地域における糖尿病対策の新たな保健・医療・福祉システム構築に関する調査研究事業

文献情報

文献番号
199800726A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における糖尿病対策の新たな保健・医療・福祉システム構築に関する調査研究事業
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 拓治(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢化社会を迎えようとしている我が国においては、生活習慣病としての糖尿病の増加が大きな問題となっている。効率的な糖尿病対策を実施するためには、一次、二次及び三次予防に関する一連の体系だった保健・医療・福祉システムを構築することが不可欠である。しかし、地域ではネットワーク作りが不十分な中で、糖尿病の一次予防の充実、医療経済の改善や患者のQOLの向上などが問われているところも少なくない。そこで、本研究は地域における糖尿病対策を効率的に実施するため、地域特性を踏まえた新たな保健・医療・福祉システムの構築方法について検討することを目的としている。
研究方法
全国の市町村に従事する保健婦(士)を対象に質問調査票を郵送して各市町村における糖尿病対策の状況調査を実施した。調査期間は、平成10年11月1日~平成11年1月17日であった。調査項目としては、市町村の特性、糖尿病の実態と原因、糖尿病の管理体制(スクリーニング体制・患者登録システム・フォローアップ体制)、糖尿病の予防と啓発に関する体制、糖尿病対策に関わる人材の充足状況、諸機関との連携、職域・学校保健との連携、糖尿病対策の将来構想など21の質問項目である。
結果と考察
全国の3382市町村へのアンケートの回収率は70.3%(2379市町村)であった。地域ブロック別に見ると、東海ブロックが76.6%と最も高率を示したが、大きな地域差は見られず、どの地域ブロックも70%前後を示した。市町村の人口規模別では、人口規模が10万人以上の市町村における回収率が最も低く62.6%であり、人口規模が5千人~1万人の市町村が最も回収率が高く72.3%であった。第一次産業の構成比率別に見ると、構成比率5.4%未満の市町村における回収率が最も低く66.1%を示した。糖尿病の実態と原因について:76.3%の市町村が糖尿病は増加したと答え、糖尿病が減少したと答えた市町村は、わずか0.6%であった。糖尿病が全国的に大きな健康課題となっていることが伺えた。糖尿病の合併症については、ほぼ半数(47.6%)の市町村において合併症の増加傾向を指摘している。一方、変わらないという回答は14.4%であった。分からないという回答は35.6%であったが、この背景として、医療機関との不十分な連携があると思われた。各市町村の現状をふまえた糖尿病の原因については、食生活を第一の原因と考えている割合が69.6%と最も高率を示した。続いて運動不足(14.2%)、肥満(6.4%)で、遺伝要因については4.2%であった。全国的にみられる食生活の欧米化や運動不足になりがちな生活習慣などが背景としてあるように思われる。糖尿病の管理体制について:スクリーニング方法については、老健法による基本健診をあげている市町村がほぼ100%を示し、次いで人間ドッグの19.8%、独自の方法が1.1%、その他が1.9%を示した。糖尿病患者の登録システムがあると回答している市町村は、26.3%と少なかった。登録システムの活用方法については、「健診の事後指導のために」が88.6%、「健診の継続管理のために」が57.3%、「患者把握のために」が51.0%で、「医療機関との連携」や「糖尿病対策」などへの利用は僅かであった。糖尿病および予備群の住民に対する事後管理については、糖尿病教室による個別・集団指導が63.7%と最も高く、次いで家庭訪問指導の52.4%、集会所等での個別指導が46.4%、講演会、体験学習、健康まつり等の順で、フォローアップ体制のない市町村は僅かに3.4%であった。糖尿病患者のフォローアップのための医療機関との連携については、連携なしが53.1%で、医療機関としては開業医との連携が39.6%とあるほかは専門医との連携が7.6%、眼科が2.4%と僅かであった。糖尿病予防と啓発に関する体制について:一次予防を
実施している市町村は84.2%であった。その内容としては、運動・食事に関する学習会(教室)が58.5%と最も高く、講演会や体験学習、イベントなどは、ほぼ3割前後の値を示した。糖尿病対策に関する患者の会・自助グループ・地区組織等については、80.4%の市町村が糖尿病対策に関する組織がないと回答している。各種組織のなかで、患者の会・自助グループが15.0%の市町村に見られた。地区組織、糖尿病対策協議会等の組織については1%前後と低率を示した。糖尿病対策に関わる人材の充足状況について:糖尿病対策に関わっている職種としては、保健婦(士)、栄養士がそれぞれ97.2%、90.2%と特に高率を示し、次いで医師が57.6%、健康運動指導士が34.6%を示した。看護婦(士)、検査技師、糖尿病療養指導士等は低率を示した。ほとんどの市町村(87.7%)が専門スタッフが不十分であると回答している。専門スタッフが十分に揃っていると回答している市町村は9.8%に過ぎなかった。不十分だと思われる職種としては、健康運動指導士(54.1%)、医師(42.1%)、栄養士(38.0%)等が高率を示した。また糖尿病療養指導士(31.5%)、保健婦(士)(20.8%)等もやや高い値を示した。諸機関との連携について:医療機関との連携については、よくとれていると回答した市町村は5.8%で、まあまあとれている(67.9%)と併せると73.7%が何らかの形で医療機関との連携がとれていることを示した。糖尿病合併症に対する支援等による福祉分野との連携は、連携ありと回答した市町村の割合は14.3%に過ぎなかった。また、糖尿病対策に対して学校医・養護教諭等との連携(連絡会・検討会等)については11.2%と低率を示した。職域の産業医・産業保健婦(士)との連携は2.0%と極めて低率を示した。糖尿病対策の将来構想について:今後の糖尿病対策事業として事後指導体制の強化を挙げた市町村の割合が85.2%と最も高く、次いで医療機関との連携を深めるが56.2%、患者組織・自助グループなどの組織作りが37.3%、学校保健分野との連携を深めるが23.2%を示した。
結論
全国の市町村における、地域の糖尿病対策システムに関する実態調査を実施した。何らかの形で一次予防を実施している市町村は84.1%と高率を示し、地域の重要な健康課題となっている糖尿病対策に関して一定程度評価できた。しかし、糖尿病対策について医療機関との連携があると回答した市町村は46.9%に過ぎなかった。また、専門スタッフの充足面、登録システムの有無、学校保健や職域等の他分野との連携などに関する項目については非常に低率を示し、全体的なシステムとしては改善すべき課題が山積しているように思われる。今後も本研究結果をふまえて、地域における糖尿病対策の新たな保健・医療・福祉システム構築に関する調査研究事業を継続して深める必要があると思われた。

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