文献情報
文献番号
201906010A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプト情報をAIで類型化することによる医療費の分析及び利活用方策の検討のための研究
課題番号
19CA2010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
藤森 研司(東北大学 大学院医学系研究科 公共健康医学講座医療管理学分野)
研究分担者(所属機関)
- 尾形 裕也(東北大学 大学院医学系研究科)
- 伊藤 善典(埼玉県立大学 保健医療福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,907,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
データヘルスの推進において電子レセプトの活用が重要であるが、記録されている傷病名の曖昧さから疾病統計への応用や医療費分析に難しさがある。ICT の分野において近年研究、活用が進んでいる AI技術を使用して、多数の電子レセプトから主要な疾病ごとの患者像の作成を行い、重要な傷病名の特定やそれぞれの傷病名への医療費配分の可能性を検討した。また、生成された患者像から一般に行われている平均的な医療行為を特定し、レセプト審査業務の効率化への適用可能性を検討した。さらに保険者業務における患者像の活用可能性について研究を行った。
研究方法
実施にあたっては国民健康保険保険者及び後期高齢者医療広域連合の協力を得て、国保連合会が保持しているレセプトデータのうち、借用に同意いただいた保険者のデータを使用した。レセプト情報をAIで類型化することによる医療費の分析及び利活用方策の検討のための研究においては、患者像の定義を検討、決定した上で、患者像を構成する項目とカテゴリの種類を検討した。その上で、患者像を作成する AI 技術として、自然言語処理技術の一つであるトピックモデルの派生形のオーサートピックモデルを選定し、レセプトデータを投入した。処理結果を確認した上で、より傷病の特徴を表す診療行為が抽出されるよう、医学的に関連の低い項目の除外等の処理を追加し、患者像を作成した。レセプト審査におけるAIの活用可能性に関する研究においては、患者像を使用した検証として、生成した患者像からかい離したレセプト及びかい離したレセプトが多い医療機関の抽出を Isolation Forest を使って試行した。また、患者像は使用せず、過去の審査済みのデータを機械学習させ、AIの判断を審査に活用できるかどうか、複数の機械学習アルゴリズム ( One-R, Ripper, Bayesian ) を組み合わせ検証を行った。検証は2つ行い、全てのレセプトの学習と疑義付せんが貼付されたレセプトの学習の2種類について、それぞれ学習データを複数種類使用して分析を行なった。分析後、それぞれについてレセプト審査業務における活用可能性を検討した。保険者による患者像の活用に関する研究においては、作成した患者像を保険者業務に活用する方法を検討し、3つの分析を行った。患者像が持つ「影響度」を使用して、生活習慣病ごとの医療費の計算を試行した。また、患者像が持つ、県全体の平均的診療行為の内容と、保険者ごとの診療行為の内容には差異(かい離)について、分担研究2で使用した手法と同じく、Isolation Forestを使用して比較、分析を試みた。さらに、患者像を使用して、レセプトの摘要単位で平均的な診療行為の実施回数(=受診日数)を上回るレセプトを抽出し、従来行われている重複他受診者の調査より詳細な「頻回受診者」の抽出を試みた。それぞれについて分析後、保険者業務における活用可能性を検討した。
結果と考察
レセプト情報をAIで類型化することによる医療費の分析及び利活用方策の検討のための研究では、多くのカテゴリで患者像が作成され、傷病に関連する検査、医薬品が一定程度抽出された。また、一部患者像が作成されなかったほか、カテゴリ間で作成件数に差異が見られた。レセプト審査におけるAIの活用可能性に関する研究では、患者像からかい離したレセプトの抽出において、最も大きいかい離度において、査定率が高い状況が見られた。また、それらのレセプトの一部を確認したところ、過剰と見られる部分もあった。その他、小規模な医療機関では診療内容のばらつきが大きい可能性が見受けられた。機械学習による査定対象レセプトの判定においては、全てのレセプトの学習にて、実際には査定対象であったレセプトについて、AIが査定対象と正しく判定した割合は概ね 80%以上となった。また、疑義付せんが貼付されたレセプトの学習においても、概ね 75%以上となった。機械学習の量とAIによる判定の精度の関係については、学習量を増やすことで、正解率が上昇する傾向が見られた。保険者による患者像の活用に関する研究では、患者像を使用した医療費計算の試行においては、傷病によって異なる点数が按分された。また、患者像と保険者ごとの診療内容との比較においては、保険者ごとの差異は見受けられなかった。さらに、患者像を使用した頻回受診者の把握においては、平均的診療行為の内容を上回るレセプトを抽出できた一方、保険者の偏りや保険者ごとの傾向は見られなかった。
結論
AI技術を活用して電子レセプトを分析し、主要な疾患の患者像の作成、平均的な診療行為の特定が可能であった。このことにより主要な疾患への医療費の配分が可能となり、疾病統計の精緻化が期待された。また診療行為の外れ値を的確に検出することで審査の効率化が可能と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2020-08-31
更新日
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