科学的根拠に基づくがん種別・年代別検診手法の受診者にわかりやすい勧奨方法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201908001A
報告書区分
総括
研究課題名
科学的根拠に基づくがん種別・年代別検診手法の受診者にわかりやすい勧奨方法の開発に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加茂 憲一(札幌医科大学医療人材育成センター)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科大学研究支援センター)
  • 福井 敬祐(大阪医科大学研究支援センター)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 雑賀 公美子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん登録センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,897,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化が進む中でがん検診の高齢者受診が増加してきた。特に胃・大腸がん検診は侵襲性の高い内視鏡検査がスクリーニング・精密検査・治療で必須であり、高齢者受診の増加は偶発症のリスクが増し危険である。本研究は胃・大腸がんに焦点をしぼり、個別受診勧奨の対象者を「最適化対象年齢層」として定義し、マイクロシミュレーションモデルを用いてその検討を行うこと(研究A)とした。またモデルによるエビデンスを提示された対象外年齢(高齢者)が、エビデンスを理解し、利益/不利益バランスに基づき、受診を抑制する行動変容に至るための資材開発とその評価を行うこと(研究B)を目的とした。
研究方法
研究A)<大腸がん検診(便潜血法)>マイクロシミュレーションを用いたモデルで検診の年齢上限を65歳から85歳まで5歳づつ延長して利益/不利益バランスを求めた。昨年度用いた現実社会でのパラメータではなく、第三期がん対策推進基本計画における目標値(検診受診率:50%, 精密検査受診率:90%)をパラメータとして用いた。<胃がん検診(胃内視鏡検査)>大腸がん同様に利益/不利益バランスを求めるとともに、費用効果分析も行い、最適化年齢層と検診間隔を検討した。
研究B)モニター調査会社に登録する東京近郊在住の75歳以上の男女で、特定健診・がん検診の定期的受診者12人を調査対象とした。12人を2回に分けて高齢者への検診による不利益と受診中止を促すリーフレット案を提示しインタビュー調査を行った。インタビューは1対1(約1時間)で行なった。1回目の調査では4つのリーフレット案を提示し、そこでの反応をもとに修正を加えた最終案を2回目の調査で提示し、理解度と検診受診中止という行動変容につながるかを検討した。国立がん研究センターでの倫理審査委員会での研究計画の承認(承認日:令和元年12月3日 研究課題番号:2019-170)後行った。
結果と考察
研究Aの大腸がん検診(便潜血検査)での分析では、検診の年齢上限を上げるにつれ利益(獲得人年)の増加は小さくなり、不利益(有害事象・累積内視鏡件数)の増加が顕著になった。この傾向は昨年度までの現実社会でのパラメータに比べてより顕著であり、現実社会では高齢者の精密検査受診率の低さから有害事象が目立たないことが示唆された。関連学会推薦の臨床医グループとの検討を加えて年齢上限を80歳と設定した。胃がん検診(胃内視鏡検診のみ)では利益/不利益バランスによる分析では、40-80歳、検診間隔は3~5年、費用効果分析では50歳から75歳あるいは80歳で3年間隔が推奨された。、二つの分析手法で共通して最適解として求められた年齢上限は80歳であった。研究Bでは、リーフレット案4タイプを75歳以上の毎年検診受診者6名に提示し意見をもとめ、その結果をもとに作成した最終案を別の75歳以上の毎年検診受診者6名に提示し意見を聴取した。情報量は制限し、専門家の意見の形で高齢者の検診による不利益を訴える内容であったが、検診というシステムの中でのスクリーニング検査と精密検査・治療が一体であること自体が理解できず、「便潜血検査は楽だから検診は受け続けたいが精密検査や治療は苦しいので受けない」という矛盾した発言が目立ち、検診の中止は納得しかねていた。高齢者のこれまでの部分的な理解(利益への過信、不利益は自分には起こりえない)を、リーフレットに加え対話をもってしても理解に至ることは甚だ困難であった。検診の受診勧奨が必要となる退職後国民健康保険への切り替えの段階で、年齢上限を提示しながら受診勧奨を行うといった取り組みが必要と考えられた。
結論
マイクロシミュレーションモデルを用いて推計した大腸がん検診、胃がん検診の上限年齢はいずれも80歳であった。75歳以上の高齢者に対して検診の不利益を伝え、がん検診から介護予防に切り替えることを伝えるリーフレットを作成しインタビュー調査で評価したが、理解を得ることは困難であった。より若い世代からの教育が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908001B
報告書区分
総合
研究課題名
科学的根拠に基づくがん種別・年代別検診手法の受診者にわかりやすい勧奨方法の開発に関する研究
課題番号
H29-がん対策-一般-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 加茂 憲一(札幌医科大学医療人材育成センター)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科大学研究支援センター)
  • 福井 敬祐(大阪医科大学研究支援センター)
  • 片野田 耕太(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計・総合解析研究部)
  • 雑賀 公美子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策情報センター がん登録センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化が進む中でがん検診の高齢者受診が増加してきた。特に胃・大腸がん検診は侵襲性の高い内視鏡検査がスクリーニング・精密検査・治療で必須であり、高齢者受診の増加は偶発症のリスクが増し危険である。本研究は胃・大腸がんに焦点をしぼり、個別受診勧奨の対象者を「最適化対象年齢層」として定義し、マイクロシミュレーションモデルを用いてその検討を行うこと(研究A)、およびその提案に対する対象外年齢(高齢者)への提示法の検討を行うこと(研究B)を目的とした。
研究方法
(研究A)マイクロシミュレーションモデルを用い初年度~3年度に大腸がん、3年度に胃がん検診の上限年齢設定を検討した。大腸がんでは、30歳の腺腫のない男女が95歳まで年齢を重ねる間に、腺腫の発症→大腸がんの発生→治療→死亡にいたるシミュレーションを行い、便潜血検査による検診の受診による早期発見・治療での獲得人年を利益、精密検査の大腸内視鏡検査での偶発症、内視鏡検査件数を不利益とした。初年度でプログラムを作成し、国民生活基礎調査や健康増進事業報告など現実社会でのパラメータを導入した。2年度に、大腸がん検診の上限年齢を65~85歳まで変化させた場合の、利益/不利益を測定した。3年度は、関連学会である消化器がん検診学会のワーキンググループとの協議で、がん対策推進基本計画の目標値である精密検査受診率80%をパラメータとして推計し作成された資料をワーキンググループで協議し、最適化年齢上限を設定した。胃がん検診では胃内視鏡検診による最適化年齢層と検診間隔をマイクロシミュレーションモデルによる利益/不利益バランスで評価するとともに、費用効果分析でも検討を行った。
(研究B)初年度に、50~69歳の検診未受診者への意識調査と、75歳以上の高齢者への検診中止メッセージへの反応をいずれもインタビュー形式で行った。2年度に量的研究として50~70歳代の男女618名にインターネット調査を行なった。3年度には、検診の不利益を伝えて、がん予防から介護予防へのシフトを促すリーフレットを開発し、75歳以上の対象者12人に提示し改良を加え対面のインタビュー形式で評価を行った。
結果と考察
(研究A)年齢上限を上げるにつれて、獲得人年の伸びは低下し80歳以上で顕著であり、検診を継続しても利益が頭打ちになることが示された。不利益である偶発症、大腸内視鏡件数も増加したが予想よりも小さな増加であり、カットオフを明確に決められるとはいいがたい結果であった。3年度のがん対策推進基本計画の目標値の設定の場合、傾向は顕著になった。関連学会とも協議し80歳を大腸がん検診の年齢上限と設定した。また胃がん検診では同様のシミュレーションモデルを作成し、胃内視鏡検診による早期発見・治療について検討した。利益・不利益バランスに加えて費用効果分析も行った。その結果共通して最適化されたシナリオでは胃がん内視鏡検診の年齢上限は80歳と推計した。
(研究B)初年度の未受診者への意識調査では会社勤務時は毎年検診を受診していたが退職後は特別な理由がないまま未受診が継続していること、また血液検査に対する過信など知識不足が明らかになった。高齢者への検診中止メッセージへの反応ではがん検診の利益は十分理解していたが、不利益が自分に起こりえることを全く受け入れられなかった。2年度に行ったインターネット調査を用いた量的研究では、自分の具体的な大腸がん検診終了年齢を回答していたのは、男女とも15%前後で、70%前後が「受けられる限りずっと受診したい」と回答していた。検診の上限年齢が設定されることが納得できないと回答するものは、男性の特に70歳代で多く28.2%を占めた。3年目に行ったリーフレットの評価では、12名を2回に分けて1回目の6名には4つの案を示し、反応がよかったメッセージを中心に最終案を作り、2回目の6名に提示したが、最終案をもってしても不利益が自分に起こりえるという理解は進まず、検診の完全な受診中止には抵抗を示した。検診の受診から診断・治療の流れが結びついておらず、永年の習慣の一部を改善することは困難と考えられた。
結論
マイクロシミュレーションモデルを用いて推計した大腸がん検診、胃がん検診の上限年齢はいずれも80歳であった。高齢者に対して検診の不利益を伝え、がん検診から介護予防に切り替えることを目的にインタビュー調査を重ね、リーフレットを作成したが、最終的な理解を得ることは困難であった。職場からの退職後国民健康保険に切り替わる段階でのがん検診の受診勧奨と同時に年齢上限の教育が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
数学モデルを用いたシミュレ=ションの手法により、国内で初めて胃・大腸がん検診の年齢上限について検討し、大腸では79歳、胃がんでは75歳を上限として提案した。
臨床的観点からの成果
高齢化が進み、がん検診の受診者に80歳以上の高齢者の受診者数が増加しているが、内視鏡による偶発症のリスクは高く、一定の制限を必要としていた。今回の研究成果を活用することにより、高齢者の事故を防ぐことが可能になる。
ガイドライン等の開発
大腸がん検診ガイドライン更新版において、本研究成果であるシミュレーションを用いた検診上限年齢の情報は引用された。
その他行政的観点からの成果
がん検診のあり方に関する検討会では、年齢上限について検討する機会があったが、本研究班の成果を発表するタイミングがなかった。
その他のインパクト
朝日新聞(2017/12/21)に「高齢者のがん検診何歳まで?厚労省研究班が検討」として掲載された。毎日新聞(2020/10/15)に胃がん内視鏡検診 50-75歳が最適として掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-07-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201908001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,666,000円
(2)補助金確定額
7,640,000円
差引額 [(1)-(2)]
26,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 724,114円
人件費・謝金 1,288,485円
旅費 1,307,166円
その他 2,552,174円
間接経費 1,769,000円
合計 7,640,939円

備考

備考
自己資金939円を支出した。

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-