美容医療における合併症の実態調査と診療指針の作成

文献情報

文献番号
201906013A
報告書区分
総括
研究課題名
美容医療における合併症の実態調査と診療指針の作成
課題番号
19CA2013
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
大慈弥 裕之(福岡大学医学部形成外科)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 秀和(近畿大学奈良病院皮膚科)
  • 吉村 浩太郎(自治医科大学形成外科)
  • 橋本 一郎(徳島大学医学部形成外科)
  • 田中 純子(広島大学大学院医系科学研究科)
  • 秋田 定伯(福岡大学医学部形成外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,195,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国では、主に市中の美容医療クリニック(美容外科、美容皮膚科)で美容医療が行われているが、自費診療が中心となるため、ともすれば診療内容や診療費等の実態が不明となりがちである。わが国の美容医療の課題として、1)合併症の実態把握に関する信頼性の高い調査が行われていない、2)未承認医薬品、材料及び医療機器が数多く使用されているが、質を担保し重大な合併症を回避するための共通の診療指針がない、ことが挙げられる。
美容医療に関わる主要な学術団体は、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容皮膚科学会(JSAD), およびそれぞれの基盤学会である日本形成外科学会(JSPRS)と日本皮膚科学会(JDA) 、さらに、美容医療クリニックが主体となっている日本美容外科学会(JSAS)である。現在に至るまで、これらの学会が協働して美容医療の合併症や製品に関する情報を集積したことはなく、診療の基準となる指針も共有されたものがなかった。
本研究の目的は、美容医療による合併症の実態を把握し、安全な美容医療を提供するための診療指針の作成を行うこと、である。
研究方法
研究1(美容医療合併症実態調査):国内で美容外科または美容皮膚科を標榜する医療機関、計3,093施設(実)を対象とし、「美容医療における有害事象の実態に関する全国調査」を実施した。
研究2(美容医療診療指針作成):共同研究者及び各学会で承認された研究協力者からなる診療指針作成委員が分担して、顔面若返り治療及び乳房増大術(豊胸術)に関する診療指針を作成した。指針の目的は、「非手術療法における安全な美容医療を提供するための診療指針」とした。顔面若返り治療に関しては6項目、乳房増大術は2項目、計8項目について、それぞれ基礎知識とCQ(クリニカルクエスチョン)を作成した。
結果と考察
研究1: 調査対象とした全3,093施設中、72施設から回答を得た(回答率2.3%)。回答率は全体に低率であったが、日本形成外科学会(JSPRS)は、対象数は少ないが回答率が特に高かったことが特徴的であり、美容医療に起因する合併症に対する治療を担っている可能性が示唆された。女性は男性よりも重度有害事象の割合が有意に高かった。年代別にみると、若年層よりも高齢層の方が重度有害事象の占める割合が高かった。有害事象の原因と考えられた美容施術については、外科的手技では「眼瞼形成・重瞼術」(324件)が最も多く、非外科的手技(N=197)では、「注入剤(ボツリヌス菌毒素・レディエッセ・ヒアルロン酸・コラーゲン・ポリ乳酸・PMMA注射剤 以外)」(65件)が最も多かった。
研究2: 顔面若返り治療については、1)日光黒子・肝斑に対するレーザー治療、2)シワ・タルミに対するレーザー等機器治療、3)シワ・タルミに対する吸収性フィラー、4)シワ・タルミに対する非吸収性フィラー、5)シワ・タルミに対するボツリヌス毒素製剤、6)シワ・タルミに対するPRP療法。乳房増大術については、7)非吸収性フィラー(充填剤)による乳房増大術、8)乳房増大術を目的とした脂肪注入。以上8項目について基礎知識とクリニカルクエスチョンを作成し、文献検索を行いエビデンスレベルに沿って推奨度と説明文を作成した。
結論
わが国の美容医療による有害事象の実態を把握することを目的とした初めての全国調査を実施した。また、共通の診療指針を作成することができた。アンケート調査は限られた回収率ではあったが、美容医療関連有害事象に対して2019年度に実施された治療のうち、合計1,535件について把握した。今回の調査では到底全体像を把握できるものではなく、かつ美容医療に起因する有害事象発生率についての評価はできない。しかし、報告された有害事象症例の重症度では、男性よりも女性、若年層よりも高齢層に重度有害事象の割合が高い傾向があったことは、有害事象症例の発生に関するある程度の参考資料であると考えられる。今後、地域あるいは診療規模を定めたパイロット調査による、病院毎の全数調査を行わない限り、美容医療関連有害事象発生率を明らかにし、課題を提示することは極めて困難であることが明らかとなった。また、美容医療による有害事象実態把握については、医療機関からの報告だけでは回答バイアスが生じうることから、患者側からの報告や意見を聞くことは必須と考えられ、今後患者を対象とした調査も行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-10-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-02-27
更新日
2024-08-09

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201906013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
美容医療に関する合併症の実態把握に関する信頼性の高い調査がなかった。今回の研究により、美容医療(美容外科及び美容皮膚科)を標榜する全国約3,000施設を対象とした調査を行うことができた。回答率が低いといった課題があったが、2019年の1年間に1,535件の重度合併症と後遺症を含めた有害事象の報告があった。未承認の医薬品、材料、機器が多く使用される美容医療施術に対して、有効性と安全性の観点から科学的根拠に基づいた診療指針をまとめることができた。
臨床的観点からの成果
わが国において、美容医療に関わる主要な学術団体は、日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容皮膚科学会(JSAD), およびそれぞれの基盤学会である日本形成外科学会(JSPRS)と日本皮膚科学会(JDA) 、さらに、美容医療クリニックが主体となっている日本美容外科学会(JSAS)の5学会である。過去に、これらの学会が連携して美容医療の合併症や製品に関する情報を集積したことはなく、診療の基準となる指針も共有されたものがなかった。今回、共同で研究事業を行ったことで、合同で協議する貴重な機会が得られた。
ガイドライン等の開発
未承認医薬品・材料・機器を使用する頻度の高い顔面若返り治療と乳房増大術(豊胸術)について、「非手術療法における安全な美容医療を提供するための診療指針」を作成した。顔面若返り治療に関して6項目、乳房増大術2項目について、それぞれ基礎知識とCQ(クリニカルクエスチョン)を作成した。回答文及び推奨度は、美容医療施術による利益のアウトカムと不利益のアウトカムのバランスを考慮して委員総意の下に決定した。とくにリスクの高い施術に対しては、「行わないことを強く推奨する」等の表現で注意喚起した。
その他行政的観点からの成果
本研究は、わが国における美容医療の安全保障体制への基盤研究としての意義も有すると同時に、平成29年6月7日公布の医療法改正に伴う附帯決議に記載されている、美容医療における死亡事例を含む事故の把握と、必要な措置の実施に対応することが可能である。
その他のインパクト
本成果は、今後、関連学会のシンポジウム等で会員に伝達する予定である。美容医療診療指針については、学会機関誌に掲載し、各学会のホームページにも掲載する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
4件
美容医療診療指針(日本美容外科学会会報、2020、42特別号)
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大慈弥裕之、山田秀和、橋本一郎、吉村浩太郎
美容医療診療指針.令和元年度厚生労働科学特別研究事業
日本美容外科学会会報 , 42 (特別号) , 19-139  (2020)
ISSN 0288-2027

公開日・更新日

公開日
2022-05-26
更新日
2023-05-29

収支報告書

文献番号
201906013Z