文献情報
文献番号
201905004A
報告書区分
総括
研究課題名
東アジア・ASEAN諸国におけるUHCに資する人口統計システムの整備・改善に関する総合的研究
課題番号
H30-地球規模-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 透(国立社会保障・人口問題研究所)
研究分担者(所属機関)
- 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所)
- 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所)
- 菅 桂太(国立社会保障・人口問題研究所)
- 中川雅貴(国立社会保障・人口問題研究所)
- 千年よしみ(国立社会保障・人口問題研究所)
- 仙田幸子(東北学院大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
3,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本・ASEAN保健相会合(2017年7月)の共同声明では、各国の住民登録や人口動態を含む基本的データシステムの構築に関する共同研究を促進することが宣言された。住民登録(もしくはcivil registration)に基づく動態統計、つまり出生・死亡・移動に関する登録・集計が不十分な状況では、十分な分析ができず政策評価にも支障を生じる。特に人口動態統計がないか、あっても届出率が低い状況では、妊産婦死亡率(3.1.1)、幼児死亡率(3.2.1)、新生児死亡率(3.2.2)、心血管疾患・がん・糖尿病・慢性呼吸器系疾患による死亡率(3.4.1)、自殺死亡率(3.4.2)、交通事故死亡率(3.6.1)青少年出生率(3.7.2)といった、多くのSDGs指標の算定が不可能もしくは標本調査による不正確な値となる。本研究では、東アジア・ASEAN諸国における人口動態統計制度およびその基礎となる住民登録制度の問題点と整備・改善の条件に関する国際比較分析を行う。
研究方法
東アジアの日本・韓国・台湾では統計制度は十分発達しているが、確立までの経緯はASEAN諸国に貴重な示唆を与えるだろう。特に人口動態統計が急速に整備された日本・台湾と、日本統治中はもちろん1960年代に至っても不十分なままだった韓国の比較研究は示唆するところが大きい。中国に関しては経済統計への懐疑論が提起されているが、人口統計でもたとえばセンサスによる合計出生率が低すぎるといった問題があり、注意深い検討が必要である。ASEANではシンガポールで統計制度が最も完備しているが、フィリピンなど急速に出生・死亡登録を整備している国もあり、各国の人口登録とそれに基づいた統計作成に関する現状と動態統計整備に関わる施策の状況を把握し問題点を抽出し改善策を示す必要がある。また住民登録システムと人口動態統計が整備されるまでの間は、センサスやDHS(Demographic and Health Survey)のような標本調査から動態率が推計されており、そうした状況の把握と評価も重要だろう。
結果と考察
国連人口部の世界人口推計は、各国の人口データを収集するのに非常に便利な資料だが、過去の人口静態・動態の数値はいつでも大きく変化し得ることを念頭に置くべきである。また当該国の公表値と国連の推計値が異なる場合、必ずしも国連の方が妥当とは言えないことにも注意する必要がある。マレーシアでは死因の医学的診断割合が低いことと、診断結果の有用性が低いことが問題とされたが、急速に改善されつつある。インドネシアは死因統計を含む人口動態統計自体が未整備で、分析に耐えるレベルではない。日本で死因別死亡数が集計され始めた1870年代には、十分な数の医師がおり、届出・登録システムも江戸時代の宗門人別改帳を基礎に急速に確立したと思われる。保甲制度と警察機構を結合した日本統治下の台湾の届出・登録システムが非常に成功したのに対し、そうした下地がなかった朝鮮では機能しなかったことを考えれば、近代的な人口登録制度をゼロから確立することの難しさがうかがえる。独立後の韓国では、地域別統計へのニーズが住民と担当者の意識を高めたと考えられるが、マレーシアでは先進国入りをめざす政府の熱意がそれと似た役割を果たすことが期待される。
結論
届出・登録制度の伝統がない社会で近代的統計制度を確立するには時間がかかる。日本と台湾は伝統的制度からの移行が成功したケースだが、都市国家以外のアジア諸国・地域では近代的システムの確立に時間がかかっている。肝心なのは住民の届出意識の普及と担当者の士気高揚だが、地域統計へのコミットメントや先進国入りの意欲といった何らかの動機づけがうまく機能する必要がある。各省庁がバラバラに登録制度を運用する非効率性を解消するためには、政府の強力なリーダーシップも重要だろう。
公開日・更新日
公開日
2020-11-19
更新日
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