栄養活動から見た地域保健福祉活動の評価に関する研究

文献情報

文献番号
199800721A
報告書区分
総括
研究課題名
栄養活動から見た地域保健福祉活動の評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 久子(埼玉県北足立福祉保健総合センター)
研究分担者(所属機関)
  • 薄金孝子(神奈川県鎌倉保健福祉事務所)
  • 高松まり子(東京都板橋区保健所)
  • 押野栄司(石川県南加賀保健所)
  • 木村豊子(宮城県塩釜保健所)
  • 酒元誠治(宮崎県都城保健所)
  • 藤内修二(大分県佐伯保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域保健法の制定を機に、21世紀において期待される地域保健活動のあり方が検討されている中、生涯を通じて全ての住民が頻度多くかかわる日常性の高い行動である"食・栄養"はQOLの向上や住民加の視点で、地域保健福祉活動をすすめる上で必要性が極めて高い。"食・栄養"に関わる活動の特殊性は、保健・医療・福祉活動に加えて、教育・農業・流通等の幅広い活動が可能であり、この活動を行政が行う役割として、直接・間接的サービスを公平、適切に提供する、又は支援することが求められている。従来、活動の評価を表す方法として、住民の参加人数、指導・相談人数や費やした時間等が用いられてきた。この方法においても実積を経年的に表すことで、量的変化や質的変化が結果評価の一面として把握できた。しかし、地域保健法が施行され、栄養改善法の一部改正により、対人保健サービスが市町村に移譲されるに伴い、都道府県(保健所)は活動の評価を新しい地域保健の視点で見直す必要に迫られた。申請者らは、日常活動の作業プロセスの標準化を目指して活動の手順を整理し、評価表案を作成し、①栄養活動から見た地域保健福祉活動の実態把握を行い、それを踏まえて評価表の修正を行うとともに、②地域性や各事業の特徴を踏まえて活動の類型化を行い、③①、②の結果から地域性を発揮しつつ、栄養活動から見た地域保健福祉活動を行うにあたり、保健所内外の協働、連携状況についての評価を行うことを目的とする。
研究方法
従来の結果評価に加えて、企画評価、実施評価が可能な評価表の作成を試みた。評価表案では、縦軸に企画・実施・評価・総合評価の項目を設定し、横軸には各プロセスにおける関係機関や団体、関係職種等地域の社会資源を記せる枠組みを試作した。栄養活動の選定方法は、専門性や緊急性の必要な活動に加えて、各研究者が新しい地域保健福祉活動の活動としての取り組み方に悩み、また大事にしている活動や、現状の中でも新しい視点で取り組みつつある活動を選定した。各実践的活動に裏づけされた情報やデーターを基に理論づけ1)2)し、QOLの向上や住民参加を視野に入れ、「栄養活動から見た地域保健福祉活動の評価表案」を作成した。これを用いて日常の業務や、市町村職員との対話や共同事業、集合面接法や郵送法等、各研究者が実施しやすい方法で実態把握を行い再度評価表を見直し修正した。その後集合法により研修の一環として保健所栄養士に評価表を記入してもらい意見交換を行った。
結果と考察
選定した活動は(1)産業保健との連携-集団給食施設指導を通じた健康づくり対策事業-、(2)民間との連携-健康づくり協力店制度-、(3)保健・医療・福祉の推進-在宅療養者食生活支援事業-、(4)保健・医療・福祉の推進-ハイリスク者支援事業-、(5)市町村栄養活動連携事業、(6)調査・研究-地域栄養調査事業-の6つである。(1)~(6)の事業の評価表結果は下記のとおりである。(1)産業保健との連携-集団給食施設指導を通じた健康づくり対策事業-:作成した評価表を基に実態把握した結果、事業所給食は他の給食施設に比べて栄養士配置率が低く、給食管理状況の悪いこと、給食対象者が肥満等健康状態の問題が表れる20歳代から50歳代の男性が多いことが指摘された。そこで、生活習慣病対策の有効な場として事業所給食を優先的課題とした。喫食者のQOL向上を目指した集団給食施設のあり方と、産業保健の連携の視点から、給食管理状況、さらには施設の生活習慣病対策の取り組み状況のレベルに応じた評価ができるよう、「集団給食施設指導を通じた健康づくり対策」活動の評価表を作成した。施設の福祉厚生部門をはじめ、関係機関や団体の役割を含めた活動の展開ができる。(2)民間との連携-健康づくり協力店制度-:飲食店は、普段保健所がアクセスしにくい健康無関心層に働きかけることができる場である。飲食店等の民間との連携により健康を支えていく仕組みづくりが急務であることから利用者のQOL向上を目指した事業のあり方の視点で、事業開始段階や事業充実段階の状況等事業の取り組み段階に応じた評価ができる「
健康づくり協力店制度事業」の評価表を作成した。管内関係機関、関係団体の理解や協力体制の整備、飲食店への支援活動状況等も評価できる・
(3)保健・医療・福祉の推進-在宅療養者食生活支援事業-:難病等や寝たきりを余儀なくされた多くの患者が在宅で療養生活を送っている。患者や家族・介護者のQOL向上を目指した食生活支援活動のあり方と市町村支援活動の視点から、市町村での事業の取り組み状況のレベルに応じた評価ができるように市町村での取り組み状況のレベルに応じた評価ができるよう「在宅療養者食生活支援事業」の評価表を作成した。医療機関や福祉施設との連携やマンパワー等社会的資源の活用状況についても評価できる。
(4)保健・医療・福祉の推進-ハイリスク者支援事業-:小規模事業所においては、健康上問題を抱えるハイリスク者に、充分な栄養・健康教育の機会がない場合が実態把握により明らかになった。在宅療養者及び家族のQOLを向上を目指した、食生活支援のあり方や市町村活動への支援状況を作成の視点に置き、関係者への連携、協力体制等の整備状況のレベルに応じた評価ができるよう「ハイリスク者支援事業」評価表を作成した。就業者のライフスタイルや健康状態に対応した健康管理体制の整備や、他の事業所全体の波及効果状況等も評価できる。(5)市町村栄養活動連携事業:市町村栄養士配置率は、全国平均で50%に満たず、都道府県により格差が大きい。また同時に県内の栄養士配置率も宮崎県は平成7年度35%であったのが平成9年度70%と増加し、従来の時間数による評価結果でも著しく、業務内容や栄養士の経験年数等により市町村支援体制は異なってくる。これらのレベルに応じた「市町村栄養活動連携事業」の評価表を作成した。市町村栄養士自身が自己評価し、問題点を明確化する上で有効であるとともに、保健所は、市町村栄養士の実態に応じた研修内容が提供できる。(6)調査・研究ー地域栄養調査事業ー地域栄養施策立案や地域の問題点解明等のため、各ライフステージや生活習慣病対策調査を実施していた。地域の全ての人達の生活の質の向上を目指した参加型実態把握のあり方を視点に、地域の食生活把握状況、調査への協働状況、調査結果の活用状況が評価できる。(7):以上(1)~(6)の評価表の評価の視点に加えて住民のQOLの診断から始まるQreenらが提唱しているPrecede-Proceed モデル(以下「PPモデル」という。)を用い、評価項目を検討した。具体的方法としては、実践活動をしている栄養士にグループワークに参加してもらい、活動に裏づけされた意見交換の中で各事業を分類し、評価表案の項目を修正・追加・削除した。この作業や実際の事業評価を通じて栄養活動から見た地域保健福祉活動の評価表におけるPPモデルの有効性と同時に限界が指摘された。以上(1)~(6)の評価表を整理した概要は表1のとおりである。6つの選定された事業は21世紀の栄養士あり方検討で強調された事業であり、地域における栄養改善事業の推進体制に重要な位置を占めている。
結論
6つの事業の評価表の共通部分は・事業の対象となるそれぞれの人達のQOLの向上を目指した事業のあり方を視点にしていること。・評価表が類型別に構成されており、各事業における各段階毎の評価が可能なこと、・従来の関係機関である保健・医療・福祉活動連携に加えて教育・農業・流通等幅広い連携状況の評価が可能なことである。
今後この評価表を用い、タイプの異なる地域や対象の活動を企画・実施・評価し、その有効性を検討することが求められる。
参考文献
1)足立己幸 編著.食生活論.医歯薬出版株式会社.1987;118-121
2)ローレンスW. グリーンら.ヘルスプロモーション.医学書院.1997

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