文献情報
文献番号
201907011A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠初期の感染性疾患スクリーニングが母子の長期健康保持増進に及ぼす影響に関する研究
課題番号
H30-健やか-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
研究分担者(所属機関)
- 山中 竹春(横浜市立大学 大学院医学研究科 臨床統計学)
- 稲森 正彦(横浜市立大学 医学群 健康社会医学ユニット)
- 梁 明秀(横浜市立大学 大学院医学研究科 微生物学)
- 倉澤 健太郎(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
- 青木 茂(横浜市立大学 附属市民総合医療センター 総合周産期母子医療センター)
- 榎本 隆之(新潟大学 医歯学系 (産科婦人科学))
- 光田 信明(大阪母子医療センター)
- 池田 智明(三重大学 大学院医学系研究科生命医科学専攻 病態解明医学講座 生殖病態生理学分野)
- 田畑 務(東京女子医科大学 医学部)
- 石岡 伸一(札幌医科大学 産科周産期科)
- 上田 豊(大阪大学 大学院医学系研究科 産科学婦人科学)
- 小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
少子化と妊婦の高齢化が進む中、母子の健康保持・増進を目的とした妊婦健康診査(以下妊婦健診)の公的支援項目が増えているが、実施主体の地方自治体による結果把握・介入とその効果も不明であることから、本研究を開始した。
研究方法
本研究は母子の健康への影響が大きい感染性疾患として、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、風疹、梅毒、ヒト細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、子宮頸がん(ヒトパピローマウイルス〔HPV〕の持続感染に起因)に着目し、妊婦と医療施設の協力を得て妊娠初期のスクリーニング結果判明後の疾患予防や健康管理状況と効果を明らかにするための妊婦コホート研究と、自治体による結果把握と介入状況及びその効果を検証する自治体モデル研究を行う。
結果と考察
自治体モデル候補を含む23施設で調査が開始され、4200人の妊婦の上記疾患スクリーニングについての結果を医師より得た。妊婦側からは約3100人からの回答を得た。自己申告ではB型肝炎検査問題あり18人(0.58%)、C型肝炎検査問題あり5人(0.16%)、風疹抗体問題があり254人 (8.15%) (抗体価が低いと言われた妊婦が多い)、梅毒検査問題あり13人(0.42%)、HTLV-1抗体問題あり10人(0.32%)、頸がん検診問題あり63人(2.02%)であった。風疹に関するアンケートの中間解析で、妊婦の風疹ワクチン接種状況と、接種を予測する因子について明らかにした。妊婦の風疹ワクチン接種率は67.6%で、同年代女性の接種率よりは有意に高かった。一方で接種歴が「わからない」と回答した妊婦は21%で、妊婦が確信をもって「接種したことがある」と回答できる状態にする必要がある。中間解析では、年齢・妊娠前喫煙の有無・風疹に関する知識が風疹ワクチン接種を予測する因子として挙げられた。今後、全国調査のデータの解析で、学歴や年収も関連する因子として加わる可能性がある。さらに風疹ワクチン接種率が低い第5期定期接種対象者を含め、男性の接種率増加も不可欠であり啓発も重要である。小田原市立病院における妊婦の風疹抗体保有率と産後の風疹ワクチン接種状況について、2014年1月から2017年12月の間に生産児を分娩した妊産婦3322名を対象とした、症例対照研究を行った。妊娠初期の血液検査で測定した風疹抗体価HI≦16倍を低抗体価とし、その割合と産褥入院中の風疹含有ワクチン接種率を主要評価項目とした。風疹HIが低抗体価であった割合は31.5%、そのうち風疹ワクチン接種率は43.6%であった。風疹HI≧256倍の182名のうち、IgM陽性者は3人で、先天性風疹症候群が疑われる胎児は1名だったが、出生後先天性風疹症候群は否定された。低抗体価の割合は、初産婦36.3%に対し、経産婦27.0%と有意に初産婦が多かった。ワクチン接種率は、初産婦27.4%に対し、経産婦64.2%と有意に経産婦が高かった。不妊治療の有無でみると、低抗体価の割合は、不妊治療を行わなかった妊産婦32.3%に対し、不妊治療を行った妊産婦は23.2%と、有意に不妊治療を行った妊産婦が低かった。ワクチン接種率は、35歳未満43.0%に対し、35歳以上51.6%と有意に35歳以上の妊産婦が高かった。また、日本産科婦人科学会データを活用した研究では、GBS合併は約10%、クラミジアPCR陽性者は約1%、梅毒合併は約0.6%、HBs抗原保有者は約0.4%、HCV抗体陽性者、風疹IgM陽性者数はそれぞれ約0.3%、HTLV-1(WB)陽性者、トキソプラズマIgM陽性者はそれぞれ約0.2%であった。妊婦健診で行われる子宮頸がん検診ついて、サイトピック(ヘラ)と綿棒での陽性率に差はみられなかったが、大量出血などの合併症もみられなかった。一般的にはサイトピック(ヘラ)は綿棒に比して細胞採取量が多いとされており、妊婦のスクリーニングにも比較的安全に使用できると考えられた。2020年2月25日に本研究班のHPを一般公開した(https://pw-hi.jp/)。研究成果および妊婦の感染性疾患についての、わかりやすい解説のページを共同執筆により作成した。また、2020年1月以降の新型コロナウイルス感染蔓延により、妊婦の不安が増すことが予想されたため、海外の研究データやユニセフ、英国産婦人科学科などが発信している、妊婦・家族・医療従事者向けのサイトの要約も掲載した。今後日本のこの新興感染症の動向に、妊婦健診の視点からも注目していきたい。
結論
2019年度には、最終年度に妊婦コホート検査を分析する際の参考データとなる、具体的な研究結果が数多く示された。
公開日・更新日
公開日
2020-10-28
更新日
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