配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究

文献情報

文献番号
201907012A
報告書区分
総括
研究課題名
配偶子凍結および胚凍結を利用する生殖医療技術の安全性と情報提供体制の拡充に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-006
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
苛原 稔(徳島大学大学院医歯薬学研究部 )
研究分担者(所属機関)
  • 石原 理(埼玉医科大学 医学部産科婦人科)
  • 高橋 俊文(福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
晩婚化・晩産化のため体外受精・胚移植やそれに関連する医療技術である生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology, ART)を必要とする男女カップルが増加している。ARTは体外で配偶子(精子、卵子)を受精・培養し、得られた胚を子宮へ移植することを基本とするが、必要に応じ配偶子、胚を各段階で凍結保存すること全国において広く実施されている。一方、全国の施設において凍結保存されている卵子・胚の実数については、これまで把握されてこなかった。また、凍結精子に関する実状を把握することは極めて困難とされてきた。本事業では、全国の配偶子・胚の保管状態を調査するとともに諸外国における管理体制を調査し、これをもとにわが国における配偶子・胚の管理体制のあり方について検討することを目的とする。また、得られた情報を元に、不妊治療に関する情報提供体制を拡充・整理することを目的とする。本事業の成果により、社会的変化に対応できる配偶子・胚凍結の管理体制のあり方と、継続可能で安全性の高い配偶子・胚凍結管理体制を確立し、質の高いARTの実践に寄与することを目指す。
研究方法
① ARTにおける凍結胚を用いた治療実態とその管理保存に関するリスクの調査に関して、日本産科婦人科学会のART登録データおよび厚生労働省の実施する医療施設動態調査の概況を用いて、わが国おける凍結卵および凍結胚数(推定値)の実態把握とART実施施設数の増減から見た卵子・胚凍結のリスクに関する検討を行った。なお、調査にあたっては、必要な倫理面での適切な配慮を行った。② 配偶子・胚の凍結保存の実態に関する調査では、社会文化的背景の異なるヨーロッパ諸国の凍結胚・配偶子の管理体制について、法令制度を含む運営実態を知るため、欧州で開催された学会への参加と、ドイツ、スウェーデンでの現地調査を行い、情報を収集した。③ 情報提供拡充にむけた患者向けツールの開発への着手に関して、開発の方向性や包括すべき項目について、生殖医療関係者との間で複数回議論した。
結果と考察
① ARTにおける凍結胚を用いた治療実態とその管理保存に関するリスクの調査では、2007年から2016年の10年間で最大1,166,531個の使用されない凍結卵子・胚が発生していること明らかとなった。また、ART実施施設数は、過去10年に17都道府県(36%)で減少していることが判明した。② 配偶子・胚の凍結保存の実態に関する調査により、ドイツでは、精子提供者情報を国が一元管理し、出生児の出自を知る権利と精子提供者の権利保護を認める新法が施行され、提供精子を用いた生殖医療に対して国による一定の道筋がつけられたこと、スウェーデンでは、不妊治療施設による胚や配偶子の凍結管理状況を公的な監査機関に報告・登録することを義務付け管理してきたこと、および2019年から凍結胚の第三者への提供が認められるようになり、凍結胚を第三者への生殖補助医療に活用する道が開けたことが明らかとなった。③ 情報提供拡充にむけた患者向けツールの開発では、掲載が必要な項目として、妊娠に関わる生理機能、不妊症や月経異常の病態、胚・配偶子凍結を含む不妊治療の概要、および不妊治療施設の情報が候補として挙げられた。今回の事業により、ART登録施設において、毎年10万個を超える胚や配偶子が使用されないまま凍結され続けている現状があること、および2007年から2016年の10年間で100万個を超える未使用の凍結胚・卵子が発生している可能性が明らかとなった。すなわち、ARTのため凍結保存された胚や配偶子が使用されないまま蓄積され続けている現状が示唆された。一方、ART実施施設は最近10年間で37%減少しており、閉院する際の凍結胚・配偶子の取り扱いが問題化しつつある。今後、施設間での移送システムや廃棄基準を明確に定める必要があると思われる。このように、現在日本には適切な管理体制が存在しない一方で、海外では管理体制の構築が進んでいることが今年度の調査で明らかとなった。特に、欧州などの国々では、凍結胚・配偶子を含めた管理体制の構築が国の主導により進められていることが明らかとなった。
結論
現在、日本においては相当数の胚、卵子、精子が凍結保存されていること、それらを総括的に管理する制度はまだ十分でないことが明らかとなった。今後、管理制度の整備が必要であり、それには欧州諸国で運用されている制度が参考になると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201907012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,500,000円
(2)補助金確定額
10,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,002,912円
人件費・謝金 1,391,082円
旅費 4,331,409円
その他 1,351,597円
間接経費 2,423,000円
合計 10,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2021-06-24
更新日
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