諸外国におけるゲノム編集技術等を用いたヒト胚の取扱いに係わる法制度や最新の動向調査及びあるべき日本の公的規制についての研究

文献情報

文献番号
201906011A
報告書区分
総括
研究課題名
諸外国におけるゲノム編集技術等を用いたヒト胚の取扱いに係わる法制度や最新の動向調査及びあるべき日本の公的規制についての研究
課題番号
19CA2011
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 和人(大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 阿久津 英憲(国立成育医療研究センター研究所 生殖医療研究部)
  • 石原 理(埼玉医科大学 産科婦人科)
  • 磯部 哲(慶應義塾大学 法務研究科)
  • 甲斐 克則(早稲田大学 法学学術院大学院法務研究科)
  • 三谷 幸之介(埼玉医科大学 医学部)
  • 三成 寿作(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 小門 穂(大阪大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
10,958,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ゲノム編集技術は生命科学・医学にとって有用な基盤的技術である一方、ヒト胚への利用については科学的課題や倫理的・法的・社会的課題が指摘されている。我が国においてヒト胚に対するゲノム編集技術の臨床利用に関して整備すべき規制を検討するために、これらの課題に対する諸外国の取り組みの最新の動向を把握することを目的とする。
研究方法
 ヒト胚を対象にしたゲノム編集について、臨床利用を中心に、5ヶ国(米国、英国、ドイツ、フランス、中国)を対象とし、規制改正の可能性を含めた最新の検討状況、また、社会的合意形成を得るための活動の現状に関して、文献調査および現地調査を行った。加えて、世界保健機関(WHO)の活動を調査した。なお、臨床応用とは、ゲノム編集を受精卵などに施し、個体を出生させることを指す。
結果と考察
 ドイツとフランスでは、ヒト胚やヒトという種の尊厳を重視し、ヒト胚を対象にした侵襲を避けることを念頭に法律が作られてきた。その結果、両国ともヒト胚を対象とするゲノム編集については、基礎研究と臨床利用の両方が禁止されている。ただし、法律の改正が行われつつあるフランスでは、現在の生命倫理法改正の中で基礎研究を認める動きが出ている。社会の中にはこの動きに反対する意見も見られる。
 英国では、ヒト胚を対象にした研究の必要性を認め、ヒト胚を保護しつつ研究に用いるという観点から法律が制定されている。受精後14日目までのヒト胚の研究については、ゲノム編集を用いるかどうかに関わらず、国の機関であるHFEAが研究計画を審査し、承認されるとライセンスを与えるという方法で基礎研究が認められている。一方で、母体に戻す臨床利用に関しては、同じ法律で臨床研究も医療提供も明確に禁止されている。
 米国は調査対象国中で最も複雑な状況にある。ゲノム編集をヒト胚に用いる臨床研究や医療応用を直接に対象とする法律はなく、審査機関に対する議会による予算措置という毎年更新が必要な独自のやり方で、臨床利用を禁止している。生殖補助医療については各州に規制が委ねられており、ヒト胚に対する生殖補助医療としての操作が認められていない州も多数あり、そこでは研究利用も難しい。
 WHOは、ヒト胚へのゲノム編集の臨床利用を現時点では無責任で禁止すべきと表明した上で、各国がそれぞれのガバナンス体制を整備、あるいは強化する際に役立つ原則や手法、参画すべきステークホルダーの案を示す方向で活動している。最終報告書は2020年夏以降に公表されるので、その時点で日本を含む各国は検討を行い、ガバナンスの体制強化を行うことが期待される。
 調査対象の5カ国は、現時点ではゲノム編集の人への臨床利用は禁止で一致している。そうした状況と、国内外で検討されてきた様々な科学的・倫理的・社会的観点の議論を総合した結果、本研究班では、日本でも法的な枠組みの整備が必要という意見が多かったが、法律の具体的な形を含めた詳細な議論には至らなかった。研究班としては、調査対象5カ国について、規制の背景にある考え方や、学術コミュニティを含む多様なステークホルダーの動向、そして社会における議論の状況をできる限り把握し、日本における今後の検討に資する資料として提供することを目指した。
 その上で、法律を整備するのであれば留意すべき点がある。第一は、基礎研究の推進は重要で、法的な枠組みがそれを阻害してはならない。もう一つは、日本では、英国、ドイツ、フランスのような一定の領域を対象とする基本的な法律、例えば、1)ヒト胚の取扱い全般、2)生殖補助医療全般、あるいは、3)医学研究全般、を対象とする法律は存在しないため、状況に合わせた対応が必要である。本来であれば、日本でも上記1)~3)を対象とする法律を策定し、その中で、ヒト胚へのゲノム編集の研究と臨床利用を規制することが望ましい。しかしながら、いずれも各分野における根本的法律となるため、整備に必要な時間の観点から急な策定が難しい。迅速な対応には、既存の個別法の改正か、ゲノム編集に絞った個別法の策定が妥当と思われる。
結論
 今後、ヒト胚対象のゲノム編集に関し、日本においても適切に取り扱われる為に必要な制度的枠組の整備が進められると予想される。具体的には、①基礎的研究として許容されるヒト胚のゲノム編集の範囲を確定し、基礎的研究の適切な推進に必要な制度が整備されること、および、②ゲノム編集が施されたヒト胚が出産に至ること、つまり当該技術を用いたヒト胚が臨床利用されることをまずは禁止するため、実効性のある制度が整備されること、の2つが進むと考えられる。後者については法律も視野に入れることになると思われるが、その際、臨床利用に対する制度が基礎的研究の発展を妨げない配慮が必要である。本研究の成果が、我が国の政策に資することを期待する。

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201906011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト胚を対象とするゲノム編集の臨床利用について、英国、米国、ドイツ、フランス、中国の5か国について各国の専門家を対象に詳細な聞き取りを行った調査はこれまでになかった。また、法律や国による行政指導といった規制だけでなく、社会における議論や多様なステークホルダーの対応について調査した点についても専門的・学術的意義がある。
臨床的観点からの成果
ヒト胚を対象とするゲノム編集の臨床利用は、現時点では各国とも禁止としていることが今回の調査によって明らかになった。臨床的観点としては、日本において、将来、ヒト胚を対象とするゲノム編集の臨床利用を行うべきかどうかの議論が重要になる。今回の調査はそうした議論を行う際に必要な情報を詳細に調査したことに意義がある。
ガイドライン等の開発
厚生科学審議会科学技術部会・ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚等の臨床利用のあり方に関する専門委員会から、当研究班の成果について報告するよう依頼を受け、第3回会合(令和元年10月9日)で報告を行った。
その他行政的観点からの成果
(同上)
その他のインパクト
マスコミに取り上げられたことや公開シンポジウムの開催については特に記載することはないが、研究代表者が執筆した和文総説を通して、広く学術コミュニティや社会に情報発信を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201906011Z