パクリタクセルを用いた末梢血管治療デバイスの長期的安全性に関する研究

文献情報

文献番号
201906018A
報告書区分
総括
研究課題名
パクリタクセルを用いた末梢血管治療デバイスの長期的安全性に関する研究
課題番号
19CA2018
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正人(東邦大学・医学部医学科内科学講座循環器内科学分野・教授)
研究分担者(所属機関)
  • 横井 宏佳(国際医療福祉大学・保健医療学部・教授)
  • 上野 高史(久留米大学・医学部・教授)
  • 山口 拓洋(東北大学 大学院医学系研究科医学統計学分野・教授)
  • 鈴木 由香(東北大学病院・臨床研究推進センター・特任教授)
  • 池田 浩治(東北大学病院・臨床研究推進センター・特任教授)
  • 高田 宗典(東北大学病院・臨床研究推進センター・特任講師)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
1,060,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大腿動脈の血管病変は最も罹患率が高く、跛行、重症下肢虚血に対する治療としては、低侵襲治療である血管内治療がfirst lineの治療戦略となっている。しかし、従来の治療デバイスは遠隔期の開存率が低率で再血行再建施行を必要とした。このため、再狭窄防止を目的としたパクリタクセルを用いた下肢動脈拡張用治療デバイス(薬剤溶出性ステント、薬剤コーテッドバルーン)が開発された。しかし、海外データのサマリーメタ解析でパクリタクセル関連デバイスの使用は遠隔期の生命予後を悪化させる可能性があると報告された(J Am Heart Assoc 2018;7: e011245)。その後、このメタ解析は個人レベルのメタ解析ではなく患者調整が不十分であること、欠損データが多いことなどの弱点が指摘され、予後に差はないとする反論も報告されたが依然として結論は得られていない。このため、臨床の現場では大きな混乱を生じている。加えて、成績に民族差があることも指摘されており、問題解決のためには本邦におけるパクリタクセル関連デバイスの安全性を検証する必要がある。そこで、本邦における個人レベルのメタ解析から検証することとした。
研究方法
本邦で実施されている使用成績調査は承認後の実臨床における安全性を評価するものであるが、GPSP下で実施中の前向き登録試験である。また、イベントはすべて独立したイベント判定委員によって評価されている。そこで、本邦で実施された薬剤溶出性ステント、薬剤コーテッドバルーン、ベアメタルステント、バルーン形成術の承認試験ならびに使用成績調査の成績を個人レベルで統合し、メタ解析を行った。計6社[クックメデイカルジャパン合同会社、日本メドトロニック(株)、 (株)メディコン、ボストン・サイエンティフィック ジャパン(株)、テルモ(株)、カーディナルヘルスジャパン合同会社]と守秘契約を締結、その後匿名化されたデータを取得し、データセットを作成した。全死亡を主要エンドポイントとし、死亡率はKaplan-Meier法を用いて推定し、Cox proportional hazard modelを用いて比較を行った。比較検討試験例、単群試験例、全体症例でパクリタクセル関連デバイスと非パクリタクセル関連デバイスの2群間で比較を行った。なお、本研究は東邦大学医学部の倫理審査を受け承認された。登録は前向きであるが、解析は後ろ向きである。
結果と考察
対象の総計は2581例であり、6つの比較検討試験552例(パクリタクセル関連デバイス249例、コントロール303例)と6つの単群試験2029例(関連デバイス1140例、非関連デバイスが889例)で構成された。内訳は、薬剤溶出性ステント1001例、ベアメタルステント991例、薬剤コーテッドバルーン388例、バルーン形成術201例であった。比較検討試験例のKaplan―Meier法による推定5年死亡率は11.7%対15.4%であり(HR0.81, 95%CI 0.44-1.51, P=0.51)で両群間に差はなかった。単群試験例の推定5年死亡率は26.4%対31.0%(HR0.77, 95%CI0.63-0.93, p=0.007)でパクリタクセル関連デバイスの方が有意に良好であった。両者を統合した解析では24.4%対27.4%で(HR0.81, 95%CI0.67-0.97, P=0.02)でパクリタクセル関連デバイスの方が良好であった。
比較検討試験例に比較し単群試験の方が生存率は不良であったが、この結果は単群試験には重症下肢虚血、透析例など比較試験では除外項目となる患者背景不良例が含まれ実臨床例を反映したためと考えられた。実際、比較試験例の成績は過去に報告されている比較試験の予後と類似しており、単群例の成績はreal world dataとして報告された成績に近似していた。なお、成績はRutherford分類、下肢切断既往、ABI値、虚血性心疾患、心不全、心房細動、血液透析、病変長などの患者背景、投薬内容を調整前の成績であり解釈には留意を要する。各社、定義、用語など統一されたフォームではなく、データセットの作成は困難を極め、承認前後の試験は統一されたフォームが望ましいと考えられた。今後、調整後の成績をJETホームページで公表するとともに論文化を検討する。
結論
本邦において大腿動脈に血管内治療を行った2581例の個人レベルのメタ解析においてパクリタクセル関連デバイスの推定5年生存率は非関連デバイスと遜色はなかった。未調整の解析であるという限界はあるが、パクリタクセル関連デバイス使用の生命予後に対する長期安全性が示唆された。本邦の成績に基づく患者説明が可能となり、日常臨床における懸念払拭に寄与するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2020-09-17
更新日
2021-01-27

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-18
更新日
2021-01-26

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201906018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦における承認試験、市販後使用成績調査の個人レベルのメタ解析を行い、パクリタクセル関連デバイス使用による生命予後への影響は認められないことが判明した。成果はCirc J誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
(1)研究成果:パクリタクセル関連デバイスの生命予後に対する影響は臨床的には認められないことが示された。
(2)研究成果の意義:臨床結果を受けて本邦においては、Informed concentを得たうえでの使用のみで、大きな使用制限は必要ないと判断された。海外の対応とは大きく異なった。
ガイドライン等の開発
日循ガイドラインにおいても本論文が引用され、「本邦においては日本人2581例の匿名化された個人レベルデータを第三者が独自にメタ解析を行った結果、患者背景調整後のPTX機器と非PTX機器使用群の5年の生命予後に有意な差は認めず(ハザード比1.01、95%CI:0.39―2.58, p=0.99)、本邦では非PTX機器の使用に比しPTX機器使用による死亡リスクの上昇は認められなかったという結論であり臨床現場においては以下を推奨している」と記述された
その他行政的観点からの成果
本研究の成果をICに用い、下記の推奨で治療が継続されることとなった。
1, 患者状態を鑑みリスクベネフィットを考慮してパクリタクセル関連機器を使用する事。
2, 海外における情報と合わせ、本邦の代表的な成績を用いたインフォームドコンセントを行うこと。
その他のインパクト
本邦では、その後もパクリタクセル関連デバイスの申請が途絶えることなく承認申請が行われている。その後大きな試験で懸念がないことが示され、海外でも今日はパクリタクセル関連デバイスと生命予後への影響という懸念は否定的な方向となっている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Masato Nakamura, Munenori Takata, Hiroyoshi Yokoi, et al.
An Individual-Level Meta-Analysis Using Real-World and Pivotal Studies on Mortality From the Use of Paclitaxel-Containing Devices in Japanese Femoropopliteal Disease Patients
Circulation Journal , 85 (12) , 2137-2145  (2021)
10.1253/circj.CJ-21-0171.

公開日・更新日

公開日
2023-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201906018Z