医療機関の医師の労働時間短縮の取組状況の評価に関する研究

文献情報

文献番号
201906033A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関の医師の労働時間短縮の取組状況の評価に関する研究
課題番号
19CA2034
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
裴 英洙(ハイ エイシュ)(慶応義塾大学 健康マネジメント研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 武林 亨(慶應義塾大学 医学部・衛生学公衆衛生学教室)
  • 田中 利樹(慶應義塾大学 健康マネジメント研究科)
  • 山本 修一(千葉大学 大学院医学研究院 眼科学)
  • 鈴木 幸雄(横浜市立大学 大学院医学研究科 産婦人科学生殖生育病態医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,607,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2024年度から始まる勤務医の時間外労働上限規制の上限について、地域における医療提供体制を確保するための必要性等の理由がある医療機関に対して、特例水準として年間の時間外労働の上限を1860時間まで認める医療機関として申請に基づく指定が行われることとなる。その指定に先立って行われるべき医師の長時間労働の実態及び労働時間短縮の取組状況についての客観的な要因分析・評価は、確固とした知見が集約されていないのが現状である。本研究では経営管理の視点かつ臨床現場の視点から、地域医療に与えうる影響を検証するとともに、現状の医療現場の実態と実現可能性を考慮しながら医師の働き方改革を進めていくために実効的な評価項目の設定とその評価内容をガイドラインとして提示することを目的とする。
研究方法
実態調査の対象として、「地域医療確保暫定特例水準」(以下「(B)水準」という。)もしくは、「集中的技能向上水準」(以下「(C)水準」という。)に該当するであろう機能を有する7つの医療機関とした。医療機関内の人事労務部門、医師の労務に携わっている医師の管理者、現状で医療機関が把握している長時間労働時間が多い臨床勤務医、院内の診療部門を横断的にまわる初期研修医等に対し、聞き取り調査を実施した。調査内容としては、勤怠管理の実態、労働時間短縮に向けた取組み、「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に沿って今後行うべき取組み等を「労務管理体制(ストラクチャー)」、「医師の労働時間短縮に向けた取組み(プロセス)」、「労働管理実施後の結果の把握(アウトカム)」の枠組み等とした。具体的な項目として、ストラクチャー部分においては、勤怠管理システムの導入状況、就業規則の整備状況、雇用契約書の締結状況、36協定の状況、産業保健の体制等を調査した。プロセス部分においては、現時点での医師の勤怠管理方法、休日の取得、自己研鑽・外勤の把握、勤務間インターバルの実施、タスクシフト/シェアの実施状況、当直体制の見直し等を調査した。アウトカム部分においては、平均労働時間数、最長労働時間数などの勤怠管理を実施した上での結果と医師の勤務環境への満足度、患者の医療機関への満足度等を提示できる範囲内において調査した。また、対象のうち2つの医療機関については、上記に加えて特定の診療科に所属する医師について、宿直・日直を含む1週間の勤務状況等を調査した。
結果と考察
対象医療機関において、医師が月にどれだけの時間を勤務しているのかを実態に即して正確に把握できている医療機関は1施設のみであった。時間外勤務についてデータ上は36協定の特別条項で定めている時間以上に働いた医師はいない、とされている場合が多かったが、詳細なヒアリングにおいて現状は不明となっていた。よって、休日の取得や労働時間数等も実情としては不明であった。一方、産業保健の体制(健康診断や産業医の設置、衛生委員会の開催)は法律で定められている部分でもあるため、行っている対象医療機関がほとんどであった。また、特定の診療科を対象に実施した調査では、医師の勤務実態として、自院と副業・兼業先での労働時間を通算すると年間の時間外労働時間が1860時間を超過する見込みの医師もあったが、関係者へのヒアリングにおいて、地域の医療を守るという観点から、時間外労働上限規制が適用された場合関連病院等からの医師の引き上げを第一選択とする診療科はなかった。
結論
医療現場における医師の働き方について、正確な勤怠管理をすることによる賃金や就業上の時間制限等の影響を鑑みて、実態把握を避けてきたことは否定できない。そのため、アウトカム部分の評価を性急かつ正確に行うことは困難であると考え、本研究ではストラクチャー部分とプロセス部分を重視し、改善のサイクルが構築され確実に動いていることを評価する項目とし、それに基づいてガイドラインを作成した。これらは働き方改革が進んでいく中で、随時アップデートされていくべきものと考えている。今後は、(B)水準や(C)水準に該当する医療機関のみならず、すべての医療機関において、医師の勤務状況について的確に把握しつつ、医師の健康確保と医療の質向上を行いながら、時間外労働の削減を目指すことが求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
2023-08-03

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201906033C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究内容は現在の社会的な課題である働き方改革についてである。今まで、医療機関で働く特に医師の勤務については善意で成り立っていた部分が大きい。また一方で、患者への医療提供を滞りなく実施しなければならないことや地域間の提供体制の差がないように整備すべきといったインフラ的要素も強い。よって、実現可能性を考慮した研究として、社会的意義は大きいと考えている。学術的意義に関しては、今までは明らかにしてこなかった点に注力している点と考える。
臨床的観点からの成果
今回の研究の目的である現状の医療現場の実態と実現可能性を考慮しながら、実効的な評価項目の設定を実施するという点において、研究結果と考察を元に現場と乖離しない内容へ落とし込むことができたと考える。また、地域医療に与えうる影響の検証についても実施医療機関での実態の把握、関係者からの今後の展望等を聞き出し、今後、他の地域で検討が必要と考えられる内容の問題提起を行うことができた。
ガイドライン等の開発
B水準とC水準の指定に先だって行われる評価実施の際の評価項目とガイドラインの作成、また地域医療への影響調査の結果の提示により、医師の働き方改革の推進に関する検討会での議論の実施やその後の政策形成へも活用されていくと考えており、行政的意義も果たす内容となっていると考えている。
その他行政的観点からの成果
令和2年8月に行われた第8回医師の働き方の推進に関する検討会での参考資料として、医師の労働時間短縮の取組みに関する評価項目、医療機関の医師の労働時間短縮の取組みの評価に関するガイドラインが提示された。
その他のインパクト
2021年5月21日に医療法改正案が参議院本会議で可決・成立した。医師の時間外労働の上限規制は2024年度から運用開始される。この研究はその際の各医療機関の評価の原案となっている。
2022年4月には医療機関勤務環境評価センターが設立され、特例水準医師を抱える医療機関が受審する評価の項目と基準として正式に整理されたものが発表された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
2023-05-29

収支報告書

文献番号
201906033Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,289,000円
(2)補助金確定額
7,288,982円
差引額 [(1)-(2)]
18円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 783,584円
人件費・謝金 4,530,509円
旅費 232,760円
その他 60,138円
間接経費 1,682,000円
合計 7,288,991円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
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