外科学)
  • 平沢 晃(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 福嶋 義光(信州大学 医学部)
  • 真野 俊樹(中央大学 大学院戦略経営研究科)
  • 三木 義男(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
  • 山内 英子(聖路加国際病院 ブレストセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,単一遺伝子疾患としてはきわめて罹患者数の多い遺伝性乳癌卵巣癌(以下HBOC)のわが国における認知度を高め,診療の標準化,先制医療を実現することにより,当事者により良い医療を提供し,当事者が健康で幸福な日常生活を営むことができる医療と社会環境を実現することである.本疾患のこうした取り組みは他のより頻度の低い遺伝性疾患の診療体制整備のモデルとなりうるものである.
研究方法
本研究班では,それぞれ分担研究者が担当する研究課題について,以下のような方法で研究を進めた.
①症例登録事業の全国展開:すでに構築,稼働している症例登録システムを運用し,登録症例数を増やした.
②診療連携体制の構築:JOHBOCと共同で施設認定事業を展開し,申請の審査と認定を行った.
③観察・治療効果および安全性の評価:患者フォローを継続するとともに,実態調査を行った.
④医療経済学的検討:マルコフモデルを用いてサーベイランスの費用対効果を検討した.
⑤遺伝子機能解析研究:VUSの相同組み換え機能を評価する実験系を構築した.
⑥診療ガイドライン改訂:重要事項の改訂を行うとともに全面改訂に向けた作業を開始した.
⑦HBOCに対する遺伝医療提供体制の評価:アンケート調査を実施した.
⑧市民啓発活動:当事者会との共同で市民公開講座を開催した.
結果と考察
①2019年8月の登録では,62の医療機関が本登録事業に参加した.対象者3,929人,登録者15,612人,3,629家系の登録を行った.この中でBRCA1変異陽性者は398人,BRCA2変異陽性者は299人,BRCA1及びBRCA2の両方に変異を有する人は6人であった.
全体のBRCA遺伝学的検査変異陽性率は19.9%,VUSは6.9%であった.
②2020年4月より,基幹施設45,連携施設18,協力施設69を認定し,ホームページ上に公表した.
③2年間の経過観察期間を終えたBRCA1/2変異保持者22症例(BRCA1:18名,BRCA2:4名)において,2例 (9%)がMRIを契機に乳癌と診断されて手術を施行した.ハイリスクグループ対象の乳房MRI検診ガイドラインについての認知度は例年と横ばいで,普及度には明らかな進展はなかった.
④BRCA1についてはPhiのデータを使用して,超音波とMRIを行った場合,超音波を用いたものの方がコストも低く,効果も高い結果となった.Warnerを使用した場合では,MRIがWarnerの方が早いステージで見つかってくるというデータになっているため,MRIの方が効果はあるが,コストはかかるということになり,(ICERの計算で)費用効果的とは言えないという結果となった.BRCA2の場合も同様にMRIの方が効果はあるが,コストはかかるということになり,Phi を使ってもWarnerを使っても費用効果的とは言えない結果となった.MRIを既存として超音波を使用するとcost- effectiveというカテゴリーとなる.反対に超音波を既存としてMRIを使用するとnot cost-effectiveとなった.
⑤BRCA2のVUSは約80種,その大部分のVUS導入BRCA2発現ベクター構築は終了し,38種のVUSのHR活性測定スクリーニングを完了した.病的の可能性が高い3種バリアントを同定した.
⑥遺伝学的検査に関するCQを部分改訂した.全面改訂に向けて制作委員会を組織し,会合を持った.
⑦HBOCの遺伝医療体制の現状を明らかにし,今後の課題と展望を含めた提言を行った.
⑧毎年度に各地で市民公開講座を開催した.
結論
HBOCに関するエビデンスを構築するための症例の集積は順調に進んでおり,全国の診療連携体制も稼働を始めたことから,今後さらに症例集積は進むものと予測している.今後はさらに質の高いエビデンス創出,先制医療実装に向けての医療体制の課題抽出や医療経済学的検討を進めていく.またこれまでとは異なる形でのHBOC診断例が増えていくことをふまえ,医療現場や一般市民に向けた啓発活動を展開していく必要を認識している.

公開日・更新日

公開日
2020-11-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
BRCA遺伝学的検査ではいまだ約5-6%で意義不明のバリアント(VUS)が検出されるが,このVUSの機能を評価する実験系を構築し,これによりいくつかのVUSが病的であることを明らかにした.
臨床的観点からの成果
3年間の研究期間に遺伝学的検査を実施した約4000例の遺伝情報,臨床情報を集積し,日本人HBOC患者の臨床的特徴を明らかにした.また,リスク低減手術やサーベイランスの有用性,リスク低減治療実施の費用対効果を検討し,その有用性を明らかにした.これらの成果をもとに,HBOC診療の一部が2020年4月から保険適用となった.
ガイドライン等の開発
2017年に先行研究班が刊行した「HBOC診療の手引き2017年版」を改訂し、Mindsにのっとった「HBOC診療ガイドライン2021年版」を刊行し、さらにその内容を市民向けにわかりやすく解説した「遺伝性乳がん卵巣がんを知ろう!」を2022年に刊行した。
2024年7月にはHBOC診療ガイドライン2024年版を刊行予定である。
その他行政的観点からの成果
上記の通り,本研究の成果をもとに,HBOC診療の一部(BRCA遺伝学的検査とそれに伴う遺伝カウンセリング,乳癌・卵巣癌発症者に対するリスク低減治療,サーベイランス)が保険適用となった.
その他のインパクト
本研究班では毎年当事者団体と共同で市民公開講座を開催しているが,乳癌,遺伝という関心の高いテーマでもあることから多くの市民の参加を得ている.

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2024-06-10

収支報告書

文献番号
201908003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,141,000円
(2)補助金確定額
12,141,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,811,764円
人件費・謝金 1,657,103円
旅費 2,010,142円
その他 1,436,879円
間接経費 2,801,000円
合計 11,716,888円

備考

備考
ガイドライン作成のための会議を予定していたが,新型コロナウイルス感染症流行のため,出張自粛となり,会議の開催が中止となったため.

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-