多能性幹細胞等を用いた再生医療等提供計画の議論に係る研究

文献情報

文献番号
201906015A
報告書区分
総括
研究課題名
多能性幹細胞等を用いた再生医療等提供計画の議論に係る研究
課題番号
19CA2015
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
福井 次矢(聖路加国際大学 聖路加国際病院)
研究分担者(所属機関)
  • 赤澤 智宏(順天堂大学 医学部)
  • 油谷 浩幸(東京大学 先端科学技術研究センター)
  • 牛島 俊和(国立がん研究センター 研究所エピゲノム解析分野)
  • 梅澤 明弘(国立成育医療研究センター 研究所)
  • 岡野 栄之(慶應義塾大学 医学部)
  • 小川 誠司(京都大学 大学院医学研究科腫瘍生物学講座)
  • 掛江 直子(国立成育医療研究センター 生命倫理研究室・小児慢性特定疾病情報室)
  • 後藤 弘子(千葉大学 専門法務研究科)
  • 佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部)
  • 澤 芳樹(大阪大学 大学院医学系研究科 心臓血管外科)
  • 早川 堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 平家 勇司(聖路加国際大学 公衆衛生大学院)
  • 松山 晃文(藤田医科大学 医学部医学科再生医療学講座)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 山口 照英(日本薬科大学 薬学部)
  • 山中 伸弥(京都大学 iPS細胞研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
1,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 再生医療に係る造腫瘍性評価の公的ガイドラインを有するのは我が国のみである。平成28年に通知された再生医療等安全性確保法において多能性幹細胞を用いる再生医療での造腫瘍性評価の審査基準が定められ、厚生科学審議会再生医療等評価部会では、当該審査基準に則って造腫瘍性評価を行ってきた。
 最近の3年間、再生医療・医学、ゲノム科学は長足の進歩を遂げ、がんゲノムCosmic listの改訂やゲノム変異の取り扱いに関する議論が重ねられ、造腫瘍性評価審査基準の改定が必要となった。
研究方法
6回の会議で、造腫瘍性評価の審査基準について議論を交わした。
1)多能性幹細胞を用いる再生医療の動向と社会的ニーズに関する検討(第1回)
 多能性幹細胞を用いる再生医療に関する国内外の開発パイプラインやゲノム編集技術開発の動向などについて意見を交わし、多能性幹細胞を用いた再生医療の今後の方向性や社会的ニーズについて検討した。
2)造腫瘍性評価の審査基準に追加すべき論点の検討(第2回)
 AMED関連研究事業の研究成果についてヒアリングを行い、ゲノム編集技術など急速な進歩を遂げる再生医療周辺技術について情報収集と検討を行った。
3)造腫瘍性評価の審査基準における論点であるゲノム評価の検討(第3~4回)
 AMED関連研究事業の成果や品質、安全性、有効性評価の手法等を俯瞰し、特に安全性・品質評価としてのin vivo造腫瘍性試験の有用性と限界、ゲノム評価の在り方について検討した。
4)造腫瘍性評価の審査基準改訂論点の整理と取り纏め(第5~6回)
 造腫瘍性評価審査基準改訂に関する論点を整理し、新たな基準として取りまとめた。
結果と考察
重要な改定箇所の一部を例示する。
 1.原材料としての多能性幹細胞に求められる安全性等の審査のポイント の(2)で、原材料となる多能性幹細胞において、造腫瘍性を否定できないゲノム所見3種類のうち、現行の「腫瘍関連遺伝子(Cosmic census+Shibata list)のSNV/Indel及びコピー数異常(CNV)を含む構造異常」を「腫瘍関連遺伝子(COSMIC Cancer Gene Census Tier 1+Shibata list)のSNV/Indel及び構造異常(コピー数異常(CNV)等 なお、核型異常および腫瘍関連遺伝子のSNV/Indelと構造異常について、ヒトES細胞ではそのゲノムを標準ゲノムと比較して妥当性を検討し、ヒトES細胞以外のヒト多能性幹細胞では、ドナーゲノムと比較して妥当性を検討すること。標準ゲノム、もしくはドナーゲノムと異なる配列の検討に際しては、データベースでの頻度から判断して多型か変異か、アミノ酸置換を伴うか、タンパク質の機能として機能喪失、機能獲得、優性阻害が推定されるか、ホモ接合体かヘテロ接合体か、について考慮すること。」と改訂した。
 続く注2)「FIH試験においては、最初の数例によりベネフィットの感触が得られるまでの間は、慎重を期し上記項目において異常がないと判定される多能性幹細胞を使用することとする。このリスク・ベネフィットの評価に当たっては、特に代替治療の有無や疾患の重篤性等のエビデンスに留意し、総合的に判断することが求められる。」を「FIH試験においては、最初の数例によりベネフィットの感触が得られるまでの間は、慎重を期し上記項目において異常がないと判定される多能性幹細胞を使用することとする。このリスク・想定しうるベネフィットの評価に当たっては、特に代替治療の有無や疾患の重篤性等のエビデンスに留意し、総合的に判断することが求められる。」と改訂した。
結論
 本研究班では、造腫瘍性と個々の遺伝子との関連性がいまだ明確でないことから、その取扱いを保守的にとらえるべきか否かとの議論がなされ、遺伝子構造異常の検出にかかる技術的な限界も議論された。今後、まずはこの2点を解決すべく研究事業が行われるべきであろう。

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201906015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 平成28年に発出された、再生医療等安全性確保法における多能性幹細胞を用いる再生医療での造腫瘍性評価の審査基準の改定を行った。再生医療における造腫瘍性と個々の遺伝子との関連性がいまだ明確でないことから、その取扱い方、遺伝子構造異常の検出に係る技術的な限界などについての議論を踏まえた。改訂された審査基準を用いることで、特定認定再生医療等委員会における造腫瘍性に関する議論がさらに深まることが期待される。
臨床的観点からの成果
 臨床的には、FIH試験においては、最初の数例によりベネフィットの感触が得られるまでの間は、慎重を期し核型異常や腫瘍関連遺伝子のSNV/Indelおよび構造異常がないと判定される多能性幹細胞を使用することが望ましく、このリスク・想定しうるベネフィットの評価に当たっては、特に代替治療の有無や疾患の重篤性等のエビデンスに留意し、総合的に判断することが求められる、とした。
ガイドライン等の開発
 再生医療に係る目的外形質転換細胞を検出するうえでゲノム解析を用いた場合の公的ガイドラインは、わが国で発出された造腫瘍性評価の審査基準が世界初であった。本研究では、多能性幹細胞等由来細胞を用いる次世代再生医療の適切な推進に向け課題を整理し、科学的社会的見地から議論を重ね、特定認定再生医療等委員会において、ヒト多能性幹細胞利用再生医療等提供計画の造腫瘍性について評価するための審査基準を改訂した。
その他行政的観点からの成果
 多能性幹細胞等を用いる再生医療の展開は速く、世界最先端の再生医療の灯をともし続け、適切に社会展開することは、わが国の厚生労働行政にとって喫緊の課題である。再生医療における造腫瘍性評価の審査基準を改定することで、最新の科学的知見を取り入れ、再生医療のさらなる安全、適切かつ迅速な推進に貢献し、国民の負託にも応えることができよう。そのことは、iPS細胞を産み出した国の再生医療研究の質を高く保つことでもある。
その他のインパクト
 今回の審査基準の改訂については、特にマスコミに取り上げられたり、公開シンポジウムを開催したりはしていない。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201906015Z